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DXで日本の畜産の未来は明るいか⁉(全2記事)

2024.07.01

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アナログな業界でデジタルソリューションを起こすには? AI×畜産で最先端の開発をする2社が語る、新規事業の進め方

提供:株式会社ベルシステム24

株式会社ベルシステム24が開催する、各業界のイノベーターをゲストに迎えてトークを行う「イノベーターズラウンジ」シリーズ。今回は「畜産DX」をテーマに、牛の起立困難予防声かけAIサービス「BUJIDAS」と、クラウド型養豚経営支援システム「Porker」の開発に携わった各担当者が登壇。最悪の場合は死に至る、牛の起立困難。その課題を解決すべく、AIを活用した監視サービスを開発するまでの道のりを語りました。

肥育牛の起立困難予防装置「BUJIDAS」を2024年4月にリリース

川崎佑治氏(以下、川崎):ところで赤野間さん。コミュニケーションと言えば、ちょっとこれに触れないわけには……(赤野間氏のTシャツのプリントを指しながら)。

赤野間信行氏(以下、赤野間):これですね。

川崎:このコミュニケーションは一体何なのか? というところなんですが。

赤野間:(2024年)4月に、肥育牛の起立困難予防装置「BUJIDAS」というものをリリースさせていただきました。

川崎:起立困難予防装置「BUJIDAS」。ちょっと(袖のプリントが)光っているのも気になる。

赤野間:これが「BUJIDAS」です。光ってますねぇ。これ、農家さん大好きカラーですよ。

川崎:黒金!

赤野間:黒金(笑)。

川崎:九州限定って感じですか? 

荒深慎介氏(以下、荒深):限定というわけではないですが、九州だとすごく流行るだろうなと思いました(笑)。

川崎:ちょっと地域柄はありそうだなという(笑)。どうなんですかね? ご覧になられている方が「ぽいよな!」となっているのかどうか、ちょっと気になるところですね。

赤野間:気になりますね(笑)。

牛の飼養期間は長期に渡る

川崎:BUJIDASがどういうサービスなのか、ぜひ教えてください。

赤野間:わかりました。BUJIDASは牛の……。

川崎:ちょっと待ってください! 1個、2個前の(スライドに)……あれ、赤野間さんですか?

赤野間:これは「牛を買いに来た僕」のような感じですが……僕です(笑)。

川崎:どこなんですか?

赤野間:これは家畜市場と言いまして、牛ってすごく飼養期間が長いんですが、お母さんが妊娠してから子牛を産むまでだいたい290日くらい。そこから、「繁殖農家さん」と呼ぶんですが、そこで子牛を8ヶ月、9ヶ月育てまして、各地域にある家畜市場というところに競りに出します。

川崎:繁殖農家さんと肥育農家さんは別なんですね。

赤野間:別ですね。一貫でやられているところもあるんですが、別々でやられているところもいっぱいあります。

川崎:繁殖農家さんから肥育農家さんへ渡る、その中間地点に市場がある。

赤野間:そうです。

川崎:それで、さっきの写真が。

赤野間:そうですね。あれは鹿児島の市場ですね。

川崎:出立ちがプロフェッショナルな雰囲気が出てますが、これは?

赤野間:これは畜産コートと言いまして、牛の農家さんが普段からよく着られているものをBUJIDASで作ってしまったと。

川崎:BUJIDASコートなんですね。これを見て、あるあるだと思われている農家さんもきっといらっしゃるはずですね。

赤野間:今、見ている方々にとってはもう自然。

川崎:牛関係の方は。

赤野間:です。

川崎:荒深さん、これは豚関係にはないですか?

荒深:あんまりないと思いますね。

川崎:畜産コートは、やっぱり牛なんですかね?

荒深:つなぎが多い。

川崎:つなぎカルチャーなんですね。

赤野間:これは、牛の世界ではしっくり来てらっしゃる方もいっぱいいらっしゃるんじゃないかと思います(笑)。

川崎:そうなんですね(笑)。

牛の寝方が悪いと、最悪の場合は窒息で死に至ることも

川崎:それで、BUJIDASは起立困難(予防装置)。

赤野間:肥育農家さんが市場で購買して、約20ヶ月の間肥育期間を設けます。そこで牛を太らせていって、大きいものだと1トンくらいまでなるんですね。

川崎:2年弱、おやりになる。

赤野間:そうですね、2年弱。それで、だいたい出荷額で120万円から150万円くらいになるかなというところです。ただ、肥育牛は穀物をよく食べよく寝るんですが、この時の寝方がちょっと悪くて。足を投げ出して寝ています。

川崎:足を投げ出す寝方は良くないと。

赤野間:そうですね。この状態で長時間寝てしまうとお腹の中にガスが溜まってしまって、最悪窒息してしまうという事故が起きる。これが牛の起立困難です。和牛をやっている方だったら、だいたいわかるんですが。

川崎:立てなくなっちゃう?

赤野間:立てなくなっちゃう。

川崎:立てなくなるだけじゃなくて、死に至ってしまうということですか?

赤野間:そうですね。呼吸困難になって、死に至ってしまうというかたちです。牛は普段、横になった状態じゃなくて立っていたり、普通に寝ていたりすると、よくメタンだなんだと言われていますがゲップを出しています。ですのでガスが溜まっていかないんですが、この状態が長く続くことによって、ガスが溜まっていって死に至ってしまうことがあります。

起立困難の発生をセンサーで感知し、農家に通知が届く

赤野間:我々が畜産業界に入っていった中で、これは長年の社会課題としてあったことは認識はしていました。先ほど申しましたセンサーで、こういうものを発見するというのも機能としてはあります。

川崎:センサーって、どこかに着けるんですか?

赤野間:首ですね。

川崎:首に着けるんですか。

赤野間:呼吸が苦しくなってくると暴れるわけですよね。首に着けたセンサーがその動きをキャッチして、農家さんに「今暴れてますよ」(通知を送る)。

川崎:「牛が苦しんでますよ」という通知を農家さんに出すということなんですか。

赤野間:そういう機能があります。それでけっこうな頭数を助けているんですが、なかなか紛らわしい動きもあったりとか、行ってみたら「ちょっと違ったね」とか。

もしくは、苦しんじゃったあとに助け起こすんですが、本当に内臓がパンパンになって鼻血が出ちゃったり、けっこうダメージを受けちゃうことがあって。それで弱ってしまって緊急出荷ということも、あることはあるんですね。

なので我々としては、根本的に社会課題として捉えて、「こういうものをなくしていくためにはどうしたらいいんだろうか?」ということに長年挑んできて。センサーである程度できてきた段階ではあるんですが、これを根本的に解決するためにはどうしたらいいかということで、我々は牛の行動特性についていろいろ考えました。

起立困難防止のため、農家が夜中に牛舎を見回り

赤野間:農家さんって、起立困難を起こさせないために夜に農場を見回ったりするんですよ。

川崎:農場を見回ったらどうなるんですか?

赤野間:見回って、足を投げ出している牛がいたとしたら……。

川崎:これを発見して。

赤野間:農家さんが牛に「シシッ」って声を掛けるんですね。

川崎:「シシッ」って言うんですか。

赤野間:そうです。言うと、あの状態からヒュッと直るわけですね。

川崎:声を掛けないと直らない。

赤野間:あのまま爆睡してます。

川崎:「シシッ」って言うと、ヒュッと起きる。

赤野間:起きるんです。

川崎:そうなんですね。

赤野間:牛は草食動物なので、非常に聴覚が発達しています。僕らも夜中に見回りに行って、なるべく足音を立てないで行くんですが、それでも気配を感じて、顔は向かないんだけど耳だけ僕らのほうをヒュッと向くんですね。けっこう聞いてるんだなと思って。

川崎:ちょっと待ってください。「僕らも夜、牛を見回りに行って」と言いました?

赤野間:行ってますね。

川崎:NTTの方ですよね(笑)?

赤野間:NTTだったと思います(笑)。

川崎:夜牛の見回りに行ってるって、農場を持ってましたっけ(笑)?

赤野間:人んちの農場ですが、見回ってますね。

川崎:そうなんですか。

遠隔でも牛に声掛けできるシステムを着想

川崎:そうすると、「牛は耳だけ向くなとか、気づいてるなって」と、聴覚がすごく発達しているというのはわかっておられる。

赤野間:わかりました。一見爆睡しているような牛でも、声を掛けるとやっぱりヒュッと直るんですよ。寝てる状態でも、耳だけは聞こえているんだなというのに薄々気づいてはいて。

ある時、沖縄の農家さんで「カメラを付けて見てるよ」という方がいらっしゃって。今、携帯から遠隔でカメラが見られるじゃないですか。スピーカーから「おーい」って声を掛けられるんですよ。それを教えてもらって、僕らもカメラに入れるようにしてもらったんですね。

その日、沖縄から羽田空港に帰ってきてバスに乗ろうとして、ちょっと見てみたらこう(足を)投げ出して寝てるわけですよ。

川崎:まさに起立困難の状態になろうとしていると。

赤野間:これが長時間続いたらやばいなと思って、「おーい」って言ったらヒュッて直ったんですね。「羽田から沖縄の牛の姿勢を直したぞ」と。

川崎:遠隔で!

赤野間:遠隔で。「これ、いけるんじゃない?」みたいな。

川崎:見回ってなくても(遠隔で声をかけられる)。

赤野間:いけるんじゃないと。それで、このコンセプトを思いついて。

AIで牛の姿勢を識別し、危険な場合は音を鳴らす仕組み

赤野間:「異常な寝姿」とありますが、足を投げ出して寝る姿勢ですよね。ガスが溜まっていって、これが2時間、3時間、4時間続くと危なくなってくるんですが、長時間足を投げ出しているのをカメラのAIで見て、ちょっと長いなとなったら自動で音声で「おーい」と(投げかける)。

川崎:ここはAIなんですね。赤野間さんが、ずっと24時間見ているわけじゃなくて(笑)。

赤野間:僕がずっと画面の向こうにいて見ているわけじゃなくて(笑)。

川崎:ここはAIが姿勢を判定する。そうですか。

赤野間:一晩中、ヒュッと直してあげるというのをやってあげる。つまりは、人が歩いて目で見ているのがカメラで、「シシッ」というのがスピーカーですよね。これをカメラとスピーカーでやればいいじゃんという、めちゃくちゃシンプルな発想をして。

ちょっと実装してやってみようかということで、鹿児島県と宮崎県の農家さんに協力してもらってやってみたら、今まで転がってる……起立困難になったことを、農家さんはよく「転がる」と言うんです。

川崎:「寝っ転がる」の転がるなんですかね?

赤野間:「ひっくり返る」ですね。ひっくり返ることを「転がる」とか「返る」と言うんです。「返ってるところにカメラを付けてみてよ。これで転がらなくなったら効果があるよね」と言って、そこに付けたんですよ。

川崎:返っているところというのは、要するにひっくり返りやすい……。

赤野間:牛がいるということですね。

川崎:それは農家さんはわかっているけど、現場に立ち会えないと意味がないですもんね。

赤野間:そうですね。

川崎:そこにカメラを付けてみて、自動で起きるかどうかをやってみる。

赤野間:全部の牛がこうなるわけじゃなくて、寝方によって癖があるんですよ。

川崎:牛の個体差があるんですね。

赤野間:そうなんです。

「無事に牛を出荷させてあげる」という願いを込めたサービス

赤野間:おもしろいもので、牛は個体差があるんですよ。3ヶ月くらいの間に5回くらい起立困難が起きているやつがいたので、そこにカメラを付けてやってみようと。その後、4ヶ月間一度も起立困難にならずに出荷していきました。

川崎:へぇ〜!

赤野間:ここに名前の由来が1つあるんですけれども。

川崎:「BUJIDAS」の名前の由来。

赤野間:これをカメラで見守ることによって、無事に牛を出荷させてあげるという願いを込めて、牛を無事に出す。「BUJIDAS」と。

川崎:そこにつながったわけですね。

赤野間:そういうことです。

川崎:私が赤野間さんを見る先に荒深さんがおられて、思ったより今のBUJIDASのくだりで深く頷かれていたんですが(笑)。

荒深:本当に素晴らしいですよね。BUJIDAS、しかもすごく名前がキャッチーなんですよね。

赤野間:これは僕らの願いがこもっている名前ですね。

豚は、大きく育ちすぎても値崩れを起こす

川崎:豚の農家さんでも、無事出荷するという感覚は共通してますか?

荒深:そうですね。無事に出荷するということと、1つあるのが、豚の体重も売上にめちゃくちゃヒットするところがあって。豚はだいたい120キロくらいで出荷できるといいんですが、じゃあ130キロとか140キロになったらどうなるかというと、単価が値崩れするんですよ。

川崎:そこにピークがあるんですか。

荒深:そうなんです。幅があって、そこに収めなきゃいけない。肉の格付けと呼ばれるような……牛だとA5とかA4とかあると思うんですが、あれに近しいものがあって。牛丼みたいな感じで「上中並」とあって、そこに収めようとすると、115キロから120キロくらいのスイートスポットに揃えたい。

川崎:生き物だから揃わないですよね。

荒深:これがめちゃくちゃ揃わないんです。じゃあどうするかというと、体重を全頭測りますか? という話になってくるわけですよね。でもさっき言ったとおりで、年間40頭くらい子豚が生まれてきて、それを出荷するとなると、例えばお母さん豚を100頭抱えているところだと(子豚が)4,000頭くらいになっちゃうわけですよね。

川崎:だんだん育っていって、「ここだ」というタイミングを見極めるという話だと思います。さっきの赤野間さんの牛の起立困難も、「今だ」というタイミングで助けられないといけないけど、人間が四六時中見ているのか? という共通した課題ですよね。1人で1,000頭を見てるのに、豚が120キロになる「ここだ」を毎日測るのか? という話ですよね。

赤野間:おっしゃるとおりですね。

「ロボット式AI豚カメラ」を開発

川崎:それは、何か答えがあるんですか?

荒深:僕らは……。

川崎:あるんですね! よかったぁ。

荒深:豚はちょっと別のアプローチにはなっているんですが、ソリューション例で書かせてもらっています。AI豚カメラを略して「ABC」と呼んでいます。

川崎:BUJIDASのネーミングセンスにちょっと通ずるところがありましたね。

赤野間:ありましたね。

荒深:これをきっかけに豚の出荷を始めてほしいという願いも込められていて、アルファベットの英語順というのも含めて「ABC」という名前を付けさせていただきました。

川崎:AI豚カメラ。

荒深:別名「バイオセンシングカメラ」とも言ったりはするんですが。

川崎:カメラで豚を見る?

荒深:何がわかるかというと、その時の体重分布が全部見られるようにしています。要は、1頭1頭はもう測れないものだと思っていて。

川崎:でも(生き物だから)動くじゃないですか。じっとしていないですよね。わかるんですか?

荒深:これはですね、カメラの下のところに「ロボット式」と書かせていただいているんですが、豚舎の中をこのカメラが巡回します。

川崎:豚舎の上に、このレールみたいなものがあるんですね。レールカメラみたいな感じで。

荒深:滑走していって……。

川崎:コンサート会場みたいな(笑)。

荒深:そうですね。その中で各エリアというか、さっき言っていたように「1年1組」「1年2組」みたいなところを回っていき、日々撮影をして、その画像情報をもとに「何キログラムくらいの豚が何頭いそうか」を出していく。これを日々やっていくと、成長が鈍化していないかとか、いい感じで成長しているねというのも見えてくるようになるんですよね。

川崎:あくまで群として捉えるんですね。

荒深:おっしゃるとおりです。まずは群が大事だなと思っています。

牛の出荷時期・豚の出荷時期の違い

川崎:「このグループはそろそろ出荷タイミングに来ている」ということがわかったりする。

荒深:そうです。まずはそこが出発点で、その中で何頭いそうかというのも出せます。なので、その群の中で出荷できそうな豚が何頭ずついそうかが見えてくるんですよね。

川崎:出荷は群ごとじゃなくて個体ごとなの?

荒深:おっしゃるとおりです。それは、評価が個体ごとだからなんですね。ただ、管理は群ごとなんです。ここが牛と豚の違うところです。

川崎:赤野間さん、牛の場合は?

赤野間:個体ですね。

川崎:完全に管理も個体で、出荷も?

赤野間:個体なんですが、牛はだいたい出荷時期が決まっているんですよね。生後28から32(週)の間が一番多いんです。

川崎:豚の出荷時期というのは?

荒深:ばらつきがあるのと、生産のモデルによっても異なるんですが、普通で言うとだいたい150日から180日くらいで出荷される。30日間のギャップがあるくらいなんですよね。そもそも牛と違って、生まれてから180日という約半年で最終的には出荷される生物なので、回転数が非常に高いんです。その中で、日々の体重の推移を見ていくというのは(難しいです)。

農家の「勘、コツ、経験」をデータ化

川崎:じゃあ、最後の「この豚を出荷するぞ」はどうやって決めているんですか?

荒深:普通の一般的な農家さんは、基本的には勘、コツ、経験の目で見る。

川崎:勘、コツ、経験……豚骨みたいな言い方ですが。

荒深:目で見て、「これはいけそうだ」「これはいけなさそうだ」というかたちなんですよね。

赤野間:職人だよね。

荒深:本当に職人で、すごい精度なんですよ。

川崎:当たるんですか?

荒深:本当にめちゃくちゃ精度が良くて。

川崎:やっぱり農家さんはすごいですね。

荒深:ただ、これを技術承継するのはまぁ無理だなと。僕も豚舎の中にいさせてもらって、「あれは出せる(もう出荷できる)」って言われても、ぜんぜんわからないんですよ。

川崎:素人目には、何が違ったのかがわからない。

荒深:ただ、そのクラスの中で「5頭出荷できそうなやつがいる」と言われると、確かにわかるんですよ。相対比較をした時に「確かにこの5頭は大きそうだね」って。

川崎:「上から5頭だよね」というのはわかるんですか。

荒深:そうなんです。なので、「頭数」という数値が与えられるだけでぜんぜん違っていて。

川崎:人間の助けになるんですか。「この子」というのがわからなくてもいいんですね。

荒深:不確実性が高すぎる、要は「勘コツ経験の人」は(豚舎の中に)何頭いるかはわからないけど、見た瞬間に「この豚房は2頭いる」とわかる。

川崎:ずばり。

荒深:「これとこれだ」と。そこに対して、我々が群生物として見た時に「この豚房内で、5頭はもう出荷しなきゃいけない豚がいるよ」というのが出るだけで、じゃあ大きいものを見つければいいや、5頭出せばいいと。

川崎:すごいですね。すごくないですか?

赤野間:ほ〜ってなっちゃいました(笑)。なるほど、それは自分にもできるかもしれないってなりますね。

川崎:確かに。

農家のメンタルにも影響を及ぼす家畜の死

川崎:「出荷する」というところに、農家さんの最大の関心事と言いますか、あるいは課題があるんですね。

荒深:そうですね。最終的にはそこが収益を生み出すところにはなりますので、そこの単価をいかに上げるかは、みなさんこだわりを持たれているかなと思います。

川崎:「起立困難で死んじゃう」という事故があった場合って、収益という観点ではどうなるんですか?

赤野間:収益という観点で言うと、丸損ですよね。

川崎:それは損になるんですね。

赤野間:もちろん、共済というかたちで保険を掛けられている農家さんもいらっしゃいますが、保険をかけていなければもう売上は……。

川崎:出荷にはならないですか?

赤野間:ならないです。牛は死んだら産業廃棄物ですので、それを引き取っていただく費用も余計にかかってしまう。経営者からしたら、費用面ももちろん痛いですよ。

川崎:そうですよね。

赤野間:でも、やっぱり家畜とはいえ生き物じゃないですか。生き物を死なせてしまった時の従業員さんたちのメンタルが非常につらい。朝行った時に、ドキドキしながら見回る農家さんはいっぱいいらっしゃるんですよ。

川崎:「もし倒れていたらどうしよう」と。

赤野間:そうです。「もし死んでたらどうしよう」ということが毎日起こる。すごくストレスなんですよね。そういったメンタルのところにも、BUJIDASが一役買えればいいなと思います。

事故死する家畜を目の当たりにする悲しみ

川崎:すごく浅い考えですが、畜産業ってどうしても最後は食べちゃうので、「死んじゃう」という結果の見方をすれば、ある意味同じように考えちゃう方もいらっしゃるかもしれないんです。でも、命のつながり方と、半ばでというかたちの死とでは、意味合いが本質的に異なってくるような感じもするんですが、どうですか?

赤野間:もちろん家畜なので、出ていったことで屠畜されるというところに関しては、別に悲しみは感じないですが、僕らは出す時には本当に「ありがとう」(と思っています)。

従業員さんの気持ちを考えると、事故なので別に自分が殺したわけじゃないんですが、「自分がまだまだ生かしてあげられた、もっと伸ばして牛の命を育ててあげられた」という気持ちになるのは本当に理解できます。僕らも死んだ牛を何頭も見てきてますから、その時はやっぱり悲しいですよね。命を全うさせてあげられなかった。

荒深:赤野間さんはカメラで牛を見ているわけですが、どういう見方をするんですか? レールでという感じじゃないんですよね。

赤野間:BUJIDASは基本的に固定カメラで、ここの座標にいる牛がどれくらいか、何分くらい足を投げ出しているかを見るので、基本的には固定カメラを付けていくかたちにしています。

川崎:カメラ1台でどれくらい撮影するんですか?

赤野間:僕らは九州が多いんですが、九州の一般的な飼い方だと、1牛房が間口4メートル、もしくは3.5メートルの、4×8、3.5×7くらいが多いんですが、それを2牛房を俯瞰で見られるようなイメージを持ってもらえると。

川崎:頭数で言うと、どれくらい?

赤野間:頭数で言うと、だいたい3頭マス、4頭マスが2つなので、8頭くらいで考えてもらえるといいんじゃないかなと思います。

AIにデータを教えるのは、人間によるアナログ作業

川崎:当然、牛は動くんですけど、常に姿勢がどうであるかを把握しているのは……赤野間さんが遠隔で見ているんじゃなくて(笑)。

赤野間:僕が見ているんじゃなくて(笑)。

川崎:AIが教え込んでいるんだ。

赤野間:はい、そうです。

川崎:豚もそうだし、牛もそうなんですが、データがないですよね?

赤野間:データ、ないですね。

荒深:ないです。

川崎:そういうデータは売ってませんよね。どうするんですか?

赤野間:1個1個、1枚1枚学習して、自分たちで「これはどんな姿勢」というのを学習させていくフェーズがあります。実はここに、最初に言った「アナログ」というのが入ってくるんですよ。AIもアナログなんです。

川崎:教えるところは、AIも本当は……。

赤野間:本当はアナログ。

川崎:荒深さんも一緒?

荒深:全部の豚の体重を測りましたね。

赤野間:ですよね。

川崎:そんなデータ、世界のどこにもないですよね。あるいは、牛が寝ている・起きているというデータもなければ、「これくらいの画像の感じの豚が何キロだ」というデータもないですよね。

荒深:ChatGPTに投げても、絶対に出てこないと思います(笑)。

赤野間:だよね。

川崎:出てこない数字。だって、存在しないデータですもんね。

赤野間:最初からAIが学習してくれるなんてことはないもんね。

荒深:ないです。

DXで日本の畜産の未来は明るいか?

川崎:AIという、全知全能な何かが勝手にやってくれるなんてことはなくて、実はめちゃくちゃ人間がその手助けをしていると。

赤野間:アナログなことをやっていますね。

川崎:世界初のデータを生み出そうとして、やっているのは人間なんですね。

赤野間:答えのないものを作るためにやっております。

川崎:なるほど。ちなみにベルシステム24も、アノテーションと言われますが、教師データを投入していく部分は実はお手伝いをさせていただいております。ベルシステム24が、ここでやっとつながるという感じなんですが。

今日はいろんなお話をしてきているんですが、最後におうかがいしたいなと思うのは、今回のタイトルにもなっています「DXで日本の畜産の未来は明るいか」。明るいか・暗いかだけではなしに、どのように明るくなっていけるかという展望も含めて、お2人にうかがいたいなと思います。まずは荒深さん。

荒深:ありがとうございます。まず、これは思いなんですが、「明るくしたい」なんですよね。そのために僕らの会社はビジョンミッションを掲げています。

川崎:明るくする側ですね。

荒深:そうです。もちろん畜産の生産者さんがいて、我々はそこを支援することで明るくしていきたいということにはなっています。

今日もずっと会話に出ていましたが、人が不足している、後継者不足とか、そこに対して僕らとしては「テクノロジーをいかに提供し続けられるか」が1つポイントになるのかなと思っていますので、それは続けていきたいなと思っています。その結果として、未来は明るいと僕は思っています。

技術起点ではなく、あくまでも現場主導で畜産業を支えていく

川崎:12パーセントの養豚農家さんがPorkerを入れられていると、台帳によって気づきを得られているということですよね。

荒深:僕らのこれからの取り組みとしては、一番最初に話したんですが、ただ生産量を上げていくだけでは課題があって。次に「環境負荷をどうやって抑えていくか」を目指していくことによって、逆に言うと畜産がエコなものであると(いう認識になります)。

川崎:それは社会的なステータスも上がりますか?

荒深:そうですね、上げなければ残れないと思っていて。まさに、そこをみなさんと協力しながら作っていきたいと考えているところです。

川崎:もっともっと憧れの仕事になるような、そんな未来が荒深さんの中ではあり得ると。

荒深:そうですね。まさに循環型農業にひもづいてくるんですが、畜産業が起点になって、ほかの農業にも伝播させていくようなかたちが作れたらと考えています。

川崎:ありがとうございます。赤野間さん、いかがですか?

赤野間:僕らは技術を起点として畜産業を支えるのではなくて、あくまで現場主導で畜産業を支えていきたい。今回のBUJIDASは、農家さんであればみなさんやっていること、知っていること、「夜中に見回って声を掛けるんだよ」という。

川崎:大変な苦労です。

赤野間:そうですね。農家さんの暗黙知をかたちにさせていただきました。これからも、現場で起きていること、農家さんや獣医さんには当たり前である暗黙知をいかにかたちにして、現場を支えていけるのか。

「牛は最後は人の手で作るんだよ」という農家の言葉

赤野間:出会ったとある農家さんの言葉で、「牛は最後は人の手で作るんだよ」というすごく印象的なものがあって、確かにそうだなと。僕らの力でどうこうできるものはない。やっぱり最後は現場の力や農家さんの力で生産していくんだ、牛を作っていくんだという、その言葉がすごく響いて。

ただ、僕らの技術でどこまでそれを手助けできるのか、現場を楽にできるのか。やはり、ここに対して挑んでいきたいなと思いますし、その未来は僕らにとっても、生産農家さんにとっても明るいものにしていきたい。荒深さんと思いは同じです。

川崎:わかりました、ありがとうございます。本日は2人のイノベーターの方をお招きして、お話をうかがうことができました。牛、豚、日本の畜産業界の未来は明るいかと題しましたが、みなさんは最後にどのようにお感じになったでしょうか?

NTTテクノクロスさんのBUJIDAS、それからEco-Pork社のPorker。これについて深いお話をお聞きになりたいという方は、アンケートにその旨を書いていただければ何かしらお話があろうかと思います。あるいは「自分は豚舎や牛舎を持ってないよ」という方も、どうだったのかとか、何か知見が深まったような部分があれば教えていただければ励みになります。

赤野間さん、荒深さん、本日はありがとうございました。

赤野間・荒深:ありがとうございました。

川崎:みなさんもご視聴ありがとうございました。またイノベーターズラウンジでお会いしましょう。

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