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僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか(全2記事)

2021.03.11

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サイボウズで何が変わった? トヨタ自動車出身の若手人事パーソンが感じていた「カイシャの閉塞感」の正体

提供:サイボウズ株式会社

毎年開催されるサイボウズの総合イベント「Cybozu Days」が、東京と大阪(オンライン)の2都市で開催されました。2020年のテーマは「エゴ&ピース」。さまざまなツールや取り組みを通して、働く人の「我慢しない」と「チームワーク」を両立していくための挑戦を取り上げます。この記事では「多くの日本企業が抱える“会社の閉塞感”をなくしたい」と大手企業であるトヨタ自動車を退職し、サイボウズへ飛び込んだ人事社員のプレゼンテーションの様子をお届けします。30万人以上が読んだnote「僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか」に書ききれなかった思いや、サイボウズで新たに出会った目標。「人事」という仕事を通して見えてきた「働くこと」への新たな思いを語りました。

僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか

髙木一史氏:みなさん、こんにちは。サイボウズ人事本部の髙木と申します。本日は「僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか」というテーマでセッションを進めさせていただきます。最初に、録画・録音は禁止ということなんですが、SNSでのスクショの共有は可能ですので、どんどんシェアいただけるとうれしいです。

簡単に自己紹介をします。タイトルにもあるとおり3年間、トヨタ自動車という自動車メーカーで人事の仕事をしていました。そのあと2019年からサイボウズで人事の仕事をしています。主に労務と育成を担当しておりまして、兼部というかたちで「チームワーク総研」という社外向けのコンサル事業も担当しています。

今回このような機会をいただいたのには、きっかけがございまして。「noteがバズりました」と書いてあるんですが(笑)。3ヶ月前に書いた記事「僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか」)が、30万人を超える方に見ていただいて。正直ここまで反響があるとは思っていなかったんですけれども、本当にたくさんの方、もちろんトヨタ時代の同僚から先輩、それからまったく知らない方からもご意見をいただいて。オープンに発信して良かったなと思っています。

やっぱり賛否両論といいますか、本当にさまざまなご意見をいただきまして。例えば「それはもう大企業の作法なんだから、別にトヨタがどうとか関係なく、大きな組織で働く以上仕方のないことなんだ」という意見もいただきましたし。また「3年で辞めてしまったこと自体が失敗なんじゃないか」と。「年収も落ちたんじゃないか」とか(笑)。いろんなご意見をいただきました。

一方でこの発信について「賛同する」というご意見も同時にたくさんいただきましたので、僕自身すごく励みになりました。

今日はnoteに書ききれなかったというか、僕が実際にどんな思いや葛藤を持って前職で過ごしていたのか。そして今実際に転職して、僕の目の前に見えている世界というか、これからどういうことをしていきたいのかを、40分という短い時間ではありますが、お話しできればと思っております。

現在の「働く」は、自分で選択できないことが多すぎる

まず今回のタイトルにもなっている「僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか」という問いに関しては、ストレートに答えると「カイシャの閉塞感を変えたい」という思いから辞めた、というのが答えになります。noteを読んでいただいた方には繰り返しになってしまうんですが、この「カイシャの閉塞感」という言葉も、ものすごく解釈の広い言葉だと思います。

僕なりに、「閉塞感」というのは2つの要素で構成されているんじゃないかと考えています。まず1つ目が「一人の人間として重視されている感覚の薄さ」。そしてもう1つが「それを変えることができないという無力感」。この2つがかけ合わさって「カイシャの閉塞感」というものが生み出されているんじゃないかと考えています。

一つひとつ説明をしていきます。まずこの「一人の人間として重視されている感覚の薄さ」について。僕は今社会人5年目ですが、ずっと人事の仕事をしてきているので、人事労務管理のフレームワークにのっとって、どうして閉塞感が生み出されているのかを分析してみました。

ちょっとここから長いので、説明しながらいきたいと思うんですが(笑)。人を集めるには、まず「採用」という仕事があります。ここに関しても多くの日本の会社だと、新卒一括採用という仕組みをとっているケースが多いと思います。

この新卒一括採用を決して否定したいわけではなく。新卒一括採用の中でも、やはり職務を限定せずに採用するので、実際そのあと……僕自身もそうだったんですが、配属を希望しているところを選べないとか。

それから実際に採用されて働き始めるとなってからも、その前段階で「働く条件を決める」というステップが入ってきます。中でも一番大きなベースとなる条件の1つとして、「働く時間」というものがあります。

例えば何曜日の何時から何時まで、どれくらい働くかを決めていると思うんですが、多くの日本の会社では週5日フルタイム、いわゆる8時間勤務をして、さらにそこに残業が乗ってくる、という形がとられていると思います。つまり「(働く)時間を選べない」と。

さらに場所についても、今はコロナの影響もあって、かなり場所を選択できる幅が広がってきているとは思うんですが、やはり多くの会社では、実際にオフィスに出社して働くことが「是」とされている環境が非常に多いんじゃないかなと思います。「働く場所を選べない」と。

ただこれはエッセンシャルワーカーとか、実際に現場に行かないと働けないような人のこととはまた別の話で。テクノロジーを使えば会社じゃなくても働ける方々にも、その選択肢がないということに対して、僕はモヤモヤしていました。

この「時間」と「場所」に関して、どちらも「会社へのコミットメント」という話になってくると思うんですが、多くの日本企業は一社終身雇用。1つの会社で長く雇用し続けるという契約形態だけが重んじられている傾向があるので、例えば複業とか業務委託契約とか、週3の無期雇用といった多様な距離感は、なかなか選ぶことができません。

人間として尊重されないことが、カイシャの閉塞感を生み出す

さらに実際に条件が決まって働き始めるとなった時に、基本となってくるのは「健康」になると思いますが、この健康に関しても今、特にコロナ禍でメンタルヘルスの問題が取り沙汰されていますが、一人ひとり心と体って別々のものだと思うので。人によって個性がまったく違うので、何によって健康を害するかは、それこそ100人100通りだと思うんです。

やっぱり今の多くの会社の施策だと、こういう会社はないかもしれないですけど、ラジオ体操を一律でやってみるとか。特に工場があるような会社さまだと、工場勤務を前提とした、例えば「転んでしまった事例」や「労災の事例」の展開とか。一律の施策が多いな、と思っていました。「ケアを選ぶことができない」と。

さらに、働く中で8割ぐらいを占めてるんじゃないかというくらい大きな要素の1つとして「コミュニケーション」というものがあると思います。「マネジメント」と言い換えてもいいかもしれません。日本の会社だけじゃないと思うんですが、多くの閉塞感のある会社の中では、情報をすごく統制されているというか。偉くならないと見られない情報がたくさんあったり、実際「その情報を知ってたら、この資料作らなかったのに」という資料があったり。

あとはやっぱり情報が隠されていることによって、不安感とか不信感を感じてしまうことも、往々にしてあったかなと思います。「情報を選べない」と。

さらに働く上で、会社に採用されたあとも、引き続き社員の成長は続いていくわけなので、その中で「育成」という観点ももちろんあると思うんですが、これは逆に多くの日本の会社の場合は、職場OJT(が行われています)。

本当に丁寧で手厚い教育があり、階層別教育というかたちで段階を追って丁寧に成長を促進していく仕組みが整っている。一方で、やっぱり人によって成長のスピードや、育成で必要なコンテンツはまったく異なるので、そこにマッチするようなタイミングで選べないところもあると思います。

さらに、「決めた条件」と「働く」と、どちらにも掛かっている人事労務管理の項目が2つあります。

まず1つ目が「評価・報酬」になります。実際に働いている中で「もう少しこうしたほうがいいんじゃないか」というフィードバックをもらうとか、働いて成果を出したことに対してその対価が支払われる、と。

「評価・報酬」をどうやって決めるかはいろんな考え方があると思うんですが、多くの会社だと年功序列。例えば「30歳以上にならないとこの資格はとれない」という規定がある会社は、たぶんまだまだたくさんあると思います。これも一概に年功序列を否定したいわけではなくて、やっぱりチーム・組織の中で信頼を得ていくためには、必ず時間がかかるのは、そのとおりだと思います。

ただ一方で、本当にそれだけですべての人がその評価の仕組みに納得できるかというと、僕はもう少し選択の余地があってもいいんじゃないかと思ってもいます。なので、全員が階段を一律で順番に上っていかなきゃいけないという評価の仕組みがずっと続いていることが、1つのモヤモヤとしてありました。

さらにもう1つ「条件」と「働く」にまたがっている項目が、「配置・異動」です。要するに「実際にどんな仕事をするか」ですね。これも日本の会社の特徴かなと思うんですが、職務を限定せずに採用していることもあって、強制転勤や強制配転という、本人の意志に反して異動を決められてしまうという問題があるかなと思っています。よって「取り組む仕事を選べない」と。

そして、人が働いて、最後に離れていくとなった時に、そこでは「退職」という選択をすることになります。これも多くの日本の会社の特徴かなと思いますが「定年退職」が一般的です。60歳、今だと65歳、会社によっては70歳になるまで、やっぱり長く働くことが美徳とされるので、途中で退職するということ自体が「裏切り」。「辞め時を選べない」というところにつながってるんじゃないかなと思います。

日本の人事制度が変われないのはなぜ?

こうして見てみると、かなり情報量の多いスライドになってしまったんですが(笑)、人事労務管理の10個の要素について、それぞれ自分で選択する余地が限られていることが、一人の人間として「自分の人生を自分で決めていく」という感覚を奪うことで反し、モヤモヤを生み出しているんじゃないかな、と思っています。

さらに、「だったらこれを『もっともっと閉塞感のない、一人ひとりの社員が個人として重視されている感覚を得られるような仕組み』に変えていけばいいじゃないか」とも思うんですが、これを変えるのはものすごくハードルが高くて。僕は「一人ではなにも変えられない」という無力感も同時に持っていました。

例えばこれは完全に僕自身の問題なんですけれども、今社会人5年目で、スキルも経験も知識も、信頼もちろんまだまだなくて、その中でどうやって変えていけばいいのか。さらに実際に組織を変えていく時に、それだけの裁量や権限を得るためには、やっぱり大きな会社の中ではものすごく時間がかかる。偉くなる、肩書きをつけるには、本当に20年、30年かかってしまう。

一方で20年、30年かかってそのポジションを得たところで、今はとても時代の流れが早いので、その時にはまったく違う問題意識が表れていることもあるんじゃないかなと思って、すごく葛藤していました。

さらに実際に変えることになった時にも、先ほどお話しした人事労務管理の10要素のそれぞれが絡み合っているというか。

例えば評価制度。日本の人事制度として「強制配転」ができるのは、そもそも評価制度が「年功序列」の職能資格制度だからだとか。10個の要素が複雑に絡み合っていて、「時間の条件」や「評価の仕方」を変えたら採用や育成に影響が出るとか。それぞれの領域が絡み合っていて、どこから手をつけて、どうやってほかの部署の人たちと連携していけばいいかわからないと。

自分自身のスキルという意味でも、会社のシステムという意味でも、これを中から変えていくのは本当に難しく、無力感を持っていました。

トヨタ退職前に抱えていた「これでいいのか」という葛藤

この2つの閉塞感を生み出している要素を変えるのはなかなか難しいと思いました。当時の僕のなかには、3つの選択肢があったと思います。

「辞めるか、染まるか、変えるか」は、よく聞く言葉かなと思うんですが。この3つの選択肢のうち、どれを選ぶかですごく悩んでいました。

真ん中の「染まる」についてですが、今の会社の仕組みにももちろん素晴らしい面はあるので、僕が感じているこの閉塞感に目をつぶって、そのままずっとトヨタの中で働き続けるという選択肢も、もちろんあったと思います。

ただこれは僕の性格かもしれないんですが、自分の気持ちに嘘をつき続けて働くことが、自分の人生を生きている感じがしないというか。自分がすごく苦しいなと思っていたので、この「染まる」というのは、選択肢から真っ先に消えました。

さらに「変える」。内部から閉塞感を生み出している仕組みを変えていく手段ももちろんあったんですけど、これは先ほど申し上げたとおり、やっぱりなかなか難しい。特にその段階の僕ではなかなか難しいと思いました。

そうなってくるともう「辞める」しかないのか、ということになってくるんですが、「本当に辞めてしまっていいのか」というのは、僕の中でもものすごく葛藤がありました。

「3つの葛藤」というふうにまとめてはみたんですが、実際には100個、200個というか、もっともっといろんなことに葛藤していました(笑)。強いて言うならこの3つです。

1つ目は「安定」。もう1つは「成長」。最後は「愛社」です。まず「安定」については、僕が辞めた年のトヨタの決算の数字なんですけど。利益も上げているし、たくさんの雇用も生み出している、素晴らしい会社だと思っています。

簡単にクビになることはないし、そのまま働いていればそこそこいいお給料をもらえる。本当に安定しているということで、これを捨ててしまっていいのか、というのはすごく悩みました。

もう1つ、「成長」。これはホームページからトヨタの人材育成体系を持ってきたんですけれど。ここに書いてある以上に階層別の研修も手厚かったですし、職場でのコミュニケーションという意味でも「教え、教えられる風土」というのをすごく大事にしていたので、段階的にステップを踏んで育成してもらえる体制が整っていました。

ここで3年で辞めちゃうよりも、むしろ10年、20年とこのレールに乗って育成してもらったほうが、自分にとってもっと成長ができるんじゃないか、というのもすごく考えました。

もう1つ、最後に「愛社」という表現をしました。noteにも書いたとおり、決してトヨタが嫌いになって辞めたわけではなくて。例えばトヨタのモビリティ、可動性を通じて世の中にたくさんの幸せを生み出していくっていう企業理念、その理想にはものすごく共感していたし。

さらに文化、カルチャーですね。例えば「現地現物」というカルチャーがトヨタにあったんですが、まずは実際に現場に行って、そこで困っている人の声を聞いて改善していくと。

サイボウズのイベントでこう言うのもアレなんですけど(笑)。今サイボウズで働いてても、やっぱりトヨタの働き方や文化、スピリットみたいなところはすごく意識をして働いているところがあります。なので、自分とすごく親和性の高い会社だったんじゃないかなと思ってます。

日本の会社全体をよくするために、外へ出ようと決めた

ただ、この理想や文化には共感していたけれども、仕組みに閉塞感を感じて、じゃあどっちを取るか。僕はこの天秤ですごく悩んでいたということになります。

当時は本当に吐きそうになるくらい悩んだんですけど(笑)。例えば「安定を捨てるなんて本当にバカなんじゃないか」とか思ったこともありましたし。今も定期的にトヨタの人事の方と交流する機会を持っているくらい、お世話になった先輩が山ほどいるので「この人たちを裏切ることになるんじゃないか」というのもすごく考えました。

「エゴ&ピース」がこのCybozu Daysのテーマだと思うんですけど、「悪いわがまま、悪いエゴなんじゃないか」ともすごく考えました。「後悔したらどうしよう」とか、若いがゆえにイキっちゃった「過ち」なんじゃないかとも悩みました。

あとは、当時もたくさん仕事をいただいていたので、職場に迷惑がかかっちゃうんじゃないかというのもすごく悩みました。

僕は幸運にも、周りの先輩方に相談した時に本当に背中を押してもらったというか。僕の選択、僕の人生なので、「自分の選択を信じてやるのがいいよ」と言ってくださる先輩もいました。

「そもそも会社がトヨタだろうがサイボウズだろうが、みんな社会を良くするために働いているはずなので、別にどこに行ったって関係性は変わらないでしょ」と言ってくださる方もいらっしゃいました。

さらに、これは一番たくさんの方に言っていただいたんですけど。今も実際トヨタの人事の先輩方の中で「閉塞感を感じさせるような仕組みを変えていきたい」と奮闘されている先輩はたくさんいて、よく情報交換もさせていただくんです。やっぱり中の知識や情報だけだとなかなか変えていくのが難しいので、外からいろんな情報とか、風を吹かせてくれと言ってくださる先輩がたくさんいたので。

これに関しては、「好きだけど辞めた」というふうにnoteにはさらっと書かせていただいたものの、正直そんなきれいな感情ではまったくなかったです(笑)。複雑でドロドロした感情はありました。

やっぱり会社の閉塞感をなくすために、このまま自分がトヨタ自動車の中にいたとしても、たぶんそこまでのバリューを発揮できないなと自分の中でわかっていたので。どうすれば会社の閉塞感を変えられるのか、外の世界で探究して、いつかはトヨタに恩返ししたいという気持ちで最終的には辞めるという決断をしました。

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