機内食がまずいのは食べる側の問題

マイケル・アランダ氏:機内食ってどうしてあんなにまずいんでしょう? 別料金を取られることもあるのに、それでもおいしくないですよね。でも、それは航空会社のせいというより、食べる側に問題があるようなのです。

もっと正確に言えば、食べる人の味蕾(みらい/舌の表面にある味を感じる器官)のせいなのです。味蕾が味をどのように感じるかというのは、いろいろな条件によって変わります。例えば、湿度、気圧、嗅覚、それから、意外ですが、聴覚によっても変わるのです。機内ではこれら4つの条件が地上にいる時とずいぶん違います。

なぜ機内食がまずくなるのか

まず湿度ですが、人が快適に感じる湿度は40~70%とされています。ところが機内はとても乾燥していて、20%かそれ以下です。これは砂漠よりも低いくらいの湿度なのです。

そして気圧ですが、機内は地上よりずっと気圧が低くなっています。もちろん、与圧されていますが(でないととても呼吸できません)、それでも、2,500メートルの山頂の気圧ぐらいしかないのです。この低い湿度と気圧のせいで、口内が乾燥してしまいます。

口内が乾燥すると唾液が減少し、味蕾の働きが30パーセントほど低下してしまいます。それで、味、とくに甘さや塩辛さを感じにくくなるのです。さらに、乾燥するのは口だけでなく鼻も乾燥するので、匂いも感じにくくなります。匂いは風味の大切な要素なので、味は感じにくいし、匂いも感じにくいとなってしまうと、機内でおいしい料理を出すのは至難の技ということになります。

さらに、意外なことには、音も味覚に影響を及ぼします。やかましい環境では、甘味や塩辛さに対する反応が、静かな環境より悪くなるということが研究でわかっています。

その理由はまだはっきりと解明されていませんが、舌先の味蕾から中耳につながる神経が関係していると考えられています。この神経は鼓索神経と呼ばれますが、これがある種の音に反応し、味の伝達が悪くなるのです。機内は騒音に包まれています。ブーンという絶え間ないジェットエンジンの音だけでなく、大きな声でなく赤ん坊、ぺちゃくちゃ喋る隣の客、ガチャガチャとワゴンの中で音をたてる瓶、そのような音も料理をまずくするのに一役買っているのです。

トマトジュースはおいしく感じる?

しかし、どんな味も同じような影響を受けるわけではありません。甘さや塩辛さは機内ではあまり感じなくなりますが、味によっては、地上と変わらない、あるいは、もっと強く感じるものもあることがわかっています。

例えば、機内で人気のトマトジュースがそうです。普段は、青臭いとかカビ臭いとかいって、あまり飲まない人も、機内では、フルーティーでおいしいと言ってよく注文します。このことから、旨味に対しては、騒音環境でかえって敏感になると、科学者は考えています。トマトには旨味がたくさん含まれているので、トマトジュースやトマトジュースベースのカクテルのブラッディ・メアリーは地上よりおいしく感じるのです。

そういうわけで、次回機内で食事が運ばれてきたときには、新鮮なトマトジュースも注文して、食事を流し込んでしまうのもいいかもしれません。