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求められているのはLGBT教育ではなく、インクルーシブ教育-渋谷区の実践から(全2記事)

2020.09.30

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誰もが目には見えない「違い」を持っている ゲイをカミングアウトした小学校教師が伝えたいこと

提供:渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>

東京都渋谷区は、日本初の同性パートナーを認知する制度において「パートナーシップ証明」を交付するなど、全国に先駆けてLGBTQ(性的マイノリティ)に関する取り組みを続けています。今回の講演では、区内の小中学校の教職員向けに行われたLGBTQ研修などを紹介し、誰もが生きやすい社会をつくるために学校や地域はどう変わっていく必要があるのかを考えます。本記事では、渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>にて、ゲイ当事者であることを公表している小学校非常勤講師の鈴木茂義氏(しげせんせー)が、多様性理解の学校教育を一過性で終わらせないための「行動」につなげる取り組みを紹介しました。

誰もが外から見ただけではわからない多様性を持っている

鈴木茂義氏「この人誰でしょうゲーム」の目的なんですけれども、先ほどお話しした部分に重なります。まずは多様な視点で自分自身を切り取ること。LGBTQの当事者である私だけが多様な側面を持っているわけではありません。そのときの教室の子どもたちの中にも、見えていても見えていなくても、多様な側面があります。

そして、今日この会場にいらっしゃるみなさんの中にも、見えても見えなくてもいろいろな側面があると思います。その自分自身の中の多様性を感じてほしいなと思いました。そして、私の場合はゲストティーチャーで行っていますので、自分が自己開示できる範囲で、子どもたちに多様な側面を話せたらいいなと思いました。

それは例えると、このスライドの中にもあるんですけれども、ミルフィーユのようなものかもしれません。私たちは、1つの事柄で自分自身が成り立っているわけではなく、いろいろな層が重なって自分というものができているのだと思います。その下層の部分は外から見てわかるものでもありますし、もしかしたらフォークで中を切るまでわからない、見えないものもあるかもしれません。そんな話も子どもたちと共有しました。

このあと私の多層性の一部をご紹介するんですけれども、その授業が終わったあと、子どもが私に話しかけてくれました。それはLGBTQの話で私に話しかけてくれたわけではないんですね。その子は「私、テニス部なんです」と話をして、私との会話のきっかけをつくってくれました。

もし私が、自分自身がゲイであるというライフストーリーだけを話したのであれば、その子との関係ができなかったかもしれません。しかし、自分自身のいろいろな要素を子どもたちの前で紹介したことによって、子どもたちとの会話のきっかけをつくれたのかもしれないな、と感じました。

心地よく付き合うために、お互いの「違い」を大切にする

私自身のミルフィーユの一部です。このときは41歳でしたが、今は42歳になりました。中学生の子どもに「20代に見える」と言われて、実はちょっとうれしかったです。ただ「50代」と言われたときには、やっぱりいろいろな見え方があるんだなと思いました(笑)。

私は中学校時代は卓球部の主将だったんですけれども、そのとき話しかけてくれた女の子は、そこをきっかけに話をしてくれたのかなと思っています。私の昔の夢はアナウンサーでした。今の夢は、農業ができたらいいな、なんて思っています。

「喘息を患っていて、子どものころはひどかったんだよね」とか「実はゲイなんだけれども、大学のときに1回だけ女の子とお付き合いしたことがあるんだよね」という話もしました。

そこで当然疑問が生まれてきますので、子どもたちのほうから「なんでゲイなのに女の人と付き合ったの?」と聞かれました。「もしかしたら、女の子と付き合ったら自分自身を矯正できるかもしれない。異性を好きになる自分に戻れるかもしれないと思って、ムリして付き合っていたこともあったんだよね」と。この自分自身の因数分解によって、子どもたちとそんな話をしてきました。

子どもたちは非常に注目してくれますね。あとは自分の予想が当たったとか外れたとか、いろいろな反応をしてくれて、ちょっと授業の雰囲気がほぐれたことも(このクイズの)良さの1つだったかもしれません。

そして、その授業の核となる質問がこれでした。「この授業でみんなと一緒に考えたいことはこれですよ」ということで紹介しました。

「私だけが何か特別な違いを持っているのではなく、見えても見えなくても、みなさんの中にも、そしてみなさんの友達の中にも、いろいろな違いがあります。そのいろいろな違いを持った人たちが、お互い心地よく付き合っていくために、みんなだったらどんなことができそうですか?」。あとは「これから出会う誰かにお願いしたいことは何ですか?」と話しました。

まさに多様性理解、共生社会の知識・理解だけではなく、具体的な行動を子どもたちと考えた瞬間でもありました。そして、こういう質問をすると、子どもたちは戸惑うかもしれないなと思っていました。子どもたちは「相手の違いを大事にするってどういうことだろう」「何か新しいことをやらなきゃいけないんじゃないかな」と考えているわけです。

実際の行動につなげるための「なかよし大作戦」

でも、実際にはそうではありません。小学生の子どもたちも中学生の子どもたちも、学校生活、そして社会の中で、相手の違いを大切にする行動は、実はすでにやっているんですね。やっているんだけれども、それが意識化されていなかったり、あまりにも当たり前になりすぎて、その良さに気付いていないこともあるなと思いました。

なので、今までの自分の行動を振り返ってもらうと共に、もし何か新しく取り組める行動があればそれについて考えてもらおう、というふうに授業の流れを持っていきました。

これは中学生が書いてくれたものではなく、他区の小学校の子どもたちが書いてくれたものです。そのときは「なかよし大作戦」という名前をつけてやってみました。「見えても見えなくてもいろいろな違いを持った人たちと、みんなはこれからどうやってつながっていく?」と、中学生に対しても同じ質問をしたように、小学校中学年の子どもたちにも話をしてみました。

この子たちは、ある子は「『友達になって』と自分から言う」「自然に話す」とか「遊ぶ約束をして人とつながれる」「あいさつをする」とか「自分から話しかけてみる」ということを、具体的な行動として考えてくれました。

そして、授業が終わったあとの感想では、こういうふうに書いてくれました。「今日一番学んだことは、人は見た目で予想と違っても、自己紹介や一緒に遊んだりすることで距離が縮まるということを学びました」と。

小学校3年生や4年生でも、これだけのことは充分書けるんだな、と思いました。子どもは何もできない存在ではなく、もうすでにいろいろなことができる存在なんだな、ということも自分で感じました。

必ずしも人と仲良くすることだけを目指さなくてもいい

次の子の「なかよし大作戦」です。この子は「いろいろな違いを持った人たちとどうやってつながりますか?」と言ったときに、このように書いてくれました。「自分の名前を言ってから相手の名前を聞く」「自己紹介する」「好きな科目など学校のことについて話す」とか「自分のことを話す」と。

この感想を見て、「自分のことを話すのは大切なことの1つですね。ただし人に言えることと言えないことがあると思うので、なんでもかんでも話すのではなく、言っていいことと言わないほうがいいことを、自分で選べるようになるといいね」という話をしました。

この子が授業で感じたことは、「見た目に見えること、見た目ではわからないこと、それも自分から聞けるようになることが大事です」と答えてくれました。「相手と仲良くなるにはどうすればいいか、いろいろな方法を学んだ」ということも書いてくれました。

当然、仲良くすることありきではなく、仲良くしてもいいし、自分一人で過ごす時間があってもいいし。そんな話も子どもたちにしました。必ずしも、人と仲良くすることだけを目指さなくてもいい、という話も同時にしました。

「理解」だけでなく「行動」を啓発していく

次の子どもです。この子はいろいろな違いがある人に、「怖がらずに自分から話しかける」とか「相手の良いところを見つけてほめてあげる」と答えてくれていました。あとは「名前を覚える」「困っている人がいたら手伝ってあげる」というのもありました。

感じたこととして、「これからクラス替えをするときに、話したことがない人とどうやったら仲良くなれるか、『なかよし大作戦』を復習できました」とか、「積極的に話す」と書いてくれました。

実際にこの子どもたちが考えた行動、もしくは自分たちが今までやってきた行動を実行できることが一番いいかなと思います。それだけじゃなくて、私や先生たちから「人と接するときはこうしなさい」と強制されたわけではなく、「自分だったらこういうことができそうだな」というふうに、自分の力で考えたということにも非常に価値があるなと感じました。

渋谷区以外の学校、そして渋谷区の3つの中学校での出張授業を通して、やはり理解啓発だけを目指すのではなく、行動を啓発していくことも大事だなと思いました。

それは先ほど永田さんのスライドの中でもあった、「理解啓発だけではなく具体的なインクルージョンを実現するための行動を考えていく」というところにもつながっていたんだなと感じています。

子どもたちにLGBTQについて考えてもらう教材

そして渋谷区の中学校で授業を行ったとき、このNHK for Schoolの『カラフル!』(レインボーファミリー)という動画教材を使いました。15分の動画だったんですけれども、中学校の生徒たちは非常に映像にのめりこんでいました。

そして自分の母親が、今までお父さんと家族関係を築いていたのに、両親が離婚して新たにできたパートナーは女性だったということについていろいろな戸惑いや悩みを通して、新たな家族を築いていくというストーリーでした。

生徒たちは、「自分がもしこの子だったらどういうふうに感じるだろうか」。例えば「自分の両親が新たなパートナーを連れて来たときにはどうするだろうか」ということで、自分ごととして考えることができたなと思います。

「自分だったらどうしていいかわからない」と悩んでしまうという子もいました。当然、「そういう感想を持っても大丈夫だよ」と伝えました。ですが、今までいなかったのではなく、見えていなかっただけということを知って、自分だったらどうするかという具体的な行動を考え始めたきっかけにもなったのではないかなと感じています。

そして、この『カラフル!』を見た後に「本当にみなさんの周りには(LGBTQの人たちが)いないんでしょうか」ということで、この『しぶや区ニュース』を子どもたちに配布しました。

私の予想だと、これを読んでいる子はほとんどいないのではないかなと思っていました。しかし、実際は逆でした。子どもたちに「実はこれ、もうみなさんの家に配られているんですけれども、読んだことある人?」と聞きました。するとクラスの半分以上の子が、すでにこのニュースを読んでいたということです。

ですので、これを配布したときにも子どもたちから驚きの声があがることはありませんでした。「普通に見たことあるし、もう読んだ」。まだ読んでいなかった生徒さんも、自然なかたちでこれを読んでいました。本当はこれを読みながら話をする予定だったんですけれども、生徒たちがあまりにも食い入るように読んでいたので、5分ほど静かにこれを読む時間を作りました。

そして、子どもたち自身も実際に渋谷区のいろいろな条例や、具体的にこんな制度があるということをさらに再認識していたのではないかなと思います。やはり行政主導で、こういった成果とか当事者の人たちが可視化されているということが、きちんと学校の子どもたちにも浸透しているということが感じられました。

小中学生のうちからLGBTQについて学ぶ機会を持つこと

そして、これは渋谷区の中学生の言葉です。ある中学校の保護者の方が私に教えてくれました。学校の帰り道で、とある女の子たちがグループで下校していたそうです。その様子を中学校の保護者の方が見守っていたそうなんですけれども、ある子どもが、非常に自信満々に誇らしくこういう話をしていたそうです。

「渋谷区って同性パートナーシップの制度があるんだよ、すごいでしょ!(えっへん)」みたいな感じだったということです。人によっては「子どもたちとこういう話題を共有するのは早いのではないか」という人もいますが、決してそんなことはないなと感じた瞬間です。

子どもたちは日々いろいろな情報に触れていて、例えばいろいろなSNSでLGBTQの存在も意識しているのかもしれません。子どもたちと一緒に共生社会への実現のためにいろいろ考えるための下地は、実はもうできているのではないかなと、この言葉から感じました。

渋谷区の実践を他の場所の実践に活かしたり、それとは逆に他の場所での実践を渋谷区の実践に活かしたりということで、この授業をどんどんブラッシュアップさせていきました。

今日ご紹介したのが最終形態というわけではありません。今後も、いろいろな人たちのご意見、そして子どもたちの反応を見ながら、どんどんよい授業ができるようにしていきたいなと思っています。

他区の中学校の実践ではありますが、子どもたちの感想をご紹介したいと思います。「LGBTQの話を通して、みんなが当たり前のように同じ社会の中に生きているとわかった」という意見。あとは「さまざまな人との関わりによって非常に参考になった」という意見。まさに自分がこれから関わることを通して、どういうふうによりよく人と付き合うかを考えてくれたのかもしれません。

次は、「さまざまな違いが認められていく社会が作られていけばいいと思った」というもの。まさに渋谷区に置き換えると、区の基本構想や条例で目指すところと一致する意見ではないかなと思います。

子どもたちのフィードバックが自分の力になる

また別の子は、「自分の中にあった人への思いがガラッと変わったことがわかった」という意見を寄せてくれました。見えることだけがすべてではなく、見えていないことの中にも、その人の大切なものがあるとわかった瞬間かもしれません。

『星の王子さま』という小説の中にも、「大切なことは目には見えない」というセリフがありますが、もしかしたらそれにも通ずるかもしれないなと思いました。

また別の子の意見です。「改めて人とちゃんと関わらなくてはいけないと思った」という意見。そしてLGBTQのことだけではなく、さらに思いを巡らせた「この世界にはさまざまな差別があり、それを止めなくてはいけないと思った」という意見もありました。「それを止めるためにどんな行動ができるか」という具体的な行動まで、子どもたちと一緒に学べたらよかったなと思います。

逆に言うと、私はどうしてもゲストティーチャーなので、1回の授業で急に入って、そのあとなかなか継続した指導をするのが難しいなと思っております。ですが、この辺りは一緒に授業を受けた担任の先生たちにバトンタッチしていければいいかなと思います。

「多様性を認めあっていくことが、本当の平和になると思いました」という意見、そして「このLGBTQについて知っている人を増やすことが、理解を得るために必要なことだ」と教えてくれた生徒もいました。

私は、ゲストティーチャーとして教えに行っている立場なんですけれども、やはりこういった子どもたちのフィードバックが自分自身の大きな力にもなっています。

学校・教育委員会・アイリスとの連携で得られた成果

ここまで、少ないながらも私の実践、そしてアイリス(注:渋谷男女平等・ダイバーシティセンター)との共同の実践についてお話しさせていただきました。まさにこのイラストが示すとおり、いろいろな違いを持った人たちとの共生を実現していくために、学校の中の授業を通して感じたこと、成果と課題についてお話しいたします。

成果としては、学校そして教育委員会、アイリスと連携して授業を進めたことがよかったかなと思っています。渋谷区の教育委員会のみなさんには実際に授業をするにあたってのアドバイス、そして指導案を作成するときのアドバイスもたくさんいただきました。

私は自分の当事者性だけを活かして勝手に授業をしているのではなく、区の方針を考えながら、そして子どもの実態を押さえながら、みんなで授業を作れたことが1つの成果ではないかなと思います。

2つめは研修や授業を通して、学校の先生や子どもたちに多様な性について知る機会を提供できたことがあげられます。今は、このコロナウィルスの影響で、なかなか出張授業や研修がしにくい状況がまだ続いています。またこの状況が落ち着いたら、先生や子どもたちと機会を作っていくことを目指していきたいと思います。

3つめは先ほどと重なる意見です。渋谷区の実態、そしてその学校の生徒の実態にあった学習指導案を作成することができたのも成果の1つだと考えています。

多様性理解教育を一過性のブームで終わらせないために

その一方で課題もあります。私が1回こっきりの授業をすることはできるんですが、それを担任の先生の自発的な授業にどうやって結びつけるかという課題。そして、そういった授業を思いつきでやるのではなく、年間指導計画の中に多様性理解について学ぶことを位置づけることも大切かなと思っております。

また、こういった多様性理解教育の授業が、一過性のブームとして終わるのではなく、息の長い継続的な子どもへの指導・支援になるといいなと考えています。

ここまでご清聴ありがとうございました。私の経験を含め、授業というかたちでやってきたんですけれども、やはりベースとしてあるのが冒頭でもお伝えしたとおり、このアイリスで活動できたことは非常に大きなものがありました。

特に、運営委員会が「しぶやフォーラム」をやっているときに、アイリスでこれまで活動してきた先輩たちと交流ができたこと、まさに私自身もこのアイリスという場を通して多様性を意識できたのだなと思っています。

今後もこの場所で活動していくと同時に、また何かみなさんともつながることができたらいいなと思っています。今後も引き続き、アイリスでお会いできることを楽しみにしていますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。

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