目の前にある現金1,000万円を総取りするか、分け合うか

荒川和久氏(以下、荒川):理屈と感情、男と女。この部分って常につきまとうじゃないですか。これ、ちょっとみなさんに思考実験的なものをお聞きしたいんです。

中野信子氏(以下、中野):ああ。

荒川:目の前に、現金が1,000万円あります。みなさんと見ず知らずの誰か2人で、その1,000万円を分け合います。選択肢は2つです。500万円を選ぶか、1,000万円総取りを選ぶか。要するに、2人で分け合う500万円を選ぶか、自分で1,000万円全部をもらうか。相手は見ず知らずの赤の他人です。

図にするとこういうことですね。条件があって、あなたが500万円を選んで、相手も500万円だったら、2人とも仲良く500万円です。あなたが500万円で、相手が1,000万円を選んだら、相手だけ1,000万円もらえちゃいます。

逆に、あなたが1,000万円を選んで相手が500万円だったら、あなたに1,000万円です。2人とも1,000万円を選んだら、2人とも0円です。わかります? 選択肢は2つだけです。500万円か1,000万円だけ。

500万円を選ぶ人、手を挙げてください。

(会場挙手)

中野:おお、太っ腹ですね。

荒川:あれ? 3分の1くらいですかね。へえ。

(会場笑)

既婚女性だけは7割が他人と分け合うことを選択する

中野:実験室条件だからですって。実際にやったら違いますって。

荒川:そうなんですよ。これをやると、既婚の女性だけ500万円を選ぶ人が多くて、ソロ男、ソロ女、既婚男は1,000万円を選ぶ人がちょっとだけ多い。

中野:え。あたし、結婚してるのにな。

荒川:(ソロ男女、既婚男性を指して)どう考えても中野さんの価値観はこっちです。

(会場笑)

でも、経済学的に言ったら、500万円を選ぶと。期待値は500万円 or 0円だから、250万円じゃないですか。1,000万円を選ぶと、1,000万円 or 0円だから、期待値は500万円。1,000万円を選んだ方が絶対に得なんですよ。

中野:そう思います。

荒川:なぜ500万円を選ぶかというと、「500万円にしておいたほうがいいんじゃね?」という。見ず知らずの相手ですよ。普通は1,000万円なんです。

中野:普通1,000万円ですよね。

荒川:でも、さっき言ったように、既婚の女性だけは7割が500万円なんですよ。

中野:おお、3割なんですね、私。

理屈で動いている人は総取りを選ぶ

荒川:これは相手が自分の知っている人だと、9割から10割が500万円。

中野:知っている人だとね。確かに、嫌なやつだと思われたくないから。

荒川:そうそう。知っている人だと、どっち(既婚者男女もソロ男女)も、9割10割がこっち(500万円)なんです。知らない人って、関係ないじゃないですか。こっち(1,000万円を1人で総取りすること)が正しいと言っちゃいけないですけど、合理的なんです。

中野:そう思います。論理的には1,000万円になると。

荒川:なんでこんな話をしたかというと、実はこっちを選ぶ人は(ソロ・1,000万円)理屈で動いている人ですよ。さっき、私が感性で動いているとか口では言っているのに、本当はこっちを選ぶんだったら、日常生活の中で判断基準としては、理屈、ロジカルを重視しているということじゃないですか。

中野:おっしゃる通りですね。

荒川:そういうようなことがけっこうあって、これも言っていることとやっていることが違うよね、というところを明らかにするのに、けっこうおもしろいなと思っています。

中野:おもしろいです。

「アイデンティティ」に相当する日本語はない

荒川:男と女は違うよね、という話をしちゃうと面倒くさいなと思っているんです。1人の人間のなかにいろんな面がある。1人の人間の中にも男性性とか女性性というものがあるし、父性もあるし母性もある。

中野:ライフステージでも変わるし。

荒川:あと、上司に相対するときの自分と、部下と相対するときの自分と、好きな人に相対する自分とは、ぜんぜん違うじゃないですか。

中野:そう。それに関するもう1つのおもしろい研究は、使う言語によってペルソナが変わりますね、というものがあります。日本語をしゃべっているときは謙虚で、英語をしゃべっているときはすごく熱いネゴシエーターになるとか。

荒川:結局そういうものって、同じ人間なのに違う面、多面的な部分が出てくるわけじゃないですか。こういう、個々のアイデンティティのような話は西洋(の考え方)ですよね。

中野:そうですね。「アイデンティティ」に相当する日本語の単語がそもそもないですよね。

荒川:そこのレベルがけっこう違うなと思っています。日本人ってもともと、真ん中が空洞で(笑)、中空構造という言葉もありますけども。

中野:そうですね。

荒川:コアがあるとかという話を、中学高校か忘れちゃいましたけど、道徳教育か哲学教育で言われたときに、「真ん中にコアなんかないよな」とすっごい思ったんですよ。

「自分とは何か」という問いと、1人の人間の中の多様性

中野:おもしろいですね。少なくとも脳科学とか認知科学では、長らく「自分って何?」という疑問があったわけですよね。「自分って何」と突き詰めていくと、「前頭前野にあるんじゃない?」みたいなところまではいったんだけど、「前頭前野のどこなんだよ」となったときに、「前頭前野のどこにもないんじゃ……?」という。

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