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Product keynote(全3記事)

2022.02.18

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「全員に銀行を1回辞めてもらう」 地銀の異端児・北國銀行頭取の5年がかりの大改革

提供:サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社が主催する、クラウドサービスの総合イベント「Cybozu Days 2021」。 今年のテーマは「LOVE YOUR CHAOS」と題し、めまぐるしく変わる混沌の中で、変化の波を乗りこなす柔軟さを追求する思いが込められています。ITや働き方に関するさまざまなセッションの中から、本記事では「Product keynote」の模様をお届けします。サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久氏が、数々の先駆的な取り組みで知られる北國銀行 代表取締役頭取 杖村修司氏に、マインドリセットのための大胆な施策や、地方銀行が異業種や自治体と共に進めるDX事例について聞きました。

地銀の常識に囚われない、北國銀行のチャレンジングな事業展開

青野慶久氏(以下、青野):それでは製品の近況は以上とさせていただいて、ゲストをお招きしていきたいと思います。楽しみです。お一人目のゲストは北國銀行代表取締役頭取、杖村修司さまです。大きな拍手でお迎えください。

(会場拍手)

杖村修司氏(以下、杖村):こんにちは。

青野:こんにちは、ありがとうございます。どうぞおかけくださいませ。もう本当にこの場にお越しいただいて、感謝感激です。

杖村:いえいえ、日頃から大変お世話になり、ありがとうございます。

青野:地方銀行さんとお話ししてますと、常に名前が挙がるのが北國銀行の杖村さん。地方銀行の中では、神がかり的な事業展開を今されている企業さまです。もしよろしければ、北國銀行さんの取り組みを教えていただけませんでしょうか。

杖村:いや、そんな神がかりってことはないんですけど(笑)。たぶんみなさんがいろいろな銀行のドラマをご覧になって、銀行のイメージはだいぶ「堅い」とか、あるいは「顧客起点じゃない」と思っていらっしゃる方はすごく多いんです。

ただ、我々はやっぱり顧客起点で、お客さまにとって本当にニーズがあること、あるいはこれからニーズが生まれるであろうことを、どう具現化するかということに力を入れています。

そういう意味では、お客さまの生産性を上げるためにはやっぱり「クラウドしかないね」と。それをやるためには、キーワードは「同じ船」ということで「Same Boat」。要はお客さまにクラウドを提供したり説明する時に、「じゃああなたの会社はどうなってるの」と言われて、「いやいや我々はオンプレですから」というのは当然説得力がなくて。

やっぱり「我々もクラウドです」と。「勘定系もサブシステムもすべてクラウドです。ですからみなさん一緒に使いましょうよ」ということをやらないと、変わっていかないと思っていますね。

フルバンキングでは日本初のクラウド化

青野:今はもう勘定系もクラウド化されてるんですよ。たぶん日本では初めてじゃないですかね?

杖村:そうですね、いわゆるフルバンキングでは初めてだと思います。

青野:むしろ「セキュリティが」「安全性が」と、なかなかクラウドに踏み切らなかったところが今、問題が頻出していますが、非常にチャレンジングに、いち早くクラウドにいかれたと。また、そのノウハウを持ってお客さまにデジタル化を提案されていると思いますので、よろしければご紹介いただけますか。

杖村:今ほど青野社長からご説明があった中でも、特にkintone。ちょうどキーワードが重なるんですが、やっぱり我々が大事にしているのが、内製化をしながらということですね。例えば、みなさんが住宅ローンを借りる時は、ハウスメーカーとやり取りしながら、結局ローンは銀行で借りなきゃいけない。そこで銀行とハウスメーカーはどういうやり取りをしているかというと、お恥ずかしながら、これまではFAXや電話でやってたわけですよね(笑)。

青野:矢印がいっぱいありますよね(笑)。

杖村:それを100社400名とやっていたんですが、kintoneを使って情報を一元化することで具現化できる。しかも内製化という意味では、普通の営業などをやっていた女性が、我々のIT部門と協力しながら、kintoneで新しい「マネープラザ」というアプリを作りました。

非常に画期的なことで、みなさんサイボウズさんのホームページとか見ると「ノーコード、ローコード」と書いてあって「本当かな?」と思ってらっしゃる方もいると思うんですが。

まさに昨日まで、せいぜいWord、Excelしか使えなかった社員が、kintoneでこれだけのアプリが作れるのは我々にとっても非常に驚きですし。実際にできるんだなという、我々自身がステップアップする1つの大きな事例だと思いますね。

銀行が、漆器業界の工程管理のデジタル化を支援

杖村:次はもうちょっとハードルが高い事例ですが、山中漆器という漆器がありますよね。1社がすべての工程を作っているわけではなくて、何社も分かれて漆器を作っています。漆器業界は100億円くらいの業界で、当然コラボレーションしなくちゃいけないんですが、みんなやっぱり会社が違うので、やり取りは電話やFAXだったりする。

その中で、みんなでkintoneを使ってもらって工程管理をしようという。今日はそれを実現したリーダーがどこかで見てると思うんですが(笑)、本当に大変なことでした。

先ほどは我々の社員が内製化で作った事例ですが、これは本当に各社と話をしながら、業界全体の工程をkintoneに作り込んでいきました。もちろん今もきちんとワークしていますし、漆器業界だけではなく、今後いろんな業界に応用できるんじゃないかなと思っています。

青野:漆器メーカーさんをちょっと想像しますと、当然ITに詳しいわけじゃないでしょうし、やりたい人も中にはいるでしょうけど、やりたくない人もいる。でも、みんなに参加してもらわないと便利になりませんからね。

杖村:そうです。たぶん、その担当の女性も相当大変だったと思ってると思います。

青野:すごいですね。基本的にはシステムを作るのも、北國銀行さんのICTグループの方々がお客さまとやり取りしながら。

杖村:そうですね。あとは今日もいらっしゃってますけど、パートナーの方にも協力していただいています。ですから、我々の言う「内製化」は、100パーセント自分たちだけでやるという意味ではなくて、今日いらっしゃっているパートナーの方とコラボレーションしながらです。

社長も先ほどおっしゃってましたけど、やっぱり「我々はこれだけしかお金出しません、だから一緒にやりましょう」ではないんです。予算はありますけど、一緒に伴走しながら、「まぁ追加になったらしょうがないよね、ちゃんとお支払いしますよ」という、ある意味心理的安全の中でやっていく。そうしないと、こういうアジャイルの開発は絶対無理だと思います。

青野:なるほど。ITが苦手なお客さまと北國銀行さんのICTグループ、それからパートナーも含めて、同時に伴走しながらみんなで改善していく感じなんですね。

杖村:その時に大事なのは、やっぱり予算にこだわらないことだと思います。もちろん、たくさんお金があるわけじゃないのでアレですけど(笑)。柔軟に対応する中で、安くなれば安くなるでいいことなんですが、追加になった理由があれば、ちゃんとクイックに対応することが一番大切だと思っています。

青野:みなさん、銀行の頭取の方が「クイックに」なんてお話しされているのが、すごくおもしろいですよね(笑)。

杖村:(笑)。

自治体・医療業界・地方銀行による、情報連携プロジェクト

青野:ありがとうございます、また次の事例をよろしいですか?

杖村:だんだんハードルが高くなるんですが(笑)。実は今、ある自治体さんと医療業界の方とも一緒になって、地域の医療の情報連携をしようと。今はコロナ禍でみなさんも大変だったと思うんですが、いろんな意味での情報連携をkintone上ですべてやろうというプロジェクトです。

先ほどは山中漆器の業界だったんですが、今回は地方自治体のみなさん、業界のみなさん、そして我々、パートナーさんということで、もう1つハードルが高くなっているんですが、これを今進めています。

青野:こうなるとけっこう大規模ですよね。地方銀行さんが自治体を巻き込んで、システム化を進められているという。

杖村:たぶん成功すると思うんですけど、やっぱり1つの大きな事例になると思うので、ぜひともこういう分野を進めていきたいなと思っています。

青野:ありがとうございます。もう1つでしょうか。

金融業界の苦境は、すでに20年前に予測可能だった

杖村:我々は今、漆器業界や医療業界のお話をしましたが、やっぱりkintoneの可能性は本当に無限大です。ほぼすべての業種について同じような応用が利くと思うんですね。

その時に大切なのは、やっぱり我々自身も内製化しますが、今日参加されているパートナーのみなさんとぜひともコラボレーションしながら。あらゆる業界の中でいろんな分野に応用が利きますし、自分たちだけで抑えるのではなくて協業しながらやっていく。

これは実は日本だけではないんです。先ほど少しお話ししてたんですが、我々の持ち株会社の子会社が、ベトナムやタイに現地法人として、コンサルティング会社を設立しました。

当然アジアにもkintoneはどんどん広がっていくべきだと思いますし、ポテンシャルもパワーも十分あると思います。(日本国内の)全業界だけじゃなく、ぜひともいろいろご支援をいただきながら、kintoneワールドを世界に広げていければなと思っていますけどね。

青野:ありがとうございます(笑)。ちょっとみなさん……杖村さん、銀行の頭取ですよ。この銀行の頭取の方が、これだけ饒舌にITのことを(語られている)。

杖村:いやいや、そんなことないです(笑)。

青野:しかも最新のITトレンドをしゃべり続けるというところが、僕にとってはすごく不思議で。今はゼロ金利もありますし、地方銀行が金融だけではなかなか難しい中、どうやってデジタルのほうに舵を切っていけばいいのか。もう本当に、日本全国で悩んでおられると思うんですけど、杖村さんはいつぐらいから予感されてたんですか?

杖村:金融業界は今マイナス金利だと言われていますけど、実は今から20年前の2000年にすでに、お客さまの資金需要が減りつつあることはもう見えてたんですよ。

ですからメガバンクさん、当時の都市銀行はお金が足りなかったんですが、お金が余り出したことはわかっていました。要はお客さまのニーズが、貸し出しにはなくなってきたと。

顧客のニーズは「資金の貸し出し」から「システム」へ

杖村:今、全国でも中小企業の三十数パーセントは無借金なんです。例えば先月も、私が2日間かけてある地区のお客さまをご訪問した時の話題は、たまたま我々が経産省さんのDX認定をいただいたこともあるんですが、9割のお客さまの話題は「システム」でした。

青野:お金ではなく。

杖村:みなさんが困っているのはお金ではなく、自分のところの基幹系のシステムをどう変えようかということでした。その時におっしゃるのは「パッケージをカスタマイズするしかないな」と。でも、一生懸命カスタマイズしてお金を出して、なんとなく小慣れてきた頃にはまたパッケージを買い直さなきゃいけない。

「ほかの選択肢はないんだよね?」という質問でしたね。その時には、ちゃんとkintoneを宣伝しておきましたので(笑)。いや、本当に。

青野:ありがとうございます。資金需要がなくなっていく中で、ビジネスをデジタルのほうに、お客さまのニーズのあるほうにシフトしていく。しかもパッケージを当てていくだけではなくて、いろいろな業態の中小企業さんに合わせてカスタマイズできるような世界をイメージされていた。もうまさに北國銀行さんはデジタルシフトの20年だったということでしょうか。

杖村:そうですね、最初の10年は自分たちのデジタル。やっぱり自分たちのデジタルとオペレーションの変革だけではダメなんですよ。お客さまと一緒にデジタル変革をしないと、我々の地域も生産性が上がらない。7~8年前のリーマンショックのあとから、お客さまと一緒に生産性を上げていくことに、どんどん力を入れています。

その延長線上で、我々ももっともっとクラウド化しなきゃいけないね、と。今はIaaS、PaaS、SaaSとあるんですけど、先ほどおっしゃったようにSaaSもすごく大切です。IaaSの部分も残りますけど、当然PaaS、SaaSの3つはどんどんやっていかなきゃいけないなと思っていますけどね。

アジャイル開発のセミナーに、600人もの銀行員が応募

青野:もう、ちょっとびっくりですよね……(笑)。繰り返しますけれども、銀行の頭取の方で、これだけITについてしゃべる方は、本当にレアだと思いますけれども。

地方銀行さんがデジタルに舵を切ると言っても、社員の方はもちろん銀行マンになろうと思って入ってきてるでしょうし、「何を言ってるんだ」ということにもなると思うんですよね。求められるスキルもぜんぜん違うところは、どう向き合ってこられたんですか?

杖村:現時点では、例えば「アジャイル開発のこういうセミナーをやろうよ」と言ったら、600人の社員が応募してくるんですよ。

青野:アジャイル開発で、社員が600人も寄ってくるんですか!?

杖村:まずは初級のセミナーをやろうよと言うと、600人くらい応募するんですよ。今はもうそれくらい、我々の中でもマインドセットがリセットされています。それはものすごく良いことだと思います。

よくリカレント教育と言われますが、私自身も役員も常にバージョンアップしていかないといけませんね、と。「○○大学を出た」「××高校を出た」というレッテルだけではなく、常に新しいものを学んでいかないと、やっぱりお客さまの役にも立てないし、会社自体も発展しない。

そういうリカレント教育のマインドを、「どんどんみんなでシェアしようよ」と言い出したのは今から6~7年前です。ここ2~3年でようやくアクセルがかかってきました。マスメディアのみなさんにも「けっこういろんなことをスピード感持ってやってるよね」と言われるんですけど。

今日も朝の9時からたぶん10時半くらいまで社内で戦略会議をやっていて、去年の(Cybouz Daysの)心理的安全性の話じゃないですけど、ものすごくたくさんの案件が上がってくるんですね。そんな状況なので、どちらかというと我々取締役は、若干押され気味という感じです(笑)。

青野:(笑)。

杖村:外から見ていると、私がITなどいろいろな部門にいたので、けっこうトップダウンでどんどん「やれやれ」と言ってやっているかのように思われますけど、正直言って昨今はちょっと押され気味で、けっこういろいろ学んでいかないとまずいなと思っています。

「あの人たちは抵抗勢力だからほっとこう」は失敗の元

青野:じゃあ今は、ものすごくポジティブスパイラルが入っている感じですね。学びたい。そしてまた案件も出てくる。

杖村:そんな感じになっていますね。ですから、私以外の取締役からも「けっこう勉強しないと大変だね」という愚痴を聞いてます(笑)。

青野:なるほど、逆に(笑)。トップの人たちも学んでいかないと。

杖村:やっぱりクラウドをやると、今度はデジタルマーケティングとか、いろんな分野に広がりが出てきますし。業種も大企業・中小企業だけじゃなくて、スタートアップにもどんどん広がっています。

青野:すごいですね、スタートアップまで。ただやっぱり気になるのは、今はそういう非常に良い状態かもしれませんけど、そこへいくまでには相当抵抗があったんじゃないかと思います。

杖村:いやもう、カオスです(笑)。

青野:(笑)。ちょっとお聞かせいただいてよろしいですか?

杖村:たぶん古今東西、みなさんがやっぱり「今のままがいい」と思っているので。それは我々の社内もそうですし、特に銀行業なんかを変える時は、お客さまも一緒に変わっていかなければならないので。そういう意味では、いろんな新しい取り組みをやると、最初に出てくるのは批判であり、不平不満であると思いますね。

青野:行員の方は頭のいい人が多いでしょうから、批判もするし不平不満も出てくると、なかなか対処も難しかったんじゃないかと思うんですけども。杖村さんはどうやって向き合ってこられたんですか。

杖村:一言で言うと対話ですね。コミュニケーション。とにかくみんなでどんどん話し合って、何が不満なのか、何がいけないのか、何のためにこれをやるのかをどんどん。これは、お客さまも含めて対話を続けることに尽きると思います。

「あの人たちは抵抗勢力だからほっとこう」とか「切り捨てよう」という手法では、絶対に解決しなくて。やっぱりとことん会話・対話していくことに尽きると思いますね。そうすると本当に変わってくると思います。

対話の中で、お互いの価値観が重なる部分を見つける

青野:なるほど。みなさんも社内でよくあると思いますけど、大きく変えようと思ったらやっぱり抵抗勢力のような人が出てきてね。「本当に足引っ張るよな、こいつら」となりますけど。この人たちを見捨てないでちゃんと対話したら、少しずつわかってくれる。

杖村:日本人なので、本当にみんな一生懸命やっていて、その中での価値観や考え方のズレがありますから。全部一致するのはもちろん無理ですし気持ち悪いんですけど、お互いに重なる部分を対話の中で見つける。

やっぱり顧客起点というか、我々の存在意義は理念に基づいていて、世の中にいろんな事象があるけど、少しでも社会を良くするためにやるんだよねという。そういうところできちんと価値観を共有できて、前に進めるという実感はありますね。

青野:今お話を聞いてるだけで、やっぱり心を動かされますよね。みんなが一生懸命で、足を引っ張る人も別に、足を引っ張りたいわけじゃなくて。「どうすれば良くなるか」の中で、自分なりに足を引っ張っているだけだから、実は目指してるところは同じなんだと。もっとお客さんに貢献するにはどうすればいいだろうかということですね。

杖村:そうです。お客さまも百人百様なんですけど、やっぱり思いがあっていろんな意見をおっしゃるので、そういう対話をどんどん進めています。今もいろんな改革をしているので、いろんなご批判もいただいていますけど、そこもどんどん丁寧にやっていこうと。

青野:基本は丁寧に対話をしながら、小さな流れが大きくなり、今みたいに加速的にどんどんみんなの手が挙がるようになってくる。

杖村:本当にそうだと、時間は少しかかりますけど、メインストリームになってくると思います。

個人のキャリアの目標に合わせて、研修プログラムを提示

青野:いや、すばらしいですね。本当に今聞いたお話は、至言の数々ですよね。「ITを学んで、ITがわかればみんなわかってくれるんだ」ということじゃなくて、やっぱりITがわからない人のところにも心配りしながら(進めていらっしゃいます)。

杖村:我々にとってサイボウズさん、kintoneとの出会いは本当にありがたいんです。なぜなら、そういう価値観を共有できて、先ほどの事例でも本当に、いろんなサイボウズさんの社員の方に手伝っていただきました。それで今申し上げたような、業界や社会が変わるよという価値観がすごく一致したので、ものすごくパワーになったと思うんですよね。

本当にサイボウズさんとの出会いは、我々のITを進める上でも本当に奇跡的な出会いだと、私はもちろん一緒にやっているスタッフも思っていると思いますね。だから、この「価値観が合う」というのは、ものすごく大切だと思います。

青野:そうですね、より良い社会を作っていこうという価値観が大事ですね。ただ、金融をされていた人がITにということで、「よし、これからデジタルがんばろう」と言っても、スキル的にはまたちょっと差があるじゃないですか。どうやって埋めてこられたんですか?

杖村:釈迦に説法ですけど、同じ「ITスキル」と一口に言っても、本当に新しいクラウドネイティブなアーキテクチャがわかる人から、ノーコード・ローコードに合っている人まで、いっぱいいるわけです。全員にアーキテクトになってほしいとは思ってないので、やっぱり自分のやりたいことに合った目標を(立ててもらう)。

我々は「キャリア志向」と言っているんですけど、自分のキャリアの目標に合わせてちゃんとプログラムを作って、並走しながらやっていこうよという研修や体験になっています。

青野:なるほど。失敗してしまう企業の話を聞きますと、これからIT人材を育てないといけないというところで、全員にJavaのプログラミング研修をしたり(笑)。ほとんどの人が「は?」となって、むしろアレルギー反応を示して帰ってくるみたいな(笑)。それじゃいけないわけですね。

杖村:いけないですね。ですから、我々の社内のデザイナーと一緒に、わりと画面を作るのが好きな人もいれば、本当に超一流のアーキテクトの人もいるので。自分の目標に合わせたものをちゃんと提示してあげることが大事だと思います。

青野:なるほど。そこもやっぱり一人ひとりを見ながら、どういうスキルを身につけてもらえれば、全体としてバリューが発揮できるのかと。

来年3月には、全社員に「銀行を1回辞めてもらう」

杖村:どのみち先ほども申し上げたように我々、来年3月1日には人事制度を変えて、全員に北國銀行という銀行を1回辞めてもらうんですよ。

青野:……は?(笑)。すいません、北國銀行をみんな辞めてもらうんですか!?

杖村:全員辞めてもらって、持ち株会社の社員になる。そこから出向してもらうというかたちをとるんです。マインドセットのさらにリセットということです。その時に、やっぱり銀行機能は大切なので、銀行員になりたいとか。あるいはコンサルティング会社をやりたい、システムをやりたい、もしかしたら不動産・保険かもしれないし、ECサイトの会社もあるので、そっちにするかもしれない。そういう取り組みをどんどんやっています。

なぜやるのかというと、今日は銀行の名前で出ていますが、やっぱり地域のニーズは銀行機能だけではないので、そういった(実地に合った)かたちでやろうよと。その時には、おっしゃるとおり、やっぱり一度みんなマインドセットを変えないとならないので、1回辞めてもらって、退職金もなくして、来年3月1日から新しい企業体でやろうという話をしてます。

青野:え、全員?

杖村:100パーセント、全員です。

青野:すごいですね……ものすごい改革ですよね。地方銀行さんってやっぱり銀行が中心で、そこに子会社がぶら下がっているイメージなんですけど、そうではない。銀行はもちろん大事な機能ではあるけれども、自分たちが提供する価値の中の1つだから、1回リセットしてもらうためにも抜けてもらうと。

杖村:でも、この人事制度も「こういう人事制度をやりたいよ」と言って、みんなで5年間議論してきたんです。今はそれに対して不満とかはぜんぜんないですね。

青野:そこも時間をかけて対話をされている。みんなびっくりしますよね。トップの地方銀行に入って「やったー!」と言っていたところ……(笑)。

杖村:そうなんです、「辞めてくれ」と(笑)。

青野:(笑)。びっくりですよね。でもそれもやっぱり丁寧に、5年間話をしてこられた。

杖村:5年かかりましたね。

法人も銀行に行かずに取引できる「デジタルバンク」の開発

青野:もしよろしければ、ここまで銀行のあり方を変えてこられた杖村さんが、次に見ておられる世界について。どんな組織を目指しているんだろうか。もしくはどんな社会をイメージされているんだろうか。このあたり、デジタル化も含めてお聞かせいただけますか?

杖村:ずいぶん前にビル・ゲイツさんがおっしゃってたように、銀行機能は本当にデジタル化できると思うんですよ。我々は2年前に、フルバンキングの個人のデジタルバンクを作りました。ご存知の方はいらっしゃらないかもしれないんですけど、我々の90パーセント以上の個人のお客さまは、スマホ完結で取引ができるんですね。これはすみません、Azureを使ってやってるんですけど(笑)。

それで今、法人のデジタルバンクを開発しています。日本ではまだぜんぜんやっていないんですが、おそらく来年春にまず社内で使い始めて、たぶん半年から1年で本格リリースできるんです。法人のお客さまも銀行に行って手続きする必要は一切なくなる。本当にパソコン・スマホの中で、100パーセント取引ができちゃうんですね。

そうなると、我々社員の仕事はやっぱり、フェイストゥフェイスのところだったり、いわゆるコンサルティングとか、付加価値を出していくところにどんどんシフトしていかざるを得ないですし、お客さまのニーズもそこにある。そういう世界が広がっていると思います。

青野:いわゆる事務作業はデジタライズしてしまって、自分たちはより付加価値の高いところへ。まさに対面でコンサルティングや業務提案をして、もしくはそこからさらにシステム開発にシフトする。

杖村:だから、どんどん人とシステムの2つに資源を投入せざるを得ない。それが世の中のニーズだと思います。デジタルバンクを2つ作るので、先ほど申し上げた予算は20億くらいだったんですけど、すでに120億になってしまってですね……(笑)。5倍オーバーしちゃったんですけど(笑)。

日本の生産性を上げるのは、気合いと根性ではなく「システム」

青野:でもとにかくそこ投入して、自動化して。

杖村:はい、社外取締役のみなさんからもだいぶお叱りを受けながら。

青野:やっぱり自分たちの手でチャレンジされながら、ノウハウを蓄えながら。

杖村:そうですね。自前主義なんですけども、パートナーのみなさんに手伝っていただいてここまできました。もうスタートする目途は立っているので、やっとここまできたかなと。ですから次はやっぱり人、プラスもっともっとシステムにも資源を投入するのが次の世界だと思います。

青野:お客さまの見方も変わってくるものですか? やっぱり「北國銀行さん」という見られ方をすると思うんですけど、それもどんどん変わってきてるんですか。

杖村:ここ2~3年は、本当に変わってきたと思います。その前はやっぱり「ちょっと変わってるね」とか、当時は専務だったので「専務、システム好きなんだよね」という受け取り方が大きかったと思いますけど。

今はいろんなところで宣伝もしていただいたり、先ほど申し上げたように生産性を上げるためには気合と根性じゃなくて、システムを使わざるを得ないよねと。次の自分の企業・業種、日本全体の展望が開けないから、とにかくシステムを使って生産性を上げようという機運は、ものすごく盛り上がっていると思います。

青野:それを北國銀行さんに相談に行くと。

杖村:そうですね。我々は地元のITパートナーの方とも一緒にご相談をいただきながら、どんどん新しいご提案をして、お手伝いすることをコア業務として位置付けています。

青野:すごいですね。普通、銀行が生産性を上げようと思って「システムを入れよう」とは行かないですもんね(笑)。

杖村:システムがわかって、なおかつ業種ごとの仕事のやり方・文化がわかって、オペレーションがわかってないとシステムはお手伝いできないと思うので、それは我々の強みだと思ってます。

地方銀行の変革が、企業の生産性向上を後押しする

青野:おもしろいです、ありがとうございます。残り時間が少なくなってきてしまったんですけれども。北國銀行さんから、全国の困っている地銀やメガバンクなど、ほかの金融業の方々にメッセージをいただけますか。

杖村:メガバンクさんはたぶん業態が違うと思うので、ちょっと置いておきますが。私自身は、同じような価値観や理念、戦略を持っている地方銀行の方とは「どんどんコラボレーションしようよ」というメッセージをすでに出しています。

今、6つくらいの金融機関の方とお話をしながら、「お互いにシステムシェアしようよ」とか、いろんなお話をしているので、こういう輪が広がっていけばいいなと思っています。

青野:そうすると、北國銀行さんのこのモデルを学びたいと思って、みんな集まってきて。

杖村:学びたいというか、お互い学ぼうね、という話ですね。

青野:相当先を行かれてますよね。でも、この輪が広がっていくといいですね。銀行さんのビジネスモデルのシフトだけではなくて、その先におられる地方の中小企業さんの生産性を上げていくと。

杖村:そうですね、地方同士がどんどんつながっていくように、どんどん発展していくと思います。

青野:ありがとうございます。杖村さんとお話しして、日本の明るい兆候が少し見えた気がいたします。

杖村:サイボウズさんのソリューションで一緒にやっていきましょう(笑)。

青野:(笑)。足を引っ張らないようにがんばりますので、今後もぜひご協力よろしくお願いします。大きな拍手でお送りください、ありがとうございました。

(会場拍手)

杖村:ありがとうございました、失礼します。

青野:いや、もうびっくりでしょう。私がイメージしていた銀行の頭取のイメージとは、もうまったく違うところに行かれていて、もうそれをこの20年取り組まれています。やっぱりこのモデルをより多くの人に知っていただいて、広げていただきたいなと心から思います。

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