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地方におけるデジタル活用の新たな可能性とは? 〜 DX時代のリーダー達の挑戦〜(全1記事)

2022.04.15

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ビジネスチャンスも人も「都会に集まる」のは、過去の話になる デジタル化と人々の意識が高める、「地方」の価値と可能性

提供:Sansan株式会社

早急な「DX推進」が求められる中、地方ではIT人材や知識の不足が大きな壁となっています。地方企業は自社の強みを活かすために、どのようにデジタル活用を進めていけばよいのでしょうか。本記事では、愛媛県と岐阜県の地方創生の第一線で活躍する岡田武史氏と宮田裕章氏が、デジタル化で高まる地方の価値やリソースの実態、そして現地での実際の取り組みや反応を語っています。 ※本文中の肩書は、登壇時のものです。

東日本大震災で気づかされた、地方の「資産」と「知恵」

各務茂雄氏(以下、各務):KADOKAWA Connectedの各務です。よろしくお願いいたします。本日は岡田さまと宮田さまから、先ほどお話しされた内容をより深堀りして、お話を聞けたらと考えております。

実際、地方や中小企業のDXについては、みなさまも非常に悩まれていると思います。ここでは、岡田さまには試行錯誤をしながら進めてこられたというマネジメントのお話をうかがい、宮田さまには地方でのお取り組みの現場感や具体的な打ち手をお聞きできたらと考えております。

地方はどうしてもリソースが十分でないと言われていますが、その観点で、岡田さまにはFC今治の立ち上げについて、宮田さまにはこれから立ち上げられる飛騨高山大学のことを、お話しいただけたらと思います。

まず岡田さま、どんなご苦労があったかをあらためて教えていただけますでしょうか?

岡田武史氏(以下、岡田):地方について、みなさんは「ここはこうだ」とか「代々こうなんだ」という固定観念を持っておられるんだけど、僕は地方創生とか言わなくても、おそらくこれからみんなが地方に行くようになると思っているんですよ。地方には「資産」があって、その資産を使う「知恵」もあるんです。

僕は野外体験教育などをやっていて、東日本大震災の時は仲間が翌日から救助に行ったんですよ。「トイレはどこですか?」と言う人が(救助に)来たら迷惑なので、自給自足ができる人たちが行くんですけど。

そうしたら、(地震で)孤立した村があるということでみんなが騒いでいた。4〜5日分の食料などを背負って、山を越えて(村に)入ったら、お年寄りが竹を割って山から水を引いて、火を起こしてお風呂まで入って、海の幸・山の幸で宴会をしていたと。

要は、地方にはそういう資産があるんです。これが東京だったら、コンビニを襲うかなんかしないと食料がないわけですね。知恵もないんですよ。地球がいろいろと安定してない時代に入ってきた時に、その地方の資産にみんなが気付き始めた。

地方には地方の価値がある、と。それは考え方なわけですよ。今回も戦争で小麦が入らず、街のパンが高くなっても、地方に行ったら芋を掘ったり、何でも食べるものがある。少し原点に戻るというか、そういう価値があることに気付き始めたんじゃないかと思いますね。

だから、そんなに苦労したという感じはありません。それ(地方の価値)にみんなに気付いてもらうまでは苦労しましたけど。

デジタル化で高まった「地方の価値」

各務:なるほど。物事を明確にして、共有もできる「デジタル」(の力)では見えない、みんなが気づいていない資産が、地方にはあるということでしょうか。

岡田:ただ、世の中は螺旋階段状に上がっていて、みんなが自給自足の時代に戻ったみたいに見えるけど、横から見たらITやAIを使って、必ず一段上がったものになっているんですよ。

例えば、メルカリさんは昔の物々交換ですよ。だから、「あ、なんか昔に戻ってるな」と。でも、横から見たらITを使って(物々交換から)個人と個人の取引に一段上がっていると。そういうイメージでのIT(の活用や)、DXはもう止まらないし、必要になってくるものだと思いますね。

各務:そういうリアルやアナログの部分をデジタルがより良くすると、スパイラルになっていくというイメージですね。ありがとうございます。宮田さまも、地方でいろいろと取り組まれていらっしゃると思うんですが。

宮田裕章氏(以下、宮田):そうですね。岡田さんのおっしゃるとおりで、地方の圧倒的な価値への気付きですよね。今までなぜ人が都会に集まったかというと、便利で、最先端で、ビジネスチャンスがあったりしたからですよね。でも、それがデジタルによって、どこでも享受できるようになった。

各務:そうですよね。

宮田:例えば、飛騨は町が雲海に包まれるんですが、そういった自然を感じながらの仕事は、他の地域ではできないことです。あるいは音楽をとっても、都会だと混雑した電車の中で揺られながら聴く。まあ、それが文化ですけども。

もしかしたらブルックナーやモーツァルトは、自然に囲まれた地方のほうが豊かに聴けるかもしれない。そんなことを音楽の人たちと話しています。スポーツも同じかもしれません。スポーツと世界のつながりを感じられる都心のスタジアムも良いかもしれないですけど。

デジタルによって、都会だけが持っていた価値をどこでも受け取れるようになった一方で、地域の価値には代替できないものがある。ここに1つの可能性があると思います。

これからの地方創生に欠かせない、「地域外の人」とのつながり

宮田:もう1つは、人材リソースですね。地域の中だけで、(地方の)何百倍以上のリソースを持つ都市と同じことをしようとしても、なかなか難しい。でも、他の地域とつながったり、あるいは、これからは東京や大阪も地域なんですよね。

なので、定住型モデルもいいんですが、リソースをうまく共有しながら、いろいろなかたちで地域のために「何かをしたい」という人たち。今は関係人口(地域づくりの担い手となる地域外の人材)が本当に多いので、その人たちとどういう多様なつながり方を作れるかを、大学で実際に検討しているところです。

各務:岡田さまも宮田さまも、たぶん近いところをおっしゃっているなと思っています。結局そういう見えない価値の部分をつなぐファシリテーターや、変革をする軸となる方が必要になると思うんですけども。

実際、宮田さまが飛騨高山で活動される場合、ファシリテーターは自然と地方から出てくるのでしょうか? それとも、都会で経験した人が地方に行くのでしょうか?

宮田:飛騨に関しては非常に恵まれていて、実は大学を作ろうと企画・構想したのは飛騨にずっといる若者たちなんです。理事長が32歳なんですよ。別に若ければいいという話ではないですけど、30〜40代前半ぐらいの地元に根ざした若者たちが軸を作りました。私はそこに後からジョインしました。

そういった地域の中でのストーリーやリソースがあるんですけど、でも、そこだけではやっぱり作れないんですよね。いろいろな外部の人たちと連携をしながら、いかに相乗効果を作っていくかが、すごく大事だと思います。ちなみに私は岐阜県生まれですが、飛騨地方ではなく、南の美濃側になります。

「よそ」から来た人が刺激を与え、「地元」の人が盛り上がる町おこし

各務:岡田さまは、FC今治を立ち上げていく中で地元との接点はどのように築かれたんでしょうか?

岡田:宮田さんもおっしゃっていましたが、DX、デジタルトランスフォーメーションはあくまでも手段であって、それを使って「どういう社会を作りたいか」が大事だと思うんですよ。

みんなが「DX、DX」と言って。僕も最初そうだったんですけど(笑)。でも、よく言われるように、駅の改札が(切符を)もぎっていたのが自動になったと。便利になったけど、それによって乗る人が増えるわけじゃないんですよ。価値は増えていないんですよね。

そうすると、それまで切符をもぎっていた人に支払われた給料が、発明した人に偏るんです。これが格差です。ではあなたはそういった格差社会を作りたいのかと。ホモ・デウスとホモ・サピエンスの戦いのようなことをしたいのか、というところまであって。

だから、(DXで)何をしたいのかが一番大事なんです。でも、意外と地元の人にはそのアイデアはないんですよ。「何を言ってるんだ。我々はずっとこうやって暮らしてきたんだ。お前は何を言ってるんだ」みたいに。

ある意味、よそ者が来て刺激を与えなきゃいけないんだけど、よそ者だけではできないんですよ。さっきも話しましたけど、2年目ぐらいかな。夜中の……これ言ったらまた労働基準局に怒られるんだけど(笑)。

(一同笑)

岡田:夜中の2時ぐらいに、「おい、俺らはみんなよそから集まってきたけど、今治人の友だちがいるやついるか?」と聞いたら、誰もいなかったんですよ。「あ、そっか。俺たちは『来てください』『見に来てください』と言うけど、俺らから行かなきゃいけないんじゃないか」と。だから、「残業は20時までにして、友だちを5人作らなきゃ罰金」と言って、みんなでフットサルクラブに入ったりして友だちを5人作りました。

「お前がやってるのか。じゃあしょうがない、行ってやるわ」とかね。あと、おじいちゃんやおばあちゃんに困ったことがあったらなんでも言って、という孫の手活動。「軒にかかった木を切ってくれ」と言われてみんなで行って木を切って、「あんたらサッカーっちゅうもんをやっとるのか。じゃあ1回行ってやるわ」とかね。

こっち側だけでやっていてはダメで、やっぱり、地元の人が動かないと。でも、その最初の刺激みたいなものはなかなか地元の人からは出てこないんですね。

例えば、香川の三豊町では、東京からの人が三豊の若者に刺激を与えて、三豊の若者がブワーッと盛り上がって町おこしをしています。絶対に両方の相乗効果がいると思いますね。

巨大な関係人口と地域住民を結ぶ、コミュニティづくり

各務:それは、あるポイントでいきなりバタッと変わるのではなく、ずーっと積み重ねていって知らぬ間に(変わるのでしょうか)。

岡田:そこに忍耐がいるんですよ。

各務:やっぱりそうですか。

岡田:僕も5年目ぐらいまでは、もう何をやってもなかなか信じてもらえなくて。なんか東京から有名人が来て、「騙されるんじゃないか」「お金出せって言われるんじゃないか」という感じでした。「どうもこいつは本気らしい」と思ってもらうまでは、がんばらなきゃいけないですね。

各務:岡田さまの実績と人脈や人徳があっても、現地の人は(信用しなかったんですか?)。

岡田:今治市はなかなか昔気質の街なんですね。そこはこちらも忍耐が必要です。

各務:リアルとかアナログ的な地方の文化と、いわゆる都会的な構造化された仕組みみたいなところの相性がなかなか合わないところもあると思うんですけど。宮田さまもそこは難しいところでしょうか?

宮田:どう共に作って、未来に進むかだと思うんですよね。

各務:共創。

宮田:我々も幸いなことに、地元を軸に連携をして、そういうものを作っているんですけど。ただ、地元の中でも急進派と保守派が絶対いるわけですよ。

各務:分かれますね。

宮田:なので、そこに住む人たちが何を大事にしているのかを調査して、可視化しつつ、寄り添う。あるいは、例えば飛騨の場合は高山と合わせて人口が10万人ぐらいですが、伝統文化の(魅)力で関係人口が600万人いるんですね。この600万人の人たちが何を大事にしているのか。そこを結びながら、新しいコミュニティを作る。

これは、サッカーも同じだと思うんですよね。コアなサッカーファンと、ある程度ゆるく見守ってくれるファンがいる。たぶん今治でもこの文化の軸はいろいろあったりするので、そういう人たちのつながりをどう作るかが、けっこう大事かなと思います。

新旧の分断を「融合」に変えるデジタルの可能性

宮田:例えば、地域の図書館をどう作るかという時に、図書館の棚を固定すると、昔からの人はここにいて、新しい人はここに来るといったかたちで固まるんですよ。これをデジタルによって、例えば「食」をテーマにダイナミックに動かしてみようと。昔からいる人たちはこの素材のおいしい食べ方を知っている。でも、新しい人たちは新しい調理法、最先端のものを知っていると。

これが融合すると、新しい食べ物ができるんですよ。旬を踏まえた上で、新しい調理法によってソウルフードをアップデートすると、昔からの人と新しい人のストーリーになっていきます。歩み寄りながら、どっちかじゃなくて共に文化を作るというこのプロセスを、我々は大事にしていきたいなと思っています。

各務:なかなか相互理解は難しいところだと思いますが、やっぱり一緒にやっていくと、「同じ釜の飯を食う」というように共通項ができるものでしょうか。

宮田:そうですね。すべてを共通にするのはやっぱり難しいですけど。

各務:でも、接点ができる。

宮田:かつ文化の中でも、多くの地域が大事にしているので、食は重要かなと思います。

各務:日本の食は本当に多様ですものね。アメリカとかに行くと、日本の食の多様性はいいなと思ったりしますし。

宮田:そうですね。

国や県のボーダーを越えた「文化」を中心としたコミュニティ

各務:お二方はたぶん理念をお持ちかと思うんですけれども。人は理念のどういうところに刺激されて集まってくるんでしょうか? 例えば、今いろんな社会問題がある中で、「こういう理念でやります」と言うと、その理念に人が集まってくるということを私自身もいろんなところで体験しています。

今視聴されている中小企業のみなさまも、どのように人が集まってくるかという肌感覚がわかると、より理念作りに身が入るかと思います。岡田さんに、お話をうかがってもよろしいですか?

岡田:今宮田さんがおっしゃったことにちょっとつながるんですけど。これからは、食でもスポーツでも、県や国というボーダーを越えた1つの文化を中心としたコミュニティをみんなが共有する時代になるんじゃないかと思っています。

例えば、今治市は人口15万人の街です。でも、その今治市のサッカークラブのファンクラブ会員が50万人になるかもしれない。共助のようなファンコミュニティだと「俺も入る」「俺も入る」となって、ひょっとしたら世界中から人が入るかもしれない。そういう時代が来ると思っています。

文化が中心になると、簡単に国境を越えられるんですね。そうなった時に、何でそこに人が集まってくるかと言ったら、別に物質的なものを求めてではない。例えば、アフリカの人がうちのファンクラブに入っても何かができるわけでもない。1つの考え方や理念に共感できるということに集まってくると思うんですね。

各務:なるほど。

岡田:例えば、この会社とこの会社は同じ物を作っていると。でも、この会社はちょっと高く、こっちは安い。この安い会社の社員はノルマ、ノルマでみんな辞めていっている。こっちは高いけど、みんな笑顔であいさつしてくれる。じゃあ、こっちを買おうと。

ここの差は信頼ですよね。目に見えないもの、そういうものにお金を払う。例えばパタゴニアの商品を買う人もそうだし。ちょっと高いですよね(笑)。でも、あそこの会社の方針に共感しているとか。

理念は、そういう意味でものすごく大事なものです。理念に沿ったものに対して、「それなら僕も」とみなさんが集まってきて、価値があると思うからお金を出して回っていくと思うんですけどね。

各務:お金を払うのは、その会社を自分が支えていくというか。

岡田:そうですね。よく言われるように、ファンづく作りとかに似ているんですけど。

コロナが変えた消費に対する意識

岡田:生きるか死ぬかの時に文化って起こらないんですよ。ところが、ある程度豊かになった時、そして、日本みたいに何もしなくても生きていけるようになった時に、「文化がないと逆に生きていけないかもしれない」と僕は思っています。

今、発達障害やひきこもりの方がたくさんいらっしゃいます。それから、日本でまともにご飯が食べられない子が14.7パーセントいる。なぜだと思った時に、自然から離れて何もしなくても生きていけること(が影響している)とか。そして文化がないと、そういう時に生きていけないんじゃないかとか。

だから、今は文化的なものに対する欲望がみんなにあると思うんですよ。コロナで2ヶ月家にいたら、こんなにお金を使わなくても暮らしていける。今までは不要不急のものにお金を使っていたんだと。じゃあこれからお金を使いたいのは、応援したくなるもの、または共感するものだ。つまり、目に見えない資本(価値)のあるものに使いたいとみんなが思い始めていると思うんですよ。

僕はドイツに住んでいたことがあるんですけど、ドイツって宗教上の理由で週末はどこも(店が)開いてないんですよ。日本人は(休みの日は)どこかに行って何かをする。田舎のおじいちゃんのところに行ったり、テーマパークへ行くとかね。旅行も目的を持って何かをするものだった。

ドイツはどこも開いていないから、商店街に行って閉まっている店のウィンドウショッピングをする。公園を散歩して帰ってくる。最初はものすごく物足りなかったのが、だんだん満足できるようになるんですよ。

そして、今日本人が、目的がなくてもその過程を楽しめるということに気付き始めた。コロナで家の周りでジョギングする人や散歩をする人がやたらと増えましたからね。

各務:散歩は楽しいですよね(笑)。

企業のビジネススタイルを転換させる、ミレニアル/Z世代

岡田:そういうふうに、今は特に若い人の中で、物質的な豊かさより理念などの重要性が高まっている。僕らの世代は物がなかったから、「今がんばれば豊かになる」と言われてがんばってきた。今の若い人は「失われた30年」とか言うけど、生まれた時から物があるんですよ。だから、物に執着しない。

宮田:そうですね(笑)。

岡田:僕らは「いつか車を買って、彼女を引っ掛けて」とか考えたけど、今はみんなが「車なんかいらない」と言う。今の若い人はそういう感性がすごいと思います。

各務:ITでつながりやすいので、そういうところの価値が僕らの時代と比べて変わってきたという感じでしょうか?

岡田:いや、今回の僕の資金調達で、「岡田さんすばらしい。ぜひ」と言って出資してくださる方は若い方が中心なんですよ。

各務:なるほど。

岡田:もうびっくりするんですよ。やっぱり感性がだいぶ違いますよね?

宮田:はい。私よりさらに下のミレニアルですね。さらにZ世代になってくると、つながりの世界で生まれ、自分の志などが世界とつながっているような状態で始まります。そうすると理念をかなり重視して、生き方や仕事を選ぶ。これはもう全世界的な傾向ですね。

デジタルやDXは、つながり方を変えたんですよね。ちょっと前までは、世界は経済でうっすらとつながっているだけだった。どこかでグリード(強欲)に儲けて、誰かを踏みつけて、途上国をぐちゃぐちゃにしていても、自分が良ければ良いという資本主義がずっと続いていたんですが。

各務:一方通行でしたよね。

宮田:それがつながってしまった。そういう中では持続可能なものを作らないと共感してもらえないし、ビジネスも許されなくなるという、逆説的な話にもなっているんですね。

実は、日本の江戸時代後期もそうだったんですよ。テクノロジーはなかったですけど、この狭い島国に3,000〜4,000万人もいて、ここで悪さをしたら向こうでバレてしまう。三方良しを目指さないとビジネスができないぞ、となっていたんです。

今は世界が三方良しになってきた。つまり、パーパスや理念がすごく大きく問われる。これがビジネスの成否に直結するような状況になってきたのかなと思いますね。

サッカーとアートで地域を越えたクラブ「FCバルセロナ」

各務:それは情報が伝わるスピードが、昔に比べると速いということなんでしょうね。

宮田:速いことと、あとビジネスの相互の影響が見えちゃうんですよね。

各務:見えるというのはどういう感じで?

宮田:例えば、これまでのファッション業界はひたすら環境破壊をしていたんですよね。大量廃棄してでも作っちゃえとやっていたし、まだ着れるものを「ダサいよ」とラベルを貼って着ないようにするというマーケティングをしていた。

今は、その製品を作る時に途上国を搾取していないかとか、あるいはそれが使われた後にどうなるのかが見えてしまう。そこも含めて、一瞬の快楽ではなく、その服を着るという行為が何につながるかを見せないと、ビジネスができなくなったんですよね。

そういう意味では、岡田さんの「サッカーで新しい街を作るんだ」というのは本当にすばらしいと思います。そういう志の中で、これからどういうコミュニティを作るのかがすごく問われるし、まさにDXど真ん中のビジョンじゃないかと私は思いますね。

各務:なるほど。情報の発信もそうですし、コミュニティの現場でいろいろと情報交換がされて、例えば、古い企業がいろいろ隠そうと思ってもそれがわかってしまうということなんでしょうか?

宮田:そういうことですね。あるいはサッカークラブでは、例えば(FC)バルセロナは昔から地域を越えたクラブだと言われています。

岡田:そうですね。

宮田:世界中とつながっていて、私もソシオ(年会費を払うクラブ会員)だったんですけど。まったく意味がわからないですよね。投票にも行けないのに、なんで年間1万円払っているんだろうと思ったんですけど(笑)。今はもっと「直接バルセロナに影響しているんだ」という満足感があるんですよ。

つまり、そこに住んでいなくてもクラブを感じられ、理念に共感できる。今はメッシが抜けてガタガタになったけど、理念を継承したチャビが出てきて、選手が集まってくる。サッカー文化があって、それに共鳴するアートもあり、人の暮らしがある。バルセロナにとって、サッカーはすごく重要な核なんですよね。

同じように、今治における岡田さんのビジョンや夢は文化の新しい力になる。これがあるから、食やアートなどの隣接領域も集うような力になっていくんじゃないかなと。

岡田:そうなんですよ。いやー、すごく詳しいのでびっくりしました(笑)。

宮田:いえいえ、すいません(笑)。

岡田武史氏が描く、今治の未来

岡田:今おっしゃっていただいて、「デジタルとはつなぐことだ」とよくわかりました。

宮田:そうです。

岡田:それが一番のポイントなんだな。僕が今考えているのは、今治にはスポーツがあるけど、もっとアートとか(も一緒にできないかなと)。最高の音楽はホールに行って聴いてもらえばいい。最高の絵は美術館に行って見てもらえばいい。

でも、ここへ来たら誰もが親しめる音楽やアートがあるというものをやりたいと思って、今いろんなところとコラボしようとしてるんですけど。スポーツはスポーツ、アートはアートじゃなくて、これからはそういうものが一体になる気がするんですね。駅ピアノにしてもそうですけど、心の豊かさが感じられるところにはそういうものが必ずあるような。

宮田:本当にそうだと思います。

各務:人、人、人がつながって、新しいセッションのようなものがどんどん生まれてくるってことなんでしょうかね。

宮田:本当にそうですね。なので、サッカー文化を核にしたチームの理念を、みんなに伝えられるようなデザインは何だろうと。そのデザインやアートはファッションにもたぶんつながるでしょうし。それを(みんなが)まとうことで、また心が奮い立つわけですよね。

あるいは、地域の食ですね。地域のつながりを感じるもの。スタジアムに来た時に、名物みたいなものがあるとエリアが認知されやすくなったりするし。

岡田:僕らも食をやるんですけど。そうやって1つやると、作るところからやらないかということで農業にも入っていって。「こういうことをやろう。じゃあ教育が必要だな。そしたら学校の理事長をやるか」とかね。どんどん広がっていって、「このままだと俺ぶっ倒れるな」とちょっと思っているんですけど(笑)。

宮田:(笑)。

岡田:これから、いろんなことがコラボしてくるような感覚があるんですよ。

リモートの普及で変わったビジネスパーソンの時間と意識

各務:ありがとうございます。私から最後に、お二方にご質問があります。私もDXをやっていて感じることですが、物事をつないでいくとつないでいる人が多忙になる中で、どうやってアナログを活かしながら、効率化をするかが課題になると思うんですね。実行すること、インプリメンテーションが大事だと思うので。

DXを進める上で、楽に仕事をしないといけないところと、どっぷり現場に浸かっていないといけないところがあると思いますが、お二方が工夫されているところをお聞きしたいなと。宮田さまは、そういうところでの工夫はありますか?

宮田:今の話を聞いて、岡田さんに本当に体を大事にしていただきたいなと思って(笑)。

デジタルは、いろいろなことの効率化も同時に図れるわけですよね。今日のようにこうやって対面でお二人を感じることで引き出されるクリエイティビティがある一方で、Zoomでも軽快につながって、やりとりできる部分もあるわけです。

Zoomの時にずーっと画面をオンにして張り付いていないといけないかと言うと、そんなことはなくて。一例ですけど、ワークアウトしながらとか、散歩しながらとか、あるいは四季を感じながらとか。

あるいは、自分がすべてをやるのではなく、人との仕事のつながりも作れる。いろいろな人とタスクシェアをしていくことも可能なので、ぜひ岡田さんには長く日本に貢献していただきたいという。

岡田:(笑)。

宮田:岡田さんのサッカーのビジョンを、僕もすごく見たいなと思います。

各務:私も本を拝見して、すばらしいと思いました。

岡田:ありがとうございます。僕もリモートとかスマホがなかったら、仕事をぜんぶできていないですよ。コロナの前は某飛行機会社の搭乗回数が日本で3位とかまでいって、「自転車のようにお使いいただきありがとうございます」と言われて。

(一同笑)

岡田:コロナでどれだけ楽になったか。今までお客さまに「リモートじゃ失礼だ」と言われてたのが、今はお客さまから「リモートで」と言われる。リモートがなかったら、今みたいないろんなことはできなかったでしょうね。

各務:ありがとうございます。対面とかアートな部分のコミュニケーションと、合理化するコミュニケーションを使い分けながらやると、本当にやりたいことに集中できるのではないかと、あらためて思いました。

本日は岡田さまと宮田さまに、貴重なアドバイスとコメントをいただき、本当にありがとうございました。

岡田:どうも、ありがとうございました。

宮田:ありがとうございました。

(会場拍手)

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