2名の革命者が日本の未来を語り尽くす

司会者:本日はお忙しいところ、ありがとうございます。英語教育界で大注目の白川寧々さんと、ベストセラー『ニューエリート』(大和書房)の著者、ピョートル・フェリクス・グジバチさん、教育や働き方の場所で革命を起こすお二人に、「英語×働き方×教育」と未来について自由に語っていただきます。よろしくお願いします。

(会場拍手)

白川寧々氏(以下、白川):こんばんは!

会場:こんばんは!

白川:初めまして……じゃない人もいるけど、今日は来てくれて、ありがとうございます!

(会場拍手)

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下、ピョートル):こんばんは、ピョートルです。よろしくお願いします。(照明が)すごく眩しいです。必死に、どうすればいいのか……とがんばっているんですけれども、なんとか、あと1時間であればがんばります。よろしくお願いします。聞こえますか? ありがとうございます。

白川:Lower the spotlight.(スポットライトを下げて)

ピョートル:そうそう。スポットライトという言葉をご存知ですか? (指差しながら)……あれです。すみません、勝手ながら。

白川:私も眩しいけれど、写真写りがよくなるんだったら我慢しようかな。

(会場笑)

ピョートル:これで楽ですね。ありがとうございます。

白川:でも、眩しいよね。こっちを見ていると眩しくないから、ピョートルさんを見ていようかな(笑)。

ピョートル:ぜひ(笑)。

ジャズなトークセッションの開演

白川:今日はせっかくのジャズなセッションです。私はいつも超堅いクラウドで講演してばっかりなんですよ。ふだんどんな人に喋っていると思う? 教育委員会の人とか、学校の先生とかですぜ。後ろにこんなゆるくジャズとか流れていないですよ。私のノリはこのまんまですけどね!

ピョートル:クラシックの世界ですか?

白川:そうです。タランタラーン、みたいな。(ふだんの公演では)みんなご飯とか食べていないし……。どうぞ食べてください! おいしいらしいです。ふだんは、みんな堅い顔をして聞いているんですよ。だからちょっと、柔らかくいきましょう。ということで、これはちょっとふざけてもいいということですよね!?

ピョートル:たぶん、ふざけたほうがいいと思う。まだたぶんお互いに慣れていないので、少しずつ「ふざけ」を深くしましょう。

白川:そもそも、英語で喋っていい? ダメな人? さっきから「英語でいいよ」っていう人がめちゃくちゃいるんだけど、「ちょっと嫌だ」っていう人、素直に手を挙げてください。

(会場挙手)

賛成多数で? 反対多数で? しょうがなく(日本語で喋ります)。今日はピョートルさんと喋れて、すごくうれしいんですよ。なんでかというと、英語の本を書きましたが、私は「英語の世界の人」じゃないです。ピョートルさんのことも、英語の本も書いているけれど、思いっきり誰も、「英語の世界の人」って間違わないじゃないですか。

英語は「前提」です。「『英語の話』とかをしているうちは、英語ができるようになりません」っていう新常識を私の本で発信していこうと思っていて、一緒にそんな話をできたらいいなって思っています。

ピョートル:わかりました。よろしくお願いします。

私の国の教育は時代遅れだ

白川:しかも二人とも外国人。二人とも共産圏出身。よろしくお願いします! (本日のテーマが載ったスライドを指しながら)このダサいスライドは、ご容赦ください。一瞬だけダサいスライドを流します。そもそもどうして私はこの本を書いて……あ! 本を買ってくれた人ー?

(会場挙手)

いっぱいいる! ありがとうございます! 超うれしいです! 出版社の方も、めちゃくちゃ喜んでくれています。これから読む人も、読んだ人もいますが、「なんでこれを書いたのか」というのと、「日本の教育界で何をしたいのか」ということを、ちょっと流します。流し気味に10分くらいで喋ります。カウントしておいて! 長すぎるとピョートルさんに申し訳ない。突っ込んでいいですよ!

ピョートル:わかりました。

白川:オッケー。ここに書いてある文章に似た文句を見たことがある人? 朗読しますね。「私の国の教育は時代遅れだ。生徒がロボットのように聴いている中で、先生は前に立って言われた内容を右から左に流すだけ。学びの本質も何もあったもんじゃねーわ。点数とかばっかり見やがって。このAIとかこんな世界に、これからの子どもたちは対応できるんだろうか? というか、そもそもこれからの我々は対応できるんだろうか?」。

これ系のこと、こういう愚痴を、なんとなく聞いたことある人? ……言ったことある人? どこの国だと思う? 日本だと思う? ほかはどうだろう? 中国とかもこういう文句が出ていると思う? アメリカはどう? (それぞれ会場の一部挙手)ピョートルさんはたくさんの国を知っているけど、どう?

ピョートル:アメリカもありますよ。

白川:そう。ほかは?

ピョートル:ポーランドとか(笑)。ヨーロッパですと、やっぱりフランスとかイタリア、あとは英語圏ですよね。英語の話ではないんですけれども、実際にEUの中で一番外国語が喋れない人たちは、イギリス人、アイルランド人、その次にイタリア人とフランス人です。

教育界の“愚痴あるある”

白川:意外でしょ? 今ピョートルさんが言ってくれた通り、これは世界中の問題なんですよ。ハーバード大学の授業に潜り込んだことがいっぱいあるんだけど、ハーバード大学の教育大学院、Harvard Graduate School of Educationっていうのがあって、日本人も何人かいます。いろんな国の教育エリートが来ていて、ほぼ全員が「うちの国の教育は、マジ最悪」って言っているんです。

飲み会になると、大抵「いや、うちの方が最悪!」「うちの方がもっと最悪だ!」って喧嘩になる。そういうことってない? 教育界の愚痴ではよくあるんですよ。今、日本のいろんな界隈でも、アクティブラーニングとか、主体的で対話的でどうのこうのみたいなやつとか、教育改革のことを言っているじゃないですか。

あれって「日本の教育はこうだから、今、日本の競争率は下がっていますよね」みたいなことを言っているじゃないですか。その因果関係は嘘です。そんなことはないです。教師が一方的に教えて生徒はロボットみたいに聞いてて、結果的に主体性が微妙になる現象は世界的な問題です。今、世界中で「いろんな教育を新しくしなきゃ」「教育改革しなきゃ」と言っています。だから私は、マジで「教育乱世」と呼んでいます。みんな教育改革をしています。やっぱりEUでもしますか?

エストニアの起業家イベントで出会った高校生に目が点

ピョートル:していますよ。ちょうど先月、日本の起業家と投資家を連れてヨーロッパのフィンランド、エストニア、ラトビア、ポーランド、マルタに行ってきたんですが、みなさん、目がまん丸でした。簡単にいうと、エストニアでは「Latitude59」という起業家のイベントがあるんですけれども、高校生が自分たちのビジネスアイディアをピッチしていたんです。

しかも英語でピッチしていて、すでにMVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる、使えるプロトタイプができていました。高校生ですよ? 起業家のマインドセットもわかって、プロダクトも作れて、それを英語でピッチしているんですよね。歴史をご存知の方もいらっしゃると思うんですけれども、エストニアという国は1990代年にやっと独立した国です。戦争の前に20年間近く、国として機能はしていたんですけれどもね。

今はやっとソ連から独立して、国として存在しているんですけれども、やっぱり教育に投資するしかないんですね。ただ、エストニア人に聞くと、「足らない。まずい。もっとアグレッシブに、シリコンバレーの子たちと戦えるようにしなきゃならない!」と話が出るんです。どこからどこまで来たというのも関係なくて、「今(の状態)はまずい」というのは、おそらくどの国にもあると思うんですよね。

「教育乱世」の現代

白川:一番「まだうちの国の教育はまずくない」って言っているのは、日本だったりして(笑)。アントレプレナーシップが流行っているんですか?

ピョートル:流行っていますよ。ただ、ヨーロッパ人は「話す」というより「やる」という民族が多いんですよね。何らかの対策を組んで、「とりあえずやってみよう!」というスモールスケールでプロトタイプを出しているところが多いんですね。

本当におもしろくて期待できるところが今、ヨーロッパの中で山ほど、キノコのように出てきているんです。もちろん、日本にもおもしろいところはあるんですよ? 孫泰蔵さんのVIVITAとか、(白川氏を指しながら)もしかしたら、御社とか!

白川:弊社だなって(笑)。みんなに英語でアントレプレナーシップやらせて、ピッチさせるとか、めちゃくちゃ弊社です。ヨーロッパでも同じようなことをやっていると聞いて、ちょっとうれしいです。アントレプレナーシップだけじゃなくて、プログラミングとか、アクティブラーニングとかいろいろやっていますよね? 

新しい時代の教育の形は変わるべきだ! 次のスタンダードはコレだ! と世界各地で百花繚乱。その状態が「乱世」なんです。

今までのスタンダードを揺るがしてもいいんじゃないかと。世界中の人がその問題意識を持っている。ただ、日本特有の問題ってあるよね。

英語で、日本人をもっと自由に

これ、知っていますか? ごめーん! 丸の内でこんな暗いグラフを見せて、ごめーん!! これ、知っていますか? 最近テレビで出るようになったやつです。1997年から比べて、日本だけ実質賃金がだだ下がりなやつです。これは見たことあるでしょ?

ピョートル:もちろん。

白川:うちの親なんかは1980年代後半に日本に来た移民なんだけど、やっぱり「その時の日本は、よかったよ」って、「昔の日本がどれだけ希望に満ちていて、人も優しくて寛容で豊かな雰囲気だったか」って話をしてくれたりするの。バブルだったからね。そんなこといったって、「我々の世代はそれどころじゃないっつーの!」みたいな。

私はこの本を書いて、みんなに英語ができるようになってほしいというか、日本人のみなさんには、みんな英語ができるようになって、自由になってほしかったんですよ。とくに高校生とかは、いつも目にしているから。だけど今の日本、自由だと思いますか? 思う人? (会場の10パーセントほどが挙手し)思える人って、たぶんお金がいっぱいある人じゃないですか? 

(スライドを指しながら)残念ながら、お金はいっぱいなくなっているじゃないですか。だから、どんどん不自由になっていますよね? そういうことです。

昔の「脱サラ」は死亡フラグ

経済的に、お金がなくなってもいいんだったら何をしてもいい自由って、けっこうあったりしますよね。一応、日本育ちだったから(わかるのですが、日本では)私が子どもだった時、「好きなことをやる」ということ、テレビの中でもそうでしたが「好きなことをやって生きる」というのは、基本的に「ダンボールボックスへ直行」という意味なんですよ。

「会社を辞めてラーメン屋をやります」的なのは死亡フラグ、ホームレスフラグじゃないですか。

(会場笑)

白川:そういうナラティブ(語ること)しかなかったんですよ。だから、好きなことはいろいろ諦めないといけない。だけど、諦めてなくてもこんな感じになっちゃいますよね?

(スライドを切り替えながら)あと、これ。出していいのかな? まあいいや。これ、なんかしんどくないですか? とくに、お子さんをお持ちの人たち。先生の言うことを聞いて、「いい学校」に行って、「いい会社」に行って、それでこれ。このナラティブ、やばくないですか?

(スライドを切り替えながら)あと、これ。これはまさに、丸の内の真ん中でこんな話をしているのはあれなんですけど、これもしんどいですよね。

日本の高校生の7割が「自分をダメ人間」だと思っている

(スライドを切り替えながら)一番しんどいのが、日本の高校生が自分をダメな人間だと思っている割合。72.5パーセント。諸外国で一緒の調査したところでは、5割を超えているところはあまりなかったらしいです。しんどいですよね?

自分をダメだって思うその呪縛自体がもう、自由じゃないってことなんですよ。好きなことをやろうとして、それができないって思うってこと自体が(自由じゃない)。私はそう思っています。「そんなこと言われても」って気がしません?

経済的不自由と、選択の不自由と、心の不自由。不自由って複雑なんです。

「自由に生きたかったら、グローバルに出ようよ」って私は思っています。でも、「そんなこと言われても」って思う人? 「じゃあグローバルに行こうか」って思う人?

(会場挙手)

ありがとうございます。いいですね。やっぱり丸の内は勘がいいです。ピョートルさん、どう思います? 日本人が自由に生きる道って、けっこうグローバル化にある気がしません?

現実主義から楽観主義への転換を

ピョートル:あると思いますよ。日本でもあると思う。どこで何をするかというのは、結局それぞれの期待感や夢にもよりますけれど、日本からグローバルへというのは、あるんですよね。これからは行かないとだめだし、増えると思うんです。今の話を聞くと、現実主義でも楽観主義でも、楽観主義を世界にもたらさないと、変わらないと思うんです。これから(白川氏の)おかげさまで増えるんじゃないかな。

白川:おかげさま?

ピョートル:そう、おかげさま。がんばっていただければ。私もがんばりますよ。

白川:でも具体的にどうすればいいの? この中で、「自分はグローバル人材です」っていう人、手を挙げてください。

(会場挙手)

お? おお? ……だいたい、3パーセント。ピョートルさんは?

ピョートル:(挙手しながら)はーい。

白川:ここに来ているだけで変わり者なので、このルーム内で3パーセントって、相当な変わり者ですよ。だけど、グローバル人材っていうのに対するイメージがあるじゃないですか。そんなイメージ、持っていない? まず、グローバルの逆として、ローカルな生き方というのがあるよね。日本に生まれて普通に生きるっていうものです。自分も含まれます。

スタバに行ったことがある=グローバル人材

(スライドを指しながら)たまたま飛び出したこいつ、この変人が「グローバル人材」。だいたい変(な人とされる)。

グローバル社会っていうのは未知の世界で、「自分の生きている所とはちょっと別の所にあって、英語が話せなきゃいけなくて、自分と関係ないかも?」って(イメージです)。

(スライドを指しながら)これはマジで思うんだけど、地球は丸いですよね? 2つの金魚鉢でできていないですよね? グローバル経済圏全体に我々が住んでいて、世界が開かれていますよね? 「鉄のカーテン」はなくなりましたよね?

ピョートル:だいぶ前ですね。

白川:ね! 「鉄のカーテン」があった時は、もうちょい閉じ込められて(外国と)関係なかったかもしれないけど、今の日本ってぜんぜん鎖国していないし、何のカーテンもないですよね。たまたまこういう(飛び出した)人もいるけど、本当は(みんな)繋がっているんですよ? ユニクロに行ったことがある人?

(会場挙手)

スタバに行ったことがある人?

(会場挙手)

はい。全員ですね。おめでとうございます。ここにいる人たちは、「消費のレベル」で少なくとも確実に、全員「グローバル人材」です。グローバル経済圏の住人だったら、「グローバル人材」でよくないですか?

ピョートル:いいんじゃないですか?

白川:だって、ぜんぜん隔離されていないですよ。グローバル経済に、もう参画させられているんですよ。「関係ない」って言えないんですよ。なのに今の教育だと、「日本で生まれて日本で死ぬ人は、グローバルとは関係ない」って思わされている。私はこれがもったいないとすごく思っています。だから、大事なのはこの現実を知った上で……。

すみません、みなさん。「グローバルは自分に関係ない」とか、「グローバルって言葉にそもそも嫌悪感を持っている」っていう人、日本にはけっこういっぱいいると思うんです。だけど、大変申し訳ないんですけれど、グローバル経済の中の立派な一員でございます。