VCとして1兆円企業を生み出すには

仮屋薗聡一氏(以下、仮屋薗):先ほどの(第4部分科会の)「金融資本市場ができること」に引き続きまして、今度はいわゆる「ベンチャーキャピタルである我々ができること」というセッションでやっていきたいと思います。

私、先ほどのセッションを後ろ側で聞いていたのですが、日本のベンチャーキャピタルはまだ本当にサイズ感が小さくて、機関投資家からするとカウントできないぐらい小さいということを言われて、胸がズキンと痛んでいたのですが。

そういうなかで申しますと、みなさんご存じのところも大きいかと思うのですが、アメリカのベンチャーキャピタルがちょうど昨年の投資金額規模が8兆円。

当然エンジェルですから正確な統計はないのですが、アメリカのエンジェルのサイズ感は2兆円。そして、アメリカの大企業、いわゆるコーポレートベンチャーキャピタルやダイレクト投資も数兆円の規模が当然ありますから、総計すると米国はやはり10兆円を超えてきている状況があります。

我々は、実はこの4年間で約4~4.5倍の投資額にはなっているのですが、それでも3,000億円弱ですね。ベンチャーキャピタルがだいたいその半分ぐらい。とくにCVC(コーポレートベンチャーキャピタル:ベンチャー投資を、事業会社が自社の戦略目的のために行うこと)は貢献しています。この現状を考えると、実は30倍から40倍ぐらいの大きな資金投資量の差になっています。

それを今日のテーマの「1兆円」というところから考えますと、日本におけるベンチャーの投資額がやっぱり3,000億から1兆円になるというのが、我々がまずは目指さなきゃいけないことかなと思っていまして。今日はそのあたりに発展・展開するようなお話をしていきたいなと思っております。

まず最初に、具体的に我々ベンチャーキャピタルとして1兆円企業を生み出すという手触り感ってどうなんだろうというところからお三方にお話を聞きたいなと思っています。

ついさっき調べたんですけど、いま日本で1兆円を超えているベンチャー由来の会社は7社ありました。最大がリクルートさん。そしてLINEさんと楽天さんがちょうど1兆円ぐらい。そして、日本のベンチャーで参考にできるエムスリーさんやスタートトゥデイさんがちょうど1.5兆円をつけているような状況です。

昨今ではUS、中国で企業の変化が激しいと思います。日本を見ていて、この1兆円企業の具体的な手触り感や「こういうのが自分としてイメージある」というような俯瞰したかたちで、まず宮田さんからお話しいただければと思います。

宮田拓弥氏(以下、宮田):わかりました。ありがとうございます。

大きなマーケットにチャレンジすることの重要性

宮田:アメリカでしか投資をしていなかったのでアメリカの話をすると、今朝来る前にアメリカに未上場の1兆円超え企業がどのぐらいあるのか調べたら、いま7社ですね。

実は急激に中国に追いかけられていて、ほぼ同じ数が中国にあります。みんな知ってるUber、Airbnb。WeWork、Palantir、Lyft、それとSpaceX、Pinterestが1兆円超えですね。

何か共通点はないか見てみました。実は、私はもともとエンジニアで、いわゆるゴリゴリの研究開発型の企業を自分でやっていたので、テクノロジードリブンの会社が非常に好きで投資をしています。

背景としては、アメリカの場合はイグジットがほぼM&Aなので、そういった会社のほうがM&Aされやすい。とくに、いまコーポレートがガンガンM&Aに来ています。50億、100億、ビリオンダラー以下のM&Aがテック系では起きやすいので投資をしているという背景があります。

一方で、今回のテーマである「1兆円」というスケールを考えたときに、UberとかAirbnbの起業物語ってけっこう有名ですが、誰も技術に関しては大したものを持っていません。

結果から見ると、「旅行」という、ものすごく大きなマーケットや、タクシーなどの「モビリティ」という大きなマーケットに果敢にチャレンジしたのが1つ大きなポイントなのかなと思いました。

仮屋薗:宮田さんのいまの観察ですと、いわゆるデカコーン。未公開でも1兆円つけているような、世界の巨大マーケットにアタックしているような企業群。一方で、ユニコーンでM&Aが起こっているのは、わりと技術ドリブンなところでどんどん大手が買収している。そういう2つの層があります。

宮田:そうですね。たぶんもうちょっと細かく分けられるんですけど、わかりやすいところで言うと、GitHubがこの間、6,000億円ぐらいでMicrosoftに買収されました。個人的にはIPOもできる企業だったと思うのですが、逆に言うと、ああいうのはまさにM&Aされやすいタイプの会社かなって気はします。

仮屋薗:ありがとうございます。

1兆円ベンチャーを10年間で出すのはハードルが高い

仮屋薗:じゃあ続きまして、堤さん。日本のこの数年来の非常に大きなベンチャーのエコシステムの変化。我々VC業界も、資金量でも、そして参加しているVCのタイプも、非常に多様化してきてエコシステムが広がっていると思います。

そういう中から、いま応援している企業群が1兆円にいくような姿とか、何か今日いきなり高い目標のお題を与えられているのですが、感じていらっしゃること、まずはそこからお話し願えますか?

堤達生氏(以下、堤):もちろん気持ちの上ではみんな1兆円いってほしいんですが、なかなかそんな簡単にはいかないなと。先ほどの(リクルート社長の)峰岸(真澄)さんとか(KDDI、イー・アクセス創業者の)千本(倖生)さんのお話もあったように、やっぱり時間がかかるんですよね。

VCとしてのある種の限界を感じるのは、ファンドライフというものがあって、この10年間の中で結果を出していかなきゃいけないんですが、その中で1兆円をその間尺で作り出すのは相当ハードルが高いです。

ただ、そこを作るような、VCの役割の1つでもあると思うんですが、そういった素地を作る。経営者といったものやそういう組織を整えるためのお手伝いを、僕らとしては常にしているつもりですし。

僕はあるイグジットした会社の経営者に言われて一番うれしかったことが、イグジットしたことじゃなくて、「なんでもなかった僕を経営者にしてくれた」ということだったんですね。それは最高の褒め言葉だなと思っています。

1兆円企業になるために、必ず経営者自身の成長とか組織の作り方は重要になってくるんですが、やはりそのあたりをいかに上場するまでの間に作ってあげられるか、手伝えるかがすごく重要だなとは思っています。

仮屋薗:なるほど。1つは期間の話、それからもう1つは、いかに起業家、そして経営チームを育てられるかって、2つの話があったと思うのですが。

私、先ほど日本のベンチャー企業の資金が3,000億という話をしましたが、この5倍ぐらいになったのみならず、1件あたりの投資額も非常に大型化してきています。ご存じのとおり、100億円の投資をできるラウンドも組成されてきているので、このあたりはいま発展途上にあると思います。

ただ、ユニコーンを「デカコーン」にしていく、つまり1兆円を目指すためには、ユニコーンのタイミングで数百億からもっと投資をしてそれを10倍にすることが1つのパスになるんですが、先ほど千本さんがオープニングにおっしゃられたような、数百億から数千億を投資できるような力はまだ我々にはないというのが1点で。

USを見ると、いわゆるインベストメントバンクがもうその世界に入ってきますよね。ヘッジファンドだって入ってきている。そんな部分が日本にはまだないので、後ろがやっぱりないということ。

マザーズというマーケットは、やはりこの数百億円弱からユニコーンになるようなところまでは、VCが10年間のなかでできるところの「その次」を担ってもらっていたのかなという連携は、これまであったんじゃないのかなと思いますね。そういう意味で言うと、まさにユニコーンの先、そこから1兆円になるところをどのように資金面でやるのかが鍵です。

あと、人を育てるという観点でいうと、みんなが職人的にやっているだけで、日本ではまだほとんど明示化されていないですよね。このあたりは後ほど詳しくお話をできればと思います。

参考にすべきはZOZOとエムスリー

仮屋薗:続きまして、朝倉さん。朝倉さんは、もうみなさんご存じのとおり、ミクシィの経営者もやられて、その前はベンチャーの起業から売却へ。そして、いま新たな付加価値として、ポストIPOの1兆円の道を作ろうとされているわけですが、どうでしょう?

朝倉祐介氏(以下、朝倉):私はいわゆるベンチャーキャピタルをやっている人間ではないんですが、スタートアップの成長をお手伝いする立場の人間としてお話します。今回のG1ベンチャーでは、時価総額1兆円を超えるスタートアップをどうやって創出するかというテーマが掲げられていますが、そもそも「スタートアップっていったいなんなんだ?」という話ですよね。

ものすごく形式的なものの見方をすると、「IPOしているか・していないか」「ベンチャーキャピタルの投資対象であるかどうか」というのが、わかりやすい杓子定規な解釈だと思います。

一方で、じゃあ上場企業ってスタートアップじゃないのかというと、そんなことは決してないでしょう。スタートアップの本質というのは何かというと、スケールする事業に挑戦し続けて、成長を続ける会社ということだと思っています。そうした解釈に従うと、スタートアップは上場か未上場かという区分で判断されるものではない。

先ほど1兆円企業をいくつか仮屋薗さんから例示していただきましたが、その中でとくに我々にとって参考になるんじゃないかなと思う会社がエムスリーとスタートトゥデイ(現在のZOZO株式会社)です。

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