2024.10.01
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第1188回 やさしい心理『心とお金の関係とは?』(全1記事)
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鬼頭巧実氏:本日は「心」と「お金」の関係をお話ししたいと思います。私たちは、毎日なにかしらお金を使って生きてますよね。そのお金自体の価値は同じでも、そのお金を何に使うか、どうやって手に入れたかによって、価値が変わったように感じられます。
つまり自分の心の動きによって、無意識にお金の価値を変えていると言えます。例えばお給料のうちの1万円と、たまたま宝くじで当たった1万円。お金の価値はどちらも同じ1万円ですよね。
ふだん、お給料は「欲しいものに使いたい」とか「貯金したい」と思っている人が、たまたま入った1万円に関しては「パーっと使っちゃおうか」と、お給料の1万円に対しては考えない気持ちが出てくることがあります。私はまさにそうで、予期せぬ臨時収入は、「せっかくだから使わないともったいない」と感じて使ってしまいます。
ほかには、ふだん買わないものを、旅先では記念だという理由で買ったり、1,000円のランチは躊躇なく払うけれど、タクシー代の1,000円はすごくもったいなく感じるとか。ふだん50円の差を気にして商品を選ぶことはないけれど、スーパーの野菜の50円の差はすごく気にするなど、たくさんの例が思い浮かびますね。
これらはメンタルアカウンティング、「心の会計」と言われ、取得方法や用途に応じてお金の価値と判断が変化するという心理現象です。2017年にノーベル経済学賞を受賞され、日本に行動経済学を広めたリチャード・セイラーさんが提唱されました。
私たちはお金を単にお金としてとらえているだけでなく、心の会計で勘定科目に分けていて、その範囲の中で損得を判断している。そのため、時に不合理な選択をする傾向があるようです。
心の会計に関する実験で、有名なデータがあるので紹介します。映画館で映画を見ようとする時の実験です。今から2つのパターンを紹介しますので、あなたならどうするか考えながら聞いてみてください。
まずパターン1です。あなたは映画館でチケットを買おうとしています。その時、チケットを買うための2,000円をなくしてしまったことに気づきました。お財布から別の2,000円を出してチケットを買いますか?
続いてパターン2です。あなたは映画の前売り券を事前に買っています。そして映画館に着いたところで、その前売り券をなくしていることに気づきました。あなたは再度2,000円を窓口で払って、当日券を買いますか?
いかがでしょう。この実験では2,000円をなくしたパターン1で「買う」と答えた人は88パーセントで、前売り券をなくしたパターン2で「買う」と答えた人は、半分の46パーセントという結果でした。
どちらも支出は4,000円と同じなんですが、大きく結果が異なっています。これは、前売り券をなくしたほうは、心の中の口座の勘定科目にある「映画を見る用」から、「映画1回に4,000円を払うのはもったいない」と思った人が多いということです。
2,000円をなくしたほうでは、勘定科目「映画を見る用」からは予定どおり2,000円の支出です。なくした2,000円は心の中の口座で「その他用途」という科目になったので、買うという選択肢になったのかなと思われます。
このような行動は、私たちが意識して行っていることではなく、無意識で行う心の中の口座分けに基づくものになります。
最近では私たちの生活に欠かせないサブスクにも、心とお金の関係が見て取れます。Netflixなどの動画配信のサブスクは月額固定なので、どれだけ見ても安心という点が魅力で、映画好きにとって大きなメリットがありますよね。私も大好きで、時間さえあれば海外ドラマを見ています。
今や全世界で会員数は2億6,000万人、日本だけでも600万人を超えているそうです。しかし、その全員が、今まで映画を定期的にたくさん見ていた人なのでしょうか。毎日、もしくは毎週欠かさずレンタルDVD屋さんに通っていた人なんでしょうか。
そんなことはないはずですよね。よくよく考えると、「見たい映画を1本ずつレンタルしたほうが安かった」ということもあるはずです。それにもかかわらず、サブスクは非常に人気です。これを心の会計として考えると、「毎月の娯楽費はいくら」という心の口座を持っておくことで、「その金額を超えることがない」という安心感の現れと説明ができます。
また行動経済学では「人間は得することよりも損をすることを嫌う」という法則があります。この点と心の会計の法則を合わせると、サブスクが人気であることに非常に納得できますね。
新しいビジネスや企画を考える時は、「どうしたらお客さんにお金を払ってもらえるんだろうか」と考える必要があります。その時にちょっと視点を変えて、心の会計の観点を取り入れると、新しいアイデアにつながるかもしれませんね。
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