脊髄反射でものを言うSNSで議論するには

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):もう1つは「インターネットは本当に公共圏たりうるのか」という問題です。よく言われているのは、Twitterは難しいんじゃないかということです。140文字で説明するのは難しいという単純な話もありますし、短い文章を感情で発信するSNSなので、ワンタップのリツイートでどんどん意見が発信できてしまう。

そうすると、人々の脊髄反射がすごく増えてしまうんです。脊髄反射をすると、真っ当な議論をするよりも、自分の怒りをぶつけたり、嘲笑したり、笑い者にしたりするほうがやりやすくなってしまう。そういうことが起きてくるんですね。

僕はここ数年、Twitterの議論をわりと積極的にやるようにしています。その時に心がけているのは「罵らない」ことです。なるべく理性的で冷静な議論を心がけていると、だんだん罵るのが嫌いな人が寄ってくる。逆に、例えば勢い余って誰かを非難するツイートを投げると、その瞬間にワーっと罵倒好きな人が集まってくるんですよ。

山口幸穂氏(以下、山口):怖いですね。

佐々木:その人たちって、議論を求めているんじゃなくて、人が人を罵ったり笑い者にしたりしているのを見たいだけなんです。火事場見物みたいなものなので、議論は成立しない。そういうのが嫌で、冷静な議論をきちっとしたい人は、罵声や中傷の飛ばない場所を求めているのは確かにあります。

そうすると、Twitterや閉鎖的すぎるFacebookではなくて、もっと別の形で公共圏を支えるようなネットのメディアやSNSみたいなものがあればいいんじゃないかと。これがずっと出されてきた課題なわけです。

僕はそこにすごく期待し続けていて、古くは2005年くらいに、韓国から『オーマイニュース』がやってきました。これは当時「市民参加型のメディア」と言われてけっこう盛り上がったんです。

当初はその編集員をやっていたんですけれど、結局終わってしまいました。今度はHuffington Post(現HuffPost)が始まり、BuzzFeedが始まり……。その度に期待していますが、なかなか確かなプラットフォームにはなりにくい状況です。

ツイッターを視聴権とリプライ権に分けるとどうなるか

党派性に飲み込まれていったり、いろんなことが起きるわけです。やっている人は人間だから、それはしょうがないところもあります。現状ではそういう党派性を超えた、中立的で誰もが意見を述べられるようなプラットフォームはまだ難しいのが現状です。

先ほど紹介した慶應大学の田中辰雄先生は、ネット炎上の研究で面白い提案をしているんですよ。意見を述べることと、その意見に対して反論することがあるじゃないですか。そのときに「反論する権利」を作ったほうがいいんじゃないかという(笑)。

例えば僕がTwitterで意見を言いますよね。その意見に関して、「佐々木死ね」とかいっぱいリプライが届くわけですよ。そんな勘違いした意見を読んでも得るものはないし、気分が悪くなるだけですよね。

でも、僕の意見に対して真っ当な意見を返す人たちのやりとりは見たい。なので、見る権利はあるけれど、意見する権利とは分離した方がいいんじゃないか、ということです。

山口:なるほど。

佐々木:リプライ権と視聴権で分けるとかね。それはアーキテクチャというか、構造をある程度インセグに設計することによって、もう少し真っ当な議論が成立するようにできるんじゃないのかという提案をされています。

現状ではそういうものがないし、本当にそれができるのかはわかりませんけれど。こういったものがこれからできるんじゃないかと思います。

SNSが普及し始めてまだ10年しか経っていない事実

今はインターネットが始まって25年〜30年くらいですよね。SNSが普及してからはまだ10年も経ってないわけで、そういう意味ではものすごく未熟な技術なんです。

ちなみに、15世紀終わりごろにグーテンベルクがヨーロッパで活版印刷の技術を発明して、それがヨーロッパ全土に印刷が普及するのに200年くらいかかっているんですよ。それを考えたら、時代の違いを考慮に入れても「10年や20年かそこらで素晴らしいものが出てくるわけがない」と希望的に考えてもいいんじゃないかなとは思います。

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