2014年のカンファレンスで取り上げた4つの問題

青野慶久氏(以下、青野):それでは、本題に入りたいと思います。「変える覚悟、変わる覚悟」。1年前、この場所で「リスクか、チャンスか」というタイトルで、日本で継続する4つの問題を取り上げさせていただきました。それから1年たちました。その結果、どう変わってきたでしょうか。

まず、「エネルギー問題」。1年前は太陽光発電、風力発電、電力をつくるところの話題ばかりでしたが、この1年で水素という新しい手段が注目されています。電気を水素に変えれば、貯蔵しやすくなり、輸送もできる。この水素社会に向けて、たくさんの企業が活動を始めています。

「持たざる経営」はいかがでしょうか。1年前、ここでUberを取り上げさせていただきました。ところが、まだまだ理解が進んでいないようです。この記事ではウーバライゼーションという言葉を使って、「持たざる経営」について経営者の関心が集まっていることを紹介されています。

「少子高齢化」はいかがでしょうか。すごいことが起きました。先月、安倍総理が発表した内閣改造、新3本の矢の1つが、出生率1.8です。ついに数値目標が出ました。昨年の出生率が1.42ですから、随分高い目標になります。でも、この国家レベルで数値目標が出たことは、大変すばらしいことだと思っています。

それから、「多重下請け構造」はいかがでしょうか。残念ながら、最近人手不足でむしろ悪化しているんですって。この記事でも「格差がさらに広がっていますよ」と。そんなことが紹介されています。何とかしないといけない、何とかしないといけない、うーん……変えなければ。

やっぱり、ここで必要なのは「変える覚悟、変わる覚悟」です。変えて、困難が起きようとも、それを受けとめて乗り越える、その気持ちを持たないといけない。今回はこれをテーマにさせていただきました。

今日は新しい3つのテーマをご紹介したいと思います。「長時間労働」、「地方創生」、「新しいSI」、この3つの日本が抱える問題について、もうすでに覚悟をもって取り組まれているゲストを今日はお招きしております。ぜひ、先人に学んでいきましょう。

長時間労働は諸悪の根源

まずは1つ目のテーマ、「長時間労働」です。もし、少子高齢化を国家レベルで解消しようとしても、企業が長時間労働を励行している状態が続いていたら、これは子育てに参加することも、介護に参加することもできません。まずは企業がこの長時間労働という悪い習慣を手放さないといけない、変えないといけない。そんなふうに思います。

実際に私のことを振り返りますと、むしろ長時間労働、大好きでした。(スライドのスケジュールを指して)これは私が子供が生まれる前の頃のスケジュールになります。いっぱい詰まっていますね。ちょっと見ていきますと、月曜日、午後6時半から何か定例会議が入っていますね。そして夜8時から経営会議が入っていますね。もうめちゃくちゃですね。こんな経営会議、とてもじゃないけど子育てしてる人は参加できません。

また翌朝、火曜日の朝8時から事業戦略会議ですね。こんなことして頭働くんでしょうかね。私もこういう働き方が大好きで、もうとにかくスケジュールをいっぱい詰めていました。

ところが、私にも子供ができまして、今年1月、第3子が誕生いたしました。そして私は半年間、4時に退社するという、4時まで社長という、これを実践いたしました。(スライドが切り替わる)これが今年のスケジュールです。4時から下は私、スケジュール入れられなくなっています。

こう比較しますと、以前働いていた時間がこれぐらい、それに対してこの4時まで勤務をやっていた頃働いていた時間これぐらい。感覚的には半減しているわけです。こうなりますと、もう私も考え方を変えなければいけません。もうそれまでのやっていた仕事のスタイル、それはもう、来た仕事を片っ端から撃ち落とすという仕事のやり方をしていました。

ただ、この時間が半減しますと、もうこういう働き方は通用しません。絶対やらないといけない仕事は何なんだろうか? インベーダーゲームでいうと、UFOはどれなんだろうか? もう、この目の前のザコキャラは無視して、とにかくこの点数の高いUFOだけを狙っていくと、こういう考え方にシフトせざるを得ませんでした。

私も自問自答しました。じゃあ私にとってUFOは何だろうか? UFOは何なのか。私、社長にとってのUFOとは、意思決定、それから価値観の浸透です。この2つだけです。あとはもうザコキャラです。とにかく、この意思決定と価値観の浸透、この2つだけに絞って仕事をすることで、4時までに仕事を切り上げることができました。

そして、もっと驚いたのが、私が積極的に家事・育児に参加することで、私はそれまで会社のことしか知らなかったのが、それまで知らなかった医療でありますとか、教育でありますとか、自治体の動きでありますとか、そういったことまで理解できるようになりました。

それまでの私は、会社の中のことしか意思決定できませんでした。でも今は、社会のことを私は知っています。もっと社会の視点に立って意思決定することができます。私は1つ、社長としてレベルアップした気がしました。

今ははっきり言えます。長時間労働は諸悪の根源です。私はようやくここで気づいたわけですけれども、これを10年も前からずっと訴えられている方がいらっしゃいます。それが、ワーク・ライフバランスの小室社長です。

今日は小室社長にお越しいただいておりますので、ぜひお話をお伺いしたいと思います。大きな拍手でお迎えください。

(会場拍手)

復職支援は長時間労働で意味をなくす

青野:わざわざお越しいただきまして、どうもありがとうございます。

小室淑恵氏(以下、小室):ありがとうございます。

青野:今日はずいぶん聞いておられる方もいらっしゃいますしね。長時間労働をしてそうな人が多そうですけれども(笑)。

小室:ございますね。はい。

青野:まずお聞きしたいのは、もう10年も前、世の中がまだまだ長時間労働が当たり前だった時代に、なぜ小室さんが、この問題が一番大きな問題だと気づかれて、そこに覚悟を決められたのか。

小室:私、前職は資生堂に勤めていたんですけれども、社内ベンチャーを起こして、育児休業者の復帰支援のプログラムをつくったわけです。育児休業中の女性が復帰できる職場をということをやっているうちに、いろんな企業さんを回っていたらですね、結局、復帰した女性がその後、長時間労働の職場で辞めてるということがわかりました。

さらに言うと、その頃、私にはなかった視点で、確かキャノンさんだったと思うんですけれども、「うちはもう男性の育休者がいて、男性の育休者だって復帰したら長時間労働の職場ではなかなか両立できないぞ」とかですね。

それから、ある家電メーカーさんなんかは、「今もうメンタルで休んでる男性がたくさんいるんだよ」という話で、もう育児、介護、メンタル疾患、男性、女性、全ての方が復帰を一生懸命支援しても、その戻った職場が長時間労働だったら、結局、介護なんてこれから非常に多いですけれど、両立できない。これに最初気づいたんですね。

そしたらその後に、今度は私、自分自身が起業をしようとして、資生堂に辞表を出した翌日に、自分が妊娠していまして。私は大学時代はネットベンチャーでインターンをしていましたから、私の中にもベンチャーを起こすというのは、「夜討ち朝駆けでやるんだ」「寝ないでやるんだ」という意識があったんですよね。

なので、ものすごく打ちのめされてしまって。そのときは、長時間労働を是正する会社をやろうという自分の夢を、1回あきらめようとしたんです。

青野:そうなんですか。

小室:もう起業できないと思って。そのときに、一緒に起業したメンバー、今度大阪の会場で対談させていただきますけれども、同じく長時間労働の楽天から転職をしてきた大塚が「何言ってるんですか、これからワーク・ライフバランスの会社やるんですよね」と。「あなたが両立できなくて、どうしてお客さんにコンサルできるんですか?」って言われて。

そこから「そうだ、それをやるんだった!」というので、もう覚悟を決めまして、残業ゼロ。今や、全員残業ゼロです。それから、有給消化100パーセントで会社をやるというのを決断して、9年間経営して連続増収増益で進んでいる形ですね。

青野:すごいですね! ベンチャーを立ち上げたのに、残業ゼロ、有休消化100パーセント、すごい革命的なことだと思います。ただ、これを恐らく特別な目で見ておられる方とかもね、けっこういらっしゃるんじゃないかと思うんですけれども、このあたりは特別なもの……?

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