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COM-PJ 後日談(全1記事)

2022.12.21

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社会起業家がぶつかる、課題解決とビジネスの両立の壁 起業支援者が語る、1人で突破できない時の選択肢

提供:京都リサーチパーク株式会社

京都リサーチパーク株式会社と株式会社talikiが主催する、25歳以下の社会起業家支援プログラム「COM-PJ(コンプロジェクト)」。その3期生16人の最終ピッチが行われ、株式会社Perma Future代表の池田航介氏がKRP賞を受賞しました。 本記事では、KRP賞受賞者の池田氏と「COM-PJ」の主催者兼メンターの京都リサーチパーク・井上雅登氏、そしてtalikiの宇都宮里実氏による後日談の模様をお届けします。KRP賞を受賞した池田氏の新規事業や、「COM-PJ」ならではの特徴、そして担当メンターによる1on1の効果などが語られました。

社会起業家支援プログラム「COM-PJ」卒業後の変化

井上雅登氏(以下、井上):池田さん、「COM-PJ」の第3期卒業、そして最終ピッチでのKRP賞の受賞おめでとうございます。参加前と比較して、「COM-PJ」の3ヶ月のプログラムを通してご自身の事業モデルにどういった変化がありましたか?

池田航介氏(以下、池田):ありがとうございます。参加前は「これでやっていく」という確証を持てていない段階でしたが、プログラムを終えた今は「よし、これにベットしよう」と、自分の気持ちがはっきりとしています。ビジネスモデルが大きく変わったわけではありませんが、この意思決定ができたことが一番の大きな変化だと思います。

井上:ありがとうございます。ちなみに、株式会社Perma Futureは、もともとどういった事業をやられていたんでしょうか?

池田:もともとは、エコビレッジ(持続可能性を目標としたまちづくりのコンセプト)から生まれた、地球環境にも自分の体にもいい「EARTH MIND」という健康茶事業をやっていました。

「COM-PJ」最終ピッチでの池田氏


「COM-PJ」では、Perma Futureの新規事業として、農家さんの人手不足解消とコロナ以降話題のワーケーションを組み合わせることで通常の半額ぐらいでワーケーションができる「No農No LIFE」、略して「ののの」というサービスをやっていました。

全国各地の農家を回って気付いたこと

井上:Perma Futureを起業した理由も簡単に教えていただけますか?

池田:僕は今、北海道大学大学院にいますが、明治大学の(学生の)時に日本の農業を強くしたいと思って、全国各地のいろんな農家さんを回って農業を学ぶ旅をしました。その時に、なりわいとして農業をやっている人たちが幸せそうに見えなかったんですね。すごく辛そうで、「息子には継がせたくない」と言っていたり。

その中で出会ったのが、エコビレッジという自給自足の暮らしをしている村で、ここの「なりわいとしての農」ではなく「暮らしとしての農」を追求するという考えに共鳴を受けたんですね。

それで、パーマネント(永続性)とアグリカルチャー(農業)を合わせた持続可能な農業を意味するパーマカルチャーをもじって、Perma Futureという団体を2年前に作り、今年1月に株式会社として法人登記して活動しています。

井上:社名の由来をちゃんと聞くのは、初めてだったかもしれません。

池田:暮らしとしての農を広げていきたいというのが原点なので、今回の「農業×ワーケーション」も、農への距離をできるだけ縮めたいという思いがかなりありました。受け入れ先は農業をやっている農家さんで、自分たちのふだんの暮らしの中に、少しでも農の観点を取り入れていこうという思いでやっています。

池田氏が「COM-PJ」参加前に立てた目標

宇都宮里実氏(以下、宇都宮):「COM-PJ」の参加動機はどういったものだったんですか?

池田:株式会社talikiの中村多伽さんのつながりで、有楽町マルイに「EARTH MIND」のポップアップストアを出させてもらったんですけど、その時にこの「COM-PJ」が「めちゃめちゃいいよ」と聞いていたんですよ。

「あ、そうなんだ~」と思って、うっすらと頭の片隅にあった時に、Twitterのタイムラインに「COM-PJ」が流れてきて、「あ、これ言ってたやつや」と思って(笑)。

その時は「EARTH MIND」をメインでやっていたので、今の自分のフェーズに合うかなと若干不安もあったんですけど、せっかくの機会だし、「農業×ワーケーション」も伸びそうだからやってみようと思って、応募しました。

宇都宮:なるほど。ちなみに「COM-PJ」で当初達成したかった目標はどういったものでしたか?

池田:「農業×ワーケーション(ののの)」がいけるという確証がなかったので、この3ヶ月間で「ののの」というサービスをちゃんと回せるようにしたい。事業計画を作って、仮説検証もしっかり終わらせてベットしたいという目標を掲げていました。

終わってみれば、意外とちゃんと達成できた感じになっています。

宇都宮:よかった! ありがとうございます。

池田:こちらこそありがとうございます。

井上:「ののの」がしっかりと進捗するきっかけになれたことは、私たちとしても3ヶ月間一緒に走れてよかったなとすごく思っています。

担当のメンターが毎週ハンズオンで伴走支援

井上:ここで、あらためて宇都宮さんから「COM-PJ」がどういったもので、他の支援プログラムとの違いなどを運営視点から話していただき、その後、池田さんに実際に参加してみてどうだったかというお話をうかがいたいと思います。

宇都宮:「COM-PJ」は2022年からKRP(京都リサーチパーク)さんと私たちtalikiとで運営させていただいて、基本的に25歳以下で、これからビジネスを始めたいという方や創業1年未満の方を対象にした社会起業家支援プログラムになります。

「COM-PJ」の特徴は、talikiの思想が入っている部分もけっこうありますが、頼り先を作ったり、ステークホルダーを拡大させるといった、起業をするためのベース作りをすごく大切にしています。

もちろん事業化やその拡大も目標ではありますが、まずは自分たちが頼れる環境を作ることが、私たちのベースにある思想です。

他の支援プログラムとの違いに関しては、弊社も豪華なメンターやゲストの方に来ていただきますが、外部の支援プログラムだと単発的にすごく豪華な方のメンタリングを受けられたり、時間をかけて合宿を行って自分自身や課題と向き合ったり、深掘りするようなプログラムがあると思います。

弊社もそこは大切にしながら、必ず担当のメンターがついて、毎週ハンズオンで伴走支援をしながらアウトプットにも常に寄り添うところが特徴かなと思っています。

井上:ありがとうございます。池田さんは他にもいろいろな起業支援も見てこられたと思いますが、「COM-PJ」のプログラムはいかがでしたか?

池田:今宇都宮さんが言われたように、本当に毎週、僕の場合は井上さんが1on1メンターとして入ってくださったんですよね。すごく寄り添って自分自身の課題について聞いてくれて。

他のアクセラやビジコンだと、月に一度偉い人と話すみたいな感じで単発的な相談になってしまいますが、「COM-PJ」は毎週相談を受けられるので、些細な課題も聞いてもらえました。「こんなことを聞いてもいいのかな」といったことでも、すごく寄り添ってくれるし、めちゃくちゃ自分の頭の中を整理して分解してもらえた感じです。

その寄り添い方とかハンズオン体制がめちゃめちゃいいのが、「COM-PJ」で実感したところですね。

1on1メンタリングの効果

井上:今言われたように、私が池田さんの1on1メンターを務めさせていただいたんですが、私から見た池田さんの印象は、さっき起業の経緯でもお話しされたとおり、農業に対する思いがすごく強くて、かつ行動力もすごくある。

こういったところにニーズがあるんじゃないかとか、これをやってみたいという部分に対して、しっかりと進んでいけるタイプの人だなとずっと思っていて、1on1では私は情報や考えなどの整理を意識してさせていただいていました。

池田さんから見て、1on1メンタリングの良かった点や、事業を進めていく上で役立ったことなどがあれば、教えていただけますか?

池田:さっきも言ったんですが、めちゃくちゃ頭の中が整理されました。僕はふだんから、「こうかもしれないし、ああかもしれないし、こっちのリスクもある。でも、こっちが正しいかもしれない」という感じでいろんな考えが浮かんで、自分でもわけがわからなくなって動けなくなるんですよね。結果的に何も進まないし、エネルギーを無駄に使っているだけみたいになるんですけど。

僕が覚えているのは、最初の頃の井上さんのメンタリングで、僕が口にしたことに対して「こういったことで悩んでいるんですね」と、めちゃめちゃ整理してくれたんですよ。「まずこれを仮説検証したら、どっちに行ったらいいかがわかるよね」みたいなことを言われて、「そうだ。とりあえず今はこれに集中しよう」と頭の中が整理されたのが、僕の感動ポイント1位です(笑)。

「COM-PJ」最終ピッチでの池田氏


いろんな悩みを一つひとつ客観的に見て、整理してくれた。それは僕の中ではすごく価値のあることで、今でも欲しいと思っています。

井上:ありがとうございます。

シード期の迷いを解消する「選択肢」の作り方

井上:また、宇都宮さんにお聞きします。池田さんは、整理できればやることが決まって進んでいけましたが、シード期のスタートアップなども同じように迷うと思うんです。その時に、何をすれば課題が解決されるのか。もしくは「COM-PJ」では、他にはこういった事例もあるみたいなお話をいただけますか。

宇都宮:そこは難しいですよね。でも、「COM-PJ」の運営メンバーが重視しているのは、参加者の方の特性やその人の意思みたいなところです。

ソーシャルビジネスで成功するには「この方法だ」というものがあるわけではありません。成功のかたちも人それぞれですし、その人がどういうスタンスで事業をやっていきたいかにもよります。

最初は、その人の性格や特性、あるいはよく使う言葉から、何にモチベーションがあって、何が苦手分野なのかを切り分けて、いくつかの選択肢の中から進めるといったフォローを行っています。

その選択肢は、例えば実際に課題を抱えている人にたくさん会うとか、現場に足を運んで実感値を持つとか、同じ領域でビジネスをやっている他社の事例を調べまくるとか。そうではなく、物作りやプロダクト作りが好きな人は先に作ってみようとか。

「これをやろう」と与えるのではなく、その人の特性とかその人に向いてたやり方を一緒に模索していくことは難しいことですが、私たちがいつも考えているところですね。

井上:本当にそこは大事だと思います。私たちも運営者としてソーシャルビジネスのサポートを考えた時に、このやり方でやったら成長するだろうという型に決めた支援方法もゼロではないと思いますが、大事にすべきなのはやっぱり「本人がどういったゴールに向かいたいか」だと思うので。

その人の特性の中でどういうアプローチ、どういう打ち手でやっていくのが、本人にとってもベストな道かをちゃんと見極めながらサポートしていくのが、ソーシャルビジネスを社会実装していくにあたって、私のようなサポートする立場の人が大事にするポイントなのかなと、今のお話を聞きながらあらためて感じました。

メンターの参加者への接し方

池田:僕も聞いてみたいんですが、井上さんもいろんな人のメンターをやっていく中で、僕に対するやり方と他の人に対するやり方って違ったりするんですか?

井上:そうですね。私はプログラム期間中は3人の担当をさせていただきましたが、三者三様な感じだったと思います。というのが、社会課題解決を目指す想いはみんな一緒だと思いますが、人によって今の事業の状況、課題の解像度が違うからです。

私はそれぞれの人の現状や特性、もしくは課題に対する粒度などを聞き、それに合わせながら1on1をしていました。ただその中でも、池田さんは思いも、進んでいきたい道もクリアだったので、私のサポートというより、池田さん自身の良さがすごくあったと思います。

池田:伴走ってすごい大変と言うか、すごいです。

(一同笑)

井上:シードの時期は、人・物・金を含めていろんなものが足りないと言われますが、個人的にはその人に合ったサポートがもっと世の中にあったら、前進できる人も増えるのかなと思います。

そういった意味でも、今回ご一緒できたことはすごくうれしく思っています。

社会課題解決とビジネスの両立の難しさ

井上:池田さんはプログラムを終了され、最終ピッチで受賞もされ、確か「日経ソーシャルビジネスコンテスト」でも一次審査を通過されたり、イベントをやられたりと、いろいろとステップアップされていると思います。

KRP賞の表彰写真


今後、「COM-PJ」のコンセプトでもある社会課題解決とビジネスの両立について、どうのように事業展開をしていきたいとお考えですか?

池田:僕は社会課題には「ビジネスで解決できる分野」と「ビジネスで解決しづらい分野」があると感じていて。ソーシャルビジネスでやれるところをやっていくのが、めちゃくちゃ大変だけどおもしろいと感じています。

今回の「農業×ワーケーション」のサービスについては、自分の思いとビジネスの両方を考えた上で、これだったら社会課題も解決できるし、これを広げた世界の先にもっといい社会ができるはずだという確信を持ちながらやっています。

もう1つの「EARTH MIND」の健康茶事業は、めちゃくちゃ僕の思い重視で「大量生産をしない」と言い切っていて、ビジネス的に見るとスケーラビリティがまったくないので、あんまりうまくないんですよね。拡大してしまうと「暮らしとしての農」ではなく「なりわいとしての農」に変わってしまうので、拡大してはいけないビジネスなんです。

ビジネス的な視点とソーシャル的な視点を2つ備えた上でやっていかなければいけないというハンデがあるので、すごく難しいんです。答えになっているかわかりませんが、広げた先に、本当にそれが課題解決につながっているのかをめちゃくちゃ考えてやらないといけない分野だなと思っています。

井上:個人的には今の話は2つの大切な視点があったと思います。ビジネスとして「EARTH MIND」を広げていった時に、本当にそれがソーシャルインパクトとして、社会課題解決につながるのかという視点と、逆に新たな社会課題を生むんじゃないかという視点。その視点を持つのはめちゃくちゃ大事だなと思います。

ソーシャルビジネスを「持続可能」にするために必要な視点

井上:宇都宮さんは今の池田さんのお話をどのように感じられますか?

宇都宮:利益を追求する通常のビジネスと違い、社会課題解決が目的になるのがソーシャルビジネスで、そもそもソーシャルインパクトの指標を作ることが難しいという前提があると思います。

社会課題解決とビジネスはどちらも大切ですが、社会課題に取り組む時、サービスを届けたい当事者や受益者に支払い能力がない場合もあります。シンプルに物を売れば買ってもらえるというものではないので。

どういうビジネスモデルを組み立てて、ステークホルダーと連携して利益を出すかという部分を、池田さんは実感値を持って模索しているんだろうなとあらためて思いました。

あとは、ソーシャルインパクトを出す手前の話というか、ソーシャルビジネスに携わる前提とか初期フェーズの話として、私がすごく思うのは人的資本のことです。

通常のスタートアップでもけっこうあると思いますが、資本がない状態で思いを強くビジネスを始めると、社会にとっていいことをしたいのにどんどんやっている自分が疲れてくるみたいな。

利益を出すのが難しい状況に疲弊するフェーズがすごくあると思うんですよね。働いてる自分たちがウェルビーイングではない、持続的ではないという状況って、けっこう起こり得ると思っていて。

やっぱり利益を出すことも本当に重要です。利益を出さないと、人も確保できないですし、持続的に働けません。ヘルシーに働くこともtalikiのすごく大切にしたいところですし目標でもあるので。

自分たちと、関わる人たちが健やかに持続的に働き、社会課題解決に取り組んでいくことが重要なところだとすごく思います。ここはジレンマのあるところですね。

井上:そうですよね。池田さんとの1on1の中で、組織の中のメンバー個々人のカルチャーフィットの話になった時に、ソーシャルインパクトに対してはめちゃくちゃ思いの強いメンバーが、どこまでビジネスにおいてもモチベーションを持ってくれるかといった部分で、組織の在り方に悩みがあったという話を聞いたことを思い出しました。

コミュニティとしての「COM-PJ」の価値

井上:ソーシャルインパクトとビジネスの両方が前提にあるとなった時に、自分たちの事業、会社、組織をどう持続的にやっていくかという視点を持つことが本当に大事ですし、そのための創意工夫がすごく必要だと思います。

ただ、その部分はなかなか1人で考えるのが難しい領域でもあるので。私も、事業として持続的にやっていける状態になるよう調整してあげることが大事だと思いながら、1on1をしていました。

宇都宮:そうですよね。外部から客観的に現状を見てフィードバックをもらうのもそうですし、いずれはそういうバランスをとってくれるメンバーを中に持てると理想ですよね。

池田:本当に今でも伴走してほしいという。

宇都宮:今でも(笑)。

井上:いつまでも伴走は……(笑)。

宇都宮:いつまでも(笑)。でも、いつでも、待ってます(笑)。

池田:ありがとうございます(笑)。

井上:事業はこの3ヶ月間のプログラムで終わるわけではなく、その後もずっと続いていきます。続いていくからこそ、今回の「COM-PJ」の16人の参加者がコミュニティとして互いに進捗を報告しあったり、ナレッジを共有しあったりすることで、ソーシャルビジネスを社会に実装する人が1人でも増えることを私たちは願っています。

「COM-PJ」最終ピッチ時の集合写真


これからも変わらず、悩んだことがあったら、いや悩んでいなくても、気軽に相談してもらえたらうれしく思いますし、もし4期をやるとなった時は、先輩として登場してもらえたらなと思いますので、よろしくお願いします。

池田:ありがとうございます。ぜひ頼らせていただきます。

宇都宮:こちらこそ、頼らせていただきます。

井上:ありがとうございます。それでは、池田さんとのCOM-PJ後日談は、こちらで終了したいと思います。ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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