2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:サイボウズ株式会社
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青野慶久氏(以下、青野):みなさん、おはようございます! 幕張メッセまでご来場いただきまして、誠にありがとうございます。
そうは言っても、今はまた感染者数が増えているということで、私たち運営者側としても大変心配しております。ただ、感染者数のカウントの裏側がkintoneで動いている不思議な縁もありまして。しびれるところでもありますけれども。(※本セッションは2020年11月13日に開催されました)
今回のCybozu Days Tokyoはコロナの感染対策ということで、今までは2日間で実施していましたが、3日間に分散させて進行をしています。加えて、会場面積も1.5倍にさせていただきました。できるだけ分散するなどの努力をしておりますが、ぜひ今日は密を避けていただきながら楽しんでいただければと思います。
さて、今年のCybozu Days Tokyoのテーマは「EGO&PEACE」という言葉を掲げさせていただきました。普通はLOVE&PEACEって言いたいところなんですが、EGO&PEACEにしました。
実は私たちが思っているエゴは、「わがままとか我慢すること」ではありません。「もっと口に出して伝えていったほうがピースな職場や社会につながるんじゃないか」。こんな想いを持って、このテーマを選ばせていただきました。
今年はコロナがありましたので、出社に関するところもずいぶん話題になりました。自分としてはあんまり出社したくないし、満員電車も作りたくないし、乗りたくもない。ただ、会社で「テレワークしませんか?」って提案したら、「何言っとんや!」って言われて「うちは出社してナンボの会社や!」みたいなことを言われたりした話も聞きました。
そこで、私たちはこんなCMを作りました。ちょっとCM流していただけますか?
このCMを東京と大阪で流させていただきまして。現場の人たちからは「よく言ってくれたサイボウズ!」という声が上がると同時に、一部の経営者からは「何言ってんだサイボウズ!」という厳しいご批判もいただきました。
出社することは悪いことじゃないですけれども、「出社しなくていい仕事にまで出社させる必要はありますか?」辺りの問題提起について、みなさんと議論していければと思います。
そして私は、このEGO&PEACEに対してこんなことを思ってるんです。日本人は、エゴやわがままをよろしくないものと思ってしまいがちなんだけども、実は自分のやりたいこと、やりたくないことを、わがままを表現したほうがそれぞれの個性が伝わっていいんじゃないかと。
わがままを言える環境ができれば、お互いの多様な個性の理解につながって、もっともっと楽しい職場や社会が作れるんじゃないかな。こんなことを考えているんです。
加えて、今回のEGO&PEACEというテーマでお話いただけそうなゲストにお越しいただきました。社会学者で立命館大学の准教授をされている富永京子さん、株式会社ZENTechで取締役・チーフサイエンティストをされている石井遼介さん。そして、株式会社クレディセゾン常務執行役員でCTOを務めておられます小野和俊さん。この御三方をゲストにお招きしてお話を聞いていきたいと思います。
そして最後には全員に壇上に上がっていただきまして、みなさんからの質問に答えていければと思っています。
それでは1人目のゲストをお招きしましょう。今回、エゴやわがままがテーマですので、わがままについてしゃべってくれそうな人をAmazonを検索しておりましたら、1冊の本を見つけました。
それは『みんなの「わがまま」入門』という本でした。わがままって教科書になるの!? って思いましたが、これはぜひお話を聞いてみたいということで、著者の富永京子さんにお越しいただいております。富永さん、よろしくお願いします。
富永京子氏(以下、冨永):よろしくお願いいたします。
(会場拍手)
青野:よろしくお願いします。まず富永さんは社会運動を研究しておられるということでよろしいですか?
富永:そうですね。いわゆる社会運動というと、路上で行うデモなどが想起されやすいと思うのですが、政策を提言するとか、人権とか障害とか環境問題とか、そういったことに対する意識啓発みたいなものも社会運動に含めて研究しています。
青野:なるほど。私なんかは選択的夫婦別姓の訴訟をしてますから、ある意味、社会運動になるわけですか?
富永:それはもちろんでございます。
青野:じゃあ私は研究対象っていうことになるんですか(笑)?
富永:そうですね(笑)。
青野:恐縮です(笑)。では社会学的に、わがままっていうのはどういうふうに認識すればよいものなんですか?
富永:私自身は「社会運動とか権利の主張って、要は『わがまま』だろ」って言ったら、社会運動をやっている人からすごく怒られるんですけれども。基本的には私の「わがまま」はほぼ社会運動を指していて、自分、あるいはほかの人がよりよく生きるための社会、つまり組織であれ会社であれ、その場のルールやそこにいる人の認識を変えていく言葉や行動をイメージしています。
青野:なるほど。そうすると「わがままだけどいろんな人のためになるかもね」という全体的な活動を全部ひっくるめてわがままだと。
富永:そうですね。自分のためだけど、みんなのためみたいなイメージですかね。
青野:あ~なるほど。これは私の勝手な想像ですけど、社会運動って国会の周りで旗振ったり、プラカードを掲げるイメージがあるんですけど。このあたりは、世代によっての認識の差はあるんですか?
富永:特に若い世代の調査をすると、「社会運動って入りづらい……」というか、怖い、少し変わったことをやってると思われる方は多いです。その1つに、手法が古いものしかイメージされていない。
例えばChange.org(※さまざまなキャンペーンへのオンライン署名収集を実施できるウェブサイト)とか、クラウドファンディングも、ある意味では社会運動と言えるんですが、そのように認識されていない。
そしてもう1つは、若い人ってグローバル化がどんどん進んで、生まれがかなり多様になった社会を生きていますよね。かつ、その多様性が浮き彫りにされているからこそ、自分の利益がみんなの利益だという感覚があまり持てないと思うんですよ。
働き方も多様ですし、バックグラウンドもすごく個別的になっている。うちの学生を見ても、同じ大学の学生でも、非常に多様なバックグラウンドを背負っているからこそ、なにか不満があっても、「これ自分だけかな」と考える傾向だとか。
あるいは、「この制度を変えてほしい」と思っても、「いや、自己中かな。わがままになっちゃうから我慢しよう」と思っちゃう。そういう二重の意味で、若い世代のほうが社会を変えることや、組織を変えることに対する危惧が強い面もあるんじゃないかなと思いますね。
青野:なるほど。確かに一律的な中で、強い不利益を感じている人であれば意見が言いやすいかもしれませんけど、多様になってきてしまうと、みんなバラバラだからよくわかんないみたいな。「自分は思ってるけど共感してくれる人はいるのかしら?」みたいな感覚ですかね?
富永:そうですね。例えば組合の組織率とかも、今どんどん下がってきていると思うんですけども、若い世代からすると、自分たちの利益を代弁してないように感じてしまうのかもしれない。「そんなに統一的な利害を共有できないよ」というような、組合組織や社会運動組織に対する不信感を受けてしまうかもしれないですよね。
青野:そうですね。確かに労働組合に対しては、私も見ていて思うところがあるんですよ。すぐ経営者と対峙をして、「ベアアップだ!」って言うじゃないですか。「給料の何パーセントアップだ!」みたいな。「0.1パーセント増やしたぞ!」みたいに言われるんですけど。そんな給料の全体のパーセントとかみんな求めてねぇよと。
そんなところよりも、いかに自分らしく働けるか。子育てしている人がいて、介護している人がいて、給料だって欲しいものもいろいろ違うだろうに、一律的に交渉するってなるとなかなか参加しづらいなと思ったりします。
富永:副業をやってる人だっているし、すぐ辞める人だっているだろうし。そういう中で組合って難しくなってきていますよね。
青野:そうですよね。私も選択的夫婦別姓の活動なんかをしてますと、けっこう叩かれることもありまして。結婚したら苗字を変えるのが今の日本のルールになっているんですけど、別に変えずに結婚していいっていうのが私の主張なんですよ。そしたらけっこう言われるのが、「それをわかってて結婚したんだろう。お前」と。
富永:(笑)。
青野:「お前の自己責任だろ」と。「それが嫌なら日本を出ていけ!」とか言われるんですよ。うわ、つらいなぁみたいな(笑)。ああいうの、どうやって言い返したらいいものなんですか?
富永:組織でも社会でも、加入した上で内部から改革するっていうのは全然ありうる選択肢なわけですよね。仮にその時は納得して何かを選択したとしても、人間の利害って変わっていくし。そういう意味で、言い返す必要もないように感じます。
ただ、わざわざこういうのを相手にしちゃうときりがなくなる一方で、放っておくと、そういう反論の中で自分の声って曲げられたり、簡単に他の文脈に奪われたりする。自分が疲れない程度に、理路整然と反論することも重要だとも思います。
一方で、そういう「反論」がしんどいから声をあげたくない、みたいな声もよく聞きます。そういう意味で、反論を招かない言い方ってすごく難しいなと思うんですけれども。よく誤解されるのは、社会運動とかわがままとかって言うと、みんなの前で「はい、僕の主張を言います!」みたいな感じになると思うんです。
たぶんこのあとお話される石井さんの心理的安全性の話と近いと思うんですけれども、事前に信頼できる相手に言っておくとか、ちょっとずつ自分と似たような利益を持っている人に伝えておいて、徐々に広げていくことも社会運動だし、声をあげることだし、わがままだと思うんですよね。
もちろん青野さんみたいに、マスコミの前で一斉に主張を言えば、それだけ影響力も強くなるんですが、言いづらい人は徐々に言っていくことをおすすめしたいですね。
青野:なるほど。私もいきなり訴訟するからそうやって言われるんですね(笑)。もうちょっと身近なところから始めてもいいということなんですね。
でもこの場合、身近なところから行くと、影響力が小さくなっちゃう気もするんですけど。この辺りの折り合いはどう付けていけばいいんですかね?
富永:本当に愚痴みたいなちょっとしたことから始めて成功した社会運動ってけっこうあって。例えば戦後だと障害者運動や女性運動なんかがそうです。3年くらい前になるので忘れちゃった方もいるかもしれませんが、バニラエアという航空会社に対して障害者の木島英登さんという方が、飛行機に登るための梯子を要求したことがけっこう大きいニュースになりました。
木島さんのやったことは会社に要求しただけとも言える。ただ、それが障害者差別解消法の変更を飛行機会社に国が義務付けるきっかけになったと。
もう1つ、#KuToo(クートゥー)という石川優実さんがやられた活動です。あれも最初は石川さんがTwitterで、「ヒールをもう履きたくない」みたいなちょっとした愚痴を発信したことからはじまったはずで。それが今、航空会社などでもヒールを廃止することになったり、世界でも知られるようになったりして。
なので、愚痴であっても誰かが拾ってくれる社会と、それに対する信頼みたいなものがあれば、スピード自体は遅いかもしれないですけど、変わっていくことって私は十分あり得るんじゃないかと思いますね。
青野:おもしろいですね。小さなわがままが社会を変えることもある。確かに「保育園落ちた。日本死ね」なんかもすごかったですよね。
富永:そうですね。まさに。
青野:あれも始まりは匿名で書かれていたブログでしたよね。要は、彼女の子どもが保育園に申し込んでいたのに落ちちゃったから、頭にきて「保育園落ちた。日本死ね」って。「こんなんで子育て支援とか言ってんじゃねぇよ」ということを書いて、匿名なのにすごく拡散しましたもんね。
富永:国会でも取り上げられました。
青野:それで今や、各自治体がこぞって待機児童問題に向き合っているっていう。すごく大きな影響になりました。やっぱりこの辺りは、ネット社会になってきたところも背景にあるんですか?
富永:選択肢が増えたかなと思いますね。それまでは組織主体で、それこそ運動組織とかNGOとか組合に入らないと変えられないと感じられていたものが、ネットでの声によって、それまで異なるバックグラウンドを持っていると思われた個人同士がつながれるのは、やっぱりネットの力だと思いますね。
青野:わがままを聞いてもらうために、今までだったら団体を作ったり、組合を作る必要があったのが、今はネットにちょっと書き込んだだけで拡散されてとかね。そういうことも起きるということなんですね。おもしろいですね。
青野:富永さんからご覧になって、うまくいっている社会運動とうまくいっていない社会運動があると思うんですけど。うまくいっているところってどういう社会運動があるんですか?
富永:そうですね。う~ん。人によって答え方は色々だと思うんですが、私はクリエイティブさとか、楽しさを前面に押し出すことかなと思うんですよ。というのは、社会運動によって得られるのって公共財なんですよね。
つまり、黙っていても誰かが声を上げてくれれば、みんながそれを手に入るわけですよね。これは会社のわがままもそうだと思うんですけど。そう考えたら当然フリーライダーになるのが一番いいんだけど。
ただ、成功する社会運動ってクリエイティブで楽しいというか。やった人だけが得られる果実や達成感、現実が変わったという感覚でもいいんですけれども、それを上手にアピールしているとうまくいくというか。「あぁ、参加してみようかな」「賛同してみようかな」という気になるのかもしれないですね。
青野:悲壮感を持ってやるよりは、楽しくやったほうがいいのかもしれませんよね。
富永:そうですね。「俺はみんなのためにやってるのに!」という感じだとなかなか難しい。「やらなくても変わるんだからいいじゃん」っていう人を招きがちなのかもしれないなとは思いますね。
青野:あ〜……。これはみなさん会社の中もそうじゃないですか? 「なんでテレワークをやらせてくれないんだ!」と言うよりは、もうちょっとネーミングを楽しげにしてみるとか。それこそ#KuTooとかはうまいですよね。あれ、#Me Tooと掛けてるわけですよね。
#Me Tooが流行ったから、今度は#Ku Tooって。「なんでハイヒール履かないといけないの?」って。非常に具体的で楽しくクリエイティブにされている。あれは世界に広がっていきましたもんね。
富永:楽しさとかかっこよさは人によりけりかもですが、なにかのパロディというのはひとつ入りやすいですよね。社会運動っていうとどうしてもやったことない立場だと、真面目にやらないと、一からやらないと、という感じで認知的なハードルがガッと上がっちゃうので。それをどう減らすかっていうところですよね。
青野:先ほどお話を聞いていて、やっぱり当事者感というのも大事かなと感じましたね。バニラエアの梯子を用意しなさいっていうのも、「俺が飛行機に乗るのにこれじゃ乗れないじゃん」っていうところ。本人の当事者感というか。確かにその人を乗せてあげようと思ったらやったほうがいいんじゃないのとか。小さいことですけどね。
逆に「障害者に対する差別をなくしましょう!」って大きく構えて言うと、ちょっと大きい問題すぎるし、クリエイティブ感もない。具体的で、小さく、楽しく。この辺りがコツなんでしょうかね?
富永:もちろん自分じゃない人の利益に関わってもいいと思うんですよ。私が中年の男性の方とか、偉い人の不満を代弁してもいいわけです。でも、当事者の声ってやっぱり共感力を生んでますよね。これもSNSの影響かもしれないですけど、そういった声を使いつつ、当事者じゃない人が周りでサポートしていくかたちがいいのかなと考えていますね。
青野:なるほど、おもしろいですね。あと、私の選択的夫婦別姓の例ですと、「それ少数派の意見だろ?」という批判がたくさん来るんですよね。
富永:はい。
青野:「世の中のほとんどの人が名前を変えて問題ないと思ってるのに。なんで少数派のためにわざわざ法律を変えないといけないんだ」とか。この少数派についてはいかがですか?
富永:社会運動に参加してる人という意味では少数派ですが、声を上げていない人でもその利益を享受できる可能性のある人は数多くいますよね。未婚率はだんだん上がっているけど、夫婦別姓を選択できれば結婚する人という人も潜在的にもいるかもしれないし、今同姓を選んでいても、別姓を選択したい既婚者っておそらく多数いるわけですよね。この運動が既存の結婚制度を問い直す機会になるという意味では、結婚制度の対象から漏れている人の存在についても考える機会になる。
実際に声を上げている人よりずっと多くの人が夫婦という問題に関与し、姓という問題に関与しているはずなんですよね。そういう意味で、少数派だけれども多数の利益を掘り起こしている。社会運動とかわがままって、そういう作用があるんじゃないかと思いますけどね。
青野:あ~、おもしろい! 少数派だったのに実は多くの人のためになっている。
富永:うんうん。未来をある種を先取りしているというか。
青野:はいはい! それ今年すごく痛感しました。サイボウズの中でも働き方のことをワイワイ言う人がいるんですよ。「在宅勤務をしたい」という人が最初に出てきて。それは週1回在宅勤務したいという話だったので、「ぜんぜんいいよ」って言ったんです。
次に来たのが「青野さん、僕基本的に出社したくないんですけど」って。それはカチンと来るでしょ!? 入社しといて出社したくないって、お前働く気があるのかっていうところです(笑)。
でも話を聞いてると、「通勤電車が大変で、これがなかったらもっとがんばって働けるんです」とか言うもんですから、それをやったわけですよ。そうすると完全在宅勤務の人が増えてきて。それで今年何が起きたかと言うと、完全在宅勤務のノウハウが必要になったんですよ!
富永:完全在宅勤務をしなきゃいけなくなったわけですね。
青野:そうなんです! まさに少数派だった人たちが未来を作ってくれたっていう事例が実際に起きていて。あ~、あの時一応受け入れといてよかったと思いました(笑)。
富永:そうですよね。例えばその未来が拓けたことによって、「家にいるとこんないいことがあるんだ」ってみんながわかるようになるわけですよね。そういう意味では、やっぱり未来の利益の掘り起こしが社会運動なのかなと思ったりしますね。
青野:おもしろいですね。ちょっとわがままっぽいことを言っている人は、実は未来の市場を掘り起こしてくれるのかもしれない。
富永:そう! その価値観が本当に重要っていうか。正直、私も社会運動はどちらかといえば嫌いなほうでした。研究のきっかけも、デモとかやってる人あんまり好きじゃない、じゃあどうして苦手なんだろう、というところからです。
青野:えぇ~、そうなんですか(笑)。
富永:「価値観の押し付けじゃん」とか思う時もあります。それは私だけじゃなくて、日本人って本当に社会運動に対する忌避感とか、ネガティブな評価が強いんです。ただ、声を上げている人に対して冷たい言葉を投げかけると、自分が声を上げられなくなると思うんですよ。
「いや、わがままじゃね?」とか「マイノリティでしょ」って言ってたら、自分がマイノリティになったときわがまま言えなくなる。そしてマイノリティになる瞬間は誰にでもやってくるわけで。その時にすごく困りますよね。声を上げられない社会を自分たちで作っちゃってるので。
なので、私からこういう場で話す時にみなさんにお願いすることがあるとしたら、「社会を変えようとしている人に対してちょっと優しくなること」です。少なくとも「やり方は微妙だけど、こういう奴らもいるんだな」って思うことで、自分が声を上げる時に楽になるかなって思うんですよね。
青野:なるほどね。プラカードを持ってる人とかビラ撒いてる人を見るとちょっと避けたくなりますけどね。
富永:ええ。なんか偏ってんじゃないの? みたいなね。
青野:そう思いますけど、がんばってねくらいの気持ちでおおらかに見られるといいのかもしれませんね。
富永:そうですね。同じアイドルグループのファンだけど自分と「推し」が違う人たちみたいな。組織や社会に対する要求や好みが少し違う人という感じで。
青野:日本は確かにこういう価値観があるのかもしれませんけど、海外での社会運動はまた違うものなんですか?
富永:そうですね。私は昨年はオーストリアに住んでいたんですけど、ドイツ語圏の30人くらいの教室で、「デモに行ったことがある人?」って声をかけると、15人くらいが手を上げるんですよね。実際ヨーロッパの社会運動参加率は調査にもよりますが30〜50パーセントで、10パーセント未満の日本と比べれば非常に高いと言えるかもしれないです。
だから政権が汚職したりすると、すぐ退陣に追い込んだりするわけですよね。私はあんまり主体性のある人間ではないので、それがけっこうつらいこともあるというか。逆に「お前どの立ち位置なんだよ」ってよく聞かれたので。ただ社会の差はあるのかなと思いますね。社会運動に冷たい社会か、「自分の立ち位置を定めて要求していくぜ」って社会かってところですかね。
青野:そういう意味では、日本人はわがままを言うのがへたくそなのかもしれませんね。ちゃんとわがままを言って、興味があるデモがあったら参加してみてもいいのかもしれませんね。
富永:デモじゃなくても、寄付やクラウドファンディングとか、やれるところからでも良いですね。町内会とかPTA活動とかでもいいので、実際にやっていければ見方も少し変わってくるかもしれないですね。デモも訴訟もその延長線上にあるものなので。
青野:あ、そうか。そういうところから始められるわけですね。
富永:ええ。Twitterで政治について言うってハードル高いので、不満を言っていくだけでも変わってくるかなというふうに思いますね。「税金が高い」とか。
青野:そういう意味では今、クラウドファンディングなんかでもいろんな社会運動を起こしてお金を募っている方もいらっしゃいますからね。そういうのに参加して応援コメントをつけるだけでも、それが社会運動に参加したことになるのかもしれないですね。
富永:そうすれば、自分の属している社会や組織の中でも、少なくとも自分と違う利害を持っている人の存在は見えやすくなりますよね。
青野:あ~、おもしろいですね。ちょっと終わりの時間が近づいてきてしまったんですけど、みなさんいかがですかね? このわがまま社会運動。
富永:お役に立てましたでしょうか(笑)?
青野:遠く感じていたモノが近づいたんじゃないかと思いますけれどもね。最後にお聞きしてみたいのがですね、先ほど富永さんは社会運動が嫌いであるという衝撃的な発言がありましたよね(笑)。
嫌いなのに研究されているという衝撃があったんですが、もし富永さんが個人的に思っているわがままやエゴみたいなものがあれば、お聞かせいただけませんでしょうか?
富永:そういえば不満とかモヤモヤって感じたこともあったし、本にも書いたんですけど、前向きに何がしたいとか、こうしたいって思ったことってなかったなと思うんです。
それはたぶん自分が人より諦めがちょっとだけ早い人間だからで。それはなんでだろうって考えてみたんですよ。そうすると、例えば私の努力が足りないからとか、能力がないとか、自己責任的な感覚を持ちやすい人間であるとか、地方出身だからとか、長女だからとかいろいろ考えたんですけど、やっぱり女性だからかなと思います。
諦めるというか、諦めることすらイメージしてなかったというか。自分はこれくらいの大学が妥当で、これくらいの職業にしか就けないというか。それができれば上出来だろうと思っていたので。
何て言うんでしょう……すみません、エゴの話ですよね(笑)。そう考えた時に自分のエゴを言葉にするとしたら、自分自身はもう人生に対して諦めるのが癖になったので、ぜんぜん気にしないんですけど……。
これはぜんぜんきれいごとじゃなく、最近歳取って思うんですけれども。自分以降の女の子というか、女性が少しでも諦めることが少なくなるように、諦めなくて済むようなものを増やしたいというのが、私のエゴですかね。
青野:最後に素敵なエゴを聞かせていただいて大変共感しました。ぜひそういう社会を一緒に作っていければと思います。
富永:そうですね。ありがとうございます。
青野:ありがとうございました。それでは富永さんに大きな拍手をお送りください。富永さん、ありがとうございました!
(会場拍手)
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