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産業動物のアニマルウェルフェアってなぁに? ~日本人の大半が知らない新潮流とは~(全2記事)

2024.10.11

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日本のきめ細やかな畜産管理は世界トップクラス 家畜の福祉と生産性を両立する、最先端のテクノロジー活用

提供:株式会社ベルシステム24

私たちの食卓にのぼる卵や食肉がどのように育てられているかをご存じでしょうか? アニマルウェルフェア(動物福祉)は、家畜の誕生から死までのストレスをできる限り減らし、行動要求が満たされた健康的な暮らしの実現を目指す畜産のあり方です。東京農工大学 農学部 教授の新村毅氏が、アニマルウェルフェアを巡る世界的な潮流と日本の現状を解説します。後編では、アメリカの大企業での動向や、日本で動物福祉と経済性を両立するための工夫について語りました。

マクドナルドやウォルマートも“ケージフリー宣言”

新村毅氏(以下、新村):次のアメリカにつきましては、州の法律がございます。ここで示したとおり、やはり2020年代に入ってから、急激に州の法律でケージを禁止して、ケージフリーだけを認めるような州の法律が出来上がってきています。

アメリカの一番大きな特徴は、法律もそうなんですけれども、マーケットの動きが非常に大きな潮流になってきています。いわゆるグローバル企業ですね。アメリカでは今、300社以上の企業がケージをやめて、ケージフリーを100パーセント扱いますという宣言をしている状況になってきています。

川崎佑治氏(以下、川崎):これは先生、マクドナルドなんかもそうなんですか?

新村:そうですね、マクドナルドも100パーセント。2025年という期限を決めているんですけれども。あとはウォルマートは全米で25パーセントぐらいのシェアを持っているスーパーマーケットなんですけれども、そういう卵をたくさん扱っているところが100パーセント(ケージフリーを)やるというのは、かなり大きなインパクトがあったみたいですね。

川崎:こうなってくると、なんかちょっと日本にも馴染みが出てきますね。

新村:そうですね。やはりグローバル企業ですので、実はアメリカだけではなくて日本でもやるし、「世界全支店においてやります」という宣言をしている企業がいくつかあります。

今多いのは、いわゆる高級ホテルチェーンです。あとは例えばネスレですとか、アメリカだけではなくて、日本でもやると宣言している企業もあります。

アメリカでは、わずか6年でケージフリーが急速に浸透

新村:これはアメリカのケージフリーの卵の推移なんですけれども。実はアメリカも数年前までは、日本と同じくらいケージフリーはほとんどなかったような状態でした。それが、こういったグローバル企業の宣言が始まった2020年ぐらいから、急激にケージフリーの卵が増えてきまして。

今は30パーセントを超えて40パーセントに届きそうな勢いで、非常に短い期間で急激に伸びてきているのがアメリカの特徴かなと思います。

川崎:グラフの時間軸が2018年で、わずか6年前から、こんな急角度で変わってきているんですね。

新村:いわゆるグローバル企業が求めている、非常に大きなニーズに合わせるためには、このスピードで行かないとというところで伸びてきていて、変革が起こっているかなと思います。

川崎:となると、やはり無視できないぐらいの規模の経済が動いているということですね。

新村:そうですね。鶏舎を作るにも、結局ケージフリーを入れようと思ったら何億円とかかりますし。そういった生産現場だけではなくて流通ですとか、アニマルウェルフェアに対して、いろんなところで経済が動いているのはそのとおりですね。

日本の消費者の94%はアニマルウェルフェアをよく知らない

新村:それで、オーストラリアもやはりケージフリーというところがありますけれども、いよいよ日本。

日本には法律はないんですけれども、2023年に農林水産省がアニマルウェルフェアのガイドラインを出したのが、1つ大きな動きかなと思います。中身は、先ほど申し上げた世界基準を、日本も加盟国として守るという内容になっています。

世界基準には「餌・水をちゃんとあげましょう」といった項目もたくさん書かれているんですけれども、例えば将来的には止まり木の設置を推奨しますということも明文化されて示されているのが、日本のガイドラインになります。

新村:こちらは消費者と生産者のアンケート結果なんですけれども、ここがやはり世界から見ると、すごく大きなギャップを感じるところでもあるかなと思います。例えば、「アニマルウェルフェアって知っていますか?」と消費者に聞いてみますと、82パーセントくらいの人は「知らない」と答えますし。

「アニマルウェルフェアという単語は聞いたことがあるけど」と答える人も含めると、94パーセントの日本人の消費者の方々が、「アニマルウェルフェアってなぁに?」というのがよくわかっていない状況にあるということです。

川崎:これはまさに、本日のウェビナーのタイトル「産業動物のアニマルウェルフェアってなぁに?」にもなっているわけですね。

食肉や卵の生産プロセスが見えにくい現状

川崎:「日本人の大半が知らない新潮流とは」というサブタイトルになっていますので、日本の認知度の状況についてあえてお聞きすると、なぜだと思われますか?

新村:いろんな要因があるとは思うんですけども。やはり自分たちが食べているお肉や卵がどう生産されているかという(ことが見えにくいんです)。畜産と消費者の距離がかなり離れていて、壁の向こう側になっちゃっているんじゃないかなというのは1つあるかなと思いますね。

川崎:届く時はパックで届いちゃって。水産離れで、魚の切り身が海を泳いでいるような絵を子どもたちが描くエピソードって、昔からよくあるじゃないですか。似たようなかたちで、「うちの牛肉、豚肉あるいは鶏肉って、どこでどう生産されているの?」って言われて、大人でもちょっと「どこかで何かやっているんだろ」みたいな。

新村:(笑)。そうなんですよ。昔はたぶん、もうちょっと身近でした。例えば庭先養鶏など非常に身近だったものが、どんどん大企業化していって、壁の向こう側で生産されるようになっているところは大きいのかなと。

ヨーロッパでは約6割の人が、畜産動物を身近に感じている

川崎:壁の向こう側。これはどうなんですか。ヨーロッパでも、やはりそういう大企業がやっているという現実は、きっとあるんだろうと思うんですけども。

新村:ヨーロッパはどちらかというと小さいところも、中ぐらいのところもけっこうあるんですよね。地産地消ではないんですけど、自分の地域に小さいか中ぐらいの養鶏場があって、「自分が食べている動物たちは、ああやって飼われているんだな」というのが、けっこう身近なところはあるみたいだと。

やはり消費者がそういったところに関心を持ちやすいというところは、アンケート結果でも明確に出ていますので。

川崎:そういうことから、アニマルウェルフェアへの関心や認知度に影響しているんじゃなかろうかということですか。

新村:例えば畜産動物がどうやって飼われているかとか、訪問したことがあるとか、「見たことがある」と答える人が、ヨーロッパだと6割ぐらいなんですよ。

川崎:6割!?

新村:けっこう驚きのアンケート結果なんですけど、6割なんですよ。

川崎:過半数を超えて、生産の現場を見ていると。

日本は衛生管理が行き届いているからこそ、現場に入れない

新村:例えば幼少教育とかでも、そういったものを積極的にやっているところもあるみたいなんですけれども。バスで社会科見学に行ってみるなど、けっこう戦略的に教育が進んでいるところもあるみたいです。

川崎:僕でもちょっと経験があるんですけども、日本の畜産の現場に立ち入ろうとすると、極めて高度な衛生管理をやっているがゆえに、なかなか外部の人を入れるというところは、ハードルが高いような気がするんですけど。

新村:そうですね、おっしゃるとおりです。やはりどこもそうなんですけど、今は鳥インフルエンザや豚熱が流行っていますので、基本的には入れてくれないところがほとんどなんです。

ヨーロッパだと、けっこう戦略的に観光目標みたいなところを作っているところがあるので。うちの農工大にも、そういった動物福祉モデル農場を作る計画があるんですけども。

川崎:確か、この秋と言われていましたっけ?

新村:そうなんですよ。10月末に完工予定です。

川崎:それ、できたらちょっといいですか? カメラも入っていいんですか?

新村:はい。ぜひぜひ遊びに来てください。

川崎:いいんですか。じゃあみなさんぜひ、またご案内しますので。

さまざまな領域で重要視されている「持続可能な畜産」

新村:(笑)。どうしても時間はかかっちゃうんですけど、EUは30年50年かけて、そういったものをしっかり中長期的に腰を据えてやってきた歴史があるので。

川崎:人と動物とを近づけていくという活動ですね。

新村:ヨーロッパの人に聞くと、そういったものがあるので今があると。今のヨーロッパの状況を見ていても、やはりすぐにはできないんじゃないかとよく言われます。あとは最近の動向と展望としては、私が個人的に「こういったところが重要になるかもしれないな」と思って、情報を追っているところがあります。

例えば短期的なところでは、世界基準が出来上がったこともそうですし、投資の話にアニマルウェルフェアが入り込んでいるところもあります。認証の話、それから国と国との協定の間にアニマルウェルフェアが入り込む可能性はもちろんありますので、そういったところ。

それから中長期的に見てみますと、SDGsですね。やはり、ヨーロッパもアメリカも「持続可能な畜産とは何か」というところを、非常に重要な課題として提示しているところはあります。

中長期的な消費者教育も含めて、「とにかくこれをやればいい」というものはないので、一つひとつ、いろんな人とやっていくことが大事になってくるんじゃないかなとは思っています。

投資家の判断にも影響を与えつつある、アニマルウェルフェア

川崎:こういう投資やグローバルなお金の動きが出てきているので、当社の幹部がヨーロッパの投資家のところを回ったりしてご説明する機会には、何年か前から必ず、「ESGは今どういう取り組みなんだ?」と「AIがどうなんだ?」ということを並列ぐらいの勢いで言われると。

逆に言うと、大きな機関はESGの観点なしには、お金をそもそも出すことができないというレベル感になっていると聞いています。もしかしたら、アニマルウェルフェアがそういうことの前提として織り込まれる可能性もありそうですか?

新村:そうですね。やはりESGの1つの重要な要因の中に、アニマルウェルフェアが入り込んでいますので。

例えば今、いわゆるグローバル企業の200社ぐらいが、実際どれだけ家畜の福祉にコミットしているかで評価されて、1段階から6段階まで「この企業は何点です」というかたちで報告書が出来上がり、それがオープンになって投資家のところにも行っています。

投資家さんたちに話を聞くと、やはり同じぐらいの評価だったら、アニマルウェルフェアをやっていないところはどうしてもリスクになってしまうから、ちょっと少なくなるという考え方は出てくるし。あるいは投資家さん自体が積極的に投資をしていくところもあるとはおうかがいしています。

平飼いの卵はうま味が強いのが特徴

川崎:そういう流れになってきているんですね。一方で、個人的な興味もあるんですけども、いわゆるアニマルウェルフェアな状態で飼育された畜産物はおいしいんですか?

新村:(笑)。そうですね。

川崎:すみません、グローバルなお金の流れから、ちょっと小さな話になっちゃうんですけども。

新村:ありがとうございます。実は、私もそれはよく聞かれる質問で。特に一般向けのセミナーなどをやると、「アニマルウェルフェアをやって、私たちにどういったメリットがありますか?」「高いのになんで買わなきゃいけないんだ」という話になってくるんですね。

平飼いの卵を買っている人に聞くと、ほとんどの人がおいしいと言うんですけども、科学者としてはけっこう半信半疑で。

川崎:プラシーボじゃないかっていう。

新村:(笑)。「もしかしたら勘違いじゃないか」というところもあって、実際に調べたんですね。人の舌を使った官能評価ですとか、代謝産物のメタボローム解析ですとか。総合的に見てみますと、やはり平飼いの卵はうま味が強くなることがわかっています。

川崎:要するに、ブラインドテストを卵でやったということですか。

新村:おっしゃるとおりです。餌も一緒ですし、基本的に飼い方以外はすべて一緒にした卵をブラインドテストで食べてもらいました。ケージの卵はちょっと脂肪が増えることと関連するんですけれども、クリーミーさを感じがちで、平飼いの卵はうま味が特徴的です。

あと、栄養素についても、例えばビタミンB12は腸内細菌が作っています。鶏は作れないんですけども、平飼いにすることによって腸内細菌も変わります。

うま味と一緒なんですけど、基本的に飼い方を変えると、動物の体の中の代謝がどんどん変わっていって、それが血液を介して卵に移行していくことが、私たちの研究でもわかってきています。

おいしさや栄養素にも影響する、育て方の違い

川崎:これは先生の研究で判明したことですか? すばらしいですね。

新村:そうなんです。やはりおいしさも変わるし、栄養素自体もけっこう変わってきます。

川崎:当然、科学的なテストでそうなっていると思うんですが、念のため。つまり飼い方以外の要素である、血統とか飼料・餌を揃えた状態でこうなっていると。

新村:そうですね。品種も飼い方も週齢も、完全に同じ時期に導入していますので。

川崎:なるほど。もっと細かく言うと、餌にビタミンがめちゃくちゃ多く含まれているスーパーに出ているケージ飼いの卵と、平飼いの放牧みたいなところでも餌が違うと、こっち(ケージ飼い)のほうがおいしい可能性も出てくるし。

新村:出てきます、出てきます。

川崎:うま味というのは総合的なもので、他の要素が変われば(変わってくる)。

新村:そのとおりです。

川崎:でも、条件を揃えた飼い方だけの違いで言うと、差が出てくるということですね。おもしろいですね。

新村:ありがとうございます(笑)。

動物福祉だけを考えても、生産者には絶対使ってもらえない

川崎:他にはどんなご研究を。

新村:アニマルウェルフェアの研究ですと、先ほどのケージフリーの課題として、どうしても人の手がかかっちゃう。放し飼いはもちろん鶏には正常行動としてはいいんだけれども、集団的に飼うので人が管理しようと思うとすごく大変だと。

なので、私たちが目指しているものは、もちろん福祉にもいいんだけれども、それだけだと生産者の人に絶対使ってもらえないという失敗例がありまして。

川崎:広まっていかない現実があるということですね。

新村:そうですね。やはり福祉的で生産的で、あるいは省力的な要素が非常に大事かなと思っています。それを達成するための1つの研究として、アニマル・コンピュータ・インタラクションという研究をスタートしています。

例えば動物と会話するかのように行動をコントロールする。ご飯を食べてもらったり、ちょっと快適な状態にするための環境をロボットでうまく提示したり。

お母さん鶏をロボットやコンピュータで再現

川崎:まったく想像が及ばないんですけれども、具体的にどういうことですか?

新村:すみません(笑)。私たちは今、母子行動に注目しています。例えばひよこって、生産現場ではお母さんなしで育っていくわけですけども。実際にお母さんがいると、やはりいい子に育つんですよ。ご飯も食べるし、あんまり人にもびっくりしないし、共食いとかもぜんぜんしないとか。

川崎:安定するわけですね。

新村:そうですね。行動発達がすごく促されると。

川崎:それは他の動物なんかでもよく言われたりしますけど、ひよこにおいてもそうだと。

新村:ただ、お母さん鶏を生産現場に導入するのは、コストの面からしてほぼ不可能なので、それをロボットやコンピュータを介して、再現できたらいいんじゃないかという発想なんですね。

川崎:ほぉ、極めてサイバーな。

ひよこの声には「悲しみのピヨ」「喜びのピヨ」がある

新村:それがうまくいったというのが、音声コミュニケーションで……。

川崎:何ですか? 「ヒナの『ピヨ』には2種類ある!」って、どういう意味ですか?

新村:(笑)。これは学生さんが発見してくれたんですけども、ある時、「先生、ひよこの『ピヨ』は1つじゃなくて、2つあるんですよ」と。

川崎:聞き分けた。

新村:実は聞き分けられないんですけども、その子は音声のスペクトログラムという可視化をしてくれたんですね。そうすると、ストレスを感じた時に出るディストレスコールと、餌を見つけたりして喜んだ時に出るプレジャーコールの2つがあることがわかりました。私たちは「悲しみのピヨ」と「喜びのピヨ」と呼んでいるんですけども。

川崎:この2種類。

新村:そうなんですよ。「悲しみのピヨ」が聞こえると、実はお母さん鶏が積極的に「落ち着きなさい」という声を出すんですね。そうすると、ヒヨコの「悲しみのピヨ」が「喜びのピヨ」に変わって、「喜びのピヨ」が聞こえると、お母さんも鳴かなくなったりするんですよ。

新たな動物行動学に基づいた、ひよこの育て方

川崎:これは人間的な価値観に当てはめて言うと、会話ということになりますか?

新村:そうですね。ひよことお母さんの会話が音だけを介して、非常に明確に起こっているということを発見してくれたというのが、まず1つなんですね。

川崎:人間の耳では聞き取れないんだけれども、周波数を可視化することで発見できたんですね。

新村:そうなんです。これがおもしろいということで、コンピュータ上でAIなども使いながら、リアルタイムで「悲しみのピヨ」を検出したタイミングで、お母さんの声をマイクから出すという。

ヒヨコの悲しみという情動をもとに、お母さんの声をリアルタイムで出していくようなものをコンピュータ上で作り上げたんですね。それでひよこを飼ってみますと、見事にいい子に育ったんですけれども。

例えば、基本的にひよこはすごく臆病なので、ご飯をくれる人の手からすら、逃げるようにして端に固まります。これが現場だと、例えば数百、数千羽が固まって、下の鶏が圧死してしまうような事故が(起きることもあります)。

それを、インタラクティブなものとしてお母さん鶏の声を流すと、新しい環境に対して強くなることがわかってきました。興味深かったのは、実はお母さんの声をスピーカーから一方的に出してはいたんですけど、あんまり効果はなかったんですね。

やはりひよこが悲しんでいる時に、お母さんの声を出すことが決定的に大事だったとわかってきたことがおもしろかったですね。

川崎:へぇ~。これは興味深いですね。すごいですね。動物行動学はここまで進んできているということですよね。

新村:そうですね。やはり動物の行動をコントロールするという技術がほとんどないので、かなり新しい研究になるんじゃないかなとは思っています。

国土が狭い日本でも取り組みやすい、ケージフリーの事例は

川崎:この本にも書かれていて。ちなみに先生、実は非常に多くのQ&Aが来ておりまして。すみません、重複もかなりあるので、すべてのご質問を取り上げることは難しいんですが、できるだけと思っております。

「ヨーロッパや北米では、飼育に関わるスタッフがアニマルウェルフェアの勉強をしていたり、教育を受けていたりするのでしょうか?」というご質問があります。

新村:そうですね。やはりアニマルウェルフェアにかなり特化したシステム自体を学ぶ中で、研修会があるとおうかがいしていますね。飼い方もそうなんですけども、「こうしたら苦しみが少ないよ」といった取り扱いも含めて、研修会でかなり実践的な福祉がされているとおうかがいしています。

川崎:続々いきたいと思います。

「アニマルウェルフェアについてお話しいただき、ありがとうございます。ケージフリーや放牧などが日本でもできれば、絶対的にいいと思っているのですが、EUと比べて面積の狭い日本で、同じ基準でアニマルウェルフェアを行っていくのは難しいのではないかと思ったんですが、日本らしい取り組みなどの良い例はあるんでしょうか?」。

新村:難しい質問なんですけれども、非常に大事なポイントです。おっしゃるとおり、やはり日本だと山が多いので。

川崎:平野が少ないと。

新村:そうなんですよ。ケージだと立体的に飼えるので、数を増やせるメリットがあるんですけど、ケージフリーで同じ量を生産できるかというと、かなり難しい。

川崎:ちょっと人間の住宅事情と似ているところがありますよね。

新村:そうですね。やはり日本で完全にケージフリーに向かえるかというのは、けっこう難しいポイントかなと思います。エイビアリー(多段式の鶏舎)を入れて、もしかしたら適応できるかもしれないんですけども、けっこう難しいですね。

ケージフリーの中でも、例えば平飼いはいいと思うんですが、もうちょっと飼いたいとなった時に、2階建て・3階建てのエイビアリーのほうが、土地が狭い日本ではより適合的なんじゃないかなとは思っています。

生卵を食べる日本の食文化を守れるか

川崎:先ほど、ヨーロッパとの環境の違いの話もありました。人間もそうですけど畜産においても、アジアのモンスーン気候において、いわゆるグローバルな疾病対策というものがあるかと思います。

簡単に言ってしまうと、日本はかなり病原菌に気を遣わなきゃいけない環境下にある。でも、アニマルウェルフェアという考えもある。ここでどうにか日本らしい進化ができないものかというところは、先生のテーマとしてはいかがですか?

新村:おもしろいと思いますね。やはり、おっしゃっていただいたように温暖湿潤な気候ですので、そういった衛生面にデメリットがあるようなケージフリーか。

一方で日本だと、先ほどご紹介いただいたTKGのように生卵を食べるという非常に独特な文化があるので。衛生状態にリスクを抱えがちなケージフリーが、本当に食文化に適応するかというのは研究していかないといけないなと思うんですね。

飼育システムの中で巣箱をきれいにするような方法や、工学技術を使ってより良く動物をコントロールして、卵を生むところだけは非常にきれいに保っていくような技術革新は、確かに起こりつつありますので。

川崎:技術革新でそういった課題もクリアできてくるんじゃなかろうかという話ですね。

新村:そうですね。どんどん進化していますので。

日本の畜産業・農業の強みはきめ細やかな管理

川崎:確かに日本の畜産業とか農業って、極めて緻密ですよね。ちょっとヨーロッパとノリが違うのは、ヨーロッパは面でどーんと管理して、死んでいる子がいるかもしれませんと。日本は一頭一頭をしっかり見ている。

牛飼いさんに聞いたんですけれども。ある一定の大きさの牛房で、何頭かの牛が好きなところで寝たり転がったりしているのを管理するという考え方でした。でも、この牛とこの牛は相性が悪いから離れた牛房に入れるという緻密な管理って、なかなかヨーロッパでは。

新村:ないですね。日本は本当にきめ細やかな管理というものがあって、やはり僕は世界トップクラスだなと思っているんですね。ケージフリーはさておき、ケージの中でも、日本の生産者の方がやっているような管理ができれば、福祉レベルはかなり高いだろうなと思うんですよね。

川崎:確かに日本の技術力がそういうことに向けば、得意そうですよね。

新村:そうですね。

AIを駆使して牛の命を救う「BUJIDAS」

川崎:すみません、最後に農業分野でテックのご紹介を1つさせていただければと思います。この中でご覧になられている方に、もし牛飼いの方がいらしたら、ぜひすごいと思っていただいて、そうでない方は「こういう技術が最近はあるんだ。へぇ」というぐらいに思っていただければ。

この春、NTTテクノクロスさんと当社で、牛が起立困難になって最後に死んでしまうという状態を、AIの力でなんとか死なないように助けていく、「BUJIDAS(ブジダス)」というプロダクトの提供を開始しています。

(牛の胃腸に)ガスが溜まると起きられなくなるんですけども、これをAIで察知して具体的な声掛けをして、牛が首をもたげてガスが抜けて死なないようにするシステムですね。グランドチャンピオン牛を育てておられる鹿児島県のすばらしい農家さんにも入れていただいていて。

これは牛を上から見たところなんですけど。好きな位置で寝たり何なりする牛を、AIの目で常に画像判定して起こしていく。農家さんは極めて低いコストで牛が死なないようにできるという。ある種、最大のアニマルウェルフェアと言っていいんでしょうか。

新村:そうですね。省力化をしながらアニマルウェルフェアを実現するという意味で優れた技術だと思います。 

川崎:そういうことを叶えようとしています。微力ながら、技術で何かできることがないかなというのが1つテーマでもありまして、(酪農家・畜産)農家さんも非常に喜ばれています。

日本のアニマルウェルフェアの最初の一歩

川崎:最後に先生、農家さん、あとは国、あるいは消費者の方もまだまだアニマルウェルフェアをご存じない。みなさんそれぞれ一生懸命がんばっておられるんですけれども、未来の日本のアニマルウェルフェアのためにまずできる一歩は何だと思われますか?

新村:やはりまずは知ってもらうことだと思うんですね。そういった意味で、このセミナーに参加いただくことは非常に大事かなと思っています。やはり知って議論していただいて、いろんな選択肢があっていいと思うので。

「じゃあみなさんは、明日どの卵を買いますか?」という問いをどう考えるかなと。家族とそういった議論をしたりするのは、非常にいいことなのかなと思っています。

川崎:考えていく、知っていくこと。そして議論を深めていくのが、まさに今の我々がいるべき位置だし、進めていくべきことなのかもということですね。

本日は時間いっぱいでございまして、すべてのご質問にお答えはできなかったんですけれども、少しでも楽しんでいただけたら幸いでございます。また先生、帰国報告会と、農工大の新しい実験農場にもうかがわせていただければと思います。

新村:ありがとうございます。

川崎:みなさん、本日はどうもありがとうございました。

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