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第2部 トークセッション「ものづくりDXの壁を乗り越える!各社のデジタル推進の挑戦」(全2記事)

2022.07.14

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納車から廃車まで、お客さまの“車の一生”をケアする デジタル技術で顧客との「接点」を強化する、SUBARUのDX

提供:Sansan株式会社

早急な「DX推進」が求められる中、製造業では人材や知識の不足、技術の伝承などが大きな壁となっています。そのような中で、企業はDX、そしてイノベーションの実現に向け、現状の課題をどう捉え、準備・教育し、取り組んでいるのでしょうか。本記事では、製造業の企業の第一線でDXの指揮を執る、AGC株式会社の池谷卓氏と株式会社SUBARUの辻裕里氏が、顧客との「つながり方」にあらわれた変化や、日欧の製造現場での「AIの受け止め方」の違いなどを語っています。

AGCとSUBARUが、DXで大切にすること

友岡賢二氏(以下、友岡):友岡と申します。今日は、すてきなお二人をお招きしておりますので、まずはパネラーのみなさまのご紹介をしたいと思います。私の隣にいらっしゃいますのがAGC株式会社 経営企画本部 DX推進部 部長の池谷さんです。池谷さま、一言よろしくお願いします。

池谷卓氏(以下、池谷):今日はこのような機会にお呼びいただきありがとうございます。よろしくお願いします。

友岡:ありがとうございます。続きまして、株式会社SUBARU IT戦略本部 情報システム部 部長兼サイバーセキュリティ部 部長の辻裕里さんです。辻さま、よろしくお願いします。

辻裕里氏(以下、辻):辻裕里です。本日はお呼びいただきありがとうございます。みなさんのお話を伺えるのをとても楽しみにしています。よろしくお願いします。

友岡:ものづくりということで2社の事例をはじめ、みなさまの関心のあるDXの方法や事前の準備などの話を伺っていきたいと思います。それから、ご視聴のみなさまからの質問を随時受け付けております。質問は私のiPadに入りますので、リアルタイムで拾えるところは拾っていきたいと思います。ぜひ質問をお願いします。

冒頭で「DXレポート」のお話をしましたが、お二人はDXレポートはご存知でしょうか? 読まれていますか?

池谷:ざっと目を通して、気になるところや、ためになる箇所を私たちの活動の中で活かしていますね。

友岡:一番響いたのはどんなところでした?

池谷:やはりビジネスで実績を出していくところが大切だと思いますね。

友岡:辻さんはどうですか?

:「デジタル」や「DX」という言葉に踊らされないように、地に足を着けて進めていかないといけないなと感じました。

顧客との「つながり方」にあらわれた変化

友岡:最近はDXが流行りじゃないですか。「DX」と言えば予算が付くみたいなところがあったり、「DXを始めました」というのぼりを上げたい感じもあります。こうした中でAGCさんは部署名に「DX」が付いていますが、会社内でDXはどのように見られていますか?

池谷:すべての人間がこう思っているかどうかは別として、トップマネジメントと話をしているのは、「とにかくトランスフォーメーションをやってほしい」と。それがイノベーションだと。私たちが過去にも起こしたイノベーションを「起こし続けるんだ」と。基本的に、今までできなかったことや新しいことをやる時に「デジタルが使えるのなら使っていきましょう」という考え方をしています。

友岡:今までもずっとイノベーションと言い続けてきた中で、今回はその延長線上にあるものなのか、今までとはちょっと違うものなのか。個人的な感想でいいんですが、その違いはありますか?

池谷:例えば私たちは研究開発やいろんな商流にイノベーションを起こしてきましたが、世界中のポテンシャルユーザーにリーチするのは難しいですよね。でも、デジタルならグローバルリーチが可能で、今までと違ったイノベーションを起こすことができるかもしれない。今私たちは、自分たちのビジネスプロセスだけではなく、お客さまや社会とつながるイノベーションを起こすためにはデジタルの力が必要ではないかという考え方をしています。

友岡:「お客さまとつながる」というのは、すごくいいキーワードだと思うんですね。今はお客さまとの親密度と接近度と距離感がちょっとこれまでと違う。しかもマスではなく、一人ひとりのお客さまを個別に見ていくような変化がある気がするんです。

池谷:それもデジタルだからできるかたちだと思いますし、一人ひとりのお客さまやポテンシャルユーザーの方々にカスタマイズしたリーチを取っていくことができると。お客さまから見れば、価値を提供してもらっていることになるのかなと思っています。

「お客さまとの接点」をデジタルで強化する、SUBARUの取り組み

友岡:AGCさんは、CMのイメージからも「ああいう会社だな」とわかるんですけども(笑)。

池谷:はい。そうですね(笑)。

友岡:あらためてどのような事業ドメインがあって、どのようなお客さまが多いのでしょうか?

池谷:基本的には私たちはBtoBが多いです。「素材の会社」と言わせていただいていますが、ユニークな素材を世界中のみなさまに提供しています。素材を基に提供していくので、事業はいくつもに分かれていて、事業ドメインはそれぞれまったく違っていると思っていただければと思います。

友岡:ありがとうございます。SUBARUの中ではDXというワードはどのような扱いになっているんでしょうか?

:弊社の場合は、「DX」という言葉をあまり使っていないんですね。車自体が電気自動車に代わるという大きな変化をしていて、製品の本丸が、デジタル化してしまっている状態です。その中で、業務のつながりやお客さまとの接点をデジタルで強化していこうという感覚ですね。あんまりDX、DXと言わないように、どちらかと言うとおしとやかにやっています(笑)。

友岡:今じゃなくて申し訳ないんですけど、私はかつてSUBARISTだったんですけども、SUBARUのユーザーさんはSUBARUとつながっているというより、お客さんそのもののSUBARU愛が半端ないじゃないですか。

:そうですね。

友岡:コミュニティ的に、お客さん同士でわいわいやっているのがSUBARUのイメージとしてあるんですが、それでもSUBARUがお客さまとつながらなきゃいけないと思っていると。お客さまとダイレクトにつながった先にあるものは何でしょうか?

:事業としてはBtoCですが、実態はBtoBtoCになっています。お客さまとの接点はディーラーさんがきちんと持ってくださるという歴史があって、分業がはっきりしていたんですね。工場は開発して作ってディーラーさんにお渡しする。そして、対お客さまのところはディーラーさんにお任せしていた。

そういう中で、これからは買っていただいた後の車の使い方やカーライフの楽しみ方を見ていきましょうと。車にはVINコード(車両識別番号)というのがありますが、車の購入から廃車までをデジタルを活用してケアしていこうということになっています。SUBARISTの方々は横のつながりをしっかりしてくださるので、そこに助けられながらと思っています。

Appleやテスラが実現した、「顧客とつながる世界」

友岡:そこのつながりを従業員だけで見るわけにいかないので、ITの処理そのものも高度化し、インテリジェントを高めていくことが必要になりますね。ものすごい数とつながると、集まったデータを効率良く解釈するという情報処理能力がもう一段高くなる必要性があります。

同じく、何万人の人にカスタマイズされていない情報を流しても、心に響かない。ネットワークでつながったり、何かメッセージが届くだけでなく、その上の次元の戦いにどう臨んでいきますか?

:まずは、部門ごとに持っていた情報を1つのデータベースにして、ディーラーさんにも提供できるようにするなど、ディーラーさんが持っている情報と社内の情報をまとめると。それをベースにすることで、品質の確保やそれに関連した対応が早くできるのかなと思っています。

友岡:もともと私は電機の業界にいたんですが、電機業界ってBtoCのようで実はBtoBtoCだった。そこにAppleがいきなりBtoCのモデルを持ってきて、一気に顧客とつながる世界へ行った。テスラとかも「アプリで頼んでください」みたいに、いきなりテスラとお客さんがつながる世界じゃないですか。個人的にはこのあたりの変化や、テスラがどんなふうに見えているのかに興味があります。

:最初に出た時はある意味びっくりというか(笑)、黒船的な感じがあったんですけど、やはり車の業界として、我々もすごく彼らの車作りを研究しています。振動の中でどうやって崩れないボディにするかというのは車の難しいところで、長い歴史の中で培われた技術に関連した情報はお互いに取得していますし、今のカーボンニュートラルのさまざまな規制の中では、連携もさせていただいています。

突然「競合」が出現する時代の危機意識

友岡:AppleがiPodを出した時、既存の電機メーカーが「あんなのはすぐ壊れるし、落としたら全部ダメになるので誰も買わない」と言っていたのが、あっという間にひっくり返されちゃったわけですね。ぜんぜん関係ないところから突然コンペティター(競合相手)がぽっと現れて、市場を取ってしまうのは、既存プレイヤーの企業からしたら脅威だし、他のプレイヤーからするとオポチュニティになると思うんですよね。

でもそのへんの危機意識って、中にいる人はあんまりなかったりするじゃないですか。「このままじゃダメだ」みたいな健全な危機意識が、どれぐらい共有されているのかに興味があって、会社の中での危機意識の共有具合をどのように見ておられますか?

:社風として、外を知るということが苦手なところがあったんですね。車好きが集まっているので、自分たちの車が大好きで作っているという状態があったんですけども。1社では作り上げていけないと、今はトヨタさんのグループにも入りました。

みなさんと連携する中で、経営企画からは全社に対し、外を見るための活動として月に1回、テスラさんも含めていろんな自動車メーカーさんと比べた場合の我々の強みがどこかをオープンに見るようにしています。

そうすると先ほどお話のあった通りで、SUBARISTの方々が我々の自動車をまるで家族のように愛し、扱って使ってくださっているので、そういったファンのつながりを強化したり、そこに寄り添えるようなデータ提供をしていこうと考えています。

友岡:私は中をわかっていないので言うんですが、AGCさんは例えばテスラやAppleみたいな黒船的な存在が業界的に生まれにくいんじゃないかと思っているんですけど、業界の中のDXの風景はどうでしょうか?

池谷:いろんなところでいろんな方が言われていますが、どうしても材料というかマテリアルはデジタルやDXから遠く離れているところがあって、「今(黒船が)隣にいるの?」って言われると、そういう認識は今のところありません。

ただ、これからデジタルによってマニュファクチャリングとデベロップメントの切り分けみたいなことがもし起こったとします。デベロップメントのところは、製造業のようにすごくお金がかかるものではなく、コンピューティングの話なので、ある程度のマテリアルや新しい素材を開発するプレイヤーが出てくる可能性はあるかなと。

実は私たちも自社の中でそういうデジタル技術を使ってマテリアルを開発する力を付けようとしていますし、現にそういうプレイヤーが出てくる可能性を考えています。

「つながり続ける」ために、研究開発に求められる変化

友岡:これからは、お客さまとつながるだけでなく、そこから次の製品作りにイノベーションを起こすループを作っていくことがすごく重要だと思います。従来型で言うと、R&D(研究開発)の人は量産化したらその仕事は終わりで、次の研究テーマにアサインされる。常に新しいもの、新しいものを掘り起こして、何年かベースで解散していく。

そうすると、売った後のフィードバックでぐるぐる回す仕事はなかなか不得意だと思うんですよね。この「つながり続ける」ことと、R&Dのあり方をみなさんはどう考えているかに興味があります。

池谷:幸いにも、弊社の場合はお客さまと常につながって、お客さまから宿題や課題をいただき、それをR&D部門が解決し製品にしていくというプロセスが以前からあります。今でもそういったアナログ的なところはやっていますし、加えていわゆるCRM的な考え方やマーケティングをデジタルで補強する取り組みを始めています。

友岡:自動車は、私の知識で言うとだいたい6年ぐらいでフルモデルチェンジ、3年ぐらいでマイナーチェンジというかたちでR&Dが回っている感じがするんですが、お客さまとつながり続ける状態と製品を作っていくサイクルはどのように関わっていくのでしょうか?

:車の種類には関係なくつなげていくので、そことは切り離して考えてもいいかなと思っています。多少変わるにしても、開発自体は電気自動車になっても同じような流れにはなります。ただ、スピード感がもっと早くなるんですね。今まで5〜6年かかっていたものをもっともっと短縮しないといけないので、その工夫が必要ですね。

「データを中心にものを考えましょう」という啓蒙活動

友岡:お客さまとの関係で、今、ディーラーが持っている部分を統合したいというのがありますが、まずエンド・トゥ・エンドでお客さまをきちんと理解するところを最初にやらないといけないということですかね。「その上で」というのは次のステップで、まず「集める」ところで大変な作業があるのはだいたい目に浮かぶんですけども(笑)。

:そうですね(笑)。

友岡:簡単に集まるような感じがするんですけども、実際に集めている人は大変なんですよね。これから「こういう方向に向かうんだ」と言っても現場の人々は日々忙しく優先順位がある中で、辻さんはどうやって周りの人を乗せていく工夫をされていますか? トップダウンでばーんと落とすなど、いろいろやり口はあると思いますが。

:「データを中心にものを考えましょう」という啓蒙活動をIT戦略の1つに置いています。今の社内の仕組みやデータを集めていこうというかたちですが、データが集まっても使える人がいないので、使える人を育てる活動と併せて、ITの中計(中期経営計画)の中で描いてお話しさせていただいています。

ちょうど今日の午後、第1回目のデジタルアナリティクスフォーラムというカンファレンスが社内であって、700人とかかなりの人数が参加してくださいます。そういうところで意識を向けていただいているのかなと思います。

友岡:AGCさんは、データを活用したり、つながることで出す価値そのものの理解をいかに浸透させるかといった意識について何か攻め口はありますか?

池谷:非常に難しいところだと思っていますが、まずは自分たちのビジネスプロセスですかね。バリューチェーンでもエンジニアリングチェーンでも、社内のビジネスプロセスをつなぐことは、ある程度アナログチックにできているので、そこのデジタル化を進めていくつもりです。実際に今、コーポレートや事業部でもそういう動きが出つつあります。

先ほど、その後のお客さまや社会についてお話しさせていただきましたが、そこはハードルが1つ高く、そこをやらないと世間で言われるデジタルトランスフォーメーションはできないということも認識していますが、「実績はできているの?」と言われると、これからかなと思っています。

デジタル時代に求められる人材

友岡:ちょうど人材について質問がきています。「製造業に従事するハードウェアの『職人』社員をデジタル人材に転換させる手法について教えていただきたい」ということですね。

いわゆる「モノからコトへ」という時に、製造業には「モノに執着する気質」があります。日本はそれで勝ってきたわけですよね。しかし、「これじゃ勝てないぞ」という転換は、どのように工夫されていますか? 「いや、俺は関係ないぜ」と腕まくりしている職人さんがいたとして(笑)。

:全員は転換できないだろうなとは思っています(笑)。コロナの前と後で外圧によって大きく変わりましたが、リモートでしか仕事ができないという状態の中で、ものを作ってお届けするとなるとデータとかそういう世界に精通しないといろんなことができなくなる。そこが1つの流れとしてあります。

かつ、デジタル技術を使って、我々とお客さまとの関係がもう少し近くなっていくと。その中でご提供したいという思いが全社の活動につながっており、「自分でやりたい」と思う人をどんどん育てていこうと思っています。ただ、これからITの世界、デジタルの世界に行っても、サーバの更新などで職人の方のスキルも必要であり、そういった場で活躍していただければなと思っています。

友岡:ダイバーシティ&インクルージョンとか言いながら、全員に「こっちだ」と言うのもちょっとおかしいと思うわけですよね。いろんな方がいろんな個性と役割を持てたらいいなと思います。

日欧の製造現場での「AIの受け止め方」の違い

友岡:次はAGCさんに、「グローバルと日本の取り組みで何か差があるんでしょうか?」という質問ですね。

池谷:取り組み自体に大きな差はないと思うのですが、ここから先は私の個人的な見解というか……。私たちは日本の製造業ということで、多くの方が言われるように、どちらかと言うとマニュファクチャラーとしての強みがあると思っています。現場の方はすごくプライドを持っていらっしゃいますし、仮説検証的に物事を捉え、改善をする小さなイノベーションを起こし続けているのが日本の製造業だと思うんですね。

一方欧州や東南アジアでは、スタッフ層と現場がかなり離れているところにあって、これも本当に個人的な見解ですけど、どちらかと言うとスタッフが計画を立てたものに対して現場がそれを誠実に実現していくところがある。例えばAIの活用でも、欧州はどちらかと言うと世間で言う機械学習みたいなので、ブラックボックス型でも現場がOKを出してそれを使っていくところがあります。

でも日本でそれをやるは少し抵抗があるのではないかということで、ホワイトボックスというか、ある程度の因果を明確にした上で「あなたたちの仮説検証型のところで役に立ちますよ」みたいなことが必要になってくるかなと思っています。

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