クモの足を動かしているのは、筋肉ではなく「水圧」

マイケル・アランダ氏:床の掃き掃除をしている時、ほこりの塊と一緒に、クモの死骸が出てきたことはありませんか。つぶさに観察してみると、足が胴に沿ってぎゅっと縮こまっているのがわかるでしょう。

クモが死ぬと足が丸まってしまうのは、なんと筋肉ではなくて、液体の力を使って足を伸ばしているからなのです。

クモの足は、細い管が連なってできています。管が胴体に繋がる関節、つまり人間で言うところの「おしり」に該当する部位は、人間にはおなじみの働きをします。

つまり、ここには足を伸ばすための「伸筋」と、曲げるための「屈筋」という、互いに逆の機能を持つ筋肉が一組あります。人間で言えば、二の腕を曲げ伸ばしする時に使う、上腕二頭筋と上腕三頭筋に該当するものです。

しかし、クモの足の他の関節には屈筋しかありません。関節を伸ばすには、クモの血液である「血リンパ」を送り込んで加圧します。

進化の中で、こうした「水圧式」を取り入れた理由は、伸筋をなくしたことで、より大きくて強い屈筋を得るためだと考えられています。

クモは、屈筋を使って足を丸く縮める動作を利用して獲物を捕らえたり、みなさんの家の地下室の壁を上ったりします。このように、伸筋を持つ負担をなくすことにより、屈筋の能力を最大限に引き出しているのです。

クモはさらに、ユニークな足の構造を利用して、強力なジャンプができます。まず、屈筋を収縮させて足の関節に圧力をかけます。これを一気に解放し、ほぼ瞬時に伸ばすことにより、空中に飛び上がるのです。

クモの死がいから生まれた意外なインスピレーション

さて、クモが死ぬと、死後変化が一通り起こります。筋肉が収縮して死骸が硬化する、「死後硬直」などもその一つです。

身体が死ぬと、筋肉が活動するエネルギー源のアデノシン三リン酸、略称「ATP」の生成が止まります。

ATPは、カルシウムのイオンとたんぱく質の一種が反応し、筋肉の運動を制御します。これは分子レベルでの複雑な仕組みですが、ここで理解しておきたいことは、筋肉を弛緩させるのにはATPが必要だということです。身体が死ぬとATPの生成がストップするため、筋肉はATPを失い、死後硬直が解けるまで縮まった状態で固まってしまいます。

クモは、死ぬと血リンパの圧も失います。すると足の収縮を妨げるものはなくなるため、足はずっと縮まったままになってしまうのです。

こうしたがんじがらめの「デスポーズ」が少し気の毒に思えてきたあなたには、朗報があります。水圧式のクモの足は、性能が高く、強力で軽量、曲がりやすい関節を有したロボット設計のインスピレーションにつながっているのです。

もし今度、丸まって死んでいるクモを見かけたら、彼らが遺したものがすばらしい巨大クモ型ロボットであることを思い出してみてくださいね。

参考;国立研究開発法人理化学研究所(RIKEN) 「カルシウムポンプ蛋白質の構造とイオン輸送のメカニズム」