2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>
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野口亜弥氏(以下、野口):カミングアウトしている選手が今自分だけだというところで、「ちょっとさみしいな」とおっしゃっていたと思うんですけど。それはどういうところでさみしさを感じているのでしょうか?
下山田志帆氏(以下、下山田):さみしいという表現はちょっと間違っているかもしれないですね。というよりも、スポーツ選手がカミングアウトすることって、実はすごく大きな意味があると思っています。
プレーをしているとき、試合でピッチに立っているときって、たぶん自分のことをLGBTだと見ている人っていないと思うんですよね。むしろ「女子サッカー選手がサッカーをしている」と見ていただけると思うんですけど。
LGBTの選手は、アスリートであるということが副次的に見てもらえる場が必ずある。そこでプレーをしているチームメイトと一緒に、本気で勝利を目指してがんばっているという姿は、やっぱり勇気とかパワーを届けられると思っています。
今カミングアウトしていないということは、可視化されてないというか、社会的にみなさんの目の前に見えていない状態ということですよね。そうなったときは、パワーをおすそ分けしたりする機会がどうしても少なくなってしまっている。個人的には今、オリ・パラを前にしているからこそ、国民みんなが前に進もうとしているのに、そこに一緒に加わっていけないようなさみしさというか、歯がゆさみたいなものは感じます。
ただ、カミングアウトを絶対にするということがすべてだとは思っていなくて。これは前置きとして言っておきたいところではありますね。
野口:今カミングアウトしている人があまり多くないというのは、したいと思っている人が多くないのか、それともしたいんだけどしづらい環境があるとか、どちらだと思いますか?
下山田:女子サッカー界の話でいうと、オープンにカミングアウトしたいと思っている選手はほぼいないと思います。というのも女子サッカー界でメンズ(同性愛者の通称)というワードがあり、なんとなく自分が当てはまるものがあって、やっぱりすごく居心地がいいんですね。
ふだんチームメイトと一緒に「彼女と最近どうよ?」みたいな話をすごくフランクにできたりだとか。女子サッカー界にいれば、自分自身の恋愛ごととかが脅かされる心配がないんですけど、それを家族に言ったり、会社の人に言ったりすると、どんな噂が回るかわからない。そういうなにかが起こるかもしれないという怖さをみんな抱えていると思います。
女子サッカー界以外のスポーツ、それこそ男性スポーツであったり、いろんなスポーツがあると思います。まだLGBTアスリートが本当に可視化されていないようなスポーツ界というのは、すごくカミングアウトしづらいでしょうね。
社会からなにが返ってくるかわからないと思っているものがなにかを女子サッカー界で言うと、選手たちはチームメイトからなにを言われるかわからないとか、監督からもしかしたらスタメンを外されるかもしれないとか。女子サッカー界の前段階と言いますか。そういった怖さがあると思います。
野口:……今言おうとしたことスポンと抜けちゃった(笑)。
下山田:休憩入れますか(笑)。
(会場笑)
野口:女子サッカー界はある意味で、自分のコミュニティの中で自分らしさということを認めてもらえているから……あ、思い出した。言おうと思ったこと(笑)。
認めてもらえるからそれ以上はいいかなと思うけど、下山田さんみたいに完全にオープンにすることで、今まで見えなかったストレスがなくなり、自分のパフォーマンスだったり、私生活だったりがよくなっていくところがある。
それって、実はみんなやっていないからわからないことであって、やってみたらこんなにストレスフリーなんだよと(思えるのではないか)。カミングアウトを推奨しているわけでもないですし、一度お試しでカミングアウト後の世界を味わってみましょうということもできないのですが、やってないから気づいていないストレスがきっとあるのかなと思って。
下山田:う~ん。
野口:違いますか(笑)。
下山田:そうですね~。それに関しては、なにも言えないですね。そもそも、私は元から自分のこととかすごくオープンにしゃべりたい性格なんですね。だからこそ、こうやってセクシュアリティのこともオープンにしたときに、「あ、生きやすいな」と思う場面がすごく増えたのはあるんですけど。
例えば、恋愛の話をあまりほかの人とはしたくないなという人っていますよね。自分自身の話をするんじゃなくて、人の話を聞いてたほうが楽しいなと思う人もいると思います。一概にカミングアウトをオープンにすることが、その人が楽になる選択肢になるとは私もあまり思わない。本当にその人次第です。
ただ、カミングアウトをして自分が楽になるかもしれない。選択肢の1つとして持っておくことにはすごく意味があると思います。選択肢を持たせてあげる周りの環境というのは、すごく必要になってくるんじゃないかなと思います。
野口:そうですね。カミングアウトできる選択肢もあるスポーツ界になったらいいなということですよね。
下山田:はい、そうですね。
野口:ちょっと一旦小休止を入れます。1回休憩で。
司会者:野口さんにはみなさまからいただいた質問用紙をご覧いただき、その間に私が下山田さんにちょっと聞いてみたかったなということを、お聞きしながら時間を稼がせていただいてもよろしいでしょうか。
野口:はい、すみません(笑)。
司会者:女子サッカー、もしくは女子のほかの競技の世界だったりの比較が多かったと思うんですが、男子女子で比較したとき、おそらく一番身近でいらっしゃるのは男子サッカーで、交流がいろいろなかたちであると思います。
その男女のサッカーの世界では、どのくらいカルチャーの違いみたいなものを感じたかとか。そのあたりをちょっとお話いただけませんか?
下山田:そもそも男子サッカー界は寛容か寛容じゃないかで言ったら、間違いなく寛容じゃない世界。ただそれって、男子サッカー界だけじゃなくて、男性スポーツ界全部に言えることなんじゃないかなと思います。
下山田:1つエピソードを挙げさせていただくと、私の友人で元バレーボールの選手がいるんですけれども、その方はゲイなんですね。彼と一緒に話していたときに、チームメイトと家族、どっちのほうがカミングアウトしやすかったかという話になったんですね。
そのときに私ともう1人女子サッカー選手がいたんですけど、その2人は即答で「チームメイトのほうが話しやすかったわ」と言ったんですけど。彼は「いや、親のほうが何百倍もしやすくて、チームメイトなんて一生できないと思っていた」と言ってたんです。
「何でなんですか?」と、そう思った理由を聞いたんですけども、彼曰く、男性スポーツ界って、さっき野口先輩も……あ、野口先輩って言っちゃった(笑)。野口さんも説明されていたと思うんですけど、男子が集まるとやっぱり男性であることが強く求められる。
男性度合いと言うんですかね。男らしさ度合いによって、その人の立ち位置が変わってきてしまう。だからこそ、ゲイと言ったときに自分自身のチーム内での立ち位置が、一気にガンッと下がってしまうような気がしたと言われたんです。
逆に女子サッカー界とか、ほかの女性スポーツ界でいうと、女子って男子と比べて、集まるとなにか1つを極めるというよりも、役割を振られるような世界でもあると思っています。それがいわゆる「メンズ=男の人たち」というワードにも表れていると思うんですけど。
「女性の中に男性っぽい人たちがいてもいいよね」みたいな心が、文化として作られていくようなところがあります。そこは男性女性が集団としてチームとしてやっていくということになったときに、その中での人間関係の作られ方が、そもそも違うんだなと感じましたし、実際にそれが如実に表れていると思います。
司会者:男性はホモソーシャルというか、どこまでも男性として同一化していく集団みたいな志向性があり、女性だとホモソーシャルになりつつ、その中で分化していくのが許容されていく。そこはすごく違うベクトルがあるんだなという。
そして、それが実際カミングアウトしている人の数もかなり影響があって。リオで(同性愛者をカミングアウトしたのが)60人近くという数字があったと思うんですけれども。アメリカのオリンピアンの男性でカミングアウトした人というのは、実はこの前の平昌のオリンピックが初めてなんですね。女性はその前からいらっしゃるんですけれども。
アメリカの男性の競技社会がどれだけマッチョで(あるかを示していて)、ゲイだということがチームの中での自分の立ち位置を脅かしかねないものであったかという、そういうカルチャーが相当強い。それがようやく平昌になって出てくるようになったというような差も、実はあったりします。やはり今おうかがいした話でもすごくおもしろいなと思いました。
そろそろ野口さん、いかがでしょうか?
野口:私のほうにいただいた質問にお答えさせていただきます。「国内のスポーツにおいてカミングアウトする選手が少ないのはなぜですか?」といただいています。
それは下山田さんとの話でも話題になっていたのですが、これだけ社会やビジネスの世界で「LGBTの当事者の方々への配慮をしていきましょう」という話になっているにもかかわらず、スポーツ界の中ではそういう議論にはほとんどなっていないところが1つは大きいのかなと思っています。
スポーツ庁で勤めていたこともありますけど、(最近)ようやく女性の話になってきました。女性が先かLGBTが先か、そういう議論じゃないんですけど、まだまだ制度を作ったり、ガイドラインを作ったりのところでスポーツ団体の意識が低いかなとは思います。
それは行政だけじゃなくて、スポーツ団体を統括している団体だったり、チームを統括している団体だったり。あらゆるセクターで意識がまだまだビジネスの世界やほかのソーシャルセクターと比べて、スポーツは遅いかなという気がします。
スポーツ界にもLGBTフレンドリーで自分らしさにオープンでいいんだよ、という雰囲気をつくる。そこがスポーツ界において、なかなかこういった取り組みが浸透していかない原因なのかなとも考えています。組織や団体の意識も高まり、ガイドラインなどもできて体制が整ってくると、初めて、アスリートが「もしかしたら守ってもらえるかな」「安心できるかな」と思えるような状況になっていくのかなと思うので、まだまだ2歩も3歩もスポーツ界のLGBT当事者への配慮は遅れているかなと思っています。
野口:あともう1個、同じ方からもらっていた質問が、「子どもに対して、親や先生、指導者ができることは? 言われてうれしかったこと。また、つらかったことはなにか」とありました。
LGBTに限ったことではないのですが、私が小さいころサッカーをしてるときに「女の子らしくしなさい」とか、わりとそういうことをスポーツの指導者から言われることもありました。あとは「女の子なんだから」という言葉も嫌だったかなと思い出します。私は男の子に混じって1人だけ女の子でサッカーをしていたんですけど、そこで「女の子らしくしたい」なんて思ってもないのに、それを求められてしまう。
きっとそういうのは、地方に行ったらまだまだあるのかなと思います。男の子でも女の子でも関係なくて、「その子らしさで自分を表現していたらいい」と言い続けてあげる。そういう言葉をかけてあげることで、子どもは「自分は自分のままでいいのかな」と思えるきっかけになるのかなと思いました。
野口:あと、また違う質問で「フェミニンな女性同士の恋愛は見えづらい。海外女子サッカー界ではどうなんでしょうか?」という質問がきています。
スウェーデンやアメリカの例でいうと、フェミニンな女性同士のレズビアンのほうが可視化されています。ドイツもそうじゃないですか?
下山田:そうですね。私のチームメイトにカップルがいたんですけれども、その2人もフェミニンな女性同士の恋愛でした。むしろボーイッシュな人って、いなくはないんですけど、日本女子サッカー界と比べるとだいぶ割合は真逆な印象ですね。
野口:私がアメリカ・スウェーデンにいたころの印象だと、とくにアメリカは、ボーイッシュな女性って「butch(ブッチ)」という俗称で言われるんですけど。butchな女性は少し距離を置かれているようなイメージ・感覚もあったりして。
ボーイッシュになる、髪を切ると=butchと思われたりもするので、だからこそみんな髪を長くしているのかなとか。違う意味でのジェンダー規範みたいなのがアメリカにはあるんだなと思いました。だから「髪が短い人=butch=レズビアン」となっているように感じたりしました。
下山田:日本の女子サッカー界には「メンズ」というワードがあるとお話をさせていただいたのですけれども、「メンズ」というワードは「男性たち」という言葉になってしまうんですね。本来は髪を伸ばしたいとか、ちょっとかわいい服装をしてみたい人でもメンズと呼ばれている人たちが、絶対いるはずだとも思っていて。
そういった子たちから、ある意味「メンズ」というワードを作ることで、自分が安心して入り込めるような場所を作りつつも、性表現の部分で制限をかけてしまっているんじゃないかなとは感じていますね。
野口:すごく同感です。逆に日本は男女っぽく見えるレズビアンカップルが女子サッカー界の中でも多くて。でも海外に行くと、フェミニンなレズビアンカップルがすごく多いように見える。表現の仕方は違うんですけど、結局根底では自己表現を制限されているところはあるのかなと思いますね。
下山田:はい。
野口:次の質問で「大学のコーチをしていますが、女性らしさを大切にする文化があり、男女の合コンや恋愛トークも頻繁です。コーチとしてなにか意識すべきことはありますか? FtX(女性の体に生まれ、性同一性がXジェンダーである人)ではないかと感じる子がいます」ということなんですけど。
私の知っている例でお答えすると、部内恋愛をすごく制限し、「女子同士で付き合うのはおかしい」みたいな、どちらかといったらホモフォビア的な発言をしている監督の下で育った選手たちは実はすごく苦しかったという話を、選手が部活を引退してから聞いたことがあります。
「女性らしくしなさい」「女性らしい言葉づかいをしなさい」と言われたり、何気ない選手との恋愛トークで異性愛であることが世の中の当たり前のように会話が進む。そういった会話を制限することは難しいのですが、指導者として、コーチとして選手とコミュニケーションを取るときに、「明日オフだね。みんなは彼氏や彼女と一緒にどこか行くの?」とか、女子選手であればに「彼氏いるの?」と聞くんじゃなくて、「パートナーいるの?」と尋ねるとか、そういうちょっとした言葉に気を使うというのはすごく重要だなと思っています。
同性愛を卑下するような、茶化しを入れるような学生は中にはいると思うんですけど、その子に対して「いや、でもそれの何がいけないの?」と、当たり前のように言える指導者がいるというのは、そのチームの雰囲気をつくる上では重要だなとは感じています。指導者として「同性愛の何が問題なの?」という空気づくりをしていくのが大事で、学生もそこから学んでいくのかなと思ったりします。他になにかあります?
下山田:はい、同感ですね。日々のコミュニケーションが本当に大事だと思っていて。この質問の書き方を見ると、「なにかすることはあるのかな?」「なにか意識することはあるのかな?」ということだと思うんですけど、そんな特別視してほしいとは当事者の選手たちってたぶん思ってなくて。だからこそ、いかに普通にしゃべるときにちょっとした……なんだろうなぁ、配慮は必要ないんですよね。難しいな。
配慮をしてほしいわけじゃなくて、本当にほかの選手と同じようにコミュニケーションを取るときにちょっとした……うーん、難しい。なんて言えばいいんですかね。
野口:(笑)。
下山田:うん……。
野口:でも、無意識にバイアスがかかっちゃっていることも(あると思います)。指導者が異性愛者であれば、それが当たり前だと思ってしまっていることもあります。別に苦しめようと思って「彼氏いるの?」とは聞いていないとは思いますが、自分の感覚の中で「彼氏いるの?」が普通だから、そう聞いちゃう。
それで「あ、うん……彼氏……いません」みたいに思う子もいると思うので、私はその子自身に配慮することよりも、全体の空気感をつくることに配慮する必要があるかなとは思っています。
下山田:うん、そうですね。
野口:次はちょっとインターセックスの話ですけど、「セメンヤ選手のような選手がいたとき、オリンピック出場資格をどのように変えていけばいいと思いますか?」「性分化疾患・インターセックスとトランスジェンダーの話は似て非なるものだと思うので、分けたほうがいいんじゃないですか?」という質問をいただいているのですが。
セメンヤ選手の例は、男女で分けて競技をすることがスポーツ界で今まで当たり前のようになっていることを、「本当にそれでいいのか?」と見直す必要性、議論をする必要性を投げかけていると感じています。男女で絶対きれいに人間は分かれないのは、いろんな事例で明らかになっているのに、それでも男女に分けて争おうとするというところは、スポーツにおいて議論のポイントかなと思っています。
例えば、テストステロン値で測るであれば、テストステロン値で分けたらいいじゃないか。例えば基準値より上のグループはテストステロン値の高いグループ。これは男性も測るし、女性も測る。基準値以下の選手たちは低いグループみたいな、そういうのも1つです。パラスポーツのように得点制にするという考え方もあるとおしゃっていた研究者もいます。そういうことを考える必要性が生じてきていると感じています。
「トランスジェンダーとインターセックスは似て非なるものなので、議論を分けたほうが……」というのは、もちろんそのとおりだと思います。ただ、単に議論を分けるだけだと、たぶん答えは見つからないので、そもそもスポーツを男女で分けるというのに対して、「果たして本当に男女で分けていいのか?」というところから話さないと、インターセックスとトランスジェンダーの問題を語るのも難しいのかなと、この質問を受けて考えました。
渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>
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