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第2ラウンド「靴vs裸足」(全5記事)

ランニングシューズを科学する 正しい走りに必要な「足裏センサー」の活用 

健康をテーマにした討論会「どっちを選ぶ?」。靴陣営・裸足陣営それぞれのエキスパートが、熱いトークバトルを繰り広げます。 「シューズがハードならフォームはソフト」という、靴派の藤原氏。その両方が正しくないと、正しい走りにはならない。そのために必要なのは、実は誰もが身につけている、足の裏のセンサーをうまく使うこと。解剖学的見地から、シューズを使いこなすことの難しさが語られています。

ブルックス、ナンバーワン!

吉野剛氏(以下、吉野):「隠されている」とはいっても、そこの条件は裸足系シューズで走った人たちと直接は関係ないので。一般的に、シューズを履いている人たちって、さっきあったサイズとか……なんでしたっけ?

安藤正直氏(以下、安藤):ひとつは価格もありますよね。価格とか、シューズのクオリティですよね。

吉野:シューズのクオリティとか。これはアメリカのデータで、自分はアメリカに10年住んでいたからわかるんですけど、アメリカのランナーのほとんどは、一般的なアシックスとか……あ、ブルックスが一番ですね(笑)。

松島倫明氏(以下、松島):ブルックス、ナンバーワンですからね!

安藤:それ最初に言ってください(笑)。リップサービス(笑)。

(会場笑)

吉野:(アメリカでは)一般的な、かかとが厚くなっていて、モーションコントロールも比較的入っているシューズを履いている人がほとんどです。自分はタイでも教えているんですけど、タイのランナーは、それこそなんでもないビーサンで走っていたり、普段履きで走っていたりする人がいっぱいいるんですけど。

アメリカに関して言えば、日本もそうですけど、ほとんどの人はいわゆる一般的なランニングシューズ。「サイズが合っているか、いないか」という意味では、裸足系シューズと一般的なシューズでは関係ないかなと思います。

藤原:裸足はサイズいらないからね(笑)。

ファイブフィンガーズはどちらの陣営?

安藤:あと「靴vs裸足」だったんですけど、「裸足系シューズ」というのが、たとえばドロップ(注:シューズのつま先側と踵側の高低差)なのか、何ミリなのか。厚さですよ、ミッドソール、アウトソールの厚さ。それもだいぶ変わると思って。最近難しいじゃないですか。

吉野:定義がないですよね。

安藤:そうなんですよ。ドロップあると、厚みがあっても裸足系シューズに入っちゃってたり。そこらへんも今回、ある程度、定義というか。

藤原岳久氏(以下、藤原):ファイブフィンガーズ(注:5本指シューズ)はこっち(靴派)ですか?

吉野:ファイブフィンガーズはその中間くらい……。

松島:ファイブフィンガーズ、こっちですか。

砂川伸彦氏(以下、砂川):こっちこっち(中央)! ファイブフィンガーズこっち!

安藤:靴だと思うんですよ、あれは。

吉野:ファイブフィンガーズに関しては、中間で。少なくとも「クッション性がない」という……クッションの論点においては、裸足系シューズというのはこっちに入ると思うんですよ。

藤原:先ほどの吉野さんの研究データ、あったじゃないですか。僕はコッチ派(靴派)ですけど、ベアフットのシューズ、ファイブフィンガーズをこっちに入れていただくか、そっちか、というのはアレとして(笑)。基本的に僕は初心者、いわゆる走り始めた方もベアフットをどんどん使ったほうがいいと思っているんですよ。

なぜかと言うと、目的、その人が何をしたいのか。高岡さんのように裸足で2時間45分で走れる人もいますけど、ここにいらっしゃる方全員がそれで達成できるわけじゃないじゃないですか、目的はね。

さっきの菜食・肉食の話じゃないですけど、世のなか、走るのが好きでどうしようもない人がいて。とにかく走っちゃうという方は、ものの程度の問題はあると思うんですけど、私は「ベアフットも重心移動の大事な道具だ」と思っているんですね。

だから、1割しか続かなかったというのは非常に残念で。高岡さんがおっしゃっていたように、動き。僕は吉野さんのビデオもよく見てるんですけど、YouTubeで。昔のやつとかも見てるんですけど。

安藤:ていうか、吉野さんファンですか?

松島:ラブコールがありましたね(笑)

砂川:じゃあ(藤原は)こっち(裸足派)!(笑)。

裸足で走ると見えてくるもの

藤原:簡単に考えていただいて。重心移動を活発にすれば、体が動いていくわけですよね。ですから、道具としてのシューズというのは、どちらもありだと思うんですよ。ベアフットというスタイルは、もうミニマルになっているんです。基本的に、体をガイダンスする能力をまったく変えている。というか、むしろ、なくしている。

ソフトとハードに例えるんですけど、もしシューズがハードだったら、ソフト面がしっかりしていなければ、彼らのようにはっきり走れないと思うんですね。僕、高岡さんのフォームをビデオで何度も見させていただいているんですけど、素晴らしいフォームで。帝京大でガリガリやってた感じなんですけど。

要するに、動きがあってベアフットを履く。もしくは、動きができない方はトレーニングシューズを使って、動きを作って、ベアフットを履く。この繰り返しが、重心移動を活発にすると思います。それが僕の考え方ですね。

高岡尚司氏(以下、高岡):藤原さんのおっしゃる通りだと思うんですけど。さっきおっしゃったように、走るのがお好きでどんどん走られる方がいらっしゃるじゃないですか。僕は大学の駅伝競技部のトレーナーもやったりしてましたので、やっぱり練習量が多かったりしてくると、何が原因で故障しているのかがわからなくなっちゃうんですね。

それが裸足で走ることで、わかりやすくなってくるんですよ。そういうのは裸足で走るメリットかなとは思います。

足の裏にあるセンサー

松島:おそらく、最初に(藤原さんが)おっしゃるような、重心移動を学ぶ。まず初心者の方、走り始めた方が、走り方、重心移動を学ぶ時に、裸足がいいのか。まず学ぶためには、靴というツールを使うことで、その動きを覚えたほうがいいのか。

「裸足は1割しか残らない」というお話があったうえで、そこについてはどう思われますか?

吉野:そこについては、もう1個のスライドを出してもらってもいいですか? 足のかたちがある。

今、シューズの機能がいいから、重心移動のガイダンスをしてくれるという話でしたが。それはうらやましいなというか、要は自分がそんなに考えなくてもやってくれるわけじゃないですか。でも裸足って、自分でやるしかないんです。

自分でやるにあたって、足の裏というのは、圧力を感知するセンサーがしっかりと入っているので。足の裏に教えてくれるセンサーが備わっているのに、特に初心者用の靴って、一般的には厚いわけじゃないですか。その厚さで、感覚が伝わってきづらくなる。

自分は今、小学生に教えているので、小学生でもわかるような内容で説明しているんですけど。例えば、音を聞く時。耳っていう音を聞くセンサーがあるわけで。耳当てをしたら、音ははっきり聞こえないじゃないですか。

言語を学ぶ時、言語を知っていれば、日本語をわかっていれば、耳当てをしてもだいたいなんとなく、何を言っているかわかると思うんですけど。それと同じで、足の裏も、かぶせていればかぶせているほど、どういう情報かというのがはっきりわからなくなるので。何かを学ぶ、すなわち動きを学ぶ時は、裸足のほうがわかりやすい。

でも実際に「裸足で」というと抵抗があるから、そういう人にはガイダンスがあって、学んだほうがいいのかなと。実際に「いきなり裸足でやって怪我する人がいる」という意味では、「シューズの方が無難」って感じですかね。自分からすると。

着地の仕方は人それぞれ

安藤:結局、使い方ですよね。シューズとか靴というだけじゃなくて。裸足系シューズが出た時、僕が「あれ?」と思ったのが、たとえば「靴を履くから、かかと着地になるんだよ」とか、「靴を履くだけでフォアフットになるんだよ」とか、「人間本来はフォアフットだ」とか、「かかとは効率が悪い」という話がすごく出てて。それは実は違っていて。さっきのブルックスのスライドを出してほしいんですけど。

オリンピックの予選で撮影したものなんですけれど。着地の仕方というのは、人それぞれ、みんなバラバラなんですね。もっと解剖学的にいうと、たとえば関節の形状とか筋肉の柔軟性とかによって、人の足の着き方はバラバラなんです。

裸足で走ったとしても、かかと着地の人はかかと着地なんですよ。原始人とかの話になると、僕の考えでは、おそらくかかとの人もいたし、フォアフットの人もいたんですよ。

「ケニアのフォアフットがすごく早い」とい話があったんですけど、2012年のロンドンオリンピックで金メダルを獲ったウガンダの選手は、すごくヒールストライカーなんですよね。実はヒールスタイルは多いんですよ。効率がいいのはフォアフットかもしれないんですけど、無理して変えるというのは、僕は、純粋に良い悪いじゃなくて……。

なのに、シューズの構造はほぼ変わらない

吉野:ちょっと入ってもいいですか? 着地に関してはいろいろ、「フォアフットがいい」「かかとがいい」とか言われながら、「結局何がいいか」というのはわからないです。実際に、いろんな人がいろんな着地の仕方をしているのは事実ですよね。裸足で走っている人に、かかとからドカドカいく人たちもいるのも事実で、そうすると膝を痛めやすいというのもあるんですけど。

さっきのスライドに戻してもらってもいいですか? これだけいろんな着地がある。実際に研究してみれば、着地の範囲というのはものすごく広いんですよ。なのに、シューズの作りというのは、いまだに9割以上、かかとが厚くなっているじゃないですか。

どこからでも着地できて衝撃を吸収できるように、いわゆるドロップゼロという。ソールが最低限全部フラットだったら、どこから着地しても衝撃の吸収能力というのは変わらない。にもかかわらず、自分がちょっと納得いかないなと思っているのは、シューズの構造がいまだにほとんど変わらないということ。

新しい2015年モデル、来年出てくるやつも、ほとんどはかかとが厚くなっている。自分は裸足(系シューズ)の薄さ厚さ以前に、そもそもかかとのほうが厚くなっている、かかと着地用にできてるシューズがこれ(着地の種類)の割合とずれていることに関して、ちょっとメーカーの方の意見を聞きたい。

藤原:シューズアドバイザーというかシューズコンサルタント的な立場で(お話いただいて)。今、ブルックスの話しちゃうと問題があるかもしれないので(笑)。

松島:大人の事情が(笑)。

「使用上の注意」のないシューズ

藤原:最近の傾向として、僕はお二人のおっしゃっていることはすごく理解出来る。というか、固有知覚はすごく大事なことなので。使い分けだと思うんですね。

その中で、吉野さんが活動されていることとか、アメリカで起きたムーブメント、さっきの『BORN TO RUN』、ミニマリストが提案した一種のシューズのアンチテーゼは、今のシューズに活きてきている状態です。

もしかしたら今のトレンドかもしれませんけど、かかとが厚いという。吉野さんがかかとに注目するのはわかるんですけど、かかとから傾斜をつけていたのがトラディショナルなシューズ。傾斜をつけて、体を前に運ぼうとする。そして、つま先をクッと上げてあって、重心移動が活発になるように、ゆりかごのようになっているのが、元々のトラディショナルなものですね。

僕が安藤さんはじめメーカーの人に言いたいのは、シューズに「使用上の注意」というか、説明書が付いてないですよね。「どういうふうに使えばいいのか」、「こういうふうに使うとだめですよ」、「こういうふうに使うとうまくいきますよ」というのが付いていないのが、僕は納得がいかないですね。

「ヒールストライクをすれば、当然ブレーキがかかっていく」というのはあると思うんですけど。現在、ミニマリストの方からいただいたアンチテーゼで、シューズというのは多少変化していっていて。吉野さんがおっしゃったように、「1割くらいの人しか続かない」というのはたしかにあって。3割あったシェアがどんどん減っていっちゃったんですけど。

じゃあどうしたかと言うと、ミニマルなブランドも、結局ゼロドロップのまま厚くなっていっているんですよね。要するに、かかとだけが厚いんじゃなくて、前も厚くするという発想になっています。それに対して、僕は「どういうことなのかな」と思って。「脚が出る」「ストライドが出る」とかメーカーは書いているんですけど。

ミニマルとマキシマル

基本的にはですね、ドロップがなくなったのに、履くと傾斜を感じるんですね。これは何かというと、つま先だけがクッと跳ねている。「取扱説明書が欲しい」と言ったんですけど、トラディショナルなものって、わかりやすすぎてヒントがないんですよ。すぐ使いたくなっちゃう。

「フラットで足が上がる、そうすると、体がしっかり重心移動した人だけが得られる前足部のローリングになっている」というのが、今のトラディショナルなシューズ。ミニマルにかけて「マキシマル」なんて呼んだりしているみたいです、アメリカではね。ちょっとトレンドが変わってきている。

それはミニマルなものがアンチテーゼとして入ったことがすごく大きかったと思うんですね。ですから、僕は、使い分け。最初に自己紹介させていただいたように、(要点は)重心移動だと思うので。ドロップが12ミリあったものが、最近は8ミリとか4ミリとか、中にはゼロになっているものもあるんですけど。移動手段と考えた時に、どちらも使う。

ゼロドロップ、本当にペッタンコの、固有知覚をもらえるものも使う。で、高岡さんはレースでは、ぜひレーシングシューズを履いて僕と勝負してほしい(笑)。負けちゃうと思うんで。そういうふうに使い分けるということが、環境も変わっていて、一番理解出来るところなのかなと思います。

ブルース・リーの教え……?

松島:高岡さんみたいに、裸足で走ることで非常に素晴らしいランニングフォームを持たれて、その上で、おっしゃるようにレースの時だけシューズを履いたら、湘南国際をもっと早く走れたりすると思いますか?

安藤:たぶんブルックス履いたら2時間切れますよ!

高岡:そうですかねぇ?(笑)。

僕の考え方としては、今、モノが溢れていますし、シューズもいろいろなメーカーさんがそれぞれの考え方で作ってらっしゃると思うんですけど、基本はモノをいかに使うかというところだと思うんですね。

さっきもおっしゃいましたけど、モノを使うためには、まずはハードの部分をしっかり磨かなきゃいけない。ということで、こればっかりは実際走ってみないとわからないんですけど、僕がシューズ履いたら早くなるかどうかというのは(笑)。ただ、まずはハードの部分をしっかりと磨くというのは大事かなと思います。

松島:まず、走るために直接裸足になることで、自分の走り方ですとか。先ほどおっしゃった「ハードウエアとしてのシューズ」と「ソフトとしての自分の走り方」というのがあるとすると、それをミックスさせる、というのはどうでしょうか?

高岡:僕はいつもブルース・リーで話をするんですけど、「ブルース・リーがヌンチャクを使う」というところで、「ブルース・リーって別にヌンチャク使わなくても戦えるよね」ということですね。

吉野:わかりにくい(笑)。

(会場笑)

安藤:僕、こういうの大好きです(笑)。

高岡:モノを使うということは、やっぱり使う側が練習をしなきゃいけないと思うんです。僕は、トレイルはシューズを履いて走るので、そういう時はシューズを使う練習をします。裸足で走るのと、薄いと言ってもソールがあるのとでは、着地のタイミングとかも違いますし、感覚ももちろん違いますから。やっぱりモノを使う練習をしないといけないなと思います。

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