2024.10.10
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kintone AWARD 2022①株式会社後藤組 笹原尚貴氏(全1記事)
提供:サイボウズ株式会社
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笹原尚貴氏(以下、笹原):それでは株式会社後藤組の発表をさせていただきます。タイトルが「アプリを作らない担当者」となっております。当社は約2年ほどkintoneを使わせていただいているんですが、このような満席のすばらしい場に立てるぐらい、一定の成果を残しているんじゃないかなと自負しております。
ですが、導入の担当者である私。社内で唯一の担当者なんですけれども、アプリを作りません。それでも日々新しい業務改善がkintoneを通して生まれております。どうやってそういう状況を作ることができたのか、みなさまにエピソード形式で共有させていただければと思います。
株式会社後藤組は、山形県米沢市に本社があります。米沢牛で有名な場所です。主な事業としては、建物や道路を作っている総合建設業の会社になります。今年で創業97年目を迎えます。すごく歴史のある会社です。
続いて、私は笹原尚貴と言います。2015年に文系の大学を卒業して、後藤組に入社いたしました。それ以来、住宅の営業や土木の積算など、いろんな部署を転々としてきたんですが、ある日突然「データドリブン担当」という仕事を任されます。
このデータドリブン担当がどういう仕事なのかを説明する前に、こちらのグラフをご覧いただければと思います。当社の年代ごとの人数を表したグラフです。見ていただくと、10〜20代の若い社員がすごく多くて、30〜40代が少なくて、50〜60代がまた多いという構造をしております。
最近になって新卒を採り始めた会社です。各年齢構成的に見ると、会社の売上を支えているのは、当然ベテラン社員になります。ただ、5〜10年していくと、このベテラン社員は少しずつ人数を減らしていくわけです。そうなると、当然新卒社員を1日でも早く一人前にすることが、大きな経営課題になってまいります。
では、今まで後藤組の若手育成の環境がどうだったかと言いますと、まず仕事のやり方は各人が現場に出されて、自分で体で覚えるというのが当然です。そのため一人前の技術者になるには、最低でも5年必要と言われている業界でした。いわゆる「KKD」で仕事をしていたんですね。
KKD、ご存じの方いらっしゃいますか? 「勘・経験・度胸」で仕事をしているのが当たり前の業界でした。この状況を変えるのが、私に課されたミッションになります。それがデータドリブン経営です。
データドリブン、最近では耳にする機会も多いんじゃないでしょうか。当社では社員に対して、「データをもとに判断することです」と伝えています。これまでのように、一人ひとりが属人的に経験で仕事をするのではなく、データをもとにして仕事の判断をしていくことで、若手もベテランも関係なく、同じ品質の仕事ができるように組織を変えていくことが、私に課されたミッションになります。
それには当然もとになるデータが必要になってくるわけですが、みなさんちょっとイメージしていただきたいんです。山形の田舎の中小の建設業の現場って、どういう現場をイメージされますか? 現場はめちゃくちゃアナログなんですね。
紙のやり取りだったり、FAXのやり取りだったり、電話のやり取りだったり。アナログのプロセスが大量に残っています。まずはこの状況を変えるところから始めなきゃいけない。そしてデータが溜まるようにしなきゃいけないと思いました。
そこでkintoneと出会いました。導入を決めた理由は2つあります。1つ目がアジャイル開発になります。kintoneは、自分たち自身でアプリを作ることができます。なのでスピード感がある。もう1つが、作ったアプリを使って仕事をすれば、データが溜められる。この2つを理由にしてkintoneの導入をすぐに決定いたしました。
導入して1ヶ月くらい、担当者である私にとってはとても楽しい時間でした。というのも、先ほど自己紹介の中で申し上げましたが、私はいろんな部署を経験しているんです。なので薄く広く、どの部署がどういう仕事をしているかがわかるわけです。
なので1人で会議室に籠って、業務フローを書き出すわけですね。kintoneを使えば、プログラミングの経験ない文系出身の私でも、簡単にかたちにすることができます。このアプリさえ使ってもらえれば、データが溜まるようになる。そう思っていたんですが、現実はそう甘くなく、実際私が作ったアプリはまったく使われませんでした。
何でだろうなと考えるわけですが、その理由を当時こう思いました。「使ってくれないのは、自分にスキルが足りていないからだ」と。というのもkintoneは、ユーザーのコミュニティがめちゃくちゃ広いですよね。すばらしい会社さんの事例を目にする機会があります。それと一朝一夕で私が作ったアプリでは、技術的に雲泥の差があると思ったんです。
そこでプログラミングの勉強を独学で始めたり、kintoneアソシエイトという資格も取りました。また機械学習なんていうちょっとマニアックな勉強もしたりして、毎日毎日私にできることが増えていって、アプリをさらに量産していきました。
その結果、私は社内で「スキルモンスター」になりました。私の作るアプリはどんどん高度化していく一方、kintoneは社内でどんどん嫌われていってしまいました。
どうしたものかなと思っていたところ、社長から社長室に呼ばれたんです。あまりそういう機会はありません。(データドリブンがうまくいっていないという)タイミングもあって、「これは怒られるな」「ワンチャンクビになるな」と思いながら社長室に行ったんですが、社長から一言だけ、こう言われました。
「お前自身がアプリを作ろうとするな。現場の人自身が作るような仕組みを作れ」と。
そこでもう1回考えてみたんですね。なんで私が作ったアプリは使われなかったのか。それは私にはデータドリブン経営という大きな課題が与えられて、そのためにはデータが必要だから、kintoneを社員みんなが「使うべき」だと思っていたんですね。
これは他でもない、私の都合です。現場で働く社員にとっては、今のやり方でまったく困っていないわけですよね。「なんでそんな面倒くさいことをやらせるんだよ」というのは、当然の主張です。
そうではなく、私がやらなければならなかったのは「kintoneを使うと今の仕事がこんなに便利になるんだよ」というメリットをしっかり伝えることだったんです。
そのためには、私の薄い知識で作ったアプリを現場に押し付けるのではなくて、現場の人と一緒になって作る。もしくは現場の人に作ってもらえるような環境を私が作る。「それがお前の仕事だよ」というのが、社長が言いたかったことだったんです。
方針を転換しました。私はもうアプリを作りません。現場の人に作ってもらえるようにするために、まず私のせいで嫌われてしまったkintoneを、もう1回知ってもらうところから始めようと思いました。リスタートを切りました。
そこで1つだけアプリを作りました。それは「日報アプリ」というすごくシンプルなものです。当社では業務日報を毎日出すルールになっているんですが、このアプリ1個でも使ってもらえれば、kintoneの良さのエッセンスは十分伝わるだろうと思ったんです。
ただ私は、もう1つ学んでいます。それはDXや働き方改革といった、いわゆる組織変革。今目指している会社さんも多いと思います。特にうちのような中小企業でその矢面に立たされるのは、私のような若い社員だと思います。その社員がいくら自席でパソコンをカチャカチャやったって、組織は変わらないのです。
組織を変えるには、周りの人間を巻き込まなきゃいけない。特に幹部と呼ばれる実行力のある人たちの協力が不可欠だと思いました。うちにもいい感じの幹部がいます。この中にも、一部DXとかに興味を示してくれる方がいます。その人のところに行って、「今度、日報アプリを新たに展開します。あなたの部署だけでもどうか使ってください」と、事前にネゴをいたしました。
なぜかと申しますと、一部の部門でも使えば、良さは絶対に伝わる(と信じていたからです)。(日報アプリの)報告が社長に行きます。そしたら社長が「他の部署はなんで使わないんだよ」と、いわゆる“福音”が下るだろうと思ったからなんですね。
実際「日報アプリ」は、1ヶ月足らずで全社員が使う共通の道具になりました。特に若い社員から喜ばれました。若い社員にとってみれば、日報を書くためにわざわざ事務所に戻って、パソコン起動してというのが、もう生理的に無理な世代なんですよね。
社員に「1日1回kintoneの画面を開く」という習慣が生まれました。日報は毎日出すルールになっていますから、この習慣をもっと強めたいなと思いました。日報以外にも全社共通で使わなきゃいけない道具があります。例えば経費の精算とか、うちでは「サシ飲みしました」という報告もするルールです。それがだいたい50種類弱あったんですが、これらを一気にkintoneに移行しました。
これによって、社員にとってkintoneは、仕事をする上で避けては通れない、「なくてはならないもの」に変わっていきました。そうすると徐々に社内からこんな声が挙がるようになってきました。
「笹原さん、こんなアプリを作ってみたいんだけど」「こういうデータを取りたいんだけどどうすればいいか教えてくれる?」。作ってみたいという相談が来るようになったんです。ここぞとばかりに、社長から言われていたミッション(を実行します)。
社員に作らせる仕組みを3つ考えて、即実行いたしました。その3つをご紹介いたします。
1つ目が「社内勉強会の開催」です。まずは知識ありきですよね。当社ではkintoneのアプリの作り方だけじゃなく、そのデータをどう活用するかというところを、勉強会形式で定期的に開催しております。ポイントとしては、「その会で一番成績悪かった人が次の講師やってね」というルールになっております。
2つ目が「データドリブン大会」です。これは年に1回、全社員が参加するイベントになっております。社員を数名ずつのチームに分けます。そしてそのチームごとにkintoneの活用であったり、データの活用についてのプレゼンをし合います。社員同士が良かったと思うチームに投票し合って、まさにこんな感じですよね。プレゼンに投票し合って優勝チームには賞金が出るという仕組みになっております。
3つ目が「社内資格制度」です。サイボウズさんもkintoneの公式の資格を用意されていますが、それとは別です。あくまで後藤組の中でIT人材に求められるスキルを定義いたしまして、段階的に資格試験として用意しております。これもステップアップしていくごとに奨励金が贈られるというものになります。
私の仕事はアプリを作ることではなくて、この仕組みを回していくことです。その結果、私1人が作っていたら到底かなわないような量と質のアプリが、社員からどんどんどんどん発生してきました。一部になりますが事例をご紹介いたします。
まず一番変わったのは現場です。現場から紙の書類がなくなりました。例えば、通称「創意工夫」と呼ばれる書類があります。これは「こういう工夫をしました」と現場でお客さまに提出して、お客さまから評価をいただくという大事な書類なんですが、Excelの決まった様式でした。
そのため、代理人、技術者ごとにExcelファイルをしまっておくわけですが、これをkintoneに変えました。決まった様式がありますので、当社ではRepotoneU(レポトンユー)というプラグインを使って様式出力をしております。
これによって、kintoneはクラウドサービスですから、若手社員が自分の現場で使いたい「創意工夫」を探せるようになったんですね。
次は「AIによる査定」と書いておりますが、当社は不動産物件も扱っております。お客さまからお預かりした物件データはkintoneの中に保存しているんですが、そうするとkintoneの中には「どういう物件がいくらで売れた」というデータが溜まっていくことになります。
これを自社で作った機械学習のモデルと組み合わせまして、レコードが保存された時にAIが「これぐらいでいかがですか」と提案してくれる仕組みを導入しております。これによって若手の営業マンでも、お客さまに「この物件、これくらいでいかがでしょうか」というご提案ができるようになっております。
続いて新卒採用です。学生からのアンケートも、フォームブリッジを使ってWebフォームで回収します。そのデータはkintoneの中で、アーセスさんのKANBANというプラグインを使わせていただいて進捗管理をしているんですが、それだけではなく、社員自身が作ったダッシュボードにも同時にデータがつながっています。ここで各プロセスの進捗状況や学生の状況が、リアルタイムに分析可能になっております。
このような取り組みを続けてきた結果、アプリがたくさん作られただけではありません。残業時間は1年前に比べて20パーセント削減されました。その反面、営業利益は44パーセント増。まさにkintoneの利用が会社の数字を変えてしまいました。
今後としては、まだまだ社内に取り逃しているデータがあります。そのデータも今見ていただいたように、本来は将来的に資産になりうるデータだと思っています。
当社ではkintoneを箱と捉えて、今まで取り逃していたデータをkintoneの中に蓄積していきます。蓄積したデータは、社員自身がAIやダッシュボードを使って活用していく、「データドリブン経営」を実現してまいりたいと思います。以上になります。ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
平川紗夢氏(以下、平川):笹原さま、ありがとうございました。それではまず笹原さまのZoom応援団のみなさまをお呼びいたしましょう。みなさん見てくださっていますね。何名か会場にいらっしゃるみたいなので、どこかで見ているのかなと思います。
笹原:ありがとうございます。
平川:ありがとうございます。ではここで、笹原さまに少しだけ質疑応答させていただければと思います。
笹原さまの発表の中で、冒頭に「kintoneアプリを作ったのはいいけど使われなかった」というエピソードがありました。これはkintoneユーザーさまのお悩みあるあるなのかなと思いますが、その中で社長さまからの「仕組みを作りなさい」というアドバイスは、かなりターニングポイントになったと思います。そのへんはいかがでしょうか。
笹原:そうですね。それまでは導入も決めたので、私が全部やらなきゃと思ってやってたんですけど、社員は無関心だったんです。やはり社員自身が作ると、自分の作ったアプリですから、当然今の問題解決とかにも貢献しますし、社員も愛着が湧くみたいで、自分で作ったアプリを使ってくれるようになりました。
平川:工夫が込められていたというところですね。ありがとうございます。それでは笹原さまの登壇は以上となります。ありがとうございます。
笹原:ありがとうございました。
(会場拍手)
サイボウズ株式会社
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