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イベント『科学史ひらめき図鑑』出版記念トーク&サイン会(全2記事)

2019.09.17

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ビジネスの課題解決に効く“ひらめき”の力ーー世界を変えた科学者 70人のブレイクスルーから学べること

提供:株式会社スペースタイム

2019年8月9日、紀伊國屋書店札幌本店1階のインナーガーデンにて「イベント『科学史ひらめき図鑑』出版記念トーク&サイン会」が開催されました。科学史を扱った本としては異例の1万部突破および3刷りを達成した同書。それを記念して行われたこのトークイベントには、監修を務めた北海道大学 名誉教授の杉山滋郎氏と、柔らかなイラストで堅くなりがちなサイエンスのエピソードを解きほぐした株式会社スペースタイムの楢木佑佳氏が登壇。ひらめきをテーマに編まれた同書の制作過程をモチーフに、日常やビジネスの場で「ひらめき力」をどう活かすかについて語りました。本記事では、トーク後に行われた質疑応答パートを中心にお送りします。

監修業務の効率化

佐藤優子氏(以下、佐藤):そして、どんどん描き始めることになりまして、ここから何も知らないまま過ごしていた杉山先生が現れますね。原稿がある程度できあがったところです。

楢木佑佳氏(以下、楢木):ある程度できあがって、今度はそれを校正しなきゃいけないんですけど、まだ残っている原稿もあるし、とても校正に時間を割けない。もうこれは、杉山先生に最初から見てもらったほうが早いんじゃないかという(笑)。頼るというのもいいんじゃないかなということで。

佐藤:頼るって大きいですね。

楢木:“ひらめき5”ですが、杉山先生に頼ろうと決まりました。

佐藤:2019年1月に本が出てますから、もうあんまり校正の時間ないですよね。

楢木:そうですね。2018年の夏に、ゲラの状態で杉山先生に半分ずつ送りつけるというようなかたちになってしまいました。

佐藤:先生、嫌な顔してる。嫌な顔してましたよ、今何かを思い出して。

杉山滋郎氏(以下、杉山):ゲラが送られてくる2ヶ月ほど前に、社長の中村さんとばったり出会って、「あの本どうなってるんですか?」って聞いてみたんですよ。とんと音沙汰がないので、企画が潰れたのかなと思って。

そうしたら、突然ゲラが送られてきて。みなさんはお盆で休みの頃に。

佐藤:まさに去年の今頃の時期ですね。

杉山:ええ。2018年の2月に出版予定でしたからから、もう過ぎてますよね。「2019年のはじめに絶対に出しますから、ゲラは1ヶ月以内に返送してください」っていう注文がついていました。

佐藤:厳しい!(笑)。

杉山:ですから、あんまり本格的にやって、土台からひっくり返すようなこともできないですよね。要するに、すでにできあがっているものを、ちょこちょこっといじることしかできない。そういうかたちでうまく枠をはめられた上での監修ということになって(笑)。まぁ、それも一種の効率化ですね。

佐藤:ああ。

杉山: むしろ、それでこそこうした形の本ができたのかもしれませんね。

佐藤:なるほど。そこで杉山先生の本気監修があったら、また大きく変わったかもしれないですね。

杉山:悪くなったかもしれません。

佐藤:いやいや(笑)。そんな杉山ダッシュで一気にガガガッと進みましたね。

刊行直前まで、科学史の新情報を盛り込めたのは杉山氏のおかげ

楢木:とはいえ、かなり丁寧に見ていただきまして。原稿が真っ赤になって返ってきたという感じだったんですけれども。やっぱり杉山先生という科学史の専門家にお話を聞けたというのは大きかったです。

私たちは科学史に関しては素人で、付け焼き刃的に集めた情報だけでは成し得ない、科学史としての矜持が保てました。

佐藤:この赤字は何でしょうか? あの赤く囲っているところ。

楢木:これは杉山先生にお願いして本当に良かったなと思うエピソードの1つとしてご紹介するんですけれども。

「ハッブルの法則」という、宇宙が膨張していることを表す法則がありまして、ハッブルというのは人の名前です。一方で、ハッブルだけではなく、ジョルジュ=アンリ・ルメートルという人も同様の内容に気づいて論文を出していたということが最近クローズアップされていまして、「ハッブルの法則ではなくて、ハッブル・ルメートルの法則にしよう」という動きが世界的な天文の学会で起こっていました。

杉山先生がいち早くこのニュースを教えてくださって、出版の直前の時期だったんですけれども、その最新の情報を盛り込んだ上で本を出すことができました。たまたまハッブルを人物として取り上げていたものですから、盛り込めたというのは、本当に杉山先生のお力のおかげだなと思ってます。

佐藤:杉山先生も最後まで、事実に即した情報で補完できたと。

杉山:例えばガリレオ・ガリレイのようにとても有名な人だと、よく調べられており定着した事実があります。けれども、それほど調べが進んでいない人についてはどんどん新しい知見が出てきていますので、それをできるだけ拾おうと努力しました。

佐藤:さぁ、それを反映をさせて、校了して、印刷をして、製本をして。

楢木:ついに今年1月に本を書店さんに並べることができました。

“ひらめき”がビジネス上の課題を解決する

佐藤:ナツメ社さんから16日に出ていますから、26日には重版の電話が来ていたんですか?

楢木:そうですね、メールで連絡をいただきまして。大変売れ行きが好調だということで、すぐ第2版をということでした。

佐藤:出版社は出した本が売れてほしいので、本屋さんに本を仕入れてもらうため、リリースを出すんですよね。書店員も「これはきっとうちなら売れる」とか「見せ方によってはこれはきっと化けるんじゃないか」というものは、かなり多めに仕入れます。

そこは書店員の腕の見せどころでもあるのですが、きっと発売から10日で重版というのは、そこで一気に売り切ったというわけではなく、おそらく初日から1週間ぐらいの動きを見て、日本各地の書店員さんが「これはまだまだ伸びる」って感じたからなんですよね。

それでどんどん注文がかかり、ナツメ社さんも「これはすぐに刷ってもいいんじゃないか」ということで、短期間での重版決定になったと推測します。

では、トークをいったんまとめようと思いますが、こちらは?

楢木:ひらめき図鑑は、ここまでお話ししたようにすぐ簡単に書けたものではなくて、スペースタイムのスタッフの中でも、いろいろなひらめきを積み重ねることでできた本でした。

まず、ひらめきの瞬間にフォーカスを当てたこと、制作過程でシステム化したこと、ひらめきで構成するという大胆な思いつきやイラストの描き方、あと杉山先生に頼ろうというところまで含めて、やっぱり課題に対してどう対処していくかというのを乗り切ったのは、いろんなひらめきがあったからだなと思います。

これが本書の章立てとけっこう合ってるなと思って、ぜひ参考にしていただきたいなと思いました。

佐藤:大変駆け足で進めてしまいましたが、お話ししたような5つの大きなひらめきを経て、70人の科学者たちを紹介する『科学史ひらめき図鑑』が誕生しました。

このあとは、今までのお話を聞いて「このあたりはどうだったんだろう?」「もうちょっと聞きたいな」ということがありましたら、質問カードに記入してお近くのスタッフさんに渡していただければと思います。

ひらめき力を蓄えるために学生時代にしておくべきこと

佐藤:それではトップバッターの質問を。とてもいい質問です。「ひらめき力を蓄えるために、学生時代にしておくといいことはありますか?」。この本では5つのひらめき力を紹介していますが、確かにひらめきって天の啓示みたいに現れるものではないですね。蓄えるために、学生時代に何をしておけばいいでしょうか。

杉山:もう学生時代ははるか昔のことになってしまいましたけど、やっぱり本をたくさん読んでおくことが大事かなと思いますね。ただ、「この本を読んだら絶対ひらめく」といったものではないので、自分の専門分野に限らず、できるだけ幅広くいろんな本を読んでおくのがいいと思います。月並みな回答ですが。

佐藤:ありがとうございます。楢木さんはどうでしょうか?

楢木:そうですね。杉山先生と同じなんですけれども、どこにヒントがあるかわからないので、アンテナを広く張って、いろんな経験をして、すぐ答えを人に聞かないようにすることかなと。

佐藤:答えをすぐに聞かない? ちょっと自分で考える?

楢木:はい。私もすぐ検索しちゃいますけれども……うん、そうかなと思います。

佐藤:少し自分の中で煮詰める時間みたいなものが必要ですよね。ありがとうございます。

続いて、これもいい質問です。「人物の選定について、きっとジャンルとかいろいろあると思いますが、どういう基準で人物を選定していったのでしょうか?」。

楢木:人物の選定は4人ぐらいのスタッフでやっているのですけれども、それぞれ自分の得意分野が違ったので、自分がよく知っている分野から推薦するということと、あとはひらめきがおもしろい人、というかたちにしていました。

ちょっと心残りなのは、女性をあんまり入れられなかったことです。あとは、先ほどもちらっと話したんですけれども、あんまり分野とか年代とかに縛られないで紹介したい人を入れようということですね。

たぶん特徴の1つになっていると思うのが、コンピュータの歴史について、その技術史みたいな要素を盛り込んでいるところが、ほかの科学史の本とはちょっと違うんじゃないかなと思います。スタッフに情報系の専門家がいたというのもあるんですけれども、今当たり前の技術がどんなふうにできているかを紹介しています。

佐藤:アラン・チューリングも選ばれてましたね。

楢木:そうですね、はい。

単純化が誤解を生んでしまう可能性

佐藤:次の質問は、楢木さんに。「イラストを単純化し、ノイズを減らしていくことで内容はよりわかりやすくなったと思いますが、その単純化における苦労みたいのはありましたか?」。

楢木:書くべきポイントが絞れたというところは良かったんですけれども、本が出たあとで杉山先生にご指摘いただいたのが、単純化の怖さでした。

絵で簡単に描いちゃっていますが、実際の距離感だとか時間の感覚とかを、ある意味イメージだけで伝えてしまっているんですね。それが、初めてその内容に触れた人にとってのスタンダードになっちゃうと、誤解を広めることになりかねないんじゃないかなと。どうバランスを取るのか難しいなと今は思っています。

杉山:今の話をちょっと補足しますと、ミリカンという電気の最小単位を実験で測定した人がいるのですが。これがそのロバート・アンドリューズ・ミリカンという人を取り上げたページなんですけど、右上のところに図があります。この図なんですけど、人によっては気になる点があるんじゃないでしょうか。

佐藤:何を描いている絵なんですか?

杉山:シンプル化しているとは言いながらも、水滴に光が当たって反射している様子を描いたりして、けっこう細かいんですね。

これは水滴ですから、どこからやって来たのか書かなきゃいけない。それでスポイトを描いて、そこから水滴を落としている。金属の板に穴を開けて、そこから水滴を落としているんですね。でもこれ、こんなところに穴を開けちゃったら実験はうまくいかないんです。電場のEが乱れてしまうので。

そもそもスポイトで落ちる水滴ってけっこう大きいですよね。そんな大きいのが浮かぶはずないじゃないですか。実際はこれ、霧吹きのようなものでシュッと水を吹きかけるのです。すると、ほとんどの水滴は落っこちていくんだけど、たまたまものすごく小さくて浮かぶやつがあるので、それに注目して実験するんです。ものすごく小さい水滴なので、望遠鏡で覗いて実験するんです。

しかも、この金属板の板と板の間は、実は5ミリしかないんです。けれども、わかりやすくするためにこうやって描いてしまうと、まさかこの板と板の間が5ミリしかないとは思わないでしょう。それやこれやで、ちょっと首をかしげる人がいるかもしれないと思うんです。

文系ビジネスマンを読者に想定する上での「必要な妥協」

杉山:科学的な厳密さを追求していくと、こういうところはたぶん問題になっちゃうんですよね。けれど、親しみを持って読んでもらうためには、ある程度こういうことをやらざるを得ない。この電池のところにメーターがついていますけど、こんなのは実際はあり得ないですよね。

この電池が一つの表現として許されるんなら、スポイトや金属板に穴を開けるのもOKかなと。それぐらいは勘弁してほしいなと。ある種の妥協は許してください、そういう感じですね。

佐藤:杉山先生はゲラチェックで初めて目にするものばかりですから、「ここも単純化してる! ここも!」みたいに、ちょっと驚かれたんじゃないですか?

杉山:親しみやすくするためにどこまで厳密さを勘弁してもらえるか、そこの妥協具合ですよね。あんまり妥協しちゃうと専門家には不満だろうし、あんまり厳密にしちゃうと読者は嫌になっちゃうし。そのへんのさじ加減が難しいところかなと思います。

佐藤:歴史的事実の裏取りはどのような史料を使って行ったのですか?

杉山:本の最後のところに参考文献が挙がってますけれども、これは主な参考文献なんです。これ以外にも実はたくさん調べていまして、楢木さんにも協力していただいて、基本的に各研究者の最初にひらめいたときの論文そのものにあたるということを、可能な限りしました。

例えば「ひらめき 54」のところに、J.J.トムソンの「原子のプラムプディング・モデル」というのが出てきます。Wikipediaなどにも「ブドウパン・モデル」として紹介されています。絵まで描いてあります。でも実はこれ、J.J.トムソンが本当に言ったこととは違うんです。

物理学の歴史について書かれた本でも、かなりの本が間違っています。ですが、楢木さんのこの本では、トムソンの考えを正しく紹介しています。オリジナルの論文にあたるということを徹底しましたので、多く読まれているこれまでの科学史の本とは一見違うことが書いてありますが、こちらのほうが正しいです。安心して読んでいただければと思います。

活字だけで構成された科学史本にはない美しさが、この本にはある

佐藤:何人かの方が同じを質問をくださっています。「パート2、または第2弾の企画はありますか?」。つくりたいものを含めて、ですね。

楢木:そうですね。機会があったらぜひやらせていただきたいなと思うんですけれども、なにしろ時間がかかるので(笑)。

佐藤:やりたいこと、はどうですか? これで楢木さんにもひらめきのノウハウが蓄えられましたし。ぼんやりとした妄想でもけっこうですけど、何かやってみたいものはありますか?

杉山:僕としては、最初の企画段階で言っていた、実はいい仕事しているんだけれども、ほとんど知られていない日本人にスポットライトを当てた本をぜひ出してほしいなと思っています。

佐藤:そのときは杉山セレクションですね。人選は先生が思いっきりする。

楢木:あっ、私も1つあります。私の思いつきというよりは、ある大学の先生からヒントをいただいたんですけど、いま自分たちの身近にある使っている技術とかそういうものに関して、遡っていくとどこに到達するのかというのを、人でたどっていくような本ができたらおもしろいかなと思っています。

まったく思いも寄らない、哲学みたいなところにいっちゃうかもしれないし。そういうつながりの見える本ができたらおもしろいかなと思っています。

佐藤:最後にもう1つずつ。この本づくりに携わって一番おもしろかった瞬間はどこですか?

杉山:2年ぐらいずっと音沙汰なしで、突然ゲラが送られてきて、それを見た瞬間思ったのは「わぁ、きれいだな」と。

佐藤:きれいだな?

杉山:ええ。いろんな科学史の本を今まで読んだり書いたりしてきましたけど、だいたい文章がほとんどという本だったので。絵が入るとこんなに本の雰囲気って違うんだというのを知って、愕然としたというかびっくりしたというか、非常に感動を覚えました。かつ、色使いがすばらしいなと思いました。

佐藤:楢木さんは?

楢木:自分1人で悶々としていた時期からみんなでつくるフェーズに入って、いろいろな意見が入ってかたちになっていくところがおもしろかったです。描くのはきつかったんですけど(笑)。1人でやろうとしても限界があるなというか、やっぱりみんなの知恵をもらうことが大事だなと改めて思いました。

佐藤:ナツメ社さんも、この驚きの重版についてどんなふうにおっしゃっていますか?

楢木:出版まですごくおまたせしてしまったので、たぶんホッとしたというのが一番だったと思うんですけど(笑)。堅調な売れ行きで喜んでくださっています。

佐藤:ありがとうございます。ということで、もう1時間半が経ちました。すごくいい質問をたくさんお寄せいただきました。みなさん、どうもありがとうございました。以上でこのイベントを終了させていただきます。長い間ありがとうございました。

(会場拍手)

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