2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:アストラゼネカ 株式会社
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宮田裕章氏(以下、宮田):ありがとうございます。ここでマッティさんにも伺いたいんですけれども。最初のプレゼンテーションでマッティさんは「GoCoは『集まる』ことでイノベーションを生む」とおっしゃっていたと思います。今までテレワークとか、オペレーションであれば遠隔でもいけるんですが、イノベーションって特に「集まる」ことが今まで大事だといわれてきてたんですが。GoCoはどうでしょう。COVID-19の影響で、イノベーションのアイディアを生むというところに影響はありましたか。
マッティ・アルクヴィスト氏(以下、マッティ):短い答えとしては「Yes」です。やはり物理的に人が集まることは、とても重要なわけです。隣同士でラボで協働したり、あるいはスケッチボードに一緒に書いたり、あるいは患者さんとのやり取りといったことはとても重要だったわけです。ただ、コロナのためにそれが可能ではなくなりました。
とはいえ、そういったやり方で長いことやってきた経験がありますので、会社として我々は信頼関係と協働関係をすでに確立しています。今はリモートでも十分、その信頼関係をもとにやっていけます。ですから今まで作ってきた物理環境での価値は、コロナのパンデミックの間でも継続しています。もうすでに信頼関係があるからです。
コロナがヘルスケアのイノベーションにどういう影響をもたらすのかを考える時には、極端なグローバルなコラボレーションの例を避けて通れません。ワクチンに関する共同開発とか、あるいは抗ウイルス薬の開発の共同ですとか、EUのような地域がワクチンを共同購入するとか、さまざまな国々が承認前にも関わらずその製品に投資しスケールアップについて話し合いをしていることを見てみますと、明らかにコラボレーションのニーズはかつてないほど高まっています。
ただ、小さいスタートアップ企業が新しいマーケットに参入するために信頼関係を作るなど、新しい関係を作る場合には、やはりコロナは逆風です。ニューノーマルになった際に、根本的なニーズは変わらないのではないかと思いますが、やり方は変わってくると思います。デジタルが果たす役割は大きくなり、実際に旅行する機会は減るかもしれません。
実際にこのシンポジウムが良い例で、私はスウェーデンにいながらにして、日本で行われているミーティングに参加して話をすることができる。アジアとスカンジナビアとの間をつなげることができる。そういったデジタル技術を使えばいいわけです。補完するような技術は、いくらでも活用できると思います。
宮田:ありがとうございます。イノベーションも、もうニューノーマルですね。新しい時代に入ってきているということで。米津さん、東京都も「新しい日常」というのを掲げていますけど、東京都のニューノーマル、どうでしょう。
米津雅史氏(以下、米津):私もこの点は試行錯誤しているというのが、正直なところでして。まだちょっと十分に言語化できてないところがあるので、お許しをいただきたいんですけども。これはどちらかというとエコシステムの中でも……ちょっと比喩が不適切だったらアレなんですが(笑)、「サロン型」と言いますか。
宮田:大丈夫です(笑)。サロン型ですね。
米津:場を設定して、ファシリテーターというかサロンの主人みたいな方がいて、ある程度、密な状況でいろんな方と結びつけていく、ということの意味合いはあるとは思うんです。ただそれが、必ずしも物理的にできなくなっていると思います。
次に模索するべきところは何なのか? というところに、例えば1つ、こういうのもあるのかなと思うのは「カフェの主人」と言いましょうか。カフェはある程度、オープンなわけです。24時間やっているかどうかはともかく、場所はあって「いつ来てもいいですよ」と。いつどういう人とコラボレーションするかもわかりませんよ、と。それはもちろん現実の場だけじゃなくて、ネットももちろんあり得るし。
ただサロンのオーナーとちょっと違うのは、カフェには、そこに行けばなにか与えてくれるサービス提供の価値があって。対価ももちろんあるかもしれませんけど、そこからなにか自由な議論が起きたり。19世紀のパリのカフェじゃないんですけれども。
宮田:(笑)。
米津:そういうものが起きる場としてはあるのかな、と思ってまして。要は、やり方はもちろん変わっていくし、場の持ち方も変わってきますけれども、新しい時代に即したオープンなかたちを模索するなかで、個人的には「カフェ型」というのもあるのかなと思っています(笑)。
宮田:おもしろいですね。やっぱり対話の仕方とかスタイルとか、あるいはセレンディピティの生まれ方も、これからたぶん変わってくるだろうし。あるいは今までだとこういった会議も「対面じゃないと失礼じゃないか」という雰囲気がみんなにあったんですけど。今日こういったかたちで、フィジカルとバーチャルを組み合わせてアイデアを交換できると。やはりもう新しい時代に入りつつあるのかな、ということですね。ありがとうございます。
宮田:そして次の話題は、データですね。やはりイノベーションをどう作るのかといった時に、今回も「4つのD」の中の「Digital」は避けては通れないと。データをどう共有して、そして価値を一緒に作るのかというところに、入っていきたいんですが。
まずはティナさんに、中国についてお伺いしたいと思います。
ティナ・シュ氏(以下、ティナ):これまでみなさま、ニューノーマルの話をされていたと思うんですけれども、コロナ禍において、それからポストコロナにおいて、デジタルがニューノーマルになると思っています。人々の交流が対面だけではなくオンラインでも行われるようになり、医療の環境にも大きな影響がありました。
例えば医師の観点から見ますと、もうすでにオンラインでの診療と、それからオフラインでの診療が混合されるようになってきています。特に学会などにおいては2つが混ざっているということで、ニューノーマルにすでに入っていると思います。国際的な会議などをオーガナイズするにあたっても、やはりオンラインが主流になってきています。
しかし最も重要なのは、患者さんとお医者様の関係がどういう影響を受けるかということです。とても大事なのは、患者さんと医師が初めて顔を合わせる時です。診断をする、そして治療について話をする。しかしコロナ禍において、あるいはポストコロナにおいては、新しいかたちができてきています。
例えば、中国でコロナ・パンデミックの時には、患者さんがオンラインでも先生を信頼するということが見て取れるようになりました。オンラインで診療を受ける、オンラインで処方せんを出してもらう、オンラインでドラッグレビューを行う。そういったことが行われるようになってきています。eコマースが医療で使われる、あるいはインターネットホスピタルというものが、緊急の状況では中国の治療でも使われるようになってきています。
これはコロナ前にはあり得なかった話です。というのは、初回の診断に関しては対面でなければいけないと、人々は信じていたからです。フォローアップの時にも、やはり患者さんとしては先生に直接見てほしいという要求があったわけです。しかし最近では、中国市場が変わってきています。特に慢性疾患を抱えているような患者さんは、こういったオンライン診療に慣れてきています。
そしてインターネット病院、特にオンラインでのドラッグレビュー。こういったものが民間の企業だけではなくて、公的な病院でも行われていますし、また最近では政府でもよりたくさんの政策を施行していて、オンラインでの診断・診療を推進するようになってきています。
デジタルがニューノーマルになることによって、医療の仕事に従事している人たちだけではなく、患者さん自体の行動も変わってきています。
宮田:ありがとうございます。まさに対面原則だったものからオンラインに移行したことによって、常にデジタルでデータを取れることになるので、データの種類が飛躍的に増えていくだろうと。中国のデータドリブンの実践が、ますます強力になる。一方でやはり、国外との連携に関しての言及はないので、たぶん難しいんだろうなという(笑)。
宮田:もしかしたら、ワクチン情報とかPCRテストからグローバル連携は始まるのかもしれないですね。一方その中でスウェーデンですね。マッティさんに伺いたいと思うんですが、スウェーデンではこういったデジタルデータをどう扱うかといったところの変化、あるいは方針はどうなっていますでしょうか。
マッティ:高品質な医療データを活用することに大きなポテンシャルがあるということは、誰もが理解していると思いますし、ヘルスケアイノベーションにも重要です。スウェーデンは国として、非常に高質なレジストリをずっと使ってきました。つまり時系列的なデータセットをたくさん持っているわけです。しかしまだ解決できていない問題がありまして、このデータをいかに活用できるか。研究目的だけではなくてイノベーション、そして製品開発にいかに活かせるかというところが、まだ解決できておりません。
データを活用して、国のエコシステムを使って障壁を乗り越えていく。データのプライバシーと個人情報を守りながらも、イノベーションや製品開発ができると、その国はものすごく強い競争力を持てるようになると思います。
個人情報とプライバシーを守ることは非常に重要なのですが、それらを遵守しながらデータを活用できる良い例も出てきました。前向きなレジストリのスタディなども行われていて、これを使ってすでにあるデータを活用することができるようになってきました。
これがデジタル化の大きな側面だと思うんですけれども、やはりデータのプライバシーは守らなければいけないということもあります。そして枠組みも考えなくてはいけません。また、今は規制が非常に厳しいので、なかなか普及しないだろうと言われているわけです。私としてはぜひこれは実現してほしいと思うことの1つであり、まだ解決できていないことの1つです。世界全体でベストプラクティスを共有しあって、学びあうことができれば非常にうれしく思います。
宮田:ありがとうございます。次にカタリナさんにお伺いしたいと思いますが。このデータ共有の問題はコモンズの問題であり、シンセティックMRが取り組んでいるような課題にも近い部分があると思うんですが。データに関しては、カタリナさんから見ていかがでしょう。
カタリナ・ぺテレセーン氏(以下、カタリナ):医療技術において一般的にいえるのは、より多くのソリューションがクラウドに移行していることです。患者さんのデータが、もうルーチンでインターネットを介して送られるようになってきているので、これは非常に大きな機会だと思います。以前は病院の中に閉じ込められていたデータが、見えるようになってくるということで、企業としてもよりたくさんのデータにアクセスできるようになります。そして非常に大きなAIの資源にもなってくるかと思います。新しい製品の開発にも役に立つでしょう。
また医療従事者にとっても、これは朗報です。小さな病院、あるいは診療所は、そんなに高額な大きなソリューションは、これまで購入できませんでした。しかしこれからは、オンラインでそういったサービスを使えるようになります。
しかし課題もあります。それはセキュリティです。患者さんのデータにきちんとセキュリティをかけなくてはいけない。そして転送する場合には、各国の規制を遵守しなければいけないということです。実際のインフラにも課題があると思います。
技術的に実現するためのインフラそのものにも課題がありますけれども、それだけではなく、規制という観点からも課題があると思います。つまりこれを実際に行った時に、各国の法律を遵守できるかどうかが課題です。
宮田:ありがとうございました。長らくこのグローバルネットワーク、そして連携についてお話をさせていただきましたが、終わりの時間に近づいてまいりました。各メンバーから最後にコメントをいただきたく思いますが、ヘルスケアイノベーションエコシステムを発展させていく上で、今日おいでになっている東京・大阪、こういった地域に対する期待、あるいは要望・反応でもいいんですが、伺いたいと思います。
今お話を聞いたばかりですが、シンセティックMRのカタリナさんから、よろしくお願いします。
カタリナ:エコシステムの一員として、重要なのはやはり人間関係だと思います。今回パネルでも何度も話題に出てきました、信頼ということです。それだけではなくて、ネットワーキング、交流も大事です。新しい人々と出会えることがとても重要ですし、小さな企業として、もちろん業界内の人たちとも会いたいですけれども、先生方ですとか、それから臨床家ですとか。研究でのコラボレーター、あるいは実際のお客さまとお会いをして、できれば個人的にお会いして、いろんなアイデアを交換したりしたいです。
そして自分たちのソリューションが問題を解決できるかどうかを確認したいので、個人レベルでのネットワークといいますか、できるだけたくさんのフォーラムなどをやっていただきたい、場を作っていただきたいということです。それによって新しいエコシステムに参入しやすくなりますし、またネットワークを構築しやすくなります。
宮田:ありがとうございます。それではGoCoのマッティさん、よろしくお願いします。
マッティ:ここで掲げている目標は素晴らしいものがあると思いますし、やはり官民の当事者が協力を始めるということが鍵だと思います。非常に実り多い関係を持つことによって素晴らしいものを達成することができると思います。
ここで大切なことは、ローカルに適応させていくことの重要性です。例えばフラッグシップのパイオニアとして、MITやハーバード大学などがあるボストンの先駆的な機関は非常に高いスキルレベルを誇ります。ただ、それをそのままこのスウェーデンで再現することはできないわけです。
一方で、バイオベンチャーハブといった、極端な信頼レベルに基づいたものがアメリカでそのまま再現されるということは、なかなか難しいわけであります。我々が間違ったアドバイスをしてしまった場合、アメリカにおいては訴訟を起こされるかもしれません。スウェーデンでは謝って、また次に進むことができます。ですからやはり、日本は日本独自の強みに基づいて、それをさらに向上させて、そして実り多いものに発展させていくことが重要だと思います。
宮田:ありがとうございます。それではグローバルからのフィードバック、最後にi-Campusのティナさん、よろしくお願いします。
ティナ:やはり、みなが目標を共有することで協力ができると思います。患者中心という共通の目標があれば、さまざまな機関・研究者・企業とイノベーション企業が、そこに立ち返ることができます。
そしてすべてを結びつけるのは、共有された目標「Shared goal」だと思います。それによって初めて、患者にとっての最大のベネフィットをもたらすことができると考えております。やはり共通の言語をお互いに構築することが重要だと思います。
宮田:ありがとうございます。最後、ティナさんから「Shared goal」という言葉が出てきて、これは最近GAFAと呼ばれるテック・ジャイアントも言ってるんですよね。「目的を共有する」と。これが中国においてもやはり共通するんだといったところが、やはりグローバルの成功には今まさに不可欠の要因だなと感じました。
宮田:その上で今日、日本側として何を持って帰るのか? ということで、ちょっとハードルを上げたようなクエスチョンですけれども(笑)。まずOIHの中村さんから、最後のメッセージをいただければと思います。
中村奈依氏:はい。本日はこのような機会をいただきまして、ありがとうございます。私ども、本当に今日を通じていろんな学びと気づきもありまして。やはり私たち、いつも大切にしているのは、先ほどおっしゃっていたエコシステムの中の人間関係とか信頼関係の構築は、かなり重要視しています。
そこで先ほど申し上げたように、OIHは新しいネットワークをどんどん作っていく、コラボレーターも多々入れていくという取り組みを推進していく所かなと思っています。
あとはやはり海外、国内もそうだと思うんですけども、スタートアップなり医療機器開発とかサービスを作られる方々の、いわゆるローカライズに貢献できるような取り組みも、官民一体でやっていくことが必要だと感じています。今回のこれをきっかけに、東京都さんとの連携もそうですし、スウェーデンとも連携を進めていきたいなと感じました。ありがとうございます。
宮田:中村さん、ありがとうございました。それでは米津さん、最後にコメントをよろしくお願いします。
米津:はい、ありがとうございます。今日いろんなことを学んだんですが、端的に言いますと、やっぱりこの医療・ヘルスケア分野、同じ言語・共通する目標を、ここで立てられなかったらほかではないんじゃないかな、ぐらいの勢いを今日思いまして。
宮田:(笑)。
米津:そういう意味では私も、どこまで本当に共有できるのかということを、いろんなコミュニティの方とこれから毎日話をして。中国の方、ノルディックの方に対して「ここまでだったらいけるよ」ということを、ぜひまた活動をして。「エコシステム活動」と言ってるんですけども(笑)、またフィードバックできるようなものをぜひ、もしこういう機会を次にいただけたら、出してまいりたいと思います。ありがとうございます。
宮田:ありがとうございました。それでは時間がまいりましたので、最後、私からのラップアップコメントをさせていただきます。今日は本当に、ここに来るまでの私の印象を大幅に超える学びがあってですね。私自身もこのイノベーションエコシステムを、アカデミアを中心にして展開したり、いろいろな地域とも行っていたんですけれども。本当に自戒を込めて申し上げると「オープンイノベーション」と言いながらやっぱり囲っていたりとか、ほかと戦おうとしてたんですよね。
でも今日、本当にスウェーデンの取り組みから改めて学んだのは、エコシステムって我々、目の見える地域のサステナビリティを考えがちだったんですけど、そうじゃなくてパートナーとなる地域とのエコシステムであり、相乗効果であり、いわゆる長期的な視点、現地のバリュー、ネットワーク、信頼。これをいかに作っていくのかというようなことなんだな、ということですよね。
このi2.JP、今日このアストラゼネカさんがセットアップした場は、その1つのきっかけでもあり。エコシステム同士の競争じゃなくて、コ・クリエーション(共創)なんだと。高め合うネットワークとして、我々がさまざまなエコシステムをどう一緒に作っていくことができればいいのか? という、すごく大きな問いをいただいたと思いますし、スウェーデンの事例、GoCoやNIHから、非常に大きな学びをいただけたと思います。
こうした場をぜひ引き続き、ここからまた東京都・大阪市さんと一緒に作っていけるといいなと、本当に心から思いました。この学びが視聴者、今見られているみなさんにとっても、同じような価値であったということを願っています。本当に今日は素晴らしいセッションをいただきまして、ありがとうございました。
アストラゼネカ 株式会社
米津雅史
東京都 戦略政策情報推進本部 特区推進担当部長
中村奈依
(公財)大阪産業局 イノベーション推進部 大阪イノベーションハブ(OIH)
マッティ・アルクヴィスト
アストラゼネカ株式会社 ヨーテボリ サイトシニアダイレクター
ティナ・シュ
アストラゼネカ株式会社 中国 IT&コマーシャルイノベーション(i-Campus)
サミ・ヤースケライネン
ノルディック・イノベーション・ハウス シンガポール(NIH) コミュニティディレクター
カーステン・グローンブラット
スウェーデン大使館・商務部・投資部 (英語名:Business Sweden) 商務参事官
カタリナ・ぺテレセーン
シンセティックMR クリニカル・リサーチ・サイエンティスト(SMR)
宮田裕章
慶応義塾大学医学部 医療政策・管理学教授
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