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コロナ禍の修羅場にCFOはどう立ち向かったのか(全1記事)

2021.10.06

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旅行・レジャー業界にコロナ禍のインパクト エアトリとアソビューは修羅場をどうやって乗り越えたか

提供:グロース・キャピタル株式会社

上場ベンチャーの「攻めのファイナンス」と成長戦略の実行を支援するグロース・キャピタル株式会社が、日本最大級のCFOイベント「Growth CFO Summit Vol.7」を開催しました。CFOの役割は、これまでの財務エリアに止まらず、企業成長を担う存在となっています。本サミットでは、さまざまな業種のCFOたちが集い、白熱した議論を繰り広げました。本パートは、アソビューとエアトリがコロナ禍で経験した経営難などの記憶・記録を述懐。ハードシングスに負けないCFOの姿勢などを共有しました。

▶日本最大級のCFOイベント「Growth CFO Summit Vol.7」の一連の講演は、こちらからご覧いただけます

コロナ禍の修羅場の乗り越え方

嶺井政人氏(以下、嶺井):それでは最後のセッションにまいります。最後のセッションは「コロナ禍の修羅場にCFOはどう立ち向かったのか」というテーマでお届けします。

CFOの役割は、一義的には「ファイナンスを活用して会社を成長させていく」ということは、みなさんが同意されるところだと思います。ただ、私はCFOの重要な役割の一つに、「会社のケツを持つこと」が含まれると考えています。

会社は、例えば売上が0になろうが、人がいなくなろうが潰れないです。どんな時に潰れるかというと、現金がなくなった時なんですね。お金がなくなった時に会社は潰れます。必要なお金を必要な時に調達してくる。これはまさに財務で、その責任を担っているのが最高財務責任者。まさにCFOなんだと思います。

いい時により会社を伸ばすために攻めのファイナンスをしていく、これも大事なことです。ただ何かのタイミングで苦しい時がきた時に、最後にケツを持つのもCFOの役割なんだと思っています。そういう中でこの1年半、コロナ禍で大変な局面にぶつかって乗り越えてこられたり、今も大変な局面におられる会社さん、多くあると思います。

今日は2社、アソビュー、エアトリのお二方に登壇いただき、どういう葛藤の中でどう修羅場を乗り越えてきたのかというお話を聞かせていただくことで、今もまさに修羅場で戦っているCFOのみなさんが「よし、がんばろう」と踏ん張れる勇気につながればいいなと思っています。それでは最後のセッション、始めてまいります。

まず、登壇者の紹介をさせていただきます。アソビュー 河合CFO、会社と自己紹介をお願いします。

レジャーのプラットフォーム「アソビュー!」

河合辰哉氏(以下、河合):アソビューの河合と申します、本日はよろしくお願いします。当社は、休日の便利でお得な遊びの予約プラットフォーム「アソビュー!」を運営しております。これはどんなサービスかというと、アウトドアのアクティビティや遊園地・レジャー施設のチケットなどをオンライン上で予約したり、チケットの購入ができるWebサービスです。

具体的に今どんなものを扱っているかというと、ラフティングやパラグライダーといったアウトドアのアクティビティ、一方で、そば打ち体験や陶芸体験といったインドアの体験、さらには水族館や遊園地などのレジャー施設のチケットも扱っています。

最近では、日帰りで行けるような温浴施設や、新宿御苑といった公共的な公園や博物館、お城などの文化施設のチケットも扱っています。

私個人としては、新卒でアクセンチュアというコンサルティングファームに入社し、そこではコンサルタントとして11年、業務改善とかITコンサルに従事していました。その後、株式会社アイスタイルに入りまして、社長室や営業部門に4年おりました。

アソビューに2014年に入社しまして、今8年目になります。この経歴のとおり、財務・経理などの専門領域よりは、どちらかというと事業サイドから上がってきた経歴になります。

嶺井:叩き上げということですね。

河合:そうですね、叩き上げで(笑)。アソビューに入って、コーポレート部門を管掌する中で、CFOという役割も担っております。

嶺井:なるほど、今日はよろしくお願いします。

河合:はい、よろしくお願いします。

嶺井:それでは続きましてエアトリ、柴田代表に自己紹介と会社の紹介をいただこうと思います。お願いします。

コロナ禍真っ只中でエアトリ代表に就任

柴田裕亮氏(以下、柴田):よろしくお願いします。私は社会人になって今16年強経ちまして。前半10年がいわゆる公認会計士として、トーマツに所属をしていました。後半6年で現・エアトリにジョインをしまして、現在に至ります。キャリアは大きく言うと2つです。

トーマツではアドバイザリー系の事業部に所属していたんですが、間は2年間ほど野村證券に出向に行きました。その後、リクルートのIPOプロジェクトでほぼ出向状態になっていたり、後半は一貫してIPO系の仕事に携わることが多かったです。

その後、現職の会社に来ました。たまたま社長が同級生という縁もあったんですけど、IPOをミッションとして入社をした経緯です。2015年にジョインして、その後に東証マザーズ上場、一部市場変更になりました。その後、M&Aや投資等をミッションとしてやってきました。

嶺井:そこから代表取締役に就任をされているんですね。

柴田:そうですね、2019年に共同代表というかたちになりました。まさに今日のテーマになるんですけど、2020年1月に代表取締役社長になりまして、社長就任した月にコロナがくるという話でした(笑)。

嶺井:なんと(笑)。ドラマですね。

柴田:絶妙なタイミングで社長に就任させていただいたという感じです(笑)。

嶺井:なるほど。事業のご紹介もお願いします。

柴田:事業は、全部で6事業ほどドメインがあります。エアトリ旅行事業が従前の本業で、これは総合旅行プラットフォーム「エアトリ」を運営しているんですが、国内・海外の航空券では日本で一番大きなプレイヤーになります。

旅行事業に続く事業ということで、5つほどやっております。1つがインバウンド系の事業。もう1つがオフショア開発ということで、ベトナムに拠点を設けていまして、システム開発の事業をやっています。また、メディア関係やヘルスケアはまさにコロナ禍で立ち上げた事業でして、PCR検査等を中心としてサービス提供しています。最後はCVC、投資事業をやっております。

嶺井:ありがとうございます、今日はよろしくお願いします。

柴田:よろしくお願いします。

上場後のベンチャーの非連続な成長を後押し

嶺井:それでは最後に、モデレータを務めさせていただきます私の自己紹介と、会社紹介を簡単にさせていただきます。改めまして、本イベント「Growth CFO Summit」を主催しています、グロース・キャピタルの代表の嶺井(みねい)です。

私は新卒がモルガン・スタンレー証券で、上場企業のエクイティファイナンスの支援や格付けをつけるクレジットのアナリストをしていました。そのあと2013年からマイネットというスマートフォンゲームや、今はスポーツのDXを手がける会社でCFOをやり、資金調達やM&A、そして上場を経験して、2015年の上場後は事業に寄って、副社長をしていたという経歴になります。

私自身、CFOをやる中で、周りのみなさんと一緒に情報交換して、勉強できる機会を作りたいと思って始めたのが、この「Growth CFO Summit」になります。2015年から始めて、今回が7回目です。

当社、グロース・キャピタル株式会社は2019年4月に創業しています。もともと上場企業の副社長をする中で……日本はスタートアップがすごく注目され、ユニコーンが何社生まれるかという話はされるんですが、上場後は途端に注目されなくなるというのを感じました。また支援者も少なくなり「あれ、ここってすごくもったいないな、課題があるな」と感じたんですね。

日本からGAFAのような会社、時価総額1兆円を超えるような会社を生み出そうと思ったら、当然上場後のベンチャーも注目され、人や資金が集まり、非連続な成長を実現していける。これが行われないと、日本からGAFAのような会社は生まれないと思います。どうしても今の環境は、未上場のスタートアップばかり注目されて、そこばかりの支援になっていると感じました。

そこだけではなくて、新たな伸びしろとして、上場後のベンチャーの非連続な成長もみんなで支えていけたら、日本のベンチャーはもっと勢いづくんじゃないかと思って作ったのが、このグロース・キャピタルという会社になります。

弊社は上場ベンチャーの資金調達と、調達後の戦略の実行支援を通じて、上場ベンチャーの非連続な成長を実現することをミッションに掲げている会社です。今現在はAimingというスマートフォンゲームの会社の、21.2億の資金調達を完了し、調達後のマーケティング支援をまさにやっています。それでは今日はよろしくお願いします。

河合・柴田:よろしくお願いします。

アソビュー、コロナ禍のハードシングス

嶺井:ではさっそく、具体的な推移を見ながら、その時どんなことが起きていたのかを聞かせていただきたいなと思うんですけど。まずアソビューさんから、振り返られればと思います。

アソビューさん、1年半の中でも特に大変だった1年を、スライドとして出していただきました。これ、なかなか外に出回っていない数字ですよね。月次の流通総額、前年対比。

オレンジ色が2020年の月次の流通で、青いところが2019年の月次の推移です。ピンクの線が前年比の成長率。このスライドをパッと見ると「右肩上がりしているな」と見えるんですが、よくよく見ると4月、5月がすごい勢いでへこんでいるんですよね。

河合:そうですね。

嶺井:実際、コロナ禍はどうだったんですか? 今もコロナ禍は続いてはいますが、この1年はいかがでしたか。

河合:我々のハードシングスとしては、やはり事業そのものになります。先ほど申し上げたとおり、「遊び」という、余暇の時間を使うところが当社の事業領域です。我々としてはそんなことないと思っているんですけど、世の中的には「不要不急」と呼ばれがちな領域です。

エアトリさんの旅行もそうだと思うんですけど、まず「外に出ちゃいけない」となった瞬間に、我々のサービスも使われなくなるということがおき、緊急事態宣言の影響をモロに受けました。

この図で言うと、結果的に夏に復活したので、これは季節的な要因と思われがちですが、いくつかの施策を講じることによって、結果的にこういったV字回復ができました。

嶺井:具体的にはどんなことを行ったんですか?

河合:アソビューには、「体験の予約」と「レジャー施設のチケット販売」があります。遊園地や水族館のようなレジャー施設をご想像いただくとわかると思います。当初は、チケットを買えばいつでも行けるサービスをやっていたんですよ。アソビューでチケットを購入して、購入後半年間いつでも利用可能というサービスをもともとやっていました。

そこから、コロナのタイミングで「日時指定チケット」、つまり「何月何日何時に入場できるチケット」を提供するサービスを始めたんですね。

嶺井:それは人数制限に対応できるようにということでしょうか。

河合:おっしゃるとおりです。これはまさにコロナという環境があったがゆえにニーズが出てきていました。例えば、レジャー施設様がキャパシティの50パーセントや5,000人といった入場制限の指針を守るために、レジャー施設様のニーズにお応えするかたちでこれを提供しました。かつ、いち早く開発し提供したところが早期回復ののポイントかと思っています。

嶺井:なるほど、それによってこの夏にガッと戻したんですね。この推移をする中で、結果としてV字回復してすごくよかったですよね。

半歩前、一歩前で危険を察知できた

嶺井:実際、この4月、5月のあたりはすごく大変だったと思うんです。「あれ? このコロナって自社にとってすごくピンチだ」って気づいたタイミングやきっかけは何でしたか?

河合:結果論ですけど、我々は世間よりも、半歩前や一歩前ぐらいには初動ができたと思っています。3月の頭には、これだけ事業がシュリンクする可能性が出てきたので、当然ながら販管費を減らしています。

即時、すべての販管費を明細レベルまで洗い出して、何を削るかを全部洗い出したんですね。その中にはもちろん広告宣伝費等もあります。

これもいろいろメディアさんにも扱っていただきましたが、コストのうち大きな部分を占めるのが人件費です。その人件費を削減するとなると、一般的に想起するのが解雇なんですが、我々はしませんでした。どうやって解雇せずにコストを減らしたかというと、在籍出向というかたちです。

「雇用シェアリング」という言葉でも言われていますけれども、解雇をせずとも出向先に給料を負担していただくことによって、一時的に会社としての人件費を減らし、かつ雇用は守ることをいち早く取り組みました。

初めは当社単独での動きだったんですが、そのうち会社でネットワーキングもして、団体として取り組むようにつながりました。そういったことが大きかったですね。

嶺井:ちなみに、初動で半歩早く動けたきっかけとして、どこかで「あれ? これコロナ危ないぞ」と気づかれたのが3月ぐらいにあったと思うんです。それは何か突然ガクンと落ちたんですか? それとも別の何かがありましたか?

河合:やはりデイリーの申込数やGMV(流通取引総額)と言われている流通を見ているので、そのあたりのところです。これも難しいんですけど、結論としては当社の代表の山野(智久)が完全なるトップダウンで、リーダーシップを取って「こうするぞ」と決めました。それによって同時に、役員も社員も一丸となって動き出したのが大きいですね。

嶺井:なるほど。デイリーで傾きを見て「これは危ない」と、3月に一気に動かしていったんですね。

河合:はい、そうですね。

投資家への地道な説明

嶺井:このグラフだとパッとイメージしづらいかもしれないですけど、実はデイリーで前年比で97、98パーセント減になっているんですよね。これは相当ヒヤヒヤだと思います。

しかも、ここで書かれているとおり、2020年1月にまさに資金調達を開始したタイミング、動き始めたタイミングですよね。それこそ資金がそろそろ必要になるタイミングで、事業上もガーンとダメージ食らってしまった。この時はどんな気持ちだったんですか?

河合:気持ちですか。気持ち……?(笑)。

嶺井:(笑)。心理的な状態ってどんな状態だったんですか?

河合:本当にもう「どうなるんだろう」というところでしかなかったんですけど。

嶺井:そうですよね、やばいですよね。資金調達に動いていたのに、資金調達できないどころか事業も危ないことになったんですよね。

河合:結果論としては、僕らは資金調達のリストを作っていたんですけど……。

嶺井:それはVCなど投資家のリストですか?

河合:そうですね、投資家リストです。リストには65社あって、大きく言うと2段階に分かれています。初めの頃のリストにあった投資家とのコミュニケーションでは誰もが当時は先行きがわからず、どこまで落ちるかわからない状況でした。大きく「今は検討できない」か「様子を見させてくれ」という判断でしかなかったんですね。それはもうしょうがないんですけどね。

そこからまたさらにリストを増やして、継続してアタックをしていきました。その時に取った行動としては、1つは「僕らはこういう施策・対策を講じています」という説明です。資金調達用の資料をどんどんアップデートして、僕らの取り組みをしっかり説明していきました。

ここでは定量的に僕らの状況をどう見せるかがポイントかなと思っていました。7日間移動平均での昨対成長率がどうなのか、3月くらいから7日間移動平均と30日移動平均を取り出して、それがどこでボトムを迎えるか、どこで反転するかをデイリーで見ていました。

その定量的な情報を持って、実際には4月の末、5月の頭にボトムが来ました。そこから反転はしていくんですけど、その定量的なエビデンスを持って「こういうふうになっています、それはこんな施策をやっているからです」と説明していったんですね。

嶺井:たぶんCFOとしてすごく苦しい時期だったと思うんですね。「このままだと危ない、あと何ヶ月」というタイミングで、河合さんは今のように事業の解像度をより上げていく、かつ当たる投資家の数を増やすことで自分のメンタルを保っていたんですかね。

ハードシングスに立ち向かうメンタリティ

嶺井:当時はメンタルを保てていましたか?

河合:うーん……忘れちゃったところもあるんですけど(笑)。大変すぎて「忘れたい」と思っているのか、わからないですけど(笑)。

嶺井:たぶん今も、それこそ今日参加いただいているCFOの方々、参加者リストを見ると飲食業界でがんばってらっしゃる方もおられて、まさに今戦ってらっしゃる方もいます。

自分のメンタルをどう維持したか、「これが良かったよ」ということがもしあれば、ぜひ聞かせていただけないですか。

河合:メンタリティですか……。

嶺井:柴田さん、なにかあります?

柴田:キャッシュの心配はあまりされてらっしゃらなかったですか?

河合:もちろんしていますね。

柴田:そうですよね。一番つらい時は4月ですか。

河合:そうですね。

嶺井:どうやってメンタルヘルスを保っていたんでしょうか。

河合:僕はチームワークだと思っています。それは経営ボードのチームと、社員全員も含めたチームワークだと思っています。それぞれ役割があるじゃないですか。柴田さんもそうですけど、いろいろなトップの方のスタイルはあると思います。

当社の場合は特に有事だからこそトップダウンで、すぐに意思決定して、代表が「こうしよう」と決めました。それに対して、僕は資金調達をし、先ほどの日時指定のソリューションを作るところは、プロダクトのCTOを中心として取り組みました。

それをちゃんと営業部門がパートナーさん(レジャー施設様)にコミュニケーションする。そういう役割をそれぞれが担っていることで「自分も役割を全うしなければ」というところです。

あとは先ほど申し上げた在籍出向です。それは出向となったメンバーの痛みと言いますか、出向自体はメンバーにとっても本意ではないと思うんですよね。でもその決定を受け入れ、出向先でがんばってくれました。

みんなそれぞれ、その持ち場でやるべきことをやることが重要だと思っていました。なので僕自身、「みんながやっているんだから」「自分は自分の役割を全うしよう」という気持ちになれたんだと思います。

嶺井:チームで戦う中でみなの存在をエネルギーに変えられたんですね。ありがとうございます。ここから実際に事業も戻されて、資金調達も完了しました。

「顧客視点」が復活の契機に

嶺井:2021年のスライドも含めて表示させていただくと、大きく回復されています。復活のきっかけを一言で言うと何でしたか?

河合:復活のきっかけは……。

嶺井:一言じゃ言いづらいですか(笑)。いろいろなことの積み重ねですかね。

河合:一言で表すのは難しいですけど、「顧客視点」はあると思っています。

嶺井:ほうほう、その心は。

河合:直接的に対価をいただいているお客さまは、「パートナー」であるレジャー施設さまです。レジャー施設さまにとって、何が必要かを考え続けました。最たる例が時間あたりの人数をコントロールする「日時指定」機能です。

また、僕らがいち早くやらせていただいたのは、感染症の専門家と連携を取り、レジャー施設さま向けの感染予防対策のガイドラインを作ったんですね。あわせてチェックリストも作りました。パートナーの中には、自分たちではそういったガイドラインや対策を検討することが難しい、中小規模の施設さまもいらっしゃいます。

嶺井:そうですね、リソースが限られている施設もありますよね。

河合:そういう指針を僕らが作りご提供するということでお役に立てるのではないかと考えました。僕らが「パートナー」という呼び方をしているのも、結局、我々はプラットフォーマーですが、パートナーさんがいらっしゃらないと僕らのビジネスは成り立ちません。

そこを一緒になって作っていったのが顧客視点ですね。それは対従業員もそうですし、対投資家もそうですけど。それぞれの立場に立ったコミュニケーションを取っていくことが、結果的にポイントだったのかなと思いますね。

嶺井:なるほど。何か1つの施策が効いたというよりは、ベースとなる顧客視点を貫き続けた結果、ビジネスチャンスを見つけることができ、資金調達も実現し、復活を遂げることができたんですね。ありがとうございます、勉強になります。

柴田:7月、8月の数字がすごいじゃないですか。これはコロナになる前に予測していた数字どおりに戻った感じですか?

河合:そうですね。特に8月がすごいんですけど、これはなぜかというと、(レジャー施設の)DXが一気に進んだところがあります。我々が日時指定チケットを導入した時、そのソリューションを提供したのは僕らだけでした。それにより一部のパートナーさまは独占的にそのチケットを扱わせていただき、結果的にパートナーさまの中の「アソビュー!」シェアが上がったところもありました。

柴田:すばらしいですね。結果的にシェアを取れたという。

河合:そうですね。世の中的には今「2年ぐらいDXが一気に進んだ」と言われていますけど、その最たる例がこちらに表れていると思います。

嶺井:前年流通額よりも大きいですもんね。いや、すごいと思います。ありがとうございます。

エアトリ、旅行業界だからこそのハードシングス

嶺井:続いて、エアトリの1年半を振り返らせていただきたいと思います。エアトリさんの月次の数字を持ってきていただきました。

柴田:これは売上総利益ですね。

嶺井:こちらも振り返ると、うまくV字回復されていますが、昨年の3月、4月、5月のタイミングはどんな心境、どんな社内の状況でしたか?

柴田:これは大変でしたね(笑)。

嶺井:大変ですよね。だってよく見ると、青とピンクのところが旅行関係、海外と国内ですよね。そこが2月と比べると10分の1ぐらいになっています。

柴田:そうですね。まさに先ほどおっしゃるとおり、90何パーセント減という世界でした。

嶺井:どんな大変さでしたか。

柴田:2月に決算発表しているんですけど、当時はまだ僕らは国内・海外領域と半々ぐらいあったのに対して、国内がそこまで影響を受けていませんでした。海外領域はひどいことになっていましたけど、まだまだほかの事業でカバーできるかなと思って、わりと強気なところではいたんですけど。

3月に入り、徐々に徐々にという中で、先ほどおっしゃっていたのとだいぶ時間軸が近いんですけど、緊急対策のようなことに取り組みました。4月の頭には、メインバンクのみずほ銀行のところに「こういう状況でこういう策を打っています」という説明とともに、継続的なご支援のお願いをしにいきました。

5月の終わりに、金融機関と30行ぐらいお付き合いしているんですけど、その方々に全部集まっていただいて、説明会を開きました。再建と言ったらあれですけど、僕らは9月決算で、「今こういう状況で、9月末にはしっかり元気な姿をお見せするので、継続的なご支援お願いします」と言いました。だから、その3、4、5月で道筋をつけた感じですかね。

嶺井:その時に集まられた金融機関のみなさんの中には、動揺される方も多かったと思うんですよね。期限の利益の喪失などの話は出てこなかったものですか。

柴田:なくはなかったですね。ただ、メイン(バンク)はすごく力強かったので、そこをみなさんが見ながら「継続支援します」という方々が結果的には多かったです。一部の金融機関さんは「旅行業界は一様に難しい」という話はありましたね。

嶺井:なるほど。実際そういう大変な中で金融機関とのコミュニケーションもしっかり行われていって、現金を確保したんですね。

ポートフォリオの分散がカギになった

嶺井:事業もまた再成長されていますが、どうやって実現されていますか?

柴田:まず再成長の前提として、グループのポートフォリオの見直しとコスト構造の変革をしました。コストに関して言うと、販管費が2月の時点で実は10億ぐらいあるんですね。

嶺井:積極的にテレビCMもされていましたもんね。

柴田:そうですね。それが今、足元で言うと4億ぐらいなので、販管費を半分ぐらいに落としています。その仕切りをやって、一部の子会社の持分売却みたいなことを進めたりしました。あと、大きかったのが、実は9月に子会社のまぐまぐが上場しているんですけど、それも非常に大きかったりしますね。

嶺井:タイミング的にもすごく親孝行だったんですね。

柴田:そうですね。結果的に言うとポートフォリオをかなり分散していたことが活きたというか。当社は共同オーナーなんですけど、会長の大石が中心となりコロナ禍でPCRのヘルスケアの事業を立ち上げまして、これが非常にはまったというのが大きいです。コロナ禍だからこそのリーダーシップを発揮されて、事業を垂直立ち上げしたところは、今期にかけてすごく効いてきました。

嶺井:そこがグラフで言うとオレンジの部分(その他事業領域)ですね。

柴田:オレンジの増加の一部は、それが寄与している感じですね。

嶺井:なるほど。この1年半の中で、特に昨年春が柴田さんとして苦しいタイミングだったと思います。その時は何を考えておられましたか?

柴田:もう余裕なかったですね。

嶺井:もう考えている暇はないと。

柴田:そうですね(笑)。毎週月曜日に経営会議があるんですけど、その経営会議の前にコロナ対策会議という会議体ができました。赤字の子会社の社長すべてが集まり会議していました。

デイリーで幹部陣が集まる機会も増えまして、「あれどうしよう、これどうしよう」というので改善活動していました。とにかく前に進むことの繰り返しでしたね。

嶺井:一番苦しかったのは、いつですか?

柴田:悩ましいんですけど、方向性を決めるまでが3月、4月が苦しかったと言えば苦しかったです。ただ、そこから実行プロセスに移していって9月まで……9月まで単月赤字なんですけど、実行過程もなかなかハードだったと思います。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。

創業オーナーが馬力を発揮

嶺井:河合さん、このグラフを通してでもいいですし、なにか気になることや聞きたいことはありますか?

河合:当社も3月ぐらいに受託案件含め「なんでもやるぞ」となりました。もともとの本業とは直接関係ないことも含めて、いったん「なんでも稼ぐぞ」というモードになるのはすごくわかるんですね。

(エアトリさんは)PCR検査という、もともとの旅行系ではないところへの(取り組みをする上で)葛藤や議論はけっこうあったんでしょうか。それともパッと「それやろう」と決まったのか、どんな感じだったんですか?

柴田:実はもともと、インバウンド向けに医療を提供する動きがありました。実はクリニックとのアライアンスを、2019年中に完了していたんですね。なので、その素地があって、インバウンドという文脈ではなくて、まずPCRから立ち上げることになりました。もともとあった路線の比較的延長線上ではあったので、葛藤はそこまでなかった感じです。

河合:もともとポートフォリオの展開を広げられていたところが功を奏したんですね。

柴田:そうですね。ただ立ち上げ方やスピード感は、横で見てても迫力がすごすぎて(笑)。

嶺井:創業オーナーは本当に、そういう時にすごい力を発揮しますよね。

柴田:先ほどの話と近しいですけど、お互い役割分担があります。そこは励まし合うじゃないですけど、自らの役割をお互いがやっていく中で、メンタルを保っていた感じかもしれないですね。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。

厳しい状況を社内にどこまで開示すべきか

嶺井:それでは、事前に参加者の方からいただいた質問を、みなさんにぶつけてみたいと思います。「厳しい状況を社内にどこまで開示すべきですか」という質問をいただいています。みなさんはいかがでしたでしょうか。河合さんから。

河合:基本的にはすべてを開示するスタンスでしたね。

嶺井:もう現金残高も?

河合:いや、そこまで細かなところは開示していませんでした。どちらかというと状況が悪いことをしっかり伝える。つまり「大丈夫だよ」とオブラートに包んで言うよりは、もう「ヤバい」と伝えました。ただ「僕らは諦めていない」「策はある」とも伝えました。みんなでそれぞれの役割をがんばってやり遂げるモードに変えて、鼓舞する感じですね。

なので基本的には、現預金や調達状況などを伝える・伝えないは、それがプラスに働けば伝えればいいと思います。どちらかというと我々は、スタンスとしては全部伝える方針で、トップが自ら言葉で必要情報を適時伝えることを徹底していましたね。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。柴田さん、いかがですか。

柴田:もともと社内の情報共有のスタンスは、我々もかなり(一貫)しているほうだと思っています。ただ、経営レイヤーでの共有事項と、その下のマネージャー・管理職レイヤーでの共有と全社での共有は、それぞれの情報のレベル感があると思います。そこはそのまま活かしながら、コロナ禍でも開示をしていくことですね。

嶺井:危機感や数字というところで、どれくらいの粒度でメンバーに伝えていたものですか。

柴田:会社はそんなに……とはいえ毎日顔を合わせたりもしているので。経営陣の温度感は必然的に伝わりますし、経営会議もやっていますので少なくとも管理職には、ほぼ温度感がリアルタイムに伝わっていたと思います。

嶺井:本当のピンチの時には、少なくともマネージャー陣にはピンチだと伝わっているし、その先にいるメンバーにも伝わっていたんですね。

柴田:そうですね。あとはただ、決算で開示されている情報がみなさんに伝わっていくので。どちらかというと、経営の温度感よりもワンテンポ遅れて伝わるかもしれません。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。

修羅場を経験しての反省点は?

嶺井:結果2社とも復活を遂げています。お二人が今振り返って「こうすればよかったな」と思うこと、この1年半の学びをぜひ共有いただきたいです。振り返って「こうすればよかったな」と思うことがあれば聞かせていただけないでしょうか。柴田さんから、どうですか。

柴田:コロナ前の経営に対して反省点はいくつか出てきています。1つがコストですね。上場して、我々もかなり日々の業績管理をやってきたつもりでした。「緩かった」と言ったらおかしいんですけど、コストを落とせる部分が実はすごくありました。なので、いい反省じゃないですけど、そういうことがすごくあったのがまず1つです。

M&Aをかなり志向してやってきていたんですけど、振り返ってみるとキャパシティを超えてしまった案件もありました。コロナ前はけっこう強気に「我々、M&Aで失敗した案件ないですよ」と言っていたんですけど、こういう状況になってしまうと、過剰投資じゃないですけど、そういう部分があったのは反省点としてありますね。

嶺井:なるほど。今度、この1年半の動き方の中で「あの時、あれしたらよかったな」みたいなものはあったりしますか?

柴田:この1年半というと、あんまりないかもしれないです。

嶺井:もう本当にその時々のベストなアクションを取れてきたと。

柴田:そうですね。

嶺井:ありがとうございます。河合さんは、振り返っていかがですか?

河合:私も柴田さんと似ているところもあるんですけど、販管費のところですかね。コストの色分けを常にやっていくところを、もう少し明確にしていってもよかったかなと思います。

嶺井:それはどんな色分けですか。

河合:それは攻めのコストと守りのコストですね。今では、結果的に「戦略コスト」と「エンハンスコスト」と名づけて管理しています。定常的な運営と改善に必要なコストと、大きく市場を取りにいくための攻めのコスト、それこそ、例えば広宣費がそれに近いと思うんですけど。そういったものをより明確に、常に把握しておけばよかったと思います。

結果的に早くジャッジはしたとは思っているんですけど、よりどんな時にも早くジャッジができるようにするというところと、あとは固定費・変動費をしっかりと意図を持った変動費化や、意図を持った固定費にするところを考えるのは必要かなとは思っています。

嶺井:明確にしておくことで何か起きた時にすぐアクションを取りやすいから、ということですね。

嶺井:ありがとうございます。

有事にどうなるかは、平時にかかっている

嶺井:あっという間に残り4分となってしまいました。今日1日「Growth CFO Summit」を行ってきました。

最後に柴田さん・河合さんに、ご覧になっているCFOのみなさん、特に今チャレンジングな環境にあって、戦ってらっしゃるCFOのみなさんにメッセージをいただいて、本セッション・イベントを締められればと思います。では柴田さんから、最後にメッセージいただけますでしょうか。

柴田:そうですね、テーマ・お題をいただいたところから、ハードシングスに対して、我々CFOないし経営としてどうすべきなのかだと思います。

振り返ってみても足元も、経営は常に問題にぶち当たるというか。外から見ると順調なように見えても、いろいろなこと起きている会社さんも多いと思います。明らかにトラブルを抱えていらっしゃる会社さんもあると思いますし。一様に、大小それぞれみなさん問題抱えてらっしゃるかと思います。

今日何度か話に出てきたように、経営はチームワークがすごく大事だと思います。一つひとつ合理的にジャッジはしていくものの、それぞれ「本当にそれで合っているのかな」って、どこかで不安になっている部分や、孤独の部分はすごくあると思います。

意外とマインド的なところ、励ましじゃないですけど社内で「あの人ががんばっているから俺もがんばろう」という声かけ、「これを乗り越えたらこうだぞ」とかというわりとマインド的なところ、アナログ的なところに、結果的に自分も助けられたと思っています。

今、会社もいい方向にいっています。「明けない夜はない」と思います。その気持ちでぜひ立ち向かっていっていただければと思っています。

嶺井:ありがとうございます。それでは河合さん、お願いします。

河合:僕は有事の時にどうなるかは、平時がどうかにかかっていると思っています。特にお金の話を僕らは責任を持ってやっていくんですけど、結局、組織状態がどうかがけっこう大きいと思っています。

チームワークなどの全社の信頼関係です。つまり「こういう方向にいくぞ」となった時に、みんながそれを信頼して動けるか。さらには経営ボードのチームワークの役割分担。「こっちにいくぞ」と言った時にお互い背中を預けて、そこに自分の役割を全うできるか。

「あそこがどうだ」と言っているとたぶん動かないと思うので、常日頃信頼関係を持ってチームワークができていれば、有事の時も対応できるんじゃないかなと思います。

今回、有事の策のために、平時をしっかりと整えていくことの重要さを感じたので、あまりアドバイスと言えることはないんですけど、そういうところを僕は意識してやっていますので、ぜひみなさんと一緒にがんばっていきたいです。

大変な時に横のノウハウの提供や、ちょっとした励まし合いも含めて、ネットワークがすごく重要だと思うので、引き続きこのCFOサミット、嶺井さん、継続よろしくお願いします(笑)。

嶺井:ありがとうございます(笑)。すてきなメッセージ、本当にありがとうございました。それでは本セッションはここで終了させていただこうと思います。

なかなか話しづらい、実際に苦しかった時の気持ちも含めて聞かせていただき、大変勉強になりました。それでは本セッション終了に伴って、本イベントも終了となります。みなさん長丁場お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

また来年お会いしましょう。

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