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やらまいか魂学(全6記事)

「JASRACを潰したいわけではない」三野氏が裁判を起こした“正義感じゃない”動機

2015年、著作権ビジネス界に激震が走りました。「avexがJASRACから離脱」このニュースが音楽業界にもたらす影響とは? 『やらまいか魂~デジタル時代の著作権20年戦争~』の出版を記念し、著者である三野明洋氏がイベントを開催。音楽評論家の高橋健太郎氏を迎え、次世代のための著作権ビジネスについて語ります。本パートでは、満を持して、ゲストの戸田誠二氏が登壇。長年音楽業界のトップを走り続けてきた3人が、新しい時代を担う若者へ寄せる期待を語ります。

「孫の映像を見せたい」からのYouTube

三野明洋氏(以下、三野):だからそういう意味で言うと、今始まってる「聴き放題サービス」っていうのは、そもそもNapsterに始まってると。

だからSpotify作るときっていうのは、Napsterのコンセプトが全部反映されてSpotifyができたんですよね。やっぱり時間が掛かりすぎるんですよ。だってNapsterが1999年の1月にサービス始めて、5月に法人化したんですよね。1999年の時代に、すでにあれがあったっていうのは、やっぱり最高ですよね。

高橋健太郎氏(以下、高橋):実は、僕はNapsterには遅れてたんですね。そのときはまだこうやって(レコードショップでレコードを探す仕草)やってるだけでしたからね。

三野:そう、最初はそうですよ。

高橋:2004年に僕がレコミュニ作るときに三野さんと会うんですけども。レコミュニもすごい過激な思想で。でもあれも考えてみると、YouTubeが2005年からなんですけど、2004年で1年早いですよね。

レコミニは「サウンドファイルをあげろ」って言って失敗したんですけども。YouTubeは同じことを「映像ファイルをあげろ」って一般ユーザーに言って、映像ファイルだったら成功しちゃったんですね。

三野:個人的な反省でいくと、もっと発想の原点が身近なものであればいいんですよね。YouTubeっていうのは多分……2000年のときに、僕の友達が田舎のおじいさん、おばあさんに「孫の映像を見せたい」と、パソコンを買ってやったと。

おじいさん、おばあさんの家にパソコンを置いて、ボタンに「これ押しなさい」っていうマークだけ付けて。「ここ押すと電源が入って、ここ押すと見られる」っていうのを設定して。家で孫の撮影しちゃ、それを送ってあげてたんですよ。

だから、おじいさん、おばあさんはリアルタイムで孫の映像が見られるんですね。こういうことやってた友達がいたんですけど、それの大きなのがYouTubeなんですよね。

未来を絵に描いてみること

高橋:結局、最初はそうですね。

三野:やっぱり身近なニーズから発想されたのがYouTubeで。レコミユニはプロ的な考えだったんですよ。それではいけないんです。

やっぱりアマチュアから考えないと。だから、facebookもそうなんだけど、学生から出てくるニーズっていうのは成功するんですよ。日本でいうと貸レコードですよね。町田の「友&愛」っていう、学生が作った貸レコード屋さんから始まってるわけですよ。

これもまたレコード業界が総攻撃で潰そうとしたんだけど、結局潰れなかったですよね。なんでもそうなんだけど、やっぱり学生を中心とした若い人たちのニーズから出てくるもんって(生き続ける)。

かたちは変わりますよ。最初は違法だったものが合法になったり。いろいろ変えなきゃいけないけど、そのコンセプトっていうのは結構生き続けるんですよ。我々みたいな大人が作ったらダメなんですよ。その違いが僕らの大反省ですよ。

高橋:そうですね。今思えば。

三野:だから今のオトトイは、逆にプロの失敗を、プロがもう一回メンテナンスし直して、まだやってるから食ってられるんですよ。

高橋:オトトイも、途中で学生を入れたようなものですね。

三野:でも発想はやっぱり、大人の発想でできてます。大学でもう15年講座やってます。「知的財産権処理」ってテーマでやってるんです日本の学生がもっと考えなきゃいけないのは、自分たちが次の時代の、自分たちが使いたいものを、もっと絵を描いてみることが必要なんじゃないかと思います。日本の学生は、そこが一番足らないとこだと思うんですよ。

最近は学生から起業する人とか随分出てきて、よくはなってるとは思うんだけど。そういうことやってもらわないと、多分新しい時代にならないですよ。

学生から出てくるニーズ

三野:僕の授業って、全部パソコンなんですね。講座やりながら、問題をボンって出すと、全員パソコンで答え出してメールで送ってくるんですよ。それを見ながらインタラクティブにやってるんですけど。「自分の使ってるパソコン見てごらん」と。OSもアメリカ製、アプリもアメリカ製、マシーンもアメリカ製。一部、日本のハードウェアの会社が作ってるけど、なかなか売れない。

ここだけの話をすると、言葉悪いけど「日本はもう奴隷化されてるのと同じじゃないか」と。コンテンツもソフトウェアも、全部海外のものを使わされちゃってる。じゃあ次の時代どうすんのって。「自動車売れてるからまぁいいじゃないかな」って、つまんないでしょっと。

次の時代を作ってやってくのは学生の皆さんなんで、「あんた方がわかんなかったら話になんないでしょ」って話を僕はしてる。ただ、やっぱり学生から出てくるニーズっていうのは本当強いんですよ、と思います。

高橋:学生の人に、なんかそういうヒントが伝わるといいですね。

三野:そうですね。今回の講座にもたくさん来ていただきたいと思ってるんだけど。数がどうっていうことじゃないけど。音楽からちょっと離れたコンテンツビジネスとして、権利処理っていうのがどういうニーズになるのか、必要なのか。ここをゼロから学んで欲しいですね。

小中学生からの知的財産権処理

三野:アメリカの大学って、経営学的な学部で知的財産権処理がない学部ってないんですよ。逆に日本の大学ってほとんどないです。本当は、知的財産権処理的なものを、ちゃんと経営学のなかに取り込む仕組みを作らないとだめなんですね。

それと、小中学校でもやりたいんですよ。

高橋:小中?

三野:小学校、中学校が必要だと思うんですよ。大学になってからやるんじゃなくて。小学校、中学校のときから、たとえば「毎日聴いてる音楽はどういう権利処理が必要なのか」とか、「どういう人がそれを作って、どういう権利が発生するのか」とかね。そういうのを身近にもっと考えてもらうのが。

高橋:確かに、もの自体はちっちゃい頃から身近にしているわけで。今はもう子供が、iPadとかそういうものでYoutubeも見れば映画も見ている時代なんで。そこをわかんないと。逆に言うと、すべてタダで見れるような時代でもあるから。

三野:逆に、だからこそ、降ってくるコンテンツに対して、自分がどういうリアクションをしなきゃいけないのか、っていうことで、初めてインタラクティブになる。

インタラクティブのいろんな川の流れのなかの1つに、さっき言ったように権利だとか、それを作った人をどう尊重するかとか、どういう配慮していったらいいのかということが。そんな難しい言葉で味わうんじゃなくて、簡単な流れのなかで体感してくっていうのが、僕は必要だと思う。

高橋:結構今、映像だとプロテクションもかかってるじゃないですか。

三野:そうですね。

高橋:ただあの辺って、実はちっちゃい子も、身近に知ってると思いますよ。ディズニーのだと「お父さん、これパソコンに取り込めないの?」みたいなのもあったりとかね。

正義感ではない動機

高橋:この調子だと、僕らいくらでも喋ってしまいますけど。会場にいらしているゲストをお呼びしましょう。はっきりと予定されていたわけじゃないんですけど、戸田誠司さんです。

戸田誠司氏(以下、戸田):固い内容をちょっとやわらげて帰りたいと思います。戸田誠司と言いまして、ミュージシャンと、ゲームを作ったりなんかしております。さっき話に出た、三野さんのヒット曲をガンガン作ってた時のあぶく銭でデビューしまして。

「三野さんすごいな」って最初に思ったのが、実績ない、作品を出したこともない、ライブもしたことがない(自分に)、ただデモテープを一瞬聞いただけで、「ジューシィ・フルーツのアルバム1枚やれ」と言われて。

歳の方は多分おわかりと思いますが、「この人は変な人だな」というか、「音楽業界ってそういうものか」と思って入った次第であります。

今日、ずっと話を聞いてて思ったのは、三野さんが著作権のJASRACに裁判を起こしたりしたのは正義感じゃないところがおもしろいとこでしたね。

三野:全然そういうのないですよ。

戸田:やりたいことをやりたいがために全部潰して。前にいるものを潰していくのが、正義感じゃないから、余計に強いかなと非常に思いましたね。

三野:別にJASRAC潰すとか、そういう意識はまったくなくて。

戸田:障害をね。

三野:要するに、理不尽な部分ももちろんあるんですけど。それが障害になって、やりたいことができないんだったら、その障害を自分なりに解決する方法を見つけたほうがいいかなって。ただそれだけ。

戸田:そこが強いなと思って。正義感で言うと、同じ業界にいると何も言えなくなっちゃうときってあるじゃないですか。特にミュージシャンって、業界の外のことはすごく文句とか色々言うんですけど、業界のなかのことはちょっと言えなくなる。「仕事がなくなっちゃうんじゃないか」とか。

たとえば「そういうもんだから従えよ」って言われて、ミュージシャンは業界内のことは黙っちゃう。ちょっと前の話になるけど、CCCD(コピーコントロールCD)が出た時にも、iPodをすごくかっこよく着けてるミュージシャンが「自分のアルバムはCCCDにする」とか。そういうことがあったのが象徴的で。そういうのを「邪魔だ」と思って排除してるような。

「保護」の次は「活性化」

高橋:基本的にミュージシャンって、著作権に守られる側なんで。それをユーザーに「もっと自由に」っていうのと、逆の立場に立ってるんですよね。

戸田:そういうとこあるかもしれない。「著作権を守れ守れ」って言われると、僕は著作権っていうのはイコール、コピーライトでしょ。複製してお金が発生して、そのお金が来るわけじゃないですか。だから、どんどん複製してほしいわけ。

だから、そこを制限されると、自分のプライバシーみたいな感じの権利で捉えられると「ちょっと違うな」と思う。それはどんどん、どんどん複製されて……僕にとっては著作権っていうのは、お金の話でしかないから。

お金を払ってくれたらどんな権利もあげるし、どんなことをしてもいいからっていうのを、正義感でコピーライトのことを語られると、たまに食い違うときもありますね。

三野:著作権法って……ちょっと固い話なんだけども、皆誤解してるんだけど、創造・保護・活性化なんですよ。3つが回らなきゃいけないんですよ。

新しい音楽のコンテンツが生まれる。著作物が生まれますよね。それは一応、権利者をキチっと保護して、守っていかないといけないんですよ。

ところが、保護したものが次の創作活動にプラスするためには、これがたくさん使われないといけないんですよ。実は、この3つが回って、文化っていうのが発展していきますよっていうのが著作権法なんです。

ところが皆さん、視点が保護だけに目がいっちゃうから。「なんか守んなきゃいけない」っていう意味が強く意識されるもんだから。でも、いつも言ってるのは「そうじゃないんですよ。保護するだけじゃだめなんですよ。保護は次の音楽を作る。これが新しい次の音楽に繋がる。回転をしてくことで、著作権っていうのが文化の発展に寄与するんですよ」って、こう書いたんですけど。

戸田:結局イーライセンスが必要になるって話に帰結しちゃうんですけど。たとえば、インターネットで音楽が必要になって、「それに音楽を付けて欲しい」って話が来るんですが。あと、携帯周りの企画で「音楽を付けてほしい」っていうんだけれど。それをJASRACの会員の僕が付けると、何パーセントっていうのが決まって、使用料も取られると。

だからそうすると、たとえば「最初は無料でサービスを始めたい」っていうときも、そこに何パーセントっていうお金を僕に払わなきゃいけないので、僕には頼めないって。そういう話はすごいあるし、今でもずっと続いてるし。結局だからそういうことですよ。

若い世代がやってくれないと……

高橋:保護が強くて、現実わかってないから、活性化のほうにいけないっていうのは日本だけじゃないですけど。音楽業界、著作権業界のジレンマとして、ずっとあるよね。

三野:でもやっぱり、そろそろ時代変わってるから。生まれたものを保護しながら、たくさん使ってもらうことによって、結局は権利者への分配が多くなる。っていう論理は、最近は皆さんおわかりいただいている。

高橋:でも保護期間なんて、「これが70年後」って言ったって、死後70年っていっても、創作意欲が死んじゃってる人だっているし。遺族がアーティストになってるとはかぎらないので。

三野:そうなんですけど、逆にいうと今、世界的に変わってきて。例えばテイラー・スウィフトとか、「私の曲をこうやって使ってもらわなきゃ嫌よ」って言った途端にSpotify止まりましたよね。Apple Musicもいったん引きましたよね。

アーティスト、権利者が主張することによって、使用実態が変わる。そういうことも、昔はあんまりなかったんですけどね。

高橋:日本の権利者は主張しないじゃない。

三野:でも、これからは主張することもあるから。その主張がマイナスっていうイメージ、市場のマイナスになるようなことは、できるだけやんないほうがいいですよ。もっとポジティブに考えて、市場を活性化するためのアイデアっていうのはどんどん提案されるべきなんだと思ってます。徐々に始まってますよ。

戸田:三野さんにもう少し頑張ってもらって(笑)。

三野:僕はもういい加減歳なんで、次の若い世代がやってくれないと無理です。

高橋:そうですね。それもあってやめますか?

三野:そろそろやめます(笑)。

次世代への期待「是正していく」

戸田:あとは、僕は三野さんと長い付き合いで。思うのは、JASRACが団体が1つだけっていう弊害があるんですが、それが1つだったおかげで、音楽業界の周りって慣習で凝り固まってるシステムがすごいいっぱいあるんですよね。

たとえば、欧米だと、完全に禁止されてるのが、放送メディアを持ってる会社は、著作権を管理する会社を作っちゃいけないんですよ。

高橋:これは僕がずっと言い続けてる。

戸田:それはなんでかって言うと、たとえばテレビ局が「お前の曲をうちで流してやるから、その権利をよこせ」と「その代わりヒットさせてやるから」とか「流してやるから」って感じなんですよ。

「流してやるから出版をよこせ」っていうふうに使えるので、本来は放送局は出版を持っちゃいけないんです。けど、日本はそれが昔から慣習的にあって。その出版社っていうのはすごい大手で。そういうのも多分、三野さんのあとの世代がいろいろ。

三野:僕の世代、僕の時間量では無理ですね。次の世代の方々に頑張ってもらわないと。

戸田:僕はその出版社でもお世話になって仕事をしてきたので、最初なにが悪いのかわかんなかったんですよね。大概のミュージシャンってそうであって。そういう、今お金があるところが、そのミュージシャンを育ててくから、そのお代が……。「悪の団体」って言いすぎだけども。そんなことは絶対、全然思わないし。それに反対ができなくなっちゃうんですね。

次の新しい世代の、例えばボーカロイドで名を成してきた人だったら、多分既存のメディアとか、既存の出版社とか、組織とかはまったく無関係だろうから、そっから潰していけばいいだろうし。ゲームの音楽やってる人が潰してくれるだろうし。

三野:なんでもそうなんだけど、使い方を「是正してく」っていうのが僕はいいと思うんですね。

やらまいか魂 デジタル時代の著作権20年戦争 (文藝春秋企画出版)

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