水の次に、人間が多く使っているものはコンクリート
ハンク・グリーン氏:バクテリアについて学び始めると、基本的になんでもできてしまうことがわかります。
プラスティックを分解したり、発電したり、世界一頑丈な糊を生成したり。橋や高層ビルを建てたりもできるのです。そうですよ。バクテリアで、橋や高層ビルを建てるのです。
実はバクテリアには、コンクリートとは不思議なご縁があるのです。
ちなみにコンクリートは、地球上で人間が二番目に多く使用している物です。コンクリートよりも多く使っている物は水だけなのですが、そう考えると、人間がいかに建造物を建てることが好きなのかがよくわかりますね。
通常コンクリートは、セメント、水、そして砂や砂利などの骨材から作られます。頑丈ですが、やがて割れ目が生じてしまいます。そういった割れ目には水が入り込み、氷が張って、ますます大きくなっていきます。水がたくさん入り込めば、建物を支えている鉄骨が錆びてしまいます。そのためコンクリートには、メンテナンスが必要です。
問題なのは、このメンテナンスにたいへんなコストと手間がかかることです。中国の三峡ダムや、危険な廃棄物処分施設などを修繕する場合は、なおさらです。
また、セメントの製造過程では、地球のCO2エミッションのうち約9パーセントが排出されることを考えると、建物の建て替えや補強に今よりも多くのコンクリートを使用することは、環境に良いとはいえません。
自己修復するコンクリートの仕組み
さて科学者たちは、何年もの間、この問題の解決策として自己修復するコンクリートの開発を試みてきました。ここでバクテリアが登場します。
少し前に、科学者たちが火山によってできた湖の底をさらって、極限条件で生きる生物を捜索したことがありました。すると、まさにコンクリートを生成するために生まれてきたかのようなバクテリアが数種類、発見されたのです。
これらの恐れを知らない微生物は、pH7以上のアルカリ性の環境に生息していました。こういった環境は、場所によってはアルカリ度が非常に高く、人の皮膚がただれてしまうほどです。
しかし、良質のコンクリートはpH度が高いので、これは好条件です。一番素晴らしい点は、このバクテリアが、コンクリートの成分となる鉱物であるカルサイト(方解石)を排泄することです。つまり、このバクテリアは非常に有用性が高いのです。
2006年以降、このバクテリアを研究してきた研究者が何人かいました。この研究チームが、このバクテリアをうまく活用する素晴らしい方法を思いつきました。
まず微生物を、乳酸カルシウムのエサと共に、カルシウム生分解性プラスチックの泡、もしくは極小の粘土質のペレットに入れます。そしてこのカプセルをコンクリートに混ぜ込むのです。
コンクリートがまったくの無傷であれば、このしぶといバクテリアは、固い牢獄に閉じ込められ休眠状態のままです。
しかし割れ目が生じて水が浸透してくると、カプセルは溶け、微生物が活性化します。
飢えたバクテリアは乳酸をエサとしてカルサイトを排泄し、コンクリートを結合させ割れ目を埋めます。するとバクテリアは、別の割れ目が生じるまで再び牢獄に封印されるのです。さあ、これが自己修復するコンクリートの仕組みです。
現時点での課題は、近所のホームセンターで手に入るようなものではないこと
複数の研究結果が、この手段により、バクテリアはコンクリートの力を90パーセント以上も復元可能だとしています。これは驚くべきことです。
現時点での問題点としては、この自己修復コンクリートが非常に高価なことです。そのため、みなさんのお家の近くのホームセンターでは売ってはいないことでしょう。
今のところ、専門家が考える最善の活用方法としては、メンテナンスに危険を伴い、作業が非常に不便な、放射性廃棄物の地層処分所のような場所での活用が挙げられています。
しかし科学者たちは、高価な乳酸カルシウムを安価な糖に代替するなど、より安いコストでの実現を模索しています。ある科学者は、コンクリートに練り込む代わりに、普通のコンクリートにスプレーできるバクテリア入りの水を開発しています。
いつの日か、こういった微生物が、世界中の建造物や橋を支える日が来るかもしれませんよ。