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銀の弾丸はあるか? データ活用を組織展開する方法(全2記事)

2022.09.28

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経営層も認識していなかった「重要なKPI」に気づけた データ分析組織を立ち上げた責任者が振り返る、苦労と利点

提供:株式会社データミックス

企業が本格的にデータ活用を行う際は、データ分析の手法やプログラミングとは別に、「どのように組織を動かすか?」という視点が必ず必要になります。今回は「データサイエンティスト育成講座」の卒業生で、株式会社ゆこゆこでデータ分析組織を立ち上げた越智祐輔氏が登壇。組織を巻き込み事業に貢献していくプロセスを、株式会社データミックス講師の立川裕之氏がインタビューしました。前編では、データ活用を組織的に運用していくために、最初に取り組んだことについて答えます。

シニア層を中心とした約800万人の顧客に向けた事業戦略

越智祐輔氏(以下、越智):まず最初にあらためて、本日は貴重なお時間をいただきまして、本当にありがとうございます。みなさんが何かしらの気づきを得られるように、がんばっていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

最初に会社の紹介を簡単にさせていただき、その後、自己紹介に入らせていただきます。まず、私が勤めている会社「ゆこゆこ」の事業をご紹介します。大きく「宿泊予約事業」と「シニアマーケティング事業」の2つですね。

宿泊予約事業はB to B to Cのビジネスで、当社のお客さまと契約宿泊施設をつなぐプラットフォームです。当社のお客さまが施設に支払われた宿泊代金から手数料をいただくもので、いわゆる旅行会社ということになります。

旅行と聞くと、みなさんはじゃらんや楽天のようなオンラインで予約できるサービスを思い浮かべると思います。当社の場合はオンラインだけでなく、オフラインでの顧客接点をとても大事にしています。

具体的には紙のカタログを作ったり、それをご自宅にお届けして電話予約をしてもらっています。「このご時世にアナログなことをやっているな」と思われるでしょうが、それには理由があります。

当社のお客さまはほとんどが年齢層が高いシニアで、登録数は約800万人ほどいらっしゃいます。こういった方々にご利用いただきやすいサービスということで、あえてこのようなアナログ接点を取っています。

ただアナログと言っても、その裏側では各ポイントでデータを取得し、データ活用を進められるような状態になっています。

シニア層向けマーケティングのデータ活用

越智:そして、もう1つの事業がシニアマーケティング事業です。B to Bのビジネスで、対象は宿泊施設ではなく一般企業向けのサービスになっています。

こちらは、私たちが持っている顧客基盤を使って、シニア層をターゲットにマーケティングをしたい企業さんの活動を支援するというビジネスですね。これら2つの事業のデータ活用に、私たちデータサイエンスグループが貢献しております。

続きまして、自己紹介です。あらためまして、越智祐輔と申します。ゆこゆこの経営戦略室データサイエンスグループのマネージャーを務めさせていただいております。

入社は2004年で、社歴18年のプロパーです。この後、簡単な職歴も少しご紹介させていただこうと思うんですが、営業を10年やって、その後マーケティングを4年、それから経営戦略室を4年ということで、ビジネス畑中心のキャリアを築いています。

簡単な職歴ですが、まず営業時代は、宿泊施設の経営陣に対して課題をヒアリングして、解決するための企画立案・集客をしていました。その後のマーケティング時代は、幅広く職務に携わっていますが、顧客の分析や調査、企画、メディアのプロデュース、プロモーション活動を経験しています。

この頃に今のデータサイエンスグループの基となる、データベースを直接参照してデータ分析を行う業務を経験させていただくことが増えました。あるいはプロジェクト推進に必須となる、各部署と信頼関係を築いて部門を横断して物事を進める経験を積んでいきました。

その後、経営戦略室に異動して、データ基盤を整備するプロジェクトをリードし、完成後はそれを中心としてデータ活用を進めています。そして、データ活用を持続可能な取り組みにするために、組織を立ち上げて運営しています。

最後に、データ分析組織の取り組みは大きく2つあります。1つはデータ分析、もう1つはAI活用です。データ分析では、経営陣の意思決定の精度向上を図るというところで、間接的に収益に貢献する活動をしています。AI活用では、データを用いてより直接的に収益に貢献する取り組みをしています。今日はよろしくお願いします。

組織でデータ活用をするために、最初に取り組んだこと

立川裕之氏(以下、立川):よろしくお願いいたします。今日はテーマを3つ用意しています。まず、「データ活用を組織的に推進していくために一番最初に何から始めたのか」ということですね。越智さん、実際どんなことから始められたんですか?

越智:このご質問にお答えするために、ある程度骨組みを作ってみましたので、そちらをガイドに進められればいいかなと思っています。まず、第1の問いに対しては大きく4つぐらいのお話があるかなと思います。最初はデータウェアハウスとBIの基盤構築からお話しさせていただければと思います。

「なぜこの基盤構築に取り組んだのか」という目的は、大きく2つありました。1つは顧客管理をするための実装、もう1つは経営数字のガバナンスという観点の話ですね。

1つずつ簡単にご紹介させていただきますと、まず1つ目の顧客管理の実装についてです。当時、新たな成長戦略として顧客管理の必要性が認識されていたという事情があります。そこで、この顧客を評価するための軸を検討、決定してから計画策定を行っていました。

ただ、運用フェーズまで行くと、毎回アドホックで抽出するのはかなり効率が悪くなるので、集計の自動化が必要になってきました。

立川:なるほど。

越智:そして、もう1つ経営数字のガバナンスに関しては、これまで経営に対するレポーティングの数字が、各部署によって根拠や算出ロジックが微妙に違っているところがあり、なかなか整合性を取りづらかったり、同じ数字を追い掛けづらいという課題がありました。

そこで「全員が同じ場所を見て評価できるものが欲しいね」といった意味合いもあり、基盤の構築をやっていきたいというところで、プロジェクトを立ち上げることになりました。

大変だったところは、要件定義とスコープの調整

立川:特にうまくいかなかったポイントとか、あるいは結果論としてうまくいっているものの、「ここが実はすごく大変だった」というポイントがあれば、うかがっておきたいんですけれども。

越智:リスクはある程度潰して動いていったので、一応成功したんじゃないかとは思っておりまして。大変だったポイントをお話しさせていただくと、大きく2つあると思っています。

1つ目は要件定義ですね。中身を詳細に把握していく必要があると。データの基盤を作るために、自社のデータの構造をきちんと理解していく必要がありました。ここの理解度を深くすることが非常に重要だったので、かなり時間をかけました。

2つ目はスコープです。先ほどの要件定義にも関わるかもしれないのですが、いざ基盤を作ろうと思った時に、せっかく作るのであれもこれもと欲張ってしまって、スコープが広がることがありますよね。

スコープが広がるということは、コストが上がり納期も拡大してしまうので、これを適切な範囲に収めて着地させるのが工夫のしどころだったのかなと思います。

広がり過ぎたスコープを着地させる方法は「優先順位づけ」

立川:スコープが大きくなった時は、どうやって小さくしたんですか? やっぱりニーズがあってスコープが大きくなったと思うので、実際はなかなか着地がうまくいかないのが常かなと。

越智:まずは最低限のところに立ち返ること。さらに、派生したところでどこまで着地するかという話で、今回最低限のスコープとして求めていたのは、「顧客管理の軸を実装させること」と「経営のレポーティングができること」でした。

ただ、そこからいろんなツールに連携させたいといった話もあって、スコープが広がってきたんですね。ツールの連携に関しては、別に連携しなくてもある程度、各ツールでデータを集計して解釈することが可能なので、そこはオミット(除外)させたという、優先順位のつけ方でした。

逆に、最低限で済まさなかったのは、データマート(企業に蓄積された膨大なデータの中から、目的に応じて一部を取り出したデータベース)の構築などの話です。

なぜここにこだわったかと言うと、基盤を作った後に実際に分析活動をするのは、僕ら分析者ですよね。分析者が実際に自分たちで効率的に手を動かして集計結果をまとめるために、この基盤構築におけるデータマートの存在は非常に重要だったわけです。

BIで言うデータマートにはいろいろな粒度があって、例えばある程度数字を集約した後のものをBIに連携させるだけという役割もあるかと思います。

そこよりさらに手前、ほとんどRAWデータに近い部分の実装にこだわることによって、自分たち自身がデータマートを使って、リリース後に効率的に分析できるようになりました。

なので、最低限の経営陣が達成したい目的を実現させることが1つ。そしてもう1つは、このデータウェアハウスを使って、分析者がいかに効率良く業務を推進できるかという点。この2つを達成させるところにスコープを絞って実装させました。

立川:なるほど、ありがとうございます。ちなみに「分析」と「機械学習PoC(Proof of Concept:実証実験)」も同じぐらいのボリュームで引き出しがありそうな感じですか?(笑)。

越智:そうですね。分析のところは、たぶんそんなにお時間はいただかないんじゃないかなと思います。

経営層も認識していなかった「重要なKPI指標」に気づけた

立川:こちらもざっくり、どのようなお話かをお願いします。これは(データ基盤を)構築した後にチャレンジを……。

越智:そうです。せっかく投資して作った基盤を、どうちゃんと活用するかという話があるかと思います。実際に自分自身が活用できるかたちで要件定義をしていたので、非常に分析しやすく、経営陣へのレポーティングもそれを基に行えるようになってきました。

このデータウェアハウスとBIプロジェクトに関わっていて非常に良かったのは、基盤を作るためのデータの理解が非常に進んだ点なんですよね。

今まで自分たちが営業やマーケティングの活動をしている中で、どんなデータが必要なのか、どんなところに勘所があるのかは今までの活動の中でわかっている部分ではあったんですけども。実際にデータの深いところでどんなフローになっているのか、どういう意味があるのかというところは、実際に開発に携わってみることで、深く理解できました。

これによって、KPIのより詳細な分解ができるようになってきたのが良かったことですね。実は、今まであまり上位レイヤーの方々に認識されていなかったKPIがあったんです。ただ、PDCA活動をするに当たって重要な要素であると気づけたことで、それを基に新しいKPIを設定してPDCAを回せるようにしたり、レポーティングを行っていきました。

立川:例えば具体的にどんなふうにデータの理解が進んだんでしょうか? 今ちょうど質問も出ましたね。どういうものだったのかというのは、ちょっと興味深いですね。

社内でデータ理解が進んだことのメリット

越智:あまり細かくお話しすると機密情報もあり難しくなってしまうので、イメージしやすいかたちでいくと、当社ではお金の種類が大きく2つ存在しています。

お客さまに支払っていただく代金としての取扱高が1つです。だけど実際に僕らは、そこから手数料として何割分かをマージンとしていただいているので、この手数料収入が収益の源泉です。この取扱高と手数料の関係について、データフローをいろいろ見ていると、実は仲介するメジャーの存在が明らかになりました。

例えば税込み・税抜きという話が理解しやすいかと思います。お客さまが支払うほうは税込み金額としてデータを入れますが、売上のほうは税抜きで管理していたりするわけです。こうしたポイントを理解することで、どういう要素で構成されているのか構造分解が正確に理解できるようになったところが良かったんじゃないかと思っています。

立川:なるほどですね。過去の税抜きと税込みの計算が、ひょっとしたら間違っている可能性があるというものの発見につながったということですかね?

越智:今のはわかりやすく例えで言っただけで、本当はもうちょっと複雑なところはあったりするんですけど。あとは、実は今まで取扱高自体にはそこまで重要性を見いだしてなかったんです。

立川:そうなんですね。

越智:ただ、お客さまが支払う金額も、例えば他の旅行会社さんと比べた中で、僕らの市場に対しての影響度がどれくらいかを測る時は取扱高を使うケースがあります。あと、それ以外でも必要になってくる場面が出てきていましたので、要素分解ができることによって、正しく発信できるようになりました。

立川:なるほどですね。ここの話は掘り下げるとなかなか……(笑)。ありがとうございます。

越智:すみません(笑)。

気合いと根性のExcel業務から、機械学習へ

立川:機械学習のPoCのお話は、次のAIの活用の話につながってくる話ですかね?

越智:そこにつながってきますね。そちらのテーマに移行していきますか?

立川:はい、ぜひぜひ。

越智:それでは、分析活動もしていく中で次のステップとして、今まではデータ分析により間接的な収益貢献をしていました。これが②までで、さらに③というのは、機械学習ができることによって、より直接的な収益貢献の機会が得られるのではないかという話です。

今は全体が俯瞰できるようになったんですが、当時は、会社の中で重要な事案を解決したいという課題があり、それらに対して「まずPoCを機械学習でやってみたいね」というモチベーションで進めていったという背景があります。

より具体的に言うと、会社紹介の中で、カタログを作って送るというお話をさせていただいていました。年間で約760万部を発行しています。

ここまで大きな部数を発行しますと、会社にとってもコストが相当負担になってきます。一方、カタログによって需要喚起し、顧客が予約をしてくれるという流れがあります。つまり会社にとって重要な問いは、「この会員冊子をいかに効率よく配れるか」と。

もっと言うと、「ちゃんと予約をしてくれそうな人をターゲティングして送りたい」というところが、収益改善の機会になってきます。

機械学習をする前は、人ががんばってやってたんですよね。すごくアナログなんですが(笑)……。データベースからMicrosoftのAccessを使って軸を設定して、集計結果をExcelに吐き出す。それで数万行分のExcelになるのですが、一生懸命目でチェックして、どこが良い悪いということをしていました。

ただ、かなり気合と根性の業務になってしまっているのと、担当者も限られていたので、属人化のリスクがありました。会社にとってかなり重要な業務にも関わらず、課題が大きい状態でした。ただ、この課題はパターン認識の世界ですので、機械学習化させれば効率化を実現できるのではないかという仮説を立てて、それで進めていったのが機械学習のPoCです。

立川:なるほど。適切なお客さまに配布できるように、その配布先をアルゴリズムを使ってなるべく簡素にやっていこうと。

越智:そうです。

すぐには収益につながらないことに、なぜ投資できたのか?

立川:最後にいい質問がチャットに来ているので、これを取り上げてから次のテーマにいきたいと思います。「最初の2軸はどのように決まったか」という質問なんですね。データウェアハウスとBIの基盤構築にあたって、経営数字の管理と顧客マスタを整備しようといったアクションが始まったと思うんですけど。

そもそものきっかけ自体が、すぐに収益に結びつくものではないので、質問者の方からは、「初手でそこに投資できるのはけっこう恵まれてる印象」というコメントをいただいています。私も非常にそのとおりだなと思ったんですが、取り組み自体がどのように始まったかを、ちょっとお聞きしてみたいです。

越智:おっしゃるとおりかと思います。やはり必要性があって投資をするという判断に結びつきますので、当時いかにこの必要性が高かったのかという話になってくるかと思います。

実は基盤構築をしようと思っていたのは、ちょうど当社の第二創業期にあたる時期でした。経営陣も刷新し、中期経営計画も新たに策定され、その中の成長戦略の1つとして、「顧客の育成によって新たな収益の伸びが期待できる」というシナリオを想定していました。その前提があったため、「収益を作るためには、まずモニタリングの環境を整備する必要があるね」ということで、投資する判断に至ったと理解しています。

立川:なるほど。今度はプレイヤー側の目線での率直な印象なんですけれども、やはりリーダーがその必要性を理解しているのは非常にありがたいですね。会社が大きく変化していく過程で、ある種、非常にわかりやすく必要性が明るみに出たのかなと、お話をうかがって感じました。

チャットでも「ありがとうございます」と。そして投資インパクトの話もうかがっていきたいんですけれども、もう2つの大きな問いですね。

越智:ここは最後の部分でも出てきますので、簡単にご説明します。機械学習PoCの結果をどう示すのかが大事だという話をしようと思ってたんですよね。最後の再現性のところにも関わってくるんですが、結局投資判断は投資対効果がないと、経営陣としても判断ができないという前提があると思っています。

なので、「機械学習を取り入れたことによって良かったのか悪かったのか」を収益的にちゃんと示すことによって初めて、次のステップを始められると思っています。ということで、次の「データ活用戦略をどのように考えていたのか?」というお話に入らせていただこうと思います。

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