個が力を持つ時代とは、自己責任と断絶の時代でもある

家入一真氏(以下、家入):最近すごく思うんですけど、「個の時代」って言われるじゃないですか。テクノロジーによっていろんなものが民主化していって、個人でもクラウドファンディングやnoteなどを使ってフリーランスとして生きていくとか。クラウドワークスとかもそうかもしれないですね。個が力を持てる時代がやってきた。

これは非常にすばらしいことであると思う一方で、すべてが個の責任になっていく。そのなかでどうしても出てくるのが自己責任みたいな話と、もうひとつはやっぱり断絶だと思うんですよね。

これから先、孤独に苛まれる人がもっともっと増えていくと思っていて。今回のセッションも終始「お金」とか「資本主義」とかの経済の話だったんだけど、ちょいちょい幸福の話が入ってくるじゃないですか。これってもうセットで、切り離せない話になってきているのかなと思うんです。

孤独と向き合うとか、幸福であるにはどうしたらいいかみたいなものか。みんなが追い求めているGDPとか経済成長みたいな指標の中で、ある意味幸せの物差しみたいなのが共通化されて、同じ山のてっぺんを見れて、一緒にがんばれる時代っていうのはよかったと思うんですけど。今ってたぶん、幸せの価値基準がバラバラなんです。

ある人は「年収は高いほうが幸せだ」って思うんだろうし、でもある人は年収下がってでもいいから地方に移り住んで、夕方には仕事終わっているほうが幸せだっていう人もいるんだろうし。そういった幸せの価値基準自体がバラバラになってきているなかで、どう生きるのかっていうのは、これから生きる人たちの心を悩ませる問題じゃないかなって思う。

目の前の仕事できちんと稼げるようになってから言え

亀山敬司氏(以下、亀山):でも、このバラバラがいいよね。統一されてしまうとさ、つまんないよね。時間を求める人もいたり、お金を求める人もいたり、いいねを求める人とかいろいろあってもいいし。俺は今の混沌としている状況がけっこう好きなんだよね。

どっちか一本だとロクなことがない。トランプ側につくのかどっちにつくのかじゃなくて(笑)。あれもあり、これもありみたいなほうがなんとなく平和じゃない? 戦争も起きにくいしさ。

いろんな価値観がぶつかり合って、ああだこうだ言ってるうちは殴り合いしないからさ。なんかけっこう良い気がする。日本はとくにね。

家入:亀山さんって昔からそういう考え方でした? なんか「稼がないヤツはクソだ」とか思ってる時代とかは……。

亀山:ははは(笑)。昔からクソだとは思ってなく、「そのうち俺も稼ぐことに飽きるんだな」という予感はあったんだよ、20代からずっとね。欲望には限界があって、たぶんどっかで飽きてくるなぁみたいな。もともと欲しいものが少なかったのもあったんだけどね。

財産も下手に残すとロクなことねぇなみたいなのもあって。ただ、これを言うと、ウチの子会社の社長たちとかが勘違いして、「僕らも損得抜きでこんないいことやりました」とか言い出すわけよ。「いやいや、お前ら、30年早いから」みたいな。まだ会社の存続が危うい状態で、「稼いでもいないのに、何かっこいいことばっかり言ってんだ」みたいなのはあるよね。

そういった面で言うと、まずは「自分たちが自立してから次のこと考えよう」じゃないといけないと思う。最近学生とかで、なんかいいことばっかり言って、JICAに行って、DMM.Africaに面接に来て「アフリカ人のために何かしたいです」って人がいるんだけど。「いや、アフリカ事業部は稼げないとやってけないから、まず稼げよ」みたいな言い方になるパターンが多い。

同じように、ここにいるスタートアップの人たちはまだ10年早いから。とにかく今は「目の前の仕事で稼ぐべき」というのは思っていて。まぁ、将来自立できたら、ただ稼ぐだけじゃなくて、ちょっと歌って踊れるビジネスマンになったらどうかなっていう話かな。そんな感じです(笑)。はい。

山口揚平氏(以下、山口):含蓄のあるお言葉ですね。ありがとうございます、本当にすばらしいコンテンツです。

ネット業界の現在地は、オイルショック時代の日本と似ている

鈴木健氏(以下、鈴木):ちょっとガラッと話変えていいですか? せっかく業界の人が集まってるんでこういう話をしたいと思ってるんですけど。日本の今のインターネットの業界って、オイルショック前の日本の産業界みたいなのに近い感じがすごいするんですよね。

どういうことかというと、イラン=イラク戦争っていうのが当時起きて、いわゆるオイルショックみたいな危機が中東で起きた。石油がシャットダウンすると経済がいきなり影響を受けて、なんかもう「どうなっちゃうんだ?」ってみんなパニックになって、みんなトイレットペーパー買いに行くみたいなことが起きたわけですよね。

当時の経済界って、オイルショックをぜんぜん誰も予測してなくて、国際政治に対してものすごく無頓着だったんですよ。その後「またこんなことが起きたら大変だ」「石油が切られちゃったら大変だ」ってなった。

それで産業界はどうしたかっていうと、シンクタンクを作って国際政治を研究したり、それから中山素平さんという人が国際大学というのを作って、とにかく国際関係論をちゃんと研究しないと日本の経済・産業自体がもはや成立しないんだってなったんですよね。僕はそれに近いものを感じているんですね。

今、世界で何が起きてるかっていうと、要は、国家対資本主義の対決みたいになっちゃってるんですよね。

日本だとあんまりリアリティないんだけれども、フランスで今起きているルノーとカルロス・ゴーンさんの話って、もともとはフランス国内の格差問題によって法律が変わって、議決権15パーセントしか持ってなかったルノーに対して、フランス政府が持ってたシェアが30パーセント分の議決権を持つようになっちゃったわけですよね。

それによって、マクロン政権がルノーやカルロス・ゴーンに対して「日産と統合させなさい」となって、最初はそれは拒否していたんだけど、最後はゴーンさんがそっちの方向に走ったと。それに対して日本側がブロックをしようとして起きたと言われている。どこまで本当かわかりませんが。

国よりもGDPの多い企業がある世界で

鈴木:それから経済産業省とJIC(産業革新投資機構)の田中正明さんの対決の問題とかも起きてるじゃない。これは完全に国家のロジックと資本主義のロジック、もしくは国家の背景にある民主主義とのロジックというものの対立構造がものすごい強くなっているんです。

米中関係もそうですよ。これが日本のインターネット産業に対してものすごく強い影響を与えるのって、時間の問題なんじゃないかなという気がしています。

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