2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
提供:サイボウズ株式会社
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富永京子氏(以下、富永):出産を公表してからどうしたかという話なんですが、年度の変わり目で復職したわけですけど、「ママになるって、悪いことばかりではないな」と思ったのが、例えば同僚が声をかけてくれたり、気を遣ってくれたりすることです。例えば「今、学内保育園に空きがあるよ」と伝えてくれたり、「前職で保育関連の授業を担当していたから、赤ちゃん体操とかできるよ」と言ってくれたり。
子どもができることで、例えば子ども手当や、学内の育児している人向けの研究費、研究員雇用制度など、福利厚生がよりよく見えるようになりました。
なにより、自分がこのセッションに呼ばれて言いたかったことは、あの時すごく重く考えていたほど、「子どもがいて諦めたこと」は、今のところ特にないと思っています。
もう1つ、とにかく今インターネット上は「子育て地獄」の言説ばかりですよね。例えばベビーカーを電車に乗せるなとか、マンションでの子どもの泣き声がうるさいとか。それで、「子育てって怖いな」と思う人がけっこういると思うんです。
でも、思ったより地獄ではない。楽しいこともいっぱいあります。今日は会場に0歳児の子も来てもらっていますが、やはり子どもは純粋にかわいいなと思います。いてよかったなって思います。
富永:もう1つ、これは社会運動の研究者として、身近な社会運動だなと思ったのは、自治体や職場に子育て制度が充実していることです。なぜかというと、過去の誰かがあげた声が制度を変えてきたんだろうなと思うからです。
例えば、自治体から出る子育て関連の手当にせよ、あるいは会社のワークライフバランス制度にせよ、先行世代が、「ここをもっと変えてよ」「これだけだと子育てのお金が足りないよ」など、自治体や国(に訴えかけてきたからできたものです)。
それこそ5年くらい前に、国会で取り上げられた『保育園落ちた、日本死ね!!!』という匿名ブログが話題になりましたが、ああいったものも、1つの運動なのかもしれないですよね。
私の勤務する大学では、先輩研究者が産休・育休中に本当に一部の用途ですが研究費の執行を認めるよう要求してくれて、それでシステムが変わったというのがあって。そういった「わがまま」ともとれるようなことを言ってくれたから、社会が変わったんだと、身をもって実感できたんですよね。
自分もがんばって後続世代のために「わがまま」を言おう。何か不満があって、それでシステム上変えた方がいいと思ったことは、変えられるといいなと思いました。
あと、出産する時に考えていたこととしては、「何もかも劇的に変わるんじゃないか」という不安だったんです。すごく不安だったけど、思ったほど変わらなかったのはいい点でした。
最近変わらなくてよかったなと思ったこととして、毎年夏にヨーロッパとか北米に3,4週間行くんですけれども、子どもと一緒に行けました。大変だったけど、やってみると、「これもできるんだ、あれもできるんだ」「まだやっていいんだ」と思えるので、良かったと思います。
富永:自分もいわゆる「若手」を脱して、もうちょっと上の世代の研究者になってきて、いろんなご依頼をいただくんですが、受けようと思ったものは全部お引き受けできています。機会が減ったという実感もあまりないです。そういう意味で、良くも悪くも変わっていないと言えると思います。
ただそれはあくまで、職場と家庭のサポートがあったからです。私が「諦めなくてよかったです。終わり。ハッピー」で終わる話にはしたくないんです。そうできない人が、この日本において男女問わずほとんどなわけだから。
周りは何をサポートすればいいのか。そう考えた時に、印象的だった言葉があります。
ある省庁から委員の依頼がありました。自分にとって初めてに近い仕事だったので、ぜひやってみたいと思ったんです。ただ、当然拘束時間も増えるし、それなりに責任も出てくるだろうと。
その時に、私の母親に「委員の依頼があって、どうしようか迷ってる」と言ったら、「サポートするからやってみれば」って言ってくれたんです。今日は会場に母親も来てるんですが、その言葉ははっきり言って意外でした。
母娘あるあるだと思いますが、母親とは価値観を巡ってずいぶん喧嘩してます(笑)。「もうあんたはママなんだから、こういうことしないの」とか、「子どもにこういうことはしないの」とか、母親は「べからず集」のように規範を押し付けてくるし、私もしょっちゅう口答えしてます。
だから、委員の件に関しても、母親からの回答として想定たものは、「そんなになんでもできるわけないでしょ」「ママなんだから、ちょっとは仕事セーブしなさいよ」だと思ってたんです。そうではないのがすごくうれしかった。そして、ありがたかった。
富永:そこから考えた社会運動的な観点としては、だいたい私たちって何か要求や意見を言う前に諦めてしまうことがけっこうありますよね。例えば会社に対しても、上司に対しても、家族に対してもこうしてほしいと思うんだけど、「どうせ無理だろう」と思ってしまう。
ただ、今回の母親とのやりとりを通して、言ってわかってくれることもあるし、「諦めなくていい」というメッセージが返ってくることもあるのかなと思いました。だから「なるべく身近な人に伝えてみる」ことを今後も考えていこうかなと思う機会でもありました。そういう意味で、ありがたい機会でした。
反省している点としては、その省庁の仕事にしても、指名して下さった方だって事情をわかっているわけで、「0歳児がいて子育てがあるので、今回は辞めさせてください」と言っても、来年か再来年かに、また機会をいただけると思うんですよね。
そう考えた時に、「今しかない」「いつまでに(やらなきゃ)」「後がない」とか、「だから全部やろう」というのは、それはそれで自分に課す呪いのような気がするんです。
自分はその呪いから、産休中、もしかしたら今でも解き放たれてないなと思います。だから「諦めなくていい」と思えたのはよかったけれども、「諦める」ということを、もっと軽く、怖くなくすべきなのかもしれない。「今は諦める。でもいつかまた機会はやってくる」という風に考えを変えたい。これが今の自分の課題です。
富永:最後のまとめになりますが、「出産とキャリアはトレードオフなのか」という問いにしました。問いではありません。トレードオフになるのはおかしい話だと思うんです。
「育児」は今のところ、パートナー同士、あるいは社会と世帯の間、会社と労働者の間で、分担ができつつあるようになっていると思います。
ただ、「出産」はどうやったって体に貼りついてしまう変化ですから、個人で負担を負わざるをを得ません。その負担を、社会というコミュニティを通じて軽くしていかなきゃいけないと思います。
子どもは社会の宝と言うならば、その宝を作り出す負担をひとりに負わせるのは(おかしい)。私みたく秘匿する人はそんなにいないとしても、サイボウズの女性社員の方々がされたようにキャリアを考えてライフコースを逆算しなきゃいけない精神的負担や、仕事なくなるかも、という不安をどう軽減していくか、組織や社会ががキャリアを支える仕組みを作り、かつ、個人が不安を打ち明けられる心理的安全性を形成していく必要がある。
当事者として声をあげるのはわがままかなと思いながら言いますが、性別や年齢、子どもがいる・いない、結婚してる・してないを問わず、「個人に負荷が課せられている」という状況を意識しながら、それぞれ当事者意識を持って家庭とか職場を構築する必要があるのかなと、諦めなくてよかった立場としては思います。
そういう考え方は、結果として女性の出産だけではなく、例えば心身に疾患や障害があって特別な配慮を必要とする方、国籍や性といった点でマイノリティで、マジョリティの人々と同様のライフコースやキャリアを送ることが難しい方など、その人たちが個人で負っているであろう精神的負担を、組織や社会の仕組みをを通じてみんなでシェアしあうことも考える上でも、おそらく重要になるはずです。
富永:自分個人として、今思えば、こんなに祝福していただけるなら、そして何も失わなくて済むとわかっているなら、「出産します」と言えたんだと思います。でも、事実として「失うことへの怖さ」が存在する社会だから言えなかった。
社会から必要とされなくなるかもしれないという不安がある社会だから、言えなかった。不安が言えるような社会になれば、出産の負担が個人に課せられない社会であると思うんです。
そういう意味で、不安をみんなでシェアできる社会にしたいという思いがあります。そのために大切なのは、出産する当事者、あるいは先程言及したような、種々の理由で精神的負担を負いがちなマイノリティ当事者だけではなく、その当事者を取り巻く多くの人々の働きも重要で。特に一般的には職場と家庭ということになる。
ためらいなく出産を打ち明けられて、私の職場の人たちや、仕事相手がしてくれたように、「フレキシブルに対応するよ」とか、「自分もやってもらったから、あなたも同じようにサポートするね」と言ってくれるような環境が望ましい。
そういう社会だからこそ、私たちは「35歳までに出産しなきゃ」とか「ここまでにキャリアを積まなきゃ」って、あくせく将来を逆算しなくていい。「出産するならこの仕事を諦めなきゃ」と諦めなくていい社会につながるんだと思います。
それは制度を変えるとか、その社内の空気を変えるような難しいことだけではありません。隣にいる、出産を予定している人や、何かの面でマイノリティで働きづらい人に、ちょっと言葉をかけたり、メールに一文添えてあげるだけで、ものすごく気持ちが楽になると思うんですよ。私はそれをこの1年間で、身をもって体感しました。
富永:ここで、なるべくCybozu Daysらしくしたいので、少しDXの話をさせてください。
まず私がDXの話を聞いた時に思い出すのが、「生活改善運動」という戦後の社会運動です。
私が今までキャリアのことで悩んでいたのは、属人性による要素が大きいと思ったんです。「自分がしなきゃ」と思い込んでしまうから、休めないし、心身の変化を打ち明けられない。多分それは出産に限らず同じで、「休みたくても替えが利かない」とか「自分がやらなきゃ」という思いに苛まれてしまう人は結構多い。じゃあ、仕事を「この人しかできない」ものではなくて、「誰でもできる」ものにすればいい。
社会運動におけるDXは、その属人性から個人を解放するツールだったんです。
1つおもしろい例を話させてください。戦前「お味噌」は、自分たちの世帯で、お嫁さんがお姑さんから作り方を習うものだったんです。かりにお姑さんの機嫌を損ねちゃったりすると、味噌の作り方を教えてもらえなくなるから逆らえない。
味噌は基本的にデイリーの食べ物ですから、教えてもらえないと、嫁としての役目が果たせないんです。だから、姑の権力が強くならざるを得なかった。姑の機嫌を損ねられない、姑と繋がってる夫にも逆らえない、ある種の家父長制が、意識として強まらざるを得なかったわけですよね。
これに対する社会運動として、各世帯に「お味噌の作り方を教えてあげましょう」という生活改善活動があった。
それによって、お嫁さんが自立できるようになるし、お姑さんの言うことを聞かなくてもよくなる。それによって、家父長的な権力性が家庭から少しずつ薄らいでいった。代々家を引き継いできた人々や、上の世代のもつ権力が小さくなっていった。
富永:そういう意味でDX、ここで言う「お味噌作り講習」は、お嫁さんの働き方を変えるし、人々の意識も変えているんです。つまり「嫁だから、お姑さんの言うことを聞かなきゃ」ではなく、自分で味噌を作っていい。お姑さんからパワハラまがいのこと言われても対抗できるかもしれない。
お味噌を作るのも、1人でマニュアルを見れば、人の言うことを聞くより断然時間も労力もかからない。工夫してより栄養価の高いお味噌を作ったりもできるし、可処分時間で、好きなことができるかもしれない。
だからDXは、時間も働き方も資源の配分も変えるし、なにより私たちの「古い意識」を変えてくれるんじゃないでしょうか。
オンラインツールを使うことで、出社って必ずしもしなくていいんだってわかったり、9時~17時で働くものだという固定観念から解放されるというのと同じだと思うんですよね。
これによって誰が助かるかというと、日々家庭や仕事において、ルーティンワークを課せられがちな、どちらかというと弱い、不安定な立場の人です。姑と嫁でいったら嫁だし、決裁権がある年長者と決裁権がない若手だと、断然若手だと思うんです。
ツールってただのツールでしかないだろ、っていう批判ってあるかもしれません。実際、生活改善運動に対して、「そんなチマチマしたことやっても、社会構造を根本的に変えられない」みたいな批判もあります。
ただ、生活改善運動がお嫁さんは家に属するものだっていう意識を変えたように、DXの導入もただ便利になるってだけじゃなくて、働き方、生き方に対する意識を変えられるんじゃないかと私は考えてます。
富永:ここから質疑応答ですね。よろしくお願いいたします。
山田幸氏(以下、山田):富永先生、本当にありがとうございました。裏で聞いていたんですが、言葉一つひとつに心が揺さぶられて、少し泣いちゃいました。
渡邉華子氏(以下、渡邉):泣きましたねぇ。
山田:ありがとうございました。申し遅れましたが、私たち本セッションシリーズを担当させていただいております、サイボウズの山田幸と申します。
渡邉:渡邉華子と言います。よろしくお願いします。
山田:よろしくお願いします。ちょっと時間が押してるんですけれども、最後までお話をうかがいたいと思います。事前にサイボウズ社員や公開のアンケートフォームで集めた質問を、私たちから読み上げさせていただきますので、富永先生、ご回答よろしくお願いします。
渡邉:よろしくお願いします。いきなり私たちからの感想と質問になるんですが、私たちはキャリアの悩みや不安の原因に、「残業ありき」「9時~18時が当たり前」「定時が当たり前」「毎日会社に出社しないといけない」という思い込みがあるんじゃないかじゃないかと考えています。
それを解決するツールとして、サイボウズのkintoneを提案しています。時間にとらわれず、無駄をなくして、効率的に働ける手段にkintoneがなればいいなと思ってるんです。
今日お話しいただいた中でも、ツールの活用がどんどん広がっていって、身近なところからDXが進んでいくと、今まで当たり前と思っていた思い込みがどんどん外れていく。そうして選択肢がちょっとずつ広がっていくといいなと、あらためて思いました。
渡邉:さて、そんな私たちからの質問なんですが、こういったセッションで、よく出産・育児・キャリアの話をすると、「パートナーが、夫が、旦那さんがいるだろう。パートナーは何をしているんだ。なぜ話に女性しか出てこないんだ。そもそも、そこがおかしいだろう」という意見が出てくるんですね。
まず私たちの不安を話したくて、私たちはこう考えてるという、「自分」を主語にした話をしたいのに、気づくと主語が「パートナー」になっている。ここにいないパートナーが責められている。どんどん主語と論点がずれていく現象がけっこうあるんです。先生も、こんな経験はないですか?
富永:私は幸いにしてこういうことを言われたことはないですが、これは男性の方から言われることですか? 女性からも言われること?
渡邉:女性からも男性からも。どんどん論点がずれて、家事分担の話などになっちゃうんですよね。
富永:それは女性の働き方を世帯の責任、ある種の拡大された自己責任に転嫁しているだけですよね。私個人、私の世帯の話でなく、皆が働きやすい職場、社会をつくるためにどうするかという話を私たちはしてるんですよね。その意味でまずおかしいなと思ったのが、1つ。
富永:それからあなたたちはパートナーについて、そんなつまびらかに(公表)しているのかというのが2番目の疑問になります。
例えば、出産しているからといってパートナーがいるとは限らない。シングルマザー・ファザーの方もいらっしゃいますし、ご実家で親御さんと子育てしている方もいるかもしれません。
そういうすべての人々が、その背景によらず享受できるシステムを作っていけるということが大事だと思っていて、パートナーがいるっていう前提に立つこともおかしいし、「家の中どうなの?」と聞くことは、明確にその人に、ある種の「カミングアウトの責務」を負わせている気もする。
こういう質問する人って、多分結構家事分担をしている自信があるから「あなたのパートナーは?」と聞いている可能性もあると思うんだけど、そこに踏み込むのは、本来の意味でダイバーシティじゃない。表面的にアップデートをしている感じがしますよね。
「平等なパートナーシップを築いていろいろ分担します」というのは大事だけど、その前提を他人の家庭の中に持ち込むのは、あまり多様性に配慮してないかなという気がしちゃいます。すいません、うまく言葉になっていないんですけども。
渡邉:いえいえ。どんどん家族も多様化して、会社も多様化していくと、こういう質問も減っていくかもしれないですね。
富永:世帯が「パートナーと当事者の二者が絶対にいる」という想定で言っているのは、ちょっと不思議な感じがしますよね。ある家庭像を想定して喋るのは、自分もやりがちなんですが。
渡邉:確かに、根本が変わっていくといいなと思います。では次の質問にいきます。
山田:これはいろんな人からいただいた質問なんですけれども、「もしかして富永先生、スーパーマンですか?」「私が富永先生のようにがんばれるかと思うと、自信がなくなりました」というお声をいただいています。いかがですか。
富永:これはある〜。自分は「1人ブラック企業」です。例えば職場で、先輩が遅くまでがんばってるから、後輩が帰れないって思っちゃうのが、いわゆる「ブラック」な環境ですよね。それをこの人にやってしまってるかもしれない。そういう意味で「がんばっている」というのは、実は誰にとってもいいことではない。
そのがんばリズムで、「俺が業績を出さなきゃ」「俺が仕事を失わないように頑張らなきゃ」とがんばる人が1人いると、他の人もがんばってしまう。結果として、そのコミュニティの空気を薄くしますよね。実際はそんなにがんばれる人、がんばりたい人ばかりではない。
そう考えた時に、自分の諦めなかった経験は、実はある種、自分の研究室のたとえば院生に対して、ネガティブな作用を負ってしまっているとは思います。
私がこれからやるべきことは、誰がやっても研究や社会に貢献するんだから、自分ひとりが頑張らなきゃって思わず、人と分け合う、協力し合うことですよね。聞いている人にこんなふうに思わせてしまったということは、自分のキャリアの築き方の失敗だったと思います。
山田:でも私たちは、富永先生のご経験を聞いて、少し勇気が出たんです。富永先生のような人がたくさん増えたり、そういった人を受け入れる環境ができることで、少しでもこう(「私はここまでがんばれない」と)は思わなくなるのかなと思いました。
富永:そうですね。多様なロールモデルの中の1つで、私のような昭和のサラリーマンのような女がいてもいいのかな。
山田:では、次の質問です。
渡邉:次の質問は、私たちと一緒に過去セッションに出てくださったサイボウズの50代男性社員、松川さんからの質問です。
「自分はどちらかというと、何も考えずに、『おめでたい話なのに言ってよ』と言ってしまうタイプかもしれません。『出産、母親』とキャリアの関係性で、不安に感じることが理解できなかったからだと思います。今後、富永先生のような方が周囲に現れた時には、どのような言葉をかけてサポートしたらいいと思いますか?」。
富永:ちょっと話がずれるんですけど、「おめでとう」って言われたくない人って、どこかで「あくまで私的なことで、大した話じゃないんだから、おおごとにしてくれるなよ」という気持ちがあると思うんですよ。自分のことなんですが。キャリアの不安ももちろんあるんだけど、「おめでとう」に怯えるのは、他人を私的なことに付き合わせてるようで負担感があるんじゃないかと。
だから特別視しないというか、「そんな大げさなことにはしないから、特段困ったこととか、何かしてほしいことがあったら言ってね」くらいのスタンスがいいんじゃないかと。
職場で特別な配慮を要する人のあくまで一人として扱うというか。例えば疾患を持っている人とか、介護などのケアの義務を負っている人に近い感じで、配慮を必要とする人だけど、特別ではないとして扱うのがいいのかなと思いました。
渡邉:特別視しすぎない。なるほど。ありがとうございます。
渡邉:では、次の質問です。
山田:こちらは20代女性で、結婚しているんですけれども、お子さんがいない方からの質問になっております。
「一般職として入社しましたが、経験を経ていくうちに総合職にも興味が湧き、挑戦をしたくなってきました。しかし、うちの会社の総合職は、全国への転勤がつきもの。突然の転勤を命じられてしまったら……と考えてしまって、一歩踏み出せずにいます。
社内にも女性で総合職に立候補するような話が今までなかったので、どのようにアプローチするといいのか、アドバイスをください」ということですが、いかがですか。
富永:これで思い出したのが、ある地域で研究職をやってる先輩が言っていたことで、「日本人は英語でしゃべる時に、すぐsorry(すいません)と言うよね」と。「先輩は言わないんですか」と言ったら、「いや、言わないよ」「だって、俺が英語でしゃべってあげているんだもん」と言うんです。
つまり、マイノリティがマジョリティに合わせてあげている。「それによって向こうだって、ダイバーシティの感性が身につくでしょ」と言うんです。
彼みたいな人ばかりならいいけど、私たちはすぐにそうはなれないですよね。ただ、マイノリティである自分が入ることによって、その総合職のコミュニティや、今までの当たり前が変わっていく。その存在として自分がいるんだと思えるようになれば、「総合職になりたいのは、私の勝手な野心や出世欲ではなく、もっと広く、社会を変える行為なんだ」と、ちょっとでも思えるようになるかもしれません。
山田:ありがとうございます。まだまだ質問したいことがたくさんあるんですけれども、お時間が迫ってきていますので、今の質問で最後にさせていただきます。富永先生、最後に、会場のみなさまに一言いただけますでしょうか。
富永:(今日の会場には)社内で勇気を出して「わがまま」を言う側の人もいるし、より決裁権があって、これから社員がこういうことを言ったらどうしようという、話を聞く側の気持ちで来てくださった方と、双方いらっしゃると思うんです。
社会運動って、「わがまま」を言うって、市民が政府に、労働者が使用者に敵対する行動に見えるけど、どっちも敵ではないんです。コミュニティを一緒に良くしていきたいという思いは変わらない。わがままを聞く気持ち、勇気を出して言う気持ちをうまく循環させて、いいコミュニティをDXしつつ作っていきたいですね。
渡邉:ありがとうございました。それでは、本セッションは以上となります。みなさま、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
サイボウズ株式会社
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