2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:株式会社LegalForce
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角田望氏(以下、角田):企業の法務部門がレベルの高いリスクマネジメントの型を標準化して、それを現場でもマネジメントできるように、わかりやすい言葉で広める。そこのモニタリングまで含めてやっていかないといけない。
小林一郎氏(以下、小林):おっしゃるとおりですね。もちろんひな形を配って終わりではダメだと思います。そこから先は、しっかりと作り上げられたファーストドラフトなりを、法務部門がしっかりとクオリティコントロールする。
それこそ法律家である弁護士さんや法務部員の方々が、個別のアドバイスを通じて一つひとつ、カスタマイズしていくんでしょうけれども。やはり(契約実務の)標準化は、企業が大規模化して人が増えていく中で、どうしても必要なルーティーンになってくるとは思います。
角田:標準化というと、特に経験が浅ければ浅いほど型として捉えてしまうところも出てくるんじゃないかと思うんですけど、そうではなくて。標準化の背景にある理論や、標準化したモデルによってどういうリスクをマネジメントしようとしているのかを法律家としてきちんと理解して使いこなせるようにならないといけない。そうしたところがすごくあるなと思いますね。
小林:そうですね。標準化された契約書はもちろん業務効率のツールでもありますが、メッセージでもあるんですよね。例えば、守秘義務契約ひな形、ないしは売買基本契約ひな形を全社公開される企業もあると思います。
もちろん、より省力化して契約書を作ることは1つの目的ですが、その会社のポリシーとして「この条項は絶対に必要だ」「こういう角度からの考察が必要である」というものが、おそらくフィロソフィとして入り込んでいると思うんですね。
それをわかりやすい言葉で事業部までしっかり浸透させることで、事業構想を契約に落とし込む際の第一歩がスムーズな方向に進むと思います。契約書のひな形はいろいろな意味を持っていて、やはりその付加価値は相当なものがあると私は思っています。
角田:ビジネスリスクを適切にマネジメントするための知恵の集大成みたいなものですよね。このひな形や標準化に関して、AIがどう貢献できるのかを少しお聞きしたいです。AIやリーガルテックによって、標準化のあり方はどう変わっていくんでしょうか?
小林:もちろん業務効率が目に見える1つのインプルーブメント(改善)だとは思います。契約書の最初のドラフティングをする時に、(AIに)「この条項が抜けている」と抜け漏れを指摘してもらって、ファーストドラフトのクオリティを上げていく。目に見える改善点は業務効率化であるとは思います。
ただもう1つ、標準化のレベルがどんどん細分化されていくという効果があると思うんです。例えば今、大企業で出しているモデルフォーム。売買基本契約書モデルフォームというものを出しているとすると、いろいろなビジネスを展開されている企業にとっては、食品と機械では売買の取引としては同じでも、実はそれぞれ確認しなきゃいけないリスクはぜんぜん違ってくると思うんですね。
そうすると、本来であればモデルフォームやひな形は、業種や商品ごとにより細分化された標準化モデルが存在しなければならないと思うんです。それが理想なんですね。ところが、そういう標準化モデルが無数に拡散されてしまうと、(バリエーションが多すぎて)今度は人間がそれをうまく使いこなすことが難しくなってきてしまうわけです。
ですから今度は、分散された標準化モデルをうまく整理して、必要な情報を特定の業種の人にアウトプットしていく仕組みが必要になると思うんですね。やはりAIやシステム化など、リーガルテックと呼ばれている技術をもってしてでないと、それらの仕分けはできないと思います。
小林:今おそらく日本の企業でモデルフォームを公開して、売買契約の機械取引バージョン、食品取引バージョンと、バージョンを30個も作ったとするじゃないですか。そうしたら、たぶん人々はついてこないですよね(笑)。
角田:(笑)。
小林:「どれを使っていいのか」という話になってくるし、メンテナンスも大変です。それを効率化するためには、やっぱり何らかのテクノロジーが必要ですし。そういった中で、例えば契約書の差分分析があるとカスタマイズもしやすいでしょうね。モデルフォームとの乖離を分析したり、やろうとしている取引に応じたモデルフォームがスッと出てくれば、非常に楽で効率的ですよね。
角田:確かに契約によるビジネスリスクのマネジメントの理想形は、先生がおっしゃるとおりだなと思います。機械の売買とリンゴの売買では、想定されるリスクはぜんぜん違うので、本来であれば適用される契約も契約書の型も変わるはずです。
でも、どちらも同じフォーム契約でやってしまうと、結局はリンゴの売買におけるリスクも適切に制御できないかもしれないし、機械の売買もリスクを適切に制御できないかもしれない。“中途半端な標準”が漠然と使われてしまうということですよね。
これをリーガルテックを使うことで、リンゴの売買であればリンゴの売買に適した標準契約が用意されて適用できる。機械の売買だったら機械の売買に適した標準契約が生成されたり、レビューされることで適用できるようになっていく。
小林:そうですね、それが理想形ではあります。そうなってくるともう本当に、個別のリーガルレビューとどう違うんだ、という世界が出てくるのかもしれません。ただ、それはやっぱり標準形なので、リーガルテックの事業者さんは、どれだけ型を用意できるかが最終的な要求事項になってくると思うんですね。
しかもその型を提供するには、各企業のインハウスで蓄積されたナレッジをうまく共有して、活用していかないといけないです。AIでもそうですし、最近の世の中で起こっていることはどこかでビッグデータをしっかりと持って、それを使って何か創造していくことに移っていくわけですから。
各企業のナレッジがどのようにビッグデータとして収集され、その中から(契約の)きめ細かいカスタマイズ・標準化が生まれ、それをうまく使っていくか。業務効率化は当然として、最新のリスクの情報が企業に広く等しく行き渡るような仕組みがあると、非常に世の中のレベルは上がっていきますよね。
角田:その時に少し気になるのは、契約の条件やリスクをどうマネジメントするかというのは、ある種会社にとっては守秘情報になる側面があることです。他方で逆に業界標準を作っていくという意味では、シェアしたほうが全体のためにはなるという側面。この二律背反的な側面を解決していくアイデアはありますか?
小林:おっしゃるとおりですね。もちろん企業自身の内部統制の中で解決しなければならない問題はたくさんあると思います。ただ多くの契約書は相手のある話ですから、自分が作り上げた契約書はもう1人当事者がいるわけです。ですから、少なくとも2者が共有しているという状況があるんですね。
その2者間で閉じたければ閉じた世界になるんですけど。新しいリスクマネジメントのあり方という問題意識は、2者の間でなんらかのかたちで共有されますよね。共有されたものがまた別の当事者との契約で共有されていくと、意識せずとも人々の間に伝播していくはずだと思うんです。
そこはもちろん企業秘密をこじ開けるということではなくて、各社の創意工夫でやっていくんでしょうけれども。やはりすべての当事者が共通して立ち向かうリーガルリスクというものについては、当然自然に伝播していくものです。
これまでにも契約実務・契約標準化というひな形ができたり、役所がいろんなモデルフォームを作ったりしているのもそうしたところから生まれたものだと思うので、そんなに心配することはないのかなと私は思います。
角田:確かに、自分たちが作った契約は閉じないんですよね。取引先は必ずいるわけだし、そこで思いついたアイデアはいろんな取引先との契約で使うので、伝播していくというのはおっしゃるとおりですね。ネットワーク外部性みたいなものがかなり効く。
小林:そういう世界だと思います。もちろん、各社の個別の課題は閉じた世界でしっかり解決しなければならないと思います。そこは分けていくでしょうから、やっぱり企業のインハウスも自社固有のリスクに対しては、徹底してナレッジと人と時間をかけて対応していく必要があります。
ただ、ユニバーサルなリスク課題についてはもっと効率的なやり方があり、そのためにリーガルテックというツールが今、脚光を浴びているんだろうなと考えています。
角田:テクノロジーでうまく効率的に、かつ高いクオリティでやっていく部分。そして、(人が)個別の案件ごとにリスクをマネジメントしていく、ないしは個別の事案ごとにむしろオーダーメイドで作っていく部分。もしかしたら、そこの役割分担に対する示唆なのかもしれないですね。
小林:そうですね。法律家の業務はどんどん高度化していくと思います。ですから標準化できるところはリーガルテック、そして企業の個別課題あるいは固有の問題や新しい課題は、やはり人間である法律家の目を通さないと解決ができない。そこをリーガルテックに期待するようにはならないだろうなと思います。
角田:おっしゃるとおりかなと思います。そういう意味ではリーガルテックを使って、うまく標準化や効率化をして土台を作り、より高度化させていく部分を私たち人間が担っていくようなかたちで、うまく取り込んでいくのは1つの方向性かなと思います。
小林:だから、人間の仕事は絶対減らないですね。おそらく企業法務は、今以上にどんどん忙しくなっていくだろうと思います。
角田:そうですね。いろいろな方から忙しくなる一方だとお聞きします(笑)。弊社でも法務部門はひたすら拡大しています。ありがとうございます。お時間になってしまいましたので、いただいたご質問に移りたいと思います。
角田:では上から順にいきたいと思います。1つ目は「リーガルテックが普及した後の世界で、より求められる法務部門や弁護士のあり方についてご意見をおうかがいしたいです」とのことです。いかがでしょう。
小林:我々が最後にディスカッションしたところですよね。おそらくリーガルテックというのは、より標準化できるところに特化したものであって。あとは、企業が共通して持つリスク課題をうまく解決する。普遍的な課題に取り組んでいくのがリーガルテックで、法務部門はやはり、個別の企業の新しい課題に取り組んでいく必要があるでしょうし。
世の中が複雑化すれば、課題は指数関数的に増えていくでしょうから、そういったものにしっかりと取り組んでいく。我々のディスカッションの最後は、(人とAIの)役割分担というところで締めました。人間の役割期待は、我々としてもこれからしっかりと人間の力で進めていきたいし、各企業法務のそれぞれの創意工夫が求められている世界なんだろうなと思います。
角田:ありがとうございます。AIの特性を踏まえても、おっしゃるとおりかなと思いますね。AIは過去のデータや統計からしか導けないのに対して、私たちはどちらかというと過去の情報がなくても新しいものを、おそらくゼロから生み出すことができる。ゴールを定めて課題を解いていけることが、かなり大きな違いなんじゃないかと。
小林:おっしゃるとおりですね。AIは帰納的な思考しかできないと言われていて、法律家は演繹的な思考が求められている。ある規範や問題意識に当てはめて解を導いていくという法律家独特の演繹的思考は、AIにはなじまない世界だと。少なくとも今現在はそうですし、中長期でもそうだと思います。
角田:構造上そうだと思いますね。そういう意味では、私たちはより一層演繹的な頭の使い方や仕事の仕方を大事にしていけるといいのかもしれないですね。
小林:そこに本当の付加価値のある法律家の仕事があると思います。
角田:たくさんのご質問をいただいていますので、次にいきたいと思います。「各事業部の末端に契約リスクのマネジメントを浸透させる」というお話があったと思うんですけど、その際には情報共有や管理を徹底していくことが必要になる側面もあるんじゃないかなと思います。その際に特に注意すること、あるいは行ったほうが良いことがあるか、というご質問です。
小林:難しい課題ですよね。やっぱりメッセージの出し方は大変難度が高い作業だと思います。契約書のひな形をポンとアップロードして「使ってください」と言うだけだと、おそらく使い方を間違った時にいろんな危険なリスクが生じてくるでしょうから。
やはり企業として、プロシージャ(手続き)をしっかりと作り上げる必要がありますよね。「契約書のひな形を作成したら、まず誰に確認を求めなさい」、あるいは「法務部門に必ず相談をすること」「最終的な契約書ができあがったものの審査プロセスをこういうふうにやりなさい」といったルールづけは、内部統制の一環として作り上げていく必要がありますし。
変な使われ方をしないような工夫は、当然必要になってくるでしょうね。審査プロセスや社内ルールがどんどん増えていくのもよろしくないかもしれないんですけど、やはりどこかでしっかりクオリティ管理をする人が必要になってくると思います。
角田:やっぱり、ひな形を使いこなすこと1つ取っても法的な知識が必要になるので、その知識を持たない人にひな形を開放する際には、変な使い方がされないように、仕組みで担保していく。これも内部統制の1つなのかもしれないですけど。
小林:そういうことですね。そうすると、法務部門の仕事がますます増えていくのかわかりませんが(笑)。もちろんすべての契約書を法務部門で見られれば、それでいいと思います。最後はしっかり人間の目で確認するわけですから、大丈夫なんでしょうけど。そういうのは、大企業になればなるほど難しい部分もあるから、やっぱりルールを作っていく作業が必要になりますよね。
角田:次は、「リーガルテックに一番期待していること、逆に一番の課題を教えてください」というご質問です。
小林:やっぱりコンテンツをしっかり持つことだと思いますね。コンテンツがないと標準化もできないですし、コンテンツがないと何も生まれない。クオリティの良いコンテンツを提供するというか。
もちろんリーガルテックの事業者さんがすべて自分で提供する必要はないでしょうが、クオリティの良いコンテンツが生み出される仕組みを提供しないといけないですよね。そこは各事業者さんの創意工夫だと思うんです。
自社でコンテンツをしっかり確保していく、作り上げていくことも1つのアプローチでしょうし。企業がコンテンツをうまく管理して、ナレッジマネジメントの中で、ひな形やリスク管理のアップデートを十分に仕上げていけるような仕組みを提供するのか。そこは創意工夫だと思うんですが、どちらにしてもコンテンツがないと何も前には進まないと思います。
角田:ありがとうございます、メモしました(笑)。がんばります。
小林:(笑)。
角田:あと2点ほどお聞きできればと思います。「おそらく会計システムなどは多くの会社で標準的に導入されているかと思いますが、リーガルテックについても同様に導入・利用されるような状態になると考えられますか?」とのご質問です。
小林:中~中長期でそうなるといいなとは思いますが(笑)。会計システムとリーガルは、やっぱりネイチャーも違いますからね。会計システムは、内部統制の中でうまく仕組みを作り上げていくことに親和的な分野だとは思うんですけど。
リーガルは演繹的な思考が必要になってくる分野ですから、明日明後日にそういう世界が生まれるかというと、そこはLegalForceさんの今後のがんばりに期待をしたい、ということでしょうけれども。
ただ、前に進めていかないといけないんでしょうね。ですから、そういうテクノロジーについて、今すぐすごい成果が出てくるかどうかは別として、先行投資をしていきながら、企業一体となって底上げし、なるべく近い将来に質問いただいたような世界が訪れるといいですね。そのためには、各社さんのリーガルテックに先行投資をする前向きな意欲があるといいなとは思います(笑)。
角田:ありがとうございます。これは私たちベンダーの責任も大きいなと思います。実務で役に立つものをちゃんと開発していかないといけないなと思います。
角田:次のご質問ですが、「コントラクトライフサイクルマネジメントを担うのは、内部監査部門ではダメでしょうか。法務部は仕事が多くて、契約レビューで手いっぱいだと正直思います。この場合、内部監査部門をどのように教育すればよいでしょうか」とのご質問です。
小林:それは理屈としてありうると思うんですね。内部監査部門でまず一義的に、ライフサイクルマネジメントのナレッジ管理を任せていく。法務部はおそらく、クオリティはちゃんと自分の目で確認していく必要はあるでしょうね。クオリティ管理に最適な人材は法律家でしょうから。
やはり法務部の目で確認して、出てきたプロダクトやリスク管理の手法をしっかりとグリップを効かせて、最終的な判断を行う。善し悪しの判断は、法務部門がある程度責任をもって取り組む必要があります。ただ、デイリーの管理については内部監査部門に任せるのはよいでしょうし、もっと言うと内部監査部門に法律家の方を配置してクオリティコントロールしていく方法もあるでしょう。
角田:そのような役割分担はかなりリーズナブルというか。
小林:そうですね。最後にお客さんと契約を締結したり、投資する時の判断については、しっかりとした法律家の方が責任を持って自分の目で判断する。そのプロセスを各企業さんが内部統制の中で落とし込んでいけば、その過程で誰が担当するかはあまり大きな問題ではないですよね。
角田:まさにおっしゃるとおりだなと思います。というわけで、お時間になりました。小林先生、お忙しいところ本当にありがとうございました。なかなかここまで深く理論的かつ体系的に考えることはなかったんですが、私自身すごく楽しく議論させていただけてうれしかったです。
聴講いただいたみなさまにもいろいろと参考にしていただけたんじゃないかなと思います。引き続き、NBL等で論文を拝見するのを楽しみにしておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
小林:ありがとうございました。
2017年に大手法律事務所出身の弁護士2名によって創業され、弁護士の法務知見と自然言語処理技術や機械学習などのテクノロジーを組み合わせ、企業法務の質の向上、効率化を実現するソフトウェアの開発・提供をしています。
京都大学との共同研究をはじめ、学術領域へも貢献しています。2019年4月より契約審査プラットフォーム「LegalForce」、2021年1月よりAI契約管理システム「LegalForceキャビネ」を提供しています。
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