「今、ホテルが足りない」は真実か?

柴田啓氏(以下、柴田):ではここで、若干視点を変えて、民泊の話を。ホテルが「圧倒的に足りない、足りない」ってずっと聞いているんですけど、まず、そもそもホテルって足りないんですか? これ、星野さんと、山本さんに聞きたいのですが。

星野佳路氏(以下、星野):じゃあ、山本さんからどうぞ。

山本考伸氏(以下、山本):ホテルが足りない地域というのは、実は限られていると思います。東京とか、大阪とか、福岡というところでは、ほんとに足りていない部分があって、出張難民という言葉が出たり。インバウンドの需要に支えられてというところで、足りていないところがある。

一方で、地方の旅館とかの平日を見てみると、ぜんぜんまだ空室がある。需要を喚起すべきところというのがありますので、一概に日本全国で考えるんじゃなくて、都市部と地方、また、レジャー向けなのか、ビジネスマンが泊まっているのかで分けて考えたときに、一部のセグメントではぜんぜん足りていないと思います。

柴田:なるほど。

星野:世界の大都市と言うんですかね、都市のホテルの需給関係を見ますと、だいたい需要過多と供給過多を繰り返しているんですよ。

柴田:シクリカルな、っていうことですね。

星野:10年、15年単位ですね。ホテルというのは、作ろうと思ってから完成するのに5年、6年かかります。ですから今、「足りない、足りない」と東京で言われているから、みんな一生懸命作ろうとしていて、そこに融資がついていて、これが5、6年すると供給過多になるという、そういうパターンをだいたい世界のどの都市でも繰り返してるんですよ。

ですから、日本も今、大都市で足りないのは事実。ただ、それを民泊する理由にはしてはいけないと、僕は思います。なぜかというと、必ず供給過多がきます。そして、需要の減少も起こる。さっき言いましたけど、ギリシャ、エジプト、チュニジア、こういうところが平和で旅行に行くのに安全な地域になった途端に、いったん奪われるんですよね。

ですから、こういう波があるので、足りないから民泊だとか、足りないからこうだとかではなく、民泊は民泊としてちゃんと評価したほうが、僕はいいんじゃないかと思っています。

民泊の真の価値は

柴田:なるほど。それでいくと、やはり井上さんに聞きたいんですよね。民泊についていろいろ研究されていると思うんですけれど、メディアを見ているとどうも……、要は規制をどうすべきか、すべきじゃないか、そんな話が多くて。

あともう1つ、日本の場合、既存のマンション業者の方だとか、そういう人たちが余った部屋を出そうとか、そういう話が多い。でも、そもそも個人が自分の自宅を提供して、エクスペリエンス、経験を売るみたいな、そういうのがもともとの始まりだったような気がするんです。

海外の民泊と日本の民泊と、なんとなく感覚が違ってるのかなと思うんですけれど、今いろいろ見られているなかで、「ここがおかしいな」とか「ここ、みんな見逃してるな」とかいう民泊のポイントがあったらおうかがいしたいです。

井上高志氏(以下、井上):お二方が言っているとおりで、モノではなくてコト、体験を売りにしているというところでは、民泊というのは、世界共通のユーザーエクスペリエンスとしてすごくいいと思っているんです。

ところが、今はマスメディアを中心に「ああいう問題があった」「こういう問題があった」というのがいっぱい出てきてます。ただ、新経連としては、規制改革会議とか内閣府にも、提言を正式に出しておりますけれど、「これはやるべきである」と。

そのなかで、外部不経済と言いますけれど、周辺の住民の方々にご迷惑をかけるような場合には、それをどういうふうにヘッジしていくのか。それはプラットフォーマ―がヘッジしていく。こんなかたちで健全に発展させていくスキームは作れます、というのが文脈です。

もう1つは、星野さんがおっしゃったとおり、需給が年ごとに変わることもあるでしょうし、あとは1日単位でも、例えば「よさこい」とか「ソーラン」とか、100万人を超えるような地方のイベントがあっても、そこに泊まれないと、結局、みなさん日帰りで帰るしかないということも、往々にして起こります。

その場合、民泊は非常に弾力性があるということで、1日1週間単位でも弾力的に運用もできます。もしくはすごく需要が増えてるときには、非常にスムーズに受け入れするところを増やせるということがあると思います。

あともう1つ、すごく大事なことは、特に大家さん、オーナーさんが一緒に住んでいるところで、例えば、食べ物も一緒に食べるとか。そういう体験を売りにした場合に、なんて言うんでしょう、人と人のつながりができて、今日はおもてなしの話もあるのかなって思っていましたけれど、結局、日本人がとっても親切に「これも食べてごらんなさい」「あんなこともしてごらんなさい」「どこそこ連れて行ってあげるわ」と。こういう体験をしたときに、リピーターになるっていうことがすごく重要だと思うんですね。

つまり、「日本のあのお母さんにもう1回会いに行きたいな」って思って帰っていただくことはすごく重要で。これはいわゆる旅館、ホテルとはまた違う体験を得られるということで、非常に重要じゃないかなと思います。

柴田:ホームステイみたいな話ですね。

星野氏は民泊に賛成 しかし同時にお願いしたいことも

星野:いいですか?

柴田:はい。

星野:民泊にはホテル業界のいろんな団体が反対してるんですけども、私は賛成してるんですね。その賛成している理由をちょっと簡単に申し上げると、さっき、誰かの家に泊まる民泊と、投資型の空の家に泊めるっていうパターンの話があったんですけれど、実は空の家に泊めるほうが80パーセントの需要なんですよ。ですから、それを排除しちゃいけないっていうのが、まず1つあるんです。

それからもう1つ、「民泊を入れるとホテルが困るじゃないか」という議論があるんですけど、ホテルはサービスが売りなんですよね。民泊っていうのは誰もいない家を借りられるわけですから、場所が売りなんですよ。

そう考えたときに、民泊を規制緩和して導入することには大いに賛成なんですが、同時に、ホテルのサービスも規制緩和してほしいんですね。我々は、非常に大きな規制を受けてるんですよ。

建てる場所とか建てるところとか、それから提供サービスの内容ですね。ホテルに来た人に近くのアクティビティを紹介してマージンを乗っけると、旅行業法違反になるわけです。それから、周りの森を紹介して歩いていたガイドが、外国人を相手にすると通訳案内士の免許がないから急に違法状態になるんですよ。

ですから、サービスが売りになる、私たちホテルがサービス内容ですごく規制を受けている。ここも同時に規制緩和してくれと。こういう提言を一緒に入れていただくと、私はフェアな競争環境が生まれるんじゃないかなと思っています。

井上:星野さん、そこはバッチリです。

星野:そうですか。

井上:これはニコ動でも生放送されていたんですが、我々、新経連としては、ホテル旅館業の旅館業法そのもののレギュレーションも過去の古いものではなくて見直すべきだと。

民泊にしても、P2PとかC2Cっていうような文脈だけではなくて、旅館やホテルをやっている方々こそがこの事業をやるべきだ、ってお伝えをしてきています。理由は、すでに顧客リストも持っていて、理念、サービス、それから温かい食事をデリバリーしてお部屋に届ける、こういったものをすでに持っているわけですよね。

弾力性があるというふうに言いましたが、非常に需要が増えるタイミングではすぐにパッといい体験ができる場所を用意して、これをやるために、イコールフッティングみたいなことからいくと、今までの古い旅館業のレギュレーションそのものも見直すべきですということはお伝えしています。

それから、通訳案内士の件も「これももういらないんじゃないでしょうか」ということは、お伝えをしておりますので、ぜひ星野さんも新経連から政策提言を出す立場としてお待ちしております(笑)。

星野:(笑)。

日本の「おもてなし」って本当にあるんですか

柴田:ちなみに、僕、民泊って、さっき出ていた「若い人が旅行しない」という話と、実はけっこう関連性があるかなと思っていまして。なぜならば、僕が、例えば、自分で東京でマンションなりアパートなりを持ってて、人に貸して収入を得て、その可処分所得が増えるわけですよね。

その部分をどう使うか。ほかの土地を見たい、と自分が旅行してる間に、外国人の誰かが泊まる。そういう構図があるのかなと思っていて、実は旅行需要の喚起にもなるんじゃないかなと。

星野:ぜんぜんありますね。すごくいい発想だと思いますよ。

柴田:はい。じゃあ、ここで、またもう少し視点を変えて、おもてなしの話。ようやく本題に入ったみたいな話なんですけど(笑)。僕、「おもてなしってわけわからないな」っていつも思ってるんですね。なにが「おもてなし」なんだろう。

これはピーターさんに聞きたいんですけど、外国人の目から見て、おもてなしってほんとにあるのっていうことと、それはなんなのか、本当に日本のキラーコンテンツになりうるんですか。難しい質問だと思うんですけれど。

ピーター・ランダース氏(以下、ランダース):もうすでにキラーコンテンツになっていると思います。

柴田:なっている?

ランダース:日本に来た友達、親戚などが必ず言いますね。この間も、私の11歳の息子の親友、ワシントンに住んでいたときのベストフレンドがお父さんと一緒に東京に来て、それこそ民泊で1週間滞在しました。

そのお父さんが言ったのは、「日本が一番フレンドリーな、一番親切な国だ。これをもっと宣伝すればいいじゃないか」と。

例えば、私たちがちょっと野球をしていたときにiPhoneを落としてしまいました。30分後に「iPhoneはどうなったんだ?」となったのですが、近くで遊んでた子供が近くにいた大人に渡して、その大人が私たちのところに来て、「もしかしたら、これはあなたのiPhoneではないか」と。「ああ、よかった、よかった。見つかった」という経験をした。必ず日本に来るとそういう意外な親切な経験が起きるんだと。

それでまた日本に行きたくなるわけですから、もうキラーコンテンツだと思います。ただ、どの国も「おれらフレンドリーだ」と言ってるので(笑)、宣伝するのは大変難しいと思いますけれども、どんどん来てもらって、これがリピーターになるというのが、たしかに日本の一番大事な強みだと思います。

訪日外国人が日本で体験する数々の驚き体験

柴田:井上さん、なにかありますか?

井上:この前、4月1日前後で、うちの年度替わりなので、キックオフでスペインのバルセロナの子会社から100人の社員が日本に来たんですよ。スペインって観光立国じゃないですか。

彼らが煙草を買おうとしたら買い方が難しくてよくわからないと。100人来たうち、95人ぐらいが日本初めてという状態だったんですけれど、そしたら日本人の子が一緒に買いに行ってくれて、通りすがりだったのにそこまでサポートしてくれたとか。

あとはキックオフの会場で2次会をやっていたら、「パスポート入りのショルダーバッグを置いてきちゃった」って、すごく真っ青な顔してうちの日本人社員に聞いてきて、問い合わせたらちゃんと出てきたんですね。自分たちが泊まってたフロントに届いてた、みたいな話もあって。

彼らからすると、「アメイジング!」なんですよね。だから、そういうことが普通にどこででも起こってるというので、彼らにとって、日本の印象がすごくプラスになって帰っていった。そういう経験がありました。

柴田:問題はやはり、それをどうやって人に知らしめられるかという、たぶんそういうことなんでしょうね。

では、少し視点を変えて、もともとこの新経済サミットは、テクノロジーとかアントレプレナーシップだとか、こういった視点でこのイベントを運営していると理解しているので、テクノロジーという意味でいうと、テクノロジーが旅行とか観光業界を活性化させたというのは、間違いないと思うんですよね。

少しビジネス的な話をすると、世界のオンライン旅行会社っていうのはとてつもなく大きくなっていまして、一番大きなのは、プライスライングループっていって、ブッキングドットコムとかアゴダっていうのを運営してるんですけども、この時価総額って6兆円あるんですよね。

6兆円っていうのはどういう数字かっていうと、日本で一番大きなインターネットの会社ってヤフージャパンさんだと思うんですけど、ヤフージャパンの時価総額の3倍あるんです。旅行をやってるだけで、それだけある。

また、みなさんがご存知のAirbnbとかの時価総額って2兆円、Uberは3.5兆円とかって言われてるわけです。でも、日本、ひるがえってみると、まだ旅行の、このテクノロジー領域では今一つ影が薄いなって思うんです。