終戦から時を経て昭和天皇を描けるようになった

大谷広太氏(以下、大谷):ではさっそく、拍手でお迎えください。ジャーナリストの田原総一朗さんです。よろしくお願いします。

続きまして、漫画家の小林よしのりさんです。よろしくお願いします。

さっそく本題のほうに入っていければと思っているんですけれども。それぞれ今回の映画、昭和天皇、それから阿南陸軍大臣(終戦時の陸軍大臣)と、それから鈴木貫太郎内閣総理大臣と、畑中健二少佐と、その4人の登場人物が大きく軸になっていたと思うんですけれども。

やはり1967年に一度、本作が映画化されましたときには、昭和天皇というのはあまり前面には出ていないというか、ほとんど後姿だけみたいな形で描かれていたんですね。

今回は本木雅弘さんがかなり前面に出てきていますし、終戦の流れの中ではっきりと意思を示して、能動的に動かれていたっていうようなところも印象的だったんですけれども。

まず今回比較されたときに、一番大きくそこが違いとして取り上げられるんじゃないかなというふうに思っているんですけれども、お二方から見て、今回昭和天皇像みたいなのはいかがですか、田原さん。

田原総一朗氏(以下、田原):昭和天皇をよく描いてる。やっぱりそれだけ多分時間が経ったから描けるようになったんですね。岡本さん(岡本喜八監督)のときは本当に出てくるだけで後ろ姿だったですね。だから当時は、天皇を描けなかったんですよね、時代が。そういうことを感じます。

昭和天皇を演じた本木雅弘の演技について

大谷:小林さんももう漫画で『天皇論』『昭和天皇論』などでも、昭和天皇を何度も描かれてますが。

小林よしのり氏(以下、小林):今回モックンがが昭和天皇を演じておられましたけれども。今まで昭和天皇を演じる人って、例えばイッセー尾形とか、ちょっとかなり滑稽に演じるんですよ。ちょっとチャップリンみたいな感じで演じてるんですよね。

田原:ロシア映画があったね。

大谷:ロシア映画の『太陽』という映画ですね。

小林:そうそう。だからそうすると何かが違うっていう感じですよ、わし。

田原:「ああそう」っていうところなんか、あれは。

小林:そうなんですよ。そういうところにちょっと強調しちゃうわけですね。結局、戦後生まれの人間が昭和天皇を見たときの違和感みたいなものを強調してしまうわけですよ。

大谷:表面的な部分っていうか。

小林:そうそう。それをそのモックンは、ものまねをせずに自然にしゃべるっていうやり方でやったわけですね。そのほうが何か気品がわかると。気品が漂ってくるっていう気がしたんですよ。だからモックンが演技のやり方がうまいなと、わしは思ったんですね。

やっぱり普通は椅子の向こうにおられる方ですよね。それはなかなか描くこと自体ができなかった。大体わしだって昭和天皇論とかで、昭和天皇の絵をそのまま描くと、本当に右側の人間は漫画に描くとは不敬だとかというやつもいるんですよ。

そういうやつも漫画で描くとは不敬だとかっていう言い方をする人間がいるんですよ。だから、あれも結構堂々と顔を出して描くってことは勇気がいる話だったんです。ものまねじゃないっていうやり方はいいと思いますよ。

戦争に負けるのは難しい

田原:ちょっと前に、これ日本映画ではないんだけど、『終戦のエンペラー』っていう映画があって、ここで相当昭和天皇を描いてるけどね。今度の映画観て難しいのは、日本は初めて戦争に負けたわけ。負けるって難しいね。

小林:そうですね。近代国家になって、明治以降、日清日露、全部勝ってきたわけじゃないですか。まさか負けるとか全然思ってないわけですよね、軍隊は。帝国陸海軍が初めて負けるという事態に直面してしまってるから、これはなかなか抵抗があるわけですよね。

田原:しかも海軍は主要艦隊は全部やられてるから負けることにあんまり抵抗がないんだけど、陸軍はでかく中国にまだ100万軍隊がいるわけだからね。

小林:そうそう。あれまた無駄なんですよ。ある意味。あっちにあれだけの軍を残して。

大谷:大陸に。国内にも。

小林:国内にもいて、彼らはずっと戦ってないわけですから。戦ってないのに武器を捨ててしまうと。これやっぱり相当抵抗ありますよ。その抵抗は結局描かれてるわけですよね、これには。

第二次世界大戦のしんがりを務めた男

大谷:そうするとそこで2人、鈴木総理。鈴木総理ももちろん海軍大将ということで日露戦争も経験されている。また阿南大臣もまた、軍人、陸軍代表として初めて負けるんですけれども。その阿南大将と昭和天皇のところも、まさに小林さんの漫画だと『昭和天皇論』で出てきますけれども、どうでしたか、映画。

小林:だから結局、いざ負けるっていうのは、昔から国時代のときからしんがりを務めなきゃいけないんですからね。しんがりを務める人間は誰だって話になってくるわけですよ。それで結局、誰だっけあの俳優は。総理大臣になってる。

大谷:山崎努。

小林:山崎努。あの人うまいですね。

(会場笑)

小林:あの人はなかなか味を出してますよね。何かこう、何考えてるのかわからんっていうような凄味をよく出してますよ。あの人結局しんがりを務めなくてはいけなくなってしまったわけですからね。これはちょっと相当難しいですよね。

大体あの人2.26のときにいっぺんやられてますからね。弾撃ち込まれてますから。もう息止まってたんですから。

田原:もっと言えば、彼がやられたから昭和天皇は怒ったわけ。

大谷:それぐらい信任が厚かった。

田原:昭和天皇の御用掛で。彼の奥さんがすぐ亭主がやられたって言うんで、宮中に電話して。その電話を昭和天皇が受けるわけだね。

小林:そう。だからよく2.26の事件のときに銃弾撃ち込まれていっぺん死にそうになった男が、まだ天皇から命令じゃないけど託されて。

田原:最後の、しんがりの総理大臣を。

小林:よくやるっていうふうに決意したなと。だってまた殺されるかもしれないんですよ。本当すごいですよ。

日本軍には国民を守るという意識がなかった

田原:あの映画を観てつくづく思うんだけど、陸軍にとって負けって玉砕なんですよね。だから最後の一兵まで戦うっていうのは……。そこで陸軍が残っているのに負けるっていうのは、それはやっぱりOKできないでしょうね。

小林:そうですね。だから本当に、要するに負けるっていうことは敗戦の責任があるっていうことになりますから。だからもう自決しようっていう感覚になるわけですよね。

だからそういう意味では第二次大戦までは最後の侍がいたわけですよ。要するに自分の敗戦っていうのを認めたら腹かっ切って、その責任を取るっていう人間が、あそこまではいたんですよね。戦後いなくなったんですよ。

大谷:鈴木大臣も実は江戸時代生まれという。慶応3年生まれですよね。

田原:総理大臣? 鈴木貫太郎はね。

大谷:今回、映画で最初のほうに昭和天皇の回想シーンみたいのが出てきて、2人が侍従で裾を直すシーンが印象的なシーンだったんですけれども、覚えてらっしゃいますか?

あそこを監督もぜひ入れたかったというふうにおっしゃっていて。その時代にあの3人のあうんの呼吸の信頼関係が築かれたというとこなんですけれども。特にそんなに話し合わなくても、あうんの呼吸があったような感じだったんですけれども。

小林:そうですね。

田原:今度の映画で難しいのは、負けるっていうのは一体何を守るのかっていう。負けるということをOKするってことは何か守るわけでしょ。何を守るのか。

今度の映画でよくわかったのは、軍というのが国民を守るという意識がないのね。沖縄だってそうだったしサイパンもそうだけど、国民を守るという意識はなくて戦うという意識はあるね。

小林:一億総玉砕みたいな形で、一般人もみんな戦うだろうという感覚にまでなってるでしょうね、もう。若い人にとってみたら、この作品の中で何度も出てくる言葉だと思うけど、国体護持っていうのがありますよね。国体護持を保障できるかどうか、ポツダム宣言が。

田原:国体護持っていう字が頭に浮かばない人もいる(笑)。

大谷:若い方はそうですね。

小林:国体護持とか、あるいは承詔必謹とかね。こういう言葉をおそらく若い人は、もうわからないんじゃないかなと思うわけですよね。

田原:国体っていうと、何かオリンピックの国体……。

(会場笑)

大谷:国民体育大会みたいな(笑)。