2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:沖縄科学技術大学院大学
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長嶺安奈氏(以下、長嶺):初めまして。OIST Innovationの長嶺と申します。今日はモデレーターとしてみなさんに質問していきたいなと思います。
事前にみなさんからお時間をいただき、いろいろなお話を伺えました。今日発表していただいた以上に、本当に興味深いストーリーをお持ちのみなさんにお越しいただいています。そこをうまく引き出せるようにがんばりますので、ぜひよろしくお願いいたします。
まずはじめに、会社としての業務やこれからの展開をご紹介いただいたのですが、先生方やみなさんご自身のことも聞いていきたいなと思います。
HelloWorldの今野さん。もともとは教師を目指していて大学にも進まれていました。そこから起業にご興味を持って方向展開されて、今HelloWorldにいらっしゃるとお聞きしました。そのきっかけを教えていただけますでしょうか?
今野逹眞氏(以下、今野):ありがとうございます。私はもともと大学の教育学部におりまして、実際に教師を目指しておりました。ただ、大学生活を続けて教師を目指す中で、学校での教育が与えるインパクトがあまり大きくなさそうだったり、ちょっと限界を感じている部分がありました。
ちょうどその頃、教員の質の低下や先生たちの過重な労働環境が問題になっていたんですね。そういった中で、いわゆる教育の限界がどんどん下がってきているなと感じました。そこで、何か別のかたちで教育に対して価値を与えられないかというところで、教育のスタートアップにジョインした経緯があります。
長嶺:ありがとうございます。今日は、二足の草鞋を履く2人の先生方に来ていただいています。まずはじめに、シンクネイチャーの久保田先生。Web上でも研究者スタートアップということを打ち出して、アカデミックな知見を活かしたスタートアップについて強調していらっしゃいます。
1つは生物多様性市場を開拓していくところだとおっしゃっていただきました。最後のほうに触れていらっしゃったのですが、2つ目の大きな野望をちょっと教えていただければと思います。
久保田康裕氏(以下、久保田):生物多様性の分野は、自然科学の中でも、もっともビジネスから縁遠くて、お金にならないようなサイエンスだったと思うんですね。山の中に入って生物の調査をしていて、「そんなのやって何になるんですか?」って、本当に若い時からよく言われました。
実際、理学部とかで生物多様性を学んだ学生、あるいは院生が、その専門性を元に就職できる先がないんですね。生物多様性の関連産業が存在しないんですよ。ほぼアカデミアのポストしかなくて、研究職に就けなかった若い人たちは、やむをえず別分野に行かざるを得ない。
そこでやっぱり、「生物多様性市場」というものを作って産業化して、若い人のためにキャリアパスを作りたい! って思ったんですね。SDGsのウェディングケーキモデルからして、社会や経済は生物多様性の上に乗っかって成り立っているので、必要条件なわけです。絶対に生物多様性市場や関連産業を作れると確信して、若い人のために輝ける場所を探したいと。
もっと言うと、沖縄って生物多様性ホットスポットなので、生物多様性を産業化した時に一番潤うのは沖縄のはずだと私は確信しています。沖縄の若い人のために雇用の場を作りたいというのが、私の野望です。
長嶺:ありがとうございます。同じような立場にいらっしゃりつつ、また違うモチベーションを持って起業されたのかなと思うんですけれども。(伊庭野)先生はいかがですか?
伊庭野健造氏(以下、伊庭野):僕は久保田先生ほど高尚ではなくてですね。なんとなく大学教員がつまらなくなってきたから、会社でもやろうかなと思ってきたところがありまして。
僕は大学教員で、ぜんぜん違う分野で核融合の研究をしていて、核融合で嘘つくの疲れたなぁっていうところがすごくありました。もうちょっと身になることをしたいという気持ちから、リアルなアイテムを作ろうとこの会社を始めていますね。
長嶺:ちょっとお伺いした時に、経営と研究や教育ってぜんぜん違うのでどちらが向いているのかなぁとお聞きしたら、どちらかと言うとスタートアップなのかなと……。
伊庭野:僕はスタートアップのほうがやっぱり楽しいですね。大学での研究も楽しいっちゃ楽しいんですけど、ちょっと社会から離れすぎているところもあったり。
お金を使うことは楽しいんですけど、自分のお金じゃないものを使っているので浪費しているなぁと思うこともあったり。今はお金を稼ぐことも一生懸命考えると、バランスが良くて楽しいなぁと思っています。
長嶺:ありがとうございます。イーライさん、最後になりましたが、あなたは他の3人の講演者とは異なるバックグラウンドを持っています。あなたはバイオテクノロジーのメッカであるアメリカ出身であり、さらに中国語も堪能です。
そんな背景を持ちながら東京に来て、現在は多くの活動の拠点を沖縄に置き、そこからさらに世界に進出しようとしています。なぜそんなことをするのでしょうか? あるいはなぜ日本に来たのですか?
イーライ・ライオンズ氏(以下、イーライ):私の決断の多くは好奇心と、ある決断をした場合に存在する、課題に対する認識の甘さに半分ずつ基づいています。
例えば台湾に留学していた時、そこにいるだけで、台湾人でさえ中国でビジネスをする際に難しさがあることを知りました。中国でビジネスをしている他の外国人にも会い、中国でビジネスをすることはおそらく私の性格や、他の興味にも合わないだろうと感じました。
東大のPh.D.学生になった時も、日本において、特に私が入った研究室でPh.D.学生として過ごすことについても私は甘く見ていました。論文を発表できたのは良かったのですが、日本では単にビジネスをすることに決め、自分の会社を始めました。
会社を立ち上げた当初は、顧客を獲得することは簡単でした。ただ、さらに顧客を増やすことが難しかったです。カリフォルニアにも、日本にも、シンガポールにも顧客がいますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。アメリカの多くの科学系スタートアップはあまり厳格ではなく、非常に混沌としていて、開業も廃業も早い。
一方、日本はまるで正反対で、多くの点で非常に保守的です。つまり、私の場合は経験を通して、オンラインでは見つけられない物事の現実を学んできました。それが私の見方です。
長嶺:ありがとうございます。これからいくつか共通してご質問していきたいなと思っています。後半にみなさまからもご質問をお受けしたいので、ちょっと書き留めながら聞いていただければと思います。
ジェトロの蓮井(拓摩)さまからも、日本のスタートアップが海外に挑戦していくハードルというか、やはりマインドセットが課題というお話がありました。
みなさんそれぞれ違う分野で活躍されていますが、いつの段階から海外市場や海外展開を見据えていたのでしょうか。もともとなのか、ビジネスを展開していく中で考えるようになったのかをお聞きしたいなと思います。
まず今野さんから。最初にお話を伺った時は、沖縄での「まちなか留学」(東京と沖縄で暮らす外国人宅でのホームステイの機会を提供するサービス)から、HelloWorldさんを展開されています。今はインドネシアなどに行っていらっしゃると思うのですが、その点はいかがですか?
今野:ありがとうございます。私たちは「世界をつなぐ、異文化との交流」というコンセプトから、創業当初からいつか海外に出ていくことを目標にしていました。
長嶺:ありがとうございます。久保田先生?
久保田:私たちも最初からですね。と言いますのは、最近では金融や機関投資家の人たちに「ネイチャーポジティブ」という用語で、盛んに言われていて。ファイナンスの流れをネイチャーポジティブに向かわせることで、自然資本としての生物多様性を保全再生しようという、グローバルアジェンダなんですね。
さらに言うと、そういう環境に対する意識は日本よりも欧米のほうが先進的で、欧米の意識に引っ張られるかたちで日本の企業も動いている状況があります。ですので、やっぱり海外展開しないとということですね。
最初のサービス提供は日本企業から始めているのですが、グローバルサービスも今ローンチ寸前で、今年から本格化していこうと思っているところです。
長嶺:そうですね。イーライさんはちょっと特殊な環境で来ていただいたので、伊庭野先生から。息子さんの課題に起因してスタートアップへというのもあったと思うんですけれども。最初から海外市場を見据えていたのか、醸成というか、ゆっくり現実に見えてきたものなのか。どういう展開だったのでしょうか?
伊庭野:さっきの話し方では、さも息子のことからスタートしたみたいな感じなんですけど。僕らはまず会社を作ろうと決めてから、何を作ろうか? というのをゆっくり半年くらいしゃべりながら作りました。
ただ、会社を作る時に海外志向はしたいということで、僕が唯一社名でこだわったのは……沖縄で言うのもあれなんですけど、大阪の名前だけは付けてくれと言ったんです。僕が海外に留学している時に、わりとみんな知っている地名だったので、大阪を付けておこうかなと。日本の大きい会社も大阪と付いてるしなという意味でつけていました。
教員の集まりなので、最初から海外志向は強かったんですけど、逆に最近は「もうちょっと日本でしっかり売上を固めてからじゃないと、やっぱり行けんな」という思いもあって。ジェトロさんの支援で、いろんなアクセラレーターや展示会に行きつつ、日本での売上を固めて、物がいっぱいできたらすぐ海外に行こうということで準備はしています。
長嶺:イーライさんは異なるバックグラウンドをお持ちですが、なぜ日本に留まるのでしょうか? 多くのスタートアップ企業がグローバル化を目指していますが、あなたの場合はわざわざ日本でスタートアップを立ち上げてから、海外市場に展開しようとしています。今のところ、どのようなメリットがありますか?
イーライ:プレゼンテーションでもお話ししたように、私たちの投資と筆頭株主の約半分はインドネシアから来ています。私たちは現在、少なくとも半分の時間を日本で、もう半分の時間をインドネシアでのビジネス開発に費やしています。
私は、インドネシアとその経済成長を非常に強気に見ています。その一例として、最近、インドネシアの病院ネットワークとリモート会議をしたのですが、とても早く調整がつきました。私はそれがネットワーク全体との会議であることすら知らず、1つの病院との会議だと思っていたのですが、9人の出席者がいたことに本当に驚きました。
スマートフォンで参加しているような人もいたし、カメラを外したままの人も多かっですが、とにかくあっという間にその場が設定されていました。そして、私たちが提供できることに真摯に耳を傾け、自分たちの当面のプランに取り入れることを真剣に考えてくれました。私は、そのスピードとネットワーキングにとても感銘を受けました。
インドネシアにチャンスがあると考えるもう1つの理由は、リープフロッグ(技術面で大きく飛躍)する可能性があるからです。具体的にどういうことかというと、多くの企業はすでにコンピューター・サーバーなどに投資しているかもしれません。
しかし、インドネシアの小規模な企業や病院では、IT部門などを設置する過程を飛ばし、直接クラウドを使い始めることができます。それも非常に低い初期費用で。インドネシアではこうしたやり方で、技術面における急速なキャッチアップや、経済発展を可能にする機会があるのです。
長嶺:ありがとうございます。イーライさんからもインドネシアの話がありましたが、今野さん。海外と言ってもいろんな市場があって、例えばもう成熟した市場もあれば、これから成長していく市場もあると思うのですが。
例えば、HelloWorldが市場を選ぶにあたってのポイントは、何があったのでしょうか? イーライさんも今触れたように、海外の特徴かもしれないですけど、会って1個1個開拓していくよりも、もしかしたらスピード感を持ってできるのかなと思ったのですが。海外市場を選ぶポイントなどがあれば。
今野:確かに我々が世界に出ていく時に、情勢や文化的な背景というところで、いくつか目星は付けて行くんですけれども。私たちの戦略は、計画を立てるよりもとりあえずやってみようというかたちです。
最初の一歩をとりあえず踏み出すと、現地でサポートをしてくれる仲間が1人現れるんですね。そこを起点にいかに広げていけるかというのがあります。
長嶺:久保田先生、今展開されようとしているサービスは、本当にこれから拡大していく市場なのかというところで。先ほどおっしゃっていたように、日本というよりも欧米諸国のほうが自然資本への意識が高いのかなと(思います)。
そういったところで、市場は欧米なのか、はたまたそこから先にある国々も(市場として可能性が)あるのか、ちょっとお伺いしたいです。
久保田:企業活動が生物多様性・自然資本に与える影響で言うと、もっともインパクトを与えていて、責任があるのは先進国なんですよね。日本や欧米ということになります。
ですので、先進国の企業ほど、生物多様性に対するインパクトの軽減に取り組まないといけないことになります。実際、弊社がサービスを提供している企業は、グローバルなサプライチェーンを持っている企業です。
私たちのサービスでは、サプライチェーン上のインパクトを緩和するためのアクションプランまで提案します。サプライチェーンの最上流部は、実は東南アジアであり、アフリカであり、南米なんですね。いわゆるグローバルサウスと呼ばれているエリアになります。
我々が食べている食品、例えばパーム油は東南アジアで生産されています。我々の衣服の原材料のウールは、アルゼンチンや南アフリカから調達されています。結局、ネイチャーポジティブを達成するためには、地球の裏側の現場が重要になるんですね。
つまり、ネイチャーポジティブに向かうためのアクションは、グローバルサウスで行わなければいけない。そういうところで、実は我々の究極的な市場はグローバルサウスにあるのかもしれません。
現状は、サステナビリティの文脈で行われる情報開示や、ネイチャーポジティブに向かうためのアクションプランの策定などがメインです。まだ詳細は申し上げられないんですが、その先の現場アクションでも、実際に海外の現場に入り込んでどうやったらいいのかを、一部の企業さんと始めつつあります。
長嶺:ありがとうございます。金融機関さんが今、大きな関心をシンクネイチャーさんに持たれているということでした。今回は金融機関のみなさんもたくさん来ていただいているとお聞きしているので、ぜひネットワーキングの時に先生を捕まえてみてはいかがかなと思います。
長嶺:今野さんからも(お話が)あったように、すごく戦略を練ってというのではなく、とりあえず前にお話を伺った時に壁打ちすると。今インドネシアで展開をしていく前から、いろんなところに出て行かれていたと思うんですけど。
人との出会いや、いろんなところへ出ていく中でビジネスにつながっているのかなというところで、先生はいろんなところに出て行ってるなと思います。
大阪ヒートクールは、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー:米国で毎年1月に開催されるデジタル技術見本市)やBerkeley SkyDeckのジェトロさんのプログラムにも採択されていますが、そういうところからつながった展開はあるのでしょうか?
伊庭野:そうですね。僕らはまだハードウェア系で、物をローンチするのに時間がかかっていて苦労しているところなんですけど。今野さんのお話にもあったように、いろんな国の人にリーチしていくために、友人づくりが一番重要だなと思っているところがあります。
支援機関もそうなんですけど、「ほかの国でスタートアップをやっている人たちとのネットワークをいかに作るか」を重視していて、CESでもほかのブースへ行って、友達になれそうな人をひたすら探しています。
けっこういろんな国の人と仲良くなりました。スタートアップの人たちはわりとなんでも知っているので、困った時に話を聞けるスタートアップが各国にあると便利だなと思っているところですね。
長嶺:台湾でももしかしたら連携が進む可能性があるのかなと伺ったんですけど、それはどういうきっかけだったのでしょう?
伊庭野:それこそ琉ラボさんとかと一緒に台湾の展示会へ行かせてもらったり、CESで会ったグループがいたり。やっぱりものづくりをやると、中国や台湾はすごく早く作ってくれたりもするのでいいなと。
なんか知らない間にうちの生理痛デバイスが報道されていたらしくて、それもやりませんかって言われたり。市場としても思っていたよりも近いですし、どんどん連携していきたいなとは思っていますね。
長嶺:ありがとうございます。
沖縄科学技術大学院大学
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