過酷な環境を生き抜く、サラマンダーフィッシュ

マイケル・アランダ氏:オーストラリア南西部を訪れる機会があれば、一見何もなさそうな泥に水を注いでみてください。小さな魚がたくさん、水たまりの中に現れるかもしれません。

サラマンダーフィッシュは、長い胴を持つ小さな魚で、オーストラリア南西部の泥炭の干潟に、一時期だけ現れる池の中だけで見つかります。

1月から5月下旬にかけての夏期、サラマンダーフィッシュが生息する池は消えてしまいます。しかし、1989年に発表された2人の魚類学者の論文によりますと、この驚くべき小さな魚は、そんなことは歯牙にもかけません。

2人は、ほとんど知られていないサラマンダーフィッシュを研究するために、22か所の池をモニターしていました。水面位が徐々に低下していく様子を、底があらわになるまで観察し続けましたが、乾いた砂底に魚の姿は見られず、2人は当惑してしまいました。

そこで、さらに底を掘ってみると、地下水面の砂層に、生きたサラマンダーフィッシュが見つかったのです。2人は、ここであるアイデアを思いつきました。消防車を使って、2千リットルもの水を注ぎ入れ、人工的に水たまりを作ってみたのです。

すると数分以内には、サラマンダーフィッシュが泳ぎ回っていたのです! 文字通りの「インスタントフィッシュ」ですね。水を加えるだけでできあがりです。

その後、研究者たちは砂地の地下60センチメートルもの深部でも、サラマンダーフィッシュを発見しました。体長がわずか数センチメートルであることを考えると、サラマンダーフィッシュにしてみれば、ずいぶん深く掘らなくてはならないように思われます。

サラマンダーフィッシュの特徴的な構造

ところが、これは十分納得が行くものです。なぜならサラマンダーフィッシュの体は、穴掘りにはうってつけの構造をしているからです。V字型の頭骨は、湿った砂の強い圧力に耐えうるものですし、椎骨の間や、通常より本数の少ない肋骨の間には、隙間が空いています。どちらも、名前の由来となったサンショウウオ(注;英語名サラマンダー)のように、身をくねらせるには有利な構造です。

当然のことながら、数か月を地中で生き抜けなければ、砂の中に潜伏することはできません。サラマンダーフィッシュは、その点でも解決策を見出しています。水が戻って来るまで地中で暮らしている間、サラマンダーフィッシュは「夏眠」という休眠状態に入ります。冬眠に似ていますが、夏眠は高温で乾燥した状況下で起こります。サラマンダーフィッシュは、夏眠状態で、数か月間生存することができるのです。

砂の中では、エラ呼吸できるほどの水が無いため、皮膚呼吸を行います。

さらに、目や生殖孔などの特に重要な部位は、乾燥を防ぐために粘液で覆われます。摂食は行わず、蓄えた脂肪分を消費します。

非常に過酷な状況ですが、池に水がある状態でも環境は劣悪です。腐敗した葉やその他の有機物により、池の水は黒褐色に濁り、平均pHは4です。これは、通常の水の1000倍も高い酸性度です。

さらに池の水温も、24時間周期で摂氏16度から34度まで大幅に上下に推移します。

つまり、サラマンダーフィッシュは、穴住まいの達人であるだけでなく、究極のサバイバーなのです。

さらにサラマンダーフィッシュは、太古からこのライフスタイルを続けています。なんと、2億4000万年も前に他の魚類から分化しており、科の中での単一の種なのです。

サラマンダーフィッシュが世に知られるようになったのは、わずか数十年ほどのことですが、研究が進むにつれ、極限の生活環境で生き抜くために備わった他の特徴も、明らかになることでしょう。

とはいえ、これはサラマンダーフィッシュが今後も存在していればの話です。残念なことに、気候変動により生息地の乾燥化がさらに進んでいます。人間が救済の手を差し伸べない限り、サラマンダーフィッシュの隠れ身の術が見られるのは、この夏が最後かもしれません。