集団行動をする「社会的」なクモ

寄生虫が宿主に寄生すると、宿主の習性が変化することがあります。その変化は、単なる攻撃性の増強から判断力の低下に至るまで多岐に渡り、時には非常に不思議な変化が起こることがあります。なんと、あるクモとハチの寄生関係において、クモが「先祖返り」の行動を取ることが、このたび発見されたのです。

2018年に発表された論文では、「社会的」なクモの一種であるアネロシムス・イクシミウス(Anelosimus eximius)は、エクアドルに生息するクモヒメバチの一種、ザティポタワスプ(Zatypota wasps)に寄生されると、従前とはまったく異なる行動をとるようになることが解説されています。 アネロシムス・イクシミウスは、仲間と共同で作った大きな密集した巣で一生を過ごし、何千匹もの仲間と共に暮らします。このクモが巣を作るのはグループとしてのみであり、単独では作りません。また、巣を離れることはほとんどありません。

研究者たちは、このクモがもつ、巣であるコロニー(生物集団)を離れるように仕向ける遺伝子を特定しています。この遺伝子の働きは抑えられており、不活性化されています。生息地である熱帯雨林には敵が多く、この小さなクモたちにとってコロニーを守るのは重要な任務です。

唯一この共有の巣を出るのはメスの成虫で、産卵しコロニーを拡張する時だけです。その場合であってもメスは、身を守るためにコロニーの他の個体の何匹かと行動を共にし、単独では動きません。

しかし、ザティポタワスプに寄生されると変化が起きます。

クモの習性を曲げて成長するハチの生態

ザティポタワスプは、大きな密集した巣を作るクモを狙います。このような形態の巣は、ザティポタワスプの幼虫の成長に適しているからです。 ザティポタワスプはクモに卵を産み付け、卵は孵ります。幼虫はクモの血液に該当する血リンパをエサにします。そしてなんと、幼虫はクモの習性を曲げて、作る巣の形を変えさせるのです。

寄生されたクモは、コロニーを離れます。つまりクモは、単独で巣を離れてしまうのです。そして繭を作ります。

この単独で巣を離れるという習性は、はるか大昔に進化により失ったはずです。

巣をさまよい出たクモは、ハチを保護する繭を形成します。ハチの幼虫は、宿主のクモを食い殺して繭にもぐりこみ、9日から11日後に、ハチの成虫として羽化します。

研究者たちは、ハチの幼虫がクモの血リンパを吸う際に、「エクジステロイド」というホルモンを注入していると仮説を立てています。このホルモンは、クモが脱皮前に分泌するもので、巣の作り方を変化させる働きをします。しかしクモは、脱皮する際に繭は作りません。クモが繭を作るのは、ハチがクモをコントロールする時だけです。

ザティポタワスプも、自身が羽化するサイクルで、このホルモンを生成します。ザティポタワスプの幼虫は、エジステロイドを利用して、長く眠りについていたアネロシムス・イクシミウスの習性を呼び覚ますのかもしれません。

アネロシムス・イクシミウスは、ハチの幼虫の餌とされるだけでなく、幼虫の思いのままに動くゾンビにされてしまうのです。

「社会的」クモをターゲットとしたハチは、常に宿主に事欠きません。「社会的」クモの大きなコミュニティには、寄生された個体がたくさんいることが、この研究者たちにより発見されています。ザティポタワスプは、どちらの生物もすでに持っているホルモンを操り、気の毒なクモの忘れ去られた習性を変化させて、自らが確実に生き抜く手段を発達させたのです。