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機関投資家と発行体のあるべきコミュニケーションとは(全2記事)

2021.09.29

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企業にいずれ訪れる「勝負の時」 重要な経営判断に投資家はどう寄り添うか

提供:グロース・キャピタル株式会社

上場ベンチャーの「攻めのファイナンス」と成長戦略の実行を支援するグロース・キャピタル株式会社が、日本最大級のCFOイベント「Growth CFO Summit Vol.7」を開催しました。CFOの役割は、これまでの財務エリアに止まらず、企業成長を担う存在となっています。本サミットでは、さまざまな業種のCFOたちが集い、白熱した議論を繰り広げました。本パートでは、マーケットリバー株式会社代表取締役・市川祐子氏をモデレーターに、アセットマネジメントOne株式会社ファンドマネージャー・岩谷渉平氏、ラクスル株式会社取締役CFO・永見世央氏、株式会社SHIFT広報・IR室室長・山路亜紀氏が「機関投資家と発行体のあるべきコミュニケーションとは」をテーマにディスカッションしました。1記事目の本記事では、発行体と投資家がコミュニケーションする際の成功例・失敗例などが議論されました。

▶日本最大級のCFOイベント「Growth CFO Summit Vol.7」の一連の講演は、こちらからご覧いただけます

投資家と“しっかり”対話するために

嶺井政人氏(以下、嶺井):みなさん、それでは次のセッションにまいります。セッション6は「機関投資家と発行体のあるべきコミュニケーションとは」というテーマです。このセッションでは、マーケットリバー代表取締役の市川さんにモデレーターを務めていただきます。市川さん、よろしくお願いします。

市川祐子氏(以下、市川):よろしくお願いします。

嶺井:本セッションは機関投資家の方と、発行体のCFOやIR室長が一堂に集うという、なかなかないセッションです。今日のセッションの見どころはどういったところでしょうか。

市川:このセッションは今日のイベントの中で唯一、上場後にフォーカスしたものになっています。IPOのあともしっかり投資家とコミュニケーションすると、時価総額も上がっていくと言われます。その「しっかり」とは、どう「しっかり」なのかを具体的に、今非常に伸びている会社からお聞きいただけます。

また、上場企業に投資する投資家の登壇はこのセッションだけで、どう発行体が見られているかを聞けるので、非常に貴重です。そして異なる立場の方がいるので、化学反応が起こったらいいなと思っています。

嶺井:ありがとうございます、楽しみにしています。

市川:それでは6つ目のセッション、「機関投資家と発行体のあるべきコミュニケーションとは」です。50分間お付き合いください。まず、みなさんに自己紹介していただきたいと思います。

まず、ラクスルのCFO、永見世央さん。ラクスルは非常に成功したマザーズ上場をしたあと、そのあとも着実にグローバル投資家、特にグローバルの投資家を引き付けて、一部指定外に移っています。

永見世央氏(以下、永見):よろしくお願いします。嶺井さん、企画いただきありがとうございます。基本的に今、市川さんに紹介いただいたとおりですが、私自身は2014年にラクスルに参画して7年半ぐらい経とうとしています。

それ以前で一番長かったキャリアが、カーライルという外資系の投資ファンド、プライベート・エクイティ・ファンドです。私自身も投資家をやっていたので、投資家目線もすごく大事にしながら今、自社の経営もしています。そういった観点をエッセンスとしてご説明させていただければなと思っています。

上場したあとも、IRの局面においていろいろな失敗や苦労をしています(笑)。そのへんの話も、オフレコのセッションという認識なので、お話しさせていただければと思っています。よろしくお願いします。

市川:ありがとうございます。

伝説のファンドマネージャーが登壇

市川:そして次はSHIFTのIR室長、山路さんです。SHIFTが上場後から即IRの専任として着任されました。上場後10倍以上に時価総額が増えて、その決め手は「緊密なコミュニケーション」とおうかがいしております。山路さん、一言お願いします。

山路亜紀氏(以下、山路):今日は貴重なお時間ありがとうございます。私自身、2007年にSHIFTに入社しまして、そこからコンサルティングに出ていったりしました。2014年に弊社がマザーズに上場した時からIRとして、右も左もわからない中で始めさせていただきました。

今日は未上場の会社の方がたくさん見ていただいているということで、上場までに証券会社の方々にいろいろサポートいただくと思うんですけど、上場後は急に「あれ? 何やるんだっけ」ということもよくあると思います。そのへんで私も経験したことや苦労したことも含めて、お話しできたらいいなと思っています。よろしくお願いします。

市川:ありがとうございます。最後はアセットマネジメントOneのファンドマネージャーの岩谷さん。岩谷さんは特に新興企業・成長企業に投資して、中小型株の中では伝説のファンドマネージャーと言っていいぐらいリターンも高いです。それから企業と非常に良い対話をしてくださっていると感じています。岩谷さん、一言お願いします。

岩谷渉平氏(以下、岩谷):非常に責任重大で、なんかハードル高いんですけれども……(笑)。

(一同笑)

市川:大丈夫ですよ(笑)。

岩谷:がんばってお役に立てるようにしたいなと思っています。僕らに改善すべきことが、すごくたくさんあると思っています。

会社全体としては盛んに取材したり面談しているんですけども、しっかりしたフィードバックができていなかったり、キレのいいアドバイスができていなかったり、言行一致じゃなかったり、いろいろな問題があると思っています。

だからこちらも「こうしてくれ」「ここを直してくれ」のような声をどんどん受け入れて、直したいなと思っています。よろしくお願いします。

市川:ありがとうございます。モデレーターは私、市川祐子です。楽天とNECグループで15年ほどIRを務めておりました。実はこのサミットの主催者であるグロース・キャピタルのグロースパートナーも務めておりますので、どうぞよろしくお願いします。

企業と投資家の対話のあるべき姿

市川:それではさっそくディスカッションテーマの問いの1つ目に入ります。上場後のIR、一問一答になってしまうことが実は多いです。聞いている方にも上場企業のIR担当の方はいらっしゃると思いますが、四半期のアップデートで終わってしまうこともあります。そうではなくて、もっといい対話があると思います。

それぞれの方に「これはすばらしかった」という企業と投資家との対話はあるのでしょうか。抽象的な言い方やエピソードでも、どちらでもけっこうです。まず企業側で、永見さんからお願いします。

永見:先ほど「私自身も投資家の経験がある」と申し上げていたところ、わりとイントロになっています。僕自身で言うと、投資家と発行体はあまり二元論で考えていません。ステークホルダーに対して、僕自身はすごくインクルーシブなアプローチを取っていて、「仲間」だと正直思っています。

特に、岩谷さんももちろんそうですし、すでに保有いただいている投資家は完全にステークホルダーになっています。一緒に企業価値を上げていく意味においては、本当に仲間だと思っています。当然、インサイダーの情報など何も共有しない前提で、岩谷さんには弊社の経営メンバーの会議に参加してもらったこともあります。また、年一で取締役会でセルサイドアナリストの方にレクチャーしてもらったりもしています。

いわゆる株式市場におけるステークホルダー自体を仲間というか、ある意味活用させていただきながら、企業価値を上げていくというか、会社をブラッシュアップしていくところが、まず前提の姿勢としてはあります。

その上で大事にしていることはいくつかあるんですけれど、1つは「対等であること」ですかね。株を買ってもらうことは当然あって、ある意味、お客さまである側面もあります。対等であり、お互いがしっかりちゃんとフラットに考えを言い合えるのは、すごく大事かなと思っています。

このあとの問2でも少し話そうと思ったんですけど、私は50〜60分のIRのセッションで、必ず10〜20分は逆に僕が質問していますね。逆に僕が聞いて、僕が学びたいということもあります。ずっと話しているだけだったら基本レコーダーでいいじゃないですか。というのはあるので、そういう対等な関係でありたいというのが1つです。

あとは信頼関係。これは長期の信頼関係がすごく大事かなと思っていて。その前提となるのは、1つは「コミットしたことをちゃんとやりきる」みたいなことです。業績の話もそうですし、それ以外のことも含めて、コミットしたことをしっかりやりきるのに似た話で「嘘をつかない」などはすごく大事なのかなと思っています。

「最後は株を買ってもらう」という視点も、一定大事だと思っています。ここもさらにブレイクダウンすると、1つはちゃんとリターンを提供する。これは当たり前のように大事だと思っているので、そのリターンの源泉をさらにブレイクダウンすると、一番重要なのは業績かなと思っています。

あとは投資家の人も、何千銘柄ある中で「この会社を応援したい」という気持ちの中で応援してくれている要素は、当然多分にあると思うので。「ともに社会を変革していく」みたいなところの姿勢は大事にしたいですし、最終的には「夢を買ってもらう」というか、そういう要素もあると思っています。

そういった利と実じゃないんですけれど、実際のリターンの提供と、ともに社会構造を変革したり、ビジョンの実現に向けて同じ船に乗っていくところにおいて、そこに賛同して株を買ってもらうところは、すごく意識してやっているというかたちです。

「対等であること」と「信頼関係」と「株を買ってもらう姿勢」の3つは、私がすごく大事にしていますね。

市川:ありがとうございます。対等、信頼、株を買ってもらう。そして「ともに変革をする仲間」って、すごくいいキーワードだなと思いました。ありがとうございます。

「インベスタージャーニー」という考え方

市川:では続けてまた事業会社で、山路さん。

山路:かぶるところもあるんですけど、私もいろいろ投資家のみなさまと話をしていて、同じ船に乗ってもらう……SHIFTという同じワクワクする船に、いかに乗ってもらうかというのは意識しています。

冒頭に市川さんもおっしゃっていましたけれども、インタビュー形式の対話。質問されて答えて、また質問されて答えるというだけではなくて、こちらも投資家のみなさんにお伺いしたいことはあるので、こっちからも質問します。しっかりディスカッションというか、会話になる60分をすごく意識しています。

もう1つ視点があるなと思っています。弊社は最近、海外投資家さんに向けていろいろIRを活性化しています。今まで国内でやってきたように、新しい投資家さんに出会って、ファンになってもらって株主になってもらいます。

その過程がいろいろある中で、カスタマージャーニーじゃないんですけど「インベスタージャーニー」として、どういう出会い方をして、どういう期待値があって、何回目のコミュニケーションで、ここで株主になってもらおう、というIRの型を最近意識をしています。

そういったところでも、求めているタイミングで求めている内容がちゃんと適切に、投資家さんと対話ができることとはすごく意識をしています。

市川:ありがとうございます。「インベスタージャーニー」は、すごくいい言葉ですね。1回では買ってもらえないと思うので、そこに至るまでのジャーニーを考えるのはすごくいいと思います。

Abemaになぜ投資をしたか

市川:それでは岩谷さん、投資家さんの立場から。

岩谷:僕は個別のケースで、サイバーエージェントの藤田(晋)さんと2016年、2017年に議論していたことがすごく良かったなと思っています。その当時のサイバーエージェントって、ちょうどAbemaを投資して育てることをやっていた時でした。それまでのサイバーエージェントさんは僕にとっては、僕の投資のセンターピンではなかったんですよね。

広告とゲーム・エンタメ領域は、僕は好きではあったけども、自分のファンドのコンセプトのど真ん中ではなかったから、それほど濃い共感は持っていなかったんです。そこで「テレビの業界を変えにいく」という投資に踏み込んでいった、あの時に初めて藤田さんと現場で、スタジオとか一緒に歩きながらいろいろ話して、感じるところがあった。そこで劇的に僕の中の評価は変わっていったんですね。

だから、会社自身もリスクを取って、投資をして大きな変化を生み出そうとしています。投資家もそこに同期して、一緒に現場で「そうだな」と思うことは、すごく大事だなと思いましたね。

当時、業績的にはだいたい今の3分の1ぐらい。時価総額的にも3,000億〜4,000億ぐらいだったから、今の3分の1、4分の1くらいのスケールだったと思うんですけど、5年で倍以上になっています。そういう変化に立ち会ってきて、それが良かったなと思います。

市川:すばらしいエピソードですね。サイバーエージェントさんがまさにリスクを取って新しい航海に出る時に、船に一緒に乗ったんですね。すごくいい話を聞きました。

「飽きないIR」のための仕組みづくり

市川:そして、その対話のために工夫していることは何でしょうか。また同じ順番で、永見さんからお願いします。

永見:先ほどの山路さんの「インベスタージャーニー」はすごくいい言葉だなと思いました。うちの会社はそこまでは洗練されてはないんですけど。事前の時点で初回の人なのか、何回目なのか。何回目かの場合の方って、前にどういうお話をしたのかはしっかり復習したあとで臨んではいます。

求められているもの、もしくは半年経って我々がさらに進捗したことは、しっかり伝えたい部分はあると思っています。そのへんはしっかり事前に準備した上で臨みます。

対話中で言うと、30~40分ぐらいは私からの説明ですけど、20分ぐらいはいろいろな質問をします。我々の個社に対するフィードバックももらえますし、もう少し引いた話としてマクロ環境や日本の株式市場などの話をしています。

1つ大事と思っているのが、上場後半年から3年ぐらい経ったCFOやIR担当者あるあるなんですけど、IRが単調で飽きるイシューがあります。

岩谷:確かに。

永見:飽きるのは良くないと思っています。自分は好奇心がいろいろ旺盛なほうなので(笑)、飽きるかたちにしたくない。その環境を作りたいなと思っています。むしろ、いろいろ質問して、自分がそこで好奇心を満たせて、自社の経営に活かせることをインプットできればと思います。

こういうふうにそのミーティングを定義づけられれば、むしろワクワクして臨めます。こういう意味においては、飽きがこない体制や環境作りは大事にしています。対話というかたちにさせてもらっています。

市川:なるほど。

永見:事後はフィードバックの時間を取ったり、証券会社にフォローアップいただいたり、追加のセッションをやったりする感じです。ラージミーティングをやって、1on1をやって、それだけでは伝えきれないところは事業メンバーにも入ってもらって、話者とアングルをいろいろと変えて、事業別のスモールミーティングなどを我々はやったりしています。

会社とは1つの球体で、絶えず1つの側面から見せたとしてもあまりおもしろくないです。いろいろなアングルから会社の良さをちゃんと伝えて、結果的に理解してもらうのは意識しています。

自分だけが出しゃばって話すだけじゃなくて、当然、代表の松本もそうですし、事業側のトップや、場合によっては事業側のネクストトップとかいうメンバーにも話してもらっています。いろいろなアングル、いろいろな話者で会社の魅力を伝えていくことはすごく大事に、工夫はしています。

市川:多面的、かつ複層的に、しかも繰り返し繰り返し伝えていく感じですね。

面談、メルマガなど、さまざまなチャネルを駆使

市川:山路さんはどうですか?

山路:うちも工夫していることがたくさんあって、いろいろやっているんですけど(笑)。対話中は先ほどのように、聞かれるばかりじゃなくて、しっかりディスカッションをすることは大事にしています。その限られた60分をいかにディスカッションに使うかも、意識をしています。

基本的な内容の質疑応答の時間は長くなりがちなんですよね。みんなが同じ質問をしてくるというか。なので事前に、ミーティングのスケジュール確定時に「できれば見ておいてください」というリンクをつけたメールをお送りしています。ホームページにQ&Aがあるんですけど、そのリンクを貼っておいて、そこに毎回四半期ごとにIRをして出た質問と答えを、一覧で載せておくんですよ。

そこを見ていただければたぶん、半分ぐらいの質問はそこで解消されます。その段階で対話に臨むコミュニケーションを取っています。

対話中はそれでお話をして、ミーティング後はすぐにフォローアップのメールを入れます。「何か聞きそびれたことや、理解がまだ足りていないところはありますか」ということを確認しています。代表や役員のメンバーが出たミーティングだと、なかなか細かいところまで聞きづらいケースもあるので。そこはIRとしてフォローしたりはしていますね。

あとはIRは、投資家さんとすごく身近な距離感、会社の中でも身近な距離感でいたいと思っています。何か「あれどうなっているんだろう」と思った時に、すぐに声かけてもらえるような、証券会社を通さないで声かけてもらえるような関係性を築きたいんですよね。なので、メルマガをけっこう送ったりしています。

岩谷:あぁ、すごい来ますよ(笑)。

(一同笑)

山路:ニュースが出た時や、「今日こんなニュース出ました!」みたいな。でも、ただ送るだけだと、たぶんすごい数のメールをみなさん受信されているので、開きたくなるような(メルマガを作っています)。「SHIFTからメルマガが来たぞ」みたいな、ちょっとした工夫を入れて送ったりしています。

岩谷:フックがありますよね。

読まれるIRメルマガの工夫あれこれ

市川:お答えできる範囲で、どういうフックですか(笑)。小ネタという感じ……?

山路:最近はIRのメンバーが送っているんですけど、出オチ的な感じで最初にちょっとしたシャレを入れようとしてくるんですよ(笑)。「山路さん、これ送っていいですかね」ってよく聞いてくるんですけど、「ギリだけど……いってみるか!」みたいな(笑)。

(一同笑)

毎回、「さすがにそれはダメでしょ(笑)」という会話をしながら送ったりしています。あとは例えば、M&Aのニュースが出た時も、IRのこぼれ話をするようにしています。重要事項じゃないんだけど、ちょっとしたIRの目線からのお話などを入れるメルマガを、たまに送っています。なので、いつも投資家さんのメールボックスの上のほうに、絶対にSHIFTのメールがあるみたいな。

岩谷:ありますね。

(一同笑)

山路:(笑)。そんな状況を作ったりはしていますね。

市川:証券会社のアナリストの方が投資家に送るメールには、シャレや小ネタが入っているとよく聞くんですよ。

岩谷:うん、ありますね。

市川:グルメネタが入っていたりしますよね。そういうことを会社のメルマガでやっている人はあまりいないんじゃないかと思って(笑)。

永見:いいと思います。

山路:けっこう返事いただけるんですよ。「今回のは良かったですね」みたいな(笑)。

市川:(笑)。すごくおもしろいですね。岩谷さんとしては対話の工夫はありますか?

岩谷:今の「事前にいろいろ準備しておく」はすごくいいと思いますよね。Q&Aでよくあるものを納めておくのはいいなと思います。投資家も知らないことを一からまた聞いて、前回聞いたこと忘れていたのは恥ずかしかったりするんで。復習しやすくていいなと思います。

「最高の対話」のための準備と行動

岩谷:でも「最高の対話」ということでいくと、シチュエーションかなと思っています。先ほどのサイバーみたいな話だと、勝負をかけにいく前夜。リスクを取って経営者が判断して、5年、10年かけてやるんだよという。

資本市場はそれをいいと思っていないかもしれない。評価していないか、理解していないという時に、しっかりコミュニケーションするのが、1単位あたりの効率はいいと思いますよね。そこで理解したことが10年ぐらい使えるわけですよね、起点になっているわけです。

市川:そうですね。10年ぐらいかけて伸びていくスパンで投資しますからね。

岩谷:そういう時に、シチュエーションとしては現場でやるのがいいと思っています。会社に行ったりして、商売をやっているシチュエーションに行って、「こういうことをやろうとしているんだ」ということを身体感覚に入れるのがすごくいいなと思いますね。

もちろん、いつものルーティンで数をこなしていく、滑らかに情報を流すのはすごく大事です。たまに、10年に1回くらいで「これは変化点だ、勝負をかけるんだ」という時ありますよね。この時は少し重点的に、リアリティを増すやり方をするといいと思います。

市川:勝負かける時はそうですね。楽天の時も急に社長が「IRをたくさん入れてくれ」と、突然オーダーがきて(笑)。一生懸命予定を空けてもらったこともありますね。

岩谷:(笑)。ありますね。ボードのメンバーが変わる時や、新しい組織を作る時や、バランスシートを大きく動かす時ですよね。いくつか重要な経営判断があると思うんですけど、そういう時は抑揚をつけています。

市川:そうですね、確かに。毎回60分と決める必要はない感じですよね。

岩谷:そうそう、ないと思いますね。

長期投資家が大事にする視点

永見:僕、岩谷さんと会社でIRミーティングした覚えがあまりなくて(笑)。

(一同笑)

基本的にはいろいろな場面で話して対話という感じで。短期業績を岩谷さんから質問された覚えもなくて(笑)。たぶんアセットマネジメントOneの中で役割分担しているのは、当然あると思うんですけど。

岩谷:そうそう、そうなんですよ。

永見:すごく説明コストがかかる投資家が本当にいいか、という話は別途あると思っていて。先ほど最初に「信頼関係」と申し上げたのは、短期業績の数値自体は決算資料を確認すれば良い話だと思います。

資料をしっかりと開示するのはすごく大事かなと思っている一方で、長期ビューや、そのビューの前提になっているものや、それを実現するための仕組みは何なのか。そういったところを長期投資家はすごく見てきていると思っています。岩谷さんと会話する時は、そういう会話がすごく多いと感じます。

岩谷:そうですね。機関投資家のミステイクでよく「短期の積み上げは長期である」という表現があるじゃないですか。だから「短期のことを一生懸命やると長期になる」とよく言われるんだけど、決してそんなことはなくて(笑)。微分のところだけを見ていると、本体の面積を見なくなることがある。

市川:そうですね。微分だけ見ていると一定速度にしかならないじゃないですか。

岩谷:分けたらいいかなと思います。例えば、アーニングスのコールで数字だけ話し合うセッションを30分やって、別途経営者がしゃべるセッションを1時間やる。レノバさんとかは分けたりしています。数字のセッションとプレゼンテーションなど、IR Dayみたいにまとめて事業の話して、別途数字だけにするのはいいかもしれないですね。セッションを分けると、頭が切り替わるので。

決算資料のストーリーへの徹底したこだわり

市川:いいですね。工夫に関して、何かお互いに聞きたいこととかありませんか? 今、みなさんのお話をお聞きして。

永見:(SHIFT社長)丹下(大)さんはどのぐらいIRをやっているんですか?

山路:今だとクォーターに3件、4件。それにプラスして、ラージが大きいので一気にいろいろな方とお話できる機会をクォーター1件で、計5件ぐらいですね。

永見:資料のストーリーにはこだわりがあるんですか?

山路:非常にこだわりがあります。なので、あまり言えないですけど、決算発表の当日の朝9時に全部ひっくり返ったこともあります(笑)。そこは一番大事なところなので、毎回練って練って、ぶつけて修正してを繰り返して出しています。

永見:うちも、インプットは松本やIRメンバーからもらいながら、骨格は私の方でで作成しています。ストーリーと伝えたいことはこだわりがあるのは、本当にトップマネジメントの仕事なのかなと感じますね。

山路:だけど、現場で代表と一緒にディスカッションができる機会が、その資料作成の中であります。投資家さんの前に立つメンバーがすべて同じ温度感というか、考えでしゃべれるようになるのは1つ、すごくいいなと思っています。

永見:それも大事かなと思っています。たぶん実際のIRをやっている人は一番投資家と向き合っているので、解像度は絶対高いじゃないですか。その高い解像度からのインサイトって、それはそれで価値があると思っています。

僕もIRチームからの「こう見せないとわかってもらえないですよ」みたいな意見はそのまま参考にして、資料のアングルとかには反映させたりしていますね。両方大事ですね。

IRの現場に出ることで企業側のメンバーも変わる

山路:先ほど出ていた「事業部のメンバーを投資家さんとのミーティングに出す」というのも、投資家さんサイドとしても、いろいろ視点が変わっていいかなと思います。発行体側も、事業に集中しているメンバーのトップが「外からこう見られているんだ」ということを知る機会で、すごく目線が変わるというか。

うちも何回かトライしたんですけれども、そこに出てもらったメンバーは視座がすごく上がると言うとあれですけど、また違う視点で会社の経営を意識できるというか。なので、すごくいいなと思って、今回またうちもやります。

岩谷:僕だって、みずほフィナンシャルグループのIRに出たり、第一生命に呼ばれてしゃべれと言われたら相当ピリッとしますよね(笑)。自分ごとになるから。ぜんぜんいいと思いますね。

市川:そうですね。永見さんはセルサイドと年一でやっているというのは、それは誰が参加されているんですか?

永見:社内・社外の全取締役が参加しています。株主総会の前にはSR・IR両方の観点で、投資家がどういうふうに会社のことを見ていて期待しているかは、しっかりインプットしたほうがいいですよね。

毎年人変わっていて、過去やっていただいたもので言うと、日興SMBC在籍時の斎藤剛さんとか。あと1回、みずほの富松さんにもやっていただきましたかね。このような感じで毎回ローテーションでやっていただける方やご予定つく方にお願いしています。それは社外取締役にも「すごく参考になっていいね」と言われますね。

岩谷:何時間ぐらいやるんですか?

永見:1時間ぐらいですね。

市川:会社側は社外取締役も含めた?

永見:取締役会の全メンバーですね。「いいことだけではなくて、懸念点もしっかり伝えてください」という話はしています。それでビビッドに感じるのをすごく参考にしています。

市川:なるほど。取締役は株主の代理人なわけですから、マーケットの目線を持っていないと「大丈夫かな?」って思うこともなくはないですよね。そういう機会があるのは、会社として非常にいいですよね。船の行き先を決める会ですから。

岩谷さんが誰かに聞きたいことはありませんか?

岩谷:丹下さんは「オンライン密談」で、経営者との対談もオープンにされているじゃないですか。あれもいいですよね。

山路:ありがとうございます。

岩谷:すごく勉強になります。丹下さんが成長しているのがわかるという。

山路:あれを通して(笑)。

岩谷:あれを見せるのも、IRの効果がありますもんね。

山路:そうですね、けっこう投資家さんに見ていただいています。(笑)。

市川:岩谷さん、永見さん、山路さん、ありがとうございました。

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