「生まれ」と「育ち」はどちらが大切か

中野信子氏:今回は「日本人の脳」というお話をしたいと思います。別に日本人だから特殊な脳を持っているというわけではなくて「日本にはこういう人が多い」という話です。例えば「日本には血液型A型の人が多い」というような話と、同じようなものだと思ってもらえればいいと思うんです。あるタイプの脳の持ち主が、ほかの国に比べて多いということです。

いわゆる「蛙の子は蛙」という慣用句がありますけれども、これ海外でも同じような言い回しのことわざってたくさんあって。子どもというのは外見だけではなくて、言動とか好みとか、そういうものも親に似るよ、ということがいろんな国でわかっているわけですよね。こういうフレーズがどうして複数の国で出てきてるのかなということを考えると、どこでも同じような現象があるんだということになると思います。

子どもというのは、両親の遺伝子を半分ずつ受け継いで成立しますよね。どっちから受け継いだものがどうなるかという研究もあって、これもなかなか興味深いんです。例えば大脳新皮質の知能の部分はお母さんから受け継ぎますよ、とかわかっていたりします。形質によって差があるものの「親にはやっぱり似る」ということがわかっています。

ここで大きな問題、疑義が呈されると思うんです。「生まれか育ちか問題」ってありますね。「nature or nurture」と言うんですが。英語も言葉遊びみたいですよね。natureなのかnurtureなのかという、ちょっと掛けてある言葉なんですね。

生まれが大事なのか、育ちが大事なのか。知能の問題なんかでけっこう言われることがありますね。お母さん・お父さんのIQが高ければ、子どものIQも高いのかというような問題。身長なんかはわりと遺伝の要素が大きくて、7割ぐらい。遺伝率という数字があるんですけれども、身長だと遺伝率が70パーセントと言われてますよね。お父さん・お母さんの身長が高いと、子どもも身長が高くなる傾向がありますよ、ということになると思いますが。

知能に関してはじゃあどうかというと、だいたい50パーセントぐらいと言われてます。これがでも性格の部分、パーソナリティの部分となると、なかなか測りにくい尺度ではあるんです。とっても興味深いパーソナリティとして「サイコパス」というのがありますよね。

平均的にとか統計的にとか出されているわけではないんですけれども、アメリカの囚人でジェフリー・ランドリガンという犯罪者がいるんですね。この人が生まれてすぐに養子に出されて、裕福な環境で育ったんだけれども、感情の抑制ができなくてすぐ癇癪を起こしたりして、10歳でもうアルコールに浸ってしまう生活になっちゃって。10歳ってなかなかすごいと思いますけど(笑)。

そのあとは強盗事件を起こしたり薬物事件を起こしたり、更には殺人まで犯してしまって、逮捕・収監されてしまうんです。で、その収監されていたアリゾナで、同じく収監されているほかの囚人から「お前によく似た詐欺師に会った」って言われるんです。

その詐欺師の人は、また別の所で収監されていたんですけれども、その人物がなんと自分の実の父親だった……というのが、この人のお話です。育った環境はすごく裕福で、恵まれていたにも関わらず、やっぱりお父さんと同じようなことをしちゃったという話です。

「いい人」の方が社会経済的地位が低くなりやすい

犯罪心理学者のエイドリアン・レインという人がいまして。この人が双子研究から、ちょっとパーソナリティの問題でなかなか言いにくくはあるんだけれども「反社会的な行動のうち、40パーセントから50パーセントは遺伝によって説明できる」というふうに、彼の主張としては言っています。なかなか取り扱いの難しい問題だとは思います。環境要因というのはだいたい4パーセントぐらいだと言っているんですね。

なかなかイヤなデータかなと思います。ただ、この反社会的傾向はそのまま犯罪に結びつくかっていうと、そういうこともなくて。反社会的傾向が、社会において成功するために必要だという部分もあるんですね。

というのは、これも言いにくいことではあるんですけれども……いわゆる「いい人」のほうが、社会経済的地位が低くなりやすいというデータがあります。なんでかというと、いいように使われてしまうからですね。都合のいい人になってしまうので。みんなにとっていい顔・いい人であるということは、必ずしも自分のためにはならないということもあります。

一方で社会的に非常に成功している人にも、いい人が多いんですね。これどういう違いがあるのかというと、非常に成功しているいい人たちというのは、自分がいいように使われない術をちゃんと知ってる。「ここから先は入ってくれるな」というところで、ちゃんと適切にキレることができたりとか、自分に都合が悪いなという時は「それは僕はやりません」ということをちゃんと主張できるんですね。

それをしない、搾取されるだけのいい人というのは、今言ったような反社会的行動をとる人たちによって、搾取される対象になってしまうので。ちょっと生きにくい世の中になってしまうかもしれませんね。自分のいいところを、やっぱり自分で守れる力を身につけていってほしいなと思います。

あと日本人の性質としては、実は反社会的な傾向を持った人は少ないんですね。いわゆる「いい人」が非常に多くいる国のようです。これはなぜかというと、日本というのは来歴をたどりやすいんですね。外国から来た人も非常に家系をたどりやすいというか、流動性が低い国というふうに言うことができるんですけれども。

こういう国ですと、その人が過去になにかやったということになると、記録として残ってしまいやすい。反社会的行動をしにくいんですね。一旦そのコミュニティから排除されることをすると、とても大きなペナルティを背負うことになるので、なかなかコミュニティに対して「ノー」と言うことが難しい。そういう特殊な条件がある国ですので、反社会的傾向を持った人が生きのびにくい国だと言うことができます。

日本人の幸福度は非常に低い

こういう国ですので、もう1つちょっとおもしろい特徴があって。「幸福の感じ方」なんですね。これも日本の幸福度、とても毎年低く出るんですよね。けっこういい国だと私は思うんですけれども、それでもなんかみんな不安傾向が高い。今幸せだと「明日幸せじゃなくなるかもしれない」というふうに不安に思う人が多いと。

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