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春画のいろは~一夜限りの春画 Bar~(全5記事)

春画は世界一のエロティックアート “モグラ的”進化のなかで描かれた多様な快楽

18歳以上の女性とカップル限定のイベントとして開催された「春画のいろは~一夜限りの春画 Bar~」。大英博物館への展示を果たし、いまや世界的に評価されている春画。2015年には、国内初の春画展が開かれ、連日行列の好評を博しました。しかし、春画を掲載した週刊誌が問題となるなど、社会的にはまだ「猥褻なもの」として扱われています。今回のイベントは、そんな春画に対する先入観を捨て、性的表現を素直に受け入れ、一級品の芸術に触れ合ってもらおうと企画されました。まずは、そもそも春画とは何なのかという説明から。春画は江戸時代においても度重なる規制を受けたが、それが「独自の発展を遂げていくためのきっかけとなっていた」と、浦上氏が解説します。

一夜限りの春画Bar

島貫泰介氏(以下、島貫):今日は皆さまおいでくださいましてありがとうございます。これから、「春画のいろは~一夜限りの春画 Bar~」を始めたいと思います。

最初に自己紹介からしていきたいんですけれども。今回のメインゲストです。今、永青文庫で開催されている「春画展」の実行委員をされていて、八重洲にある浦上蒼穹堂という古美術のギャラリーをされてる浦上さんです。

浦上満氏(以下、浦上):こんばんは、浦上です。今、ご紹介していただいたように、永青文庫で9月19日から日本初のオール春画で展示をやっておりまして、12月23日で終わるんですけれども。なんと、今日(12月18日)19万人を突破いたしました。ですから、間違いなく20万人は突破と。

今日、我々実行委員で話したことは、20万人目のお客様になにかプレゼントをしようと。それはグッズじゃつまらない。本物の春画をプレゼントしようじゃないかと。

会場:お〜!

浦上:皆さん、きてくださいね!

会場:(笑)

望月かおる氏(以下、望月):雑誌『美術手帖』編集部の望月と申します。今年の2015年10月号で、「春画特集」を美術手帖で初めてしました。その担当をいたしました。この10月号は非常に売れまして。今日は特別に会場に持ってきていますので、のちほど。

クドウ氏(以下、クドウ):こんにちは。株式会社TENGA広報宣伝部のクドウと申します。

今日は、江戸時代の性グッズと現代の性グッズというところで、irohaの説明をさせていただくために、私も前に出ていることになりますので、よろしくお願いいたします。

島貫:私が司会を担当する美術ライターの島貫と申します。よろしくお願いいたします。

今日の趣旨としては、永青文庫の「春画展」に関連していろんなトークがいろんなところで行われているわけですけれども。今回は、TENGAさんとタイアップしての開催なので、春画のなかに出てくる、いわゆるアダルトグッズと言いますか、性具を紹介するのにプラスして、永青文庫では見られなかった、かなりレアな変わった春画を紹介していこうかなと思っています。

春画ってなんなんだろう?

その前に、「春画ってなんなんだろう?」という、基本的な話も必要かなと思うので。最初に、浦上さんのほうから、春画のレクチャーをお願いできればと思います。

浦上:レクチャーというほどのものでもないんですけれども、「一体春画ってなんなの?」っていうのは大事なことなので、簡単にお教えましょう。

春画とは、人間の性的な交わりを絵にしたものを春画と言います。元々、中国から来た春宮画(しゅんぐうが、あるいは、しゅんきゅうが)と言うんですけれども。そこから春画という言葉が出たと言われています。

ただ、江戸時代はどちらかというと、春画というよりは「笑い絵」とか「枕絵」とか、そういう表現が使われていたようですね。ですが春画も国際語になりまして、大英博物館の時も「Shunga」ということでやりました。

春画の起源はものすごく古いんです。平安時代からあるんですよ。そして、江戸時代。2つあって、肉筆というのがあるんです。肉筆というのは、実際に描いたものですね。もう一つ版画、木版画です。

皆さんがよく葛飾北斎の赤富士だの沖浪、広重の東海道五十三次。あれは全部、木版画です。これが世界を席巻したと言っても過言ではない。ですから、絵師は、北斎でも広重でも歌麿でもいるんですけど、彼らは絵を描くとですね、それを版木に彫人を彫り師と言います。今度は摺る人がいてそれを摺師と言います。この3人で三位一体で作ったのが浮世絵版画なんですね。

日本の浮世絵版画がどれだけすごかったかと言うと、当時世界一の技術でした。

世界でも稀な大衆芸術

もう1つは、版画ですからたくさん摺れるわけです。だから、安くいっぱい売れるので、肉筆画の時代は、大名とか僧侶とか、あと武士ですね。そういう人しか楽しめなかったものが、版画によって一般庶民も十分楽しめるわけですね。こういう技術は春画に限らず、世界的にとっても珍しいんです。いろんな階層の人がすごく楽しめた。そういうものなんですね。

ここにも書いてありますけれども、2,000点ってそればかりって思うかもしれないけれど、だいたい12枚で1つなんですよ。ということは、2,000×12ですごい数でしょ。実際の版画だけでですよ。

肉筆も、永青文庫に行かれた方はご存知だと思いますけども、巻物(かんもつ)と言いまして、巻物(まきもの)ですね。あれをだいたい12図絵ですね。ただ永青文庫の場合は、12図絵だと、あっちからこっちくらいまで(指で指すジェスチャー)あるので、3図絵ずつしか出していないものも多いですね。

形態としては一枚絵という形のものもあるし、版本と言って本の形。これは、発表の仕方が本なだけで、摺る時は一緒です。

多色摺りと言いまして、覚えている人は「鈴木春信が1765年くらいに開発したんだよね」と言われるかもしれませんけど。いわゆる多色。10色以上使っているものを錦絵と言います。「なぜ、錦絵と言うの?」と言うと、錦のように美しいからということで。それまでは、版画は初めは白黒しかできなかったんですよね。

それではちょっとさびしいよねと言って、色を手でつけた。手彩色。そのうちに3色くらいはどうにか摺れるようになって、さっき言った鈴木春信の頃に多色摺りが完成されるんです。これはすごく簡単な話で。例えば、10色あれば10枚版木がいりますね。ということで10回も摺っているうちにずれるんですよ。

「どうやったらずれなくなるの?」っていうことで、印をつけたんですね。横と縦に。それを「見当」と言います。今でも皆さん、「これは見当違いだよ」なんて言っているのは、そこからきたんです。だから、おもしろいもんです。

地下で進化した春画

多色摺りは色が多いだけじゃなくて、江戸の後期になると金で摺ったり銀で摺ったり、漆で摺ったり。あるいはエンボスですね。から摺りと言って凹凸をつけたり。これはこれはすごい。技術的には春画が浮世絵をリードした。

なぜかと言うと、春画は江戸期でも時々規制を受けるんです。そうすると地下に潜るんです。地下に潜るということは、何やったっていいんです(笑)。だから、いろんな技術が開発されて。そして緩むと出てきて。モグラ叩きなんですよ。そんな感じです。

江戸時代はそんな感じでいい感じできたんだけど、明治になったら明治政府が「欧米諸国に恥ずかしい」ということで禁止するんですね。そして、弾圧するんです。それがずっと続いていたんですね。キリスト教的なこととか、西洋的な倫理観もあって。混浴なんかもそうなんですけど。

ところが、欧米のほうが今度は逆に進んで、今や春画は大変なアートだと言っていいほどに。日本人は、21世紀にもなって、まだ見てもいけない。わいせつな絵だとほとんどの人が思っている。だから、日本が母国なのに、展覧会がずっと開けなかったんですね。私たちは、私ともう一人淺木さん(注:東京美術倶楽部会長・淺木正勝氏)という先輩がいる。2人で大英博物館のスポンサーにもなったんです。

そして、その流れで永青文庫に漕ぎ着けたんですが。なんとその間に、20くらいの美術館に交渉して全部断られました。大変なことがありましたけど、でも、本当にうれしいのは、ここにも行ってくださった方がいらっしゃると思いますけど、本当に一般の人たちが「待ってましたよ!」って感じでね、春画展を見に行ってくださって。さっき申し上げた通り、20万人目前という夢のような数字になりました。

なんか、話がそれちゃった?

会場:(笑)

島貫:書いてあるように…。

浦上:初めは春画について語ることでしたけど(笑)。

島貫:まさに春画を見ないで浮世絵を語れないと。

良い春画を見る、見たい春画を見る

浦上:浮世絵は、ある意味日本の美術を代表するようなものにもなってきちゃったんです。できた時は、商業アートですよね。もっと言えば、売れてなんぼの世界なんですよ。気取ったアーティストが作ったものじゃないのね。だから、当時も全然アートだと思ってなかったけど、結果的に浮世絵ができて200年。日本を代表する美術にもなっている。

ただ、浮世絵にもつまらないものがあります。春画にもつまらないものがあります。優れたものもある。これはとっても大事。美術は、ここも画廊ですからいろんなものがあるけれど、やはりいいものを選んで見たりすることがとっても大事なんですよね。

島貫:そういう意味では、永青文庫に今回展示されているものというのは、本当に優品の数々という。

浦上:そうですね。だけど、あれがすべてでもないんで。いろんな切り口があって。僕は、ある有名な学者さんが一緒のメンバーなんですけど、「今年は春画元年だね」と。これから、いろんな展開が出ると思います。もちろん、エロ・グロ・ナンセンス的なものをやる展覧会が出るかもわからないけど。これは、見る人が判断すればいい。見たいものを見ていただければいい。そう思いますね。

島貫:春画に描かれた様々な性ということですけれども。今ここに列挙されているのは、かなりいろんなものがありますよね。男同士だとか。

浦上:一言で言うと、「春画はなんでもあり」です。以前、『芸術新潮』の私のコレクションで特集があったんですね。名前が「春画ワールドカップ」。

会場:(笑)

浦上:世界中にエロティックアートがあるけど、日本の春画が断トツにトップということだったんですけどね。

その時、鹿島茂さんというフランスの学者と僕の対談。だけど、おっさん2人で話してもつまらないので、1人女性の研究者に入ってもらって、鼎談にしたんですよ。そのほうがよっぽど楽しかったんですけど。

ここにもあるように、その時、鹿島さんが言いましたね。「浦上さん、春画、なんでもありですね」「SもあればMもあるし、獣姦だってあるし、めちゃくちゃですね」「ちょっと、おおらか過ぎるんじゃないですか?」だから、その辺はおもしろいですね。

島貫:実際に今日は、スライドのなかでいろいろと……。

浦上:もう、スライドいきましょうか。

島貫:では。

浦上:字はごめんだと。

会場:(笑)。

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