2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
BEYOND KYOTO TALK SESSION-2「テクノロジー、スタートアップ、幸せ」(全1記事)
提供:京都リサーチパーク株式会社
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中村多伽氏(以下、中村):みなさん、楽しんでますか~? なんかライブの始まりみたいになっちゃいましたけど(笑)。
テーマがめっちゃ真面目だから「真面目に聞かなきゃいけないな」という、みなさまのモラルがすごく感じられるんですけど。ぜひ気軽に質問していただいて楽しみながら、疲れたら伸びをしながら聞いていただければと思います。ということで、よろしくお願いします。
「テクノロジーとビジネスと幸せを接続するってどういうことなんだろう」ということを一緒に考える時間にしたいんですけど、最初にみなさんのご紹介を一言ずついただければと思っております。榊田さんからお願いしてもよろしいでしょうか。
榊田隆之氏(以下、榊田):京都信用金庫の榊田と申します。今日は飛び入り参加ということで、2日前に登壇してくれという話を聞かされまして。
中村:すみません(笑)。
榊田:私、京都信用金庫の理事長と、NPOのグローカル人材開発センターの代表をしております。コミュニティについて考えることを私のライフワークとしていて、今日はこうして大勢の多様なバックグラウンドの方々と一緒に、とても貴重な時間をシェアできることをとても楽しみにしています。ありがとうございます。
中村:よろしくお願いします。
(会場拍手)
川村さんお願いします。
川村哲也氏(以下、川村):株式会社COLEYO(コレヨ)の代表の川村と申します。僕はずっと発展していく世の中とずっと変わらない教育の溝を埋めるということを考えて、教育のコンテンツを作る会社をやっています。
「放課後教室 studioあお」という教室で、子どもたちと一緒に商売や研究をしたり、ものづくりしたり、ロボットを作ったりしています。あとは、お寺でテクノロジー専門の教室をやっていたり。そういうちょっと変わった、新しい時代に必要な教育を作っている感じの人です。よろしくお願いします。
中村:お願いします。
(会場拍手)
桂さん、お願いします。
桂大介氏(以下、桂):桂です。よろしくお願いします。僕は、まさに今日のテーマにあるテクノロジーが大好きだった理系少年で。エンジニアになって、そのあと会社を起業して、IT業界に13年くらいいますけれども。
今日もちょっと話に出るかもしれませんが、最近でもコンプガチャの問題があって。やっぱりIT業界も、海外やGAFAを含めて、なにかしらの違和感や問題が出てきた今、もう一度立ち止まって技術や幸せについて考える必要があるなと思っています。
最近は、寄付のプラットフォームを立ち上げようとしていたり、新しく個人で贈与について考えるコミュニティを立ち上げようとしている感じです。よろしくお願いします。
中村:お願いします。
(会場拍手)
中村:みなさんの活動も大変興味深くて、それだけ聞いていてもたぶん100時間くらい過ごせるんですけど、まずはテクノロジーとの接続という話をできればなと思っています。
今みなさんスマホを触っていますね?ご自分が1日何時間くらいスマホを触っているかを把握している方は、どのくらいいらっしゃいますかね?
(会場挙手)
会場で10人くらいですかね。ありがとうございます。スマホを触っていることに対して、自分は自覚的だよという人ってどのくらいいらっしゃいますか? 無意識的じゃなくて、超意識的に使ってるよという方。
(会場挙手)
ありがとうございます。そんな感じですね。承知しました。
テクノロジーを扱う側、ビジネスとして扱う側のみなさんにとって、テクノロジーをどういうふうに活用するように心がけているか、よかったらお聞かせいただけないでしょうか。
まず桂さんから。実際プロダクト開発でITなどは無視できないと思うんですけれど、その際に気をつけていらっしゃることとか、方法はありますか?
桂:まさに今、多伽さんがお話ししてくれたことで、パッとスクリーンタイムを見たら、僕は過去7日間で1日あたり4時間スマホを触っている。たぶん、決して多くも少なくもないくらいかなと思いますし、もしかしたらちょっと多いくらいかもしれませんが(笑)。24時間の間に睡眠もあるので、4時間というのはけっこうな時間数だなと思います。
ITやWebやスマホアプリもそうですね。とくにスマホになってからは顕著だと思います。滞在時間やStickiness(粘着性)と言いますけれども、ずっと(人を)画面に張りつかせることを指標にしてサービス開発をすることがすごく多いと思います。もしくはリテンションもそうですけれども。
とにかくアプリを起動している時間を長くする。画面、サイトに滞在している時間を長くすることが基本的な設計の中に組み込まれていることが多いと思っていて。僕らの事業に関して言えば、転職や賃貸を取り扱っているので、またちょっと特性が違うんですけれども。業界全体としては、そんな流れがすごく大きいなと思いますね。
中村:ありがとうございます。さっき控え室でも出た話題なんですけれど、テクノロジーに対する危機感のようなものがある一方で、川村さんはそれを教育に組み込まれていると思います。具体的にテクノロジーをどういうふうに捉えて教育に活かしていらっしゃるのかをお聞きできますか?
川村:僕は、テクノロジーって勝手に発展していくし、便利だから絶対なくならないという前提を持っています。僕が教育をやるときは、10年後に彼らがどういうふうに生きていくかということが超重要だと思っている。大人になる瞬間というところですね。
そうなったときに前提として、拡張的に物事を捉えるほうが絶対有利だなと思っていて。だから、僕はスマホを触ることはそんなに悪いと思っていないという(笑)。スマホに触って便利に物事を検索したり記憶しておくことと、義足を履くことは、あまり違いがないというふうに思っていて。
自分が持って生まれたものよりも高いパフォーマンスを発揮したいと思ったり、なにかの目的を達成したいと思ったときに、普通に人に聞いたり、杖をついたりすることとあんまり変わらない認識です。
これからどんどん増えていくんだったら、それを上手に扱えるようになろうね、という意味で、うちで言ったら「あ、すぐググりな」「一旦ググってみたら?」というような(笑)。目的としてやりたいことが決まってるんだったら最短のルートを行こうよ、ということはやったりしています。
知識を軽んじているわけじゃないですけれども、それを上手に使うことをめっちゃ意識してやっている感じですかね。答えになってますか? 大丈夫ですかね。
中村:はい。今日もペッパー君を持ってきてくださいましたね。あれはどんな感じで活用されているんですか?
川村:あれはテクノロジー専門の教室で、普通に教材として使っているのと、例えばうちの教室で吃音の子がいて、その子はしゃべるのがすごく嫌でストレスになるって言うんです。
うちは報告会というものを3ヶ月に1回やってて、自分のやっているプロジェクトを人に伝えて応援してもらうような機会を作っているんです。社会の適切な評価を受けるという機会を作っていて、そのときにその子はペッパーで発表したりしています。
「自分でしゃべるとすごく緊張するし、疲れちゃってうまく伝わらないから」と言って、ペッパーに全部しゃべらせるとか。あとはスライドに(テキストを)流して、自分は当日はしゃべらないような。そういうこともなんだか拡張だなと単純に思って、僕は素敵な活用例かなと思っています。
中村:ありがとうございます。一方でGoogleの調べによると、70パーセント以上の人がテクノロジーとの付き合い方を考えたいと回答しているんですね。テクノロジーって広義だというお話もありましたけど。
「Digital Wellbeing」という言葉があるんですけど、要はスマホやInstagram、Facebook、Twitterなど、みなさんがふだん付き合っているテクノロジーやそれを媒体とするものとの付き合い方をもうちょっと考えなきゃいけない、と自分自身で思う人がこんなにたくさんいると。
中村:スマホを触ってはる榊田さんにお話をおうかがいしたいんですけど、ふだんスマホを使うことをどういうふうに意識されていますか? 控え室では、そういうものは依存ではないというお話をされていたので、よかったらもう1回触れていただければなと。
榊田:私は58歳ですけれども、スマホ大好き(笑)。たぶん24時間、スマホが1メートル範囲内にある。そういう関係。いつでも電話に出ますので。
さっきからテクノロジーと言っていますけれども、10年前にインドに移住したうちの娘とメッセンジャーやスカイプで無料でいつでも話ができることを目的として、Facebookを始めました。そこから10年経って、今やFacebookだけじゃなくて、さまざまなSNSが私の周りにあるなと。
そういったことは危険だとかリスクだとかよくないとか、いろんなふうに言われるんですけれども、そうじゃなくて。私はこれはテクノロジーの進化だと思っているし、20年前はできなかったことができる。
多くの人とつながれる。ネットワーキングができる手段としては、絶対にあるべきテクノロジーを使いたいし。そういったことを通じて、家族はもちろん、社会や会社、あるいは地域社会などととつながっていく。そういったことをまったく否定することはもったいないなと思っています。
私は今、信用金庫の理事長をしていて、社内では2,000人の職員がいますけれども、2,000人の職員と徹底的な対話型経営(ダイアログ経営)をやっています。こうやって、オンサイト・オフサイト両方でみんなとどれだけ双方向の対話ができるか。
その中からイノベーションを起こしていく。不満や意見などを拾い上げて、こういったことをオンオフ両方でやるためにこうしたミーティングをしながら、一方で社内で徹底的にSNSを使っていると。
SNSを使うといろんなことが起こるんですよ。うちには90数店舗の店舗がありますけれども、店舗はそれぞれバラバラなんですね。ただ社内のSNSでつなげると、A店で起こっているドラマチックな話が、B店でもC店でも瞬時に見られる。
これって実は、15年前、20年前はあり得なかった話なんですね。自分の店舗の中では何が起こっているかわかるけれども、違うところではまったくわからない。こういったものがSNSを活用することによって、社内の対話のスピードや関係性を一気に高められる。
ですから、私はただ単に人と人がつながることをベースにしながら、SNSを活用する。つまり、テクノロジーをうまくつなぐ手段として使っていく。こういったことについてまったく否定はしない。みなさん方もそういったことによって、ただ単に野次馬的にSNSでのぞき見するんじゃなくて、自らのメッセージを発信したり、あるいは共感してつながったり。
今もTwitterで「自分の考えと共感できる人とつながるのって難しいよね」というふうにツイートしてもらっていますけれど、そのとおりで。こういったものとつながるために、どんどんテクノロジーを使っていく。こういうふうに考えます。私は迷いはないです。
中村:ありがとうございます。要はテクノロジーがいい・悪いという二項対立じゃないことが、この会で一致したので。次のステージに進みますね。
当たり前ですけど、テクノロジーがいい・悪いの二項対立ではないです。じゃあ今、川村さんがおっしゃってくださったように、活用する人やそれを手段とする人のリテラシーやモラルがなんだかんだ大事だよねと。結局、要は包丁を持って人を殺すのか、あるいはおいしい料理を作るのかという話だと思うんですね。
さっき桂さんもちらっとおっしゃってくださいましたけど、そうなったときに、テクノロジーを手段としている人がビジネス的に成功するために、そこに人を依存させてしまう。さっき、「スマホを触っていないときはすごく充実感があります」という意見もあったりして。
もしかしたら、自分たちのビジネスを成功に導くために、そうやってStickinessにさせて人から充実感を奪っている可能性もある。そうなったときに、ビジネスって何なんだろうというような。人を幸せにするためにそれを開発しているはずなのに、なんでそうなっちゃうんだろう、というようなことを、私はすごく思ったりするんですけれども。それに対して、みなさんからご意見などありますか?
桂:テクノロジーを活用したり、SNSをうまく使ったりすることで、これまでできなかったことができるようになるという利点は、まったくその通りだと思います。一方で、むしろ我々がスマホに使わされているんじゃないかとか。奴隷状態になっているんじゃないかという問いもあって。
おそらく僕より若い人もここにはいっぱいいると思うので、たぶんSNSを活用してるという感覚はあまりないと思うんですよね。SNSが居場所になっているので、SNSがない世界を想像するのは難しいかもしれません。
だから、1日スマホに触れないとその日が充実した感じがするというコメントもありましたけれども、無意識的に奴隷状態になっているのが、まず今の世代の現状じゃないかなと思います。うまく活用できれば、もちろんそれはいいことですけれども、利点ばかりを見ていられない抜き差しならない状況に来ている前提をまず話したいと思います。
そして、テクノロジーは道具であって、持ち主の使い方次第であることもまったくそのとおりです。利用者はそれでもいいんですけれども、一方で政府や生産者、エンジニアなどは、やっぱりそういうことを言ってはいけないと思っていて。
車が発明されたら免許制度があるわけだし、メーカーは常に安全に配慮されるような機構を組み込んでいかなければいけないし。包丁だって販売の経路をきちんと考えなきゃいけないでしょうし。やっぱり道具に関して、消費者のリテラシーを高めていかなきゃいけないんだけれども。
とくに、これからITでビジネスをしていく人もここにはいると思うんですけれども、やっぱり作る側、サービスを提供する側の倫理を考えなきゃいけない。そして、それが今とくにおざなりになってしまっているのが、残念ながらIT業界のスタートアップ界隈の実態だと思っています。
中村:なるほど。ありがとうございます。今の話にあったように、使う人や目の前の人たちを幸せにすることと、ビジネスがなぜか結びつかないような現状がある。今日、NEW AGE KYOTOで登壇してくれた子みたいに、目の前の人の幸せをすごく大事にする一方で、経済合理性にたどり着かないような場合もあると思っていて。そこの塩梅って、めっちゃ難しいなと思いません?(笑)。
川村:ちょっといいですか? 今、普通に桂さんのお話を聞いていて思ったんですけれど、二郎系ラーメンは罪なのかという話がありませんか? おいしいものとか喜んでもらえるものを作って、でも、めちゃくちゃ太ったりってあるじゃないですか。
一方で、そうなったら、ヘルシーフードがいいじゃないかと、ヘルシーフードの市場が生まれて。もちろん、それでものすごく健康を害している人がいるのかもしれないのであれなんですけど。基本的には「なんかチャンスじゃね?」という気持ちがすごくあります(笑)。
それくらい依存させるというか、みんなが使いたくて「脳汁出る~」という状態のものを作っていきながら、そこでまた別のブームが生まれたりってあるじゃないですか。どんな技術もたぶんそういうことがあって。「めちゃくちゃいい! あ、やり過ぎた! 次はこういう勢力が!」という流れがあると思うので、「みんなチャンスですよ」という感じです(笑)。
二郎系ってめっちゃタイムラインに(表示されています)。
中村:突然二郎ファンに占拠され始めました(笑)。
川村:二郎系食べるときは脳汁やばいっすよね。
桂:食べ物もそうですし、自動車もそうですけれど、整備されてきたんですよね。食べ物なんかも当然使っちゃいけないものがもうリストアップされてますよね。改訂されていますよね。そういう法律や行政の働きがあって、そのうえで二郎をやっている。
今の時代の最先端、ITは暗号通貨もそうだし、ほかのものもそうですけれど、まだ規制が追いついていないんですよね。規制が追いついてないことに対して、「法律でNGとされていないからいいんだ」というのは、やっぱり僕は明確に間違っていると思う。
実際、コンプガチャなどは流行ってからたくさんの被害を生み出して……被害という言い方はちょっと過激かもしれないけれども……。生み出してから、のちのち法律によって規制されました。しかも、あれは法改正すらされていないんですよ。結局、解釈の読み替えで規制になった。
やっぱり、最先端を走っている人は、そういうことを考えなきゃいけないと思う。
中村:おっしゃるとおりですけれども。今の話で、「ビジネスの発生→新たな問題の発生→新たなビジネスの発生……この流れは果たして持続的なのですか」という質問がありました。これを榊田さんにぜひお聞きしたくて。
まさに京都信用金庫さんの取り組みの中では持続や関係性のようなものをすごく大事にされていると思うんですけれど。これについて、お考えなどはありますか?
榊田:ビジネスという言葉自身が、なんだか20世紀用語のような気がします。21世紀型じゃないので、あまりピンと来ないんですけども。
私はさっきの6名の方のプレゼンテーションを聞いていて、社会に向き合う姿勢がすごく明快だと思いました。それぞれまだまだ荒削りの場面やいろんな課題があるんでしょうけれども。そういうものも含めて、ああいう考え方や動きを、社会のみんなが寄ってたかって応援していく。
こういうインフラづくりというかエコシステムを作ることが必要で、それがまだまだできていないから、今こういうミーティングも含めて、ネットワーキングを大事にしていこうねと。その中で、人と人とのつながりや、できるだけ多くの人とつながれたということを通じて、みんなが価値観を共有していると思います。
そこにはやっぱり、社会課題を解決するということがある。さっきの6つのプロジェクトをお聞きしていて、それぞれすばらしいと思いました。世の中にはたくさんの社会課題……たぶん、ビジネスを社会課題という言葉に置き換えたほうがわかりやすいと思うんですけれども。
社会課題を解決していく。それをみんなでやっていく。そういったことを作っていく。どうやって支援していくのかというところに、また新たなビジネスが生まれるんですけれども。
私は「支援する」という言葉もあんまり好きじゃなくて。みんなで一緒に寄ってたかってやっていく。こういう発想です。つまり協業していく、コラボしていく。このコラボレーションというのがとても大事です。
社会課題の解決に向かおうとする、とくに若い人。コンセプトがすごく明快で、やりたいという気持ち、willがすごくはっきりしてるんだけど、残念ながら信用力やネットワーク力といったものが欠けている人。これを今の社会というか我々、大人と言ったら失礼ですけれども、企業や社会全体が一緒にやっていくことによって、社会課題解決のスピードを高めていく。
例えば、さっきのカタルシスのバーの話などを聞いていると、まさしくコミュニティをつなげていく人たちですよね。ああいうバーと企業なんかをコラボさせることによって、世の中のつながるスピードや深度を深めていく。
こういったつながり方を一緒にやっていくことが大事で。そこには大企業やスタートアッパー、個人や法人、あるいは国籍などもぜんぜん関係なくて。いろいろなことを掛けたり、コラボしていくことが結果的に新しいビジネスを生んだり、そのことがまた新しいネットワーキングにつながる。こういうプラスの循環を考えていきたいですね。
中村:なるほど、ありがとうございます。さっきパッと思いついたんですけれども、結局、二郎を食べてめっちゃ太ったとしても、その人が長寿で健康でハッピーで、その人自身が嬉しかったらいいなという。
要は、例えばそのサービスに依存したとしても、それ自身で「自分すごく充実してます」というふうになったらいいな、という話じゃないですか。それってある意味ソーシャルビジネスだなと私も思っていて。すみません、ビジネスって言っちゃいました(笑)。
ただ、それってすごく難しいなと思ってて。私もtaliki(タリキ)という会社で社会起業家の支援をしているんですけれども、例えば活動を始める資金がない。だから自己犠牲的になって、お金が集められなくなる。さらに活動できなくなるという悪循環をけっこう見ていて。
そういう人たちって、どうしたらいいんですかね。今の関係性を築くための一歩目とか、どういう人に頼ったらいいとか。どういうコツがありますか?
榊田:コツとかじゃないと思うけれど、やっぱり世の中全体で流れを作っていかなきゃいけないので。中村さん1人でがんばるのは難しいですよね。理解者がいて、消費者から、デマンドサイドからサプライサイドまで、みんなでこういったものを作っていこうという価値観の変化が必要なので。
私はこの間、北欧に1週間ほど行ってきて、一番の違いはそこだなと。国民の価値観が日本はまだそこまでいってない。北欧などは、みんながどういう国づくりをしたいとか、どういうふうな21世紀にしたいのかがけっこう明快です。
そのために変わろうとしている。これがこの国にもうちょっとあるべきなのかなと思ったりしているんですけれども。やっぱり、1人でがんばるんじゃなくて、みんなの理解のもとで価値観を変えていく。
さっきも、いろいろと問題になっているようなトランス脂肪酸やマーガリンなどが出ていましたけれども、こういったものもヨーロッパでは使用禁止になっていっていますよね。あるいはオーガニックだとか。
そういうもの1つとっても、日本はまだコンビニの添加物漬けが当たり前ですけれども。これがどういうふうに変わってくるかとか。こういうことをみんなで変えていく。社会を変えるということは、みんなで変えていくことなので。ネットワークを通じて、みんなで価値観を共有していくことがすごく大事なんじゃないかなと思いますね。
中村:確かにおっしゃるとおりですね。みんなで価値観を共有していくとか。要は「お互いにとってwinだよね」「お互いにとって嬉しいよね、それ」という前提があってこそだと思います。そこがうまくお金の仕組みとマッチしないことが、社会課題を解決したい人たちによくあるケースなのかなと思っていて。
桂さんはソーシャルセクターとか、いろんな株式会社にも寄付をされていますけれど、そこに対しての桂さんなりの解のようなものはあったりしますか?
桂:いや~、すごく難しいですよね。ただ1つ言えるのは、僕は最近株式会社と合同会社と社団法人と3つの設立に携わったんですね。細かく説明するとキリがないのであれですけども、やっぱりそれぞれぜんぜん形態が違うんです。
そういう乗り物(組織の形態)などに対しても、とくにこれから起業しようとする人は考えてほしいなと思います。自分の活動、まさに解決したい社会課題に対して、どういうビークルがフィットするのかということは、けっこう違うんだけれども。
とくに……ここにいる方はわからないですけど、僕が東京の大学生の起業家予備軍みたいな人と会うと、やっぱりいつの間にか株式会社一択になってしまっていたり。なんとなくアプリを作ることがすでに決まっていることになっていたり、というのはよくあることで。
でも実は、さっきの話じゃないですけど、ソーシャルキャンペーンを打つのが一番解決に近かったりすることもあると思うんですね。コラボレーションの話もまさにそうですけれども。どういうビークルやフォーメーションでやるのかについても考えていくといいかなと思います。
中村:確かにそうですね。川村さんも創業されたときに、個人的に聞いたお話で、もともと個人事業主から会社にされたということで、それこそビークルを、フォーメーションを変えていった感じだと思うんですけれども。そこって、どういうふうに意思決定していったんですかね?
川村:ちなみに、ビークルのフォーメーションってどういう意味なんですか?(笑)。すみません(笑)。
中村:そうですよね(笑)。
桂:ビークルは乗り物ですね。要するに、どういう形態の上でやっていくか。それは狭義には法人形態ということでもいいと思うし。
フォーメーションと言ったら、例えば株式会社だったら株主構成。ジョイントでやるのか、誰かエンジェルを入れるのか、どこかと提携するのかということでも布陣ができていくと思うんですけれども。そういう意味です。
川村:それで言うと、僕は最初個人事業主で始めて。リクルートに1年だけいて、辞めて京都に戻ってきて、もともと大学生のときに過ごしていたところで教室を始めたというのが創業なんです。そのときに先輩に100万円借りて、それで教室の土地代などを払って……あれ、質問なんだっけ?(笑)。
中村:事業形態や人の巻き込み方は、どういうふうにしていったんですか?
川村:これね、あんまり参考にならないかもしれないけど。僕、本当に1人で10年くらいやって、やっと芽が出るんじゃないか。それくらい経ってやっと世の中に理解してもらえるんじゃないかと思って今の事業を始めたんですよ。
うちの教室はだいぶおかしいというか、「国数英社理教えません。子どもたちと商売します。研究論文なども10歳から書きましょう」と言っていて。始めたときも倉庫みたいなところで始めたから、窓がないんですよ。窓がなくて、国数英社理教えない。中も見えない。もうめちゃくちゃ怪しいんですよ! だから、街でめっちゃコミュニティビジネスとかじゃないかって言われていて。
めちゃくちゃ怪しまれていたんですけど、真面目にやっていたら、1年半くらい経ったころにテレビに取り上げてもらって。それで外部から依頼の声がかかるようになって、大手の教育企業さんと仕事することになって。
その会社さんが「商売のプログラムが欲しい、やりたい」と言ってくれて。「やりましょう」と言って、3ヶ月くらいプロジェクトが進んでから「契約書を書いてなかったですね」と。「じゃあ契約書送りますね」と(言われて書面が届いたら)、株式会社studioあおと書いてあったんですね。
僕は個人事業主だったので「あ、すみません、会社じゃないんですよ」と言ったら、「マジですか!?」みたいな。「これ、プロダクト止まります」「もう契約できません」と言われて。「すぐ会社にしてください」と言われて、「あ、わかりました!」と言って会社になりました(笑)。なので、だいぶ参考にならないんですけど。
僕は1年前に会社にしたんですよ。ただ、夢はけっこうでかかったですね。ビジョンはすごくあったんですけれども、めっちゃ土着から、地に足をつけた状態から始めようと。まずは自分の教室を持って、自分で教えて、自分の生徒をたくさん持って、そこからスタートしようとすごく考えていて。
なにか答えたほうがよさそうなことがあったら、言ってくださいね。
中村:あ、ぜんぜん!
川村:そこからやっていって、会社を始めてから、大きいところも中小企業も全部合わせて、外部からの依頼が10件くらい来て。なるほど、需要あるんだと。思っているよりも早くスケールできそうだと思いました。
東京の上場企業で、3年で部長まで昇った後輩がいて、そいつに「ちょっと一緒にやらん?」という話で取締役として入ってきてもらって。今やっと、会社としてフォーメーションを考えているタイミングです。
どこでキャッシュ入れて、どこで自社プロダクトをバーンと出して。今やっているテストマーケットをどこで回収して、ということをやっと考えられるようになりました。
なので、そんなに参考にならないかもしれないけれども、さっきのソーシャルビジネスが経済として成り立ちにくいという話で言うと、夢はでかいんだけど、目の前や身の回りのことが見えていない人がけっこう多い気がしています。
ごめんなさい、これ怒られるやつ? 大丈夫ですか? みなさんのことを言ってるわけじゃないんですよ。僕のところに相談に来てくれる人がちょこちょこいるんですけれど。スケールさせたい、と世の中のことを言うのはわかる。これがすごく大事なのは、僕もそう思ってる。社会を変えたいとか、でかいことを言うのもわかります。
でも、それを目の前や自分の街の範囲でできているか、1店舗でできているかがめっちゃ重要で。そこでまず、ちゃんとお金を払ってもいいなと思えるサービスを、目の前の人に提供できているかが超重要です。
僕は中学校のときに、初めて商売を始めました。中学生のときに初めて物を売ってみた経験が、僕はすごく活きています。同級生にだけ物を売っていて、そのときに「あ、こうやったら喜ばれるんだ」「ここからはお金が出るラインなんだ」ということはけっこう考えてやっていました。
中村:榊田さんがマイクを。
榊田:コメントの中で、「登壇者の方が未来の若者に作ってほしい社会はどんな社会ですか?」というものがあったので。
私はさっきの桂さんの話もそうですけど、「気がついたら金儲け一択になってしまっている」という、その発言。やっぱり、お金儲けが事業の目的や生きる目的になりすぎていると言ったら……きれいごとに聞こえたらごめんなさい。それだけでは私はいけないと思うんです。
21世紀は、金儲けはもちろん大事。なにか事業をする以上は持続性がないといけないので、適正利潤というか。こういったことはとても大事ですけれども、そればっかりを追求すると、やっぱりバランスが崩れている。さっきの話に戻りますけれども、それをぜひとも、世の中をよくしたり、なにか世の中のためになるように。自分ファーストじゃなくて、世の中ファースト。こういう考え方がどこかに入ってこないといけない。
そうなってくると、やっぱり理念が必要なんですね。自分の事業はこのためにある、この社会課題を解決したいんだという、しっかりとした考え方。あとは、経済とどうやって融合させるのかは、そういう価値観をどう伝えていくのか。
事業をすることは、やはり厳しいです。なんでもかんでもやればうまくいくわけじゃない。例えば、京都信用金庫はコミュニティバンクと言っているんですけれども、我々は誇りを持っています。金儲けだけじゃなくて地域の事業や課題を一緒に解決していきたい。コミュニティのことを考えていきたい。
これはもちろん利益も大事なんですけれども、利益じゃなくて人々をつなげていくことを事業の目的とする。だから、我々はそんなに儲かっていない。はっきり言って、日本一収益力のある金融機関になろうとも思っていません。
でも、やっぱり日本一コミュニケーションが豊かな会社になりたいとは思っています。こういう企業や個人などのそれぞれのこだわり。人を軸にしたこだわりは、とても大事なんじゃないかなと思ったので。
中村:ありがとうございます。まさに最後の質問としてみなさんに問いかけたかったことです。
2人にもお答えいただいたいのは、またちょっと別の質問で、スケールが大きいビジネス、要はお金を払ってもらっていることは、それだけで人にいいこと、社会に価値を出していることなのではないかという言説がある一方で、結局、それによって消耗している人がいたり、それによって幸せになれていない人がいる。
1個目のトークセッションから、手段の目的化によって、結局幸福が達成されていない現状が起こってしまっているのはなぜだろうと……。これはちょっと答えが出ないので、会場のみなさんも一緒に考えながらという感じなんですけど(笑)。
スケールさせることがすべてではないですけれども、スケールさせることと、本当に届けたい人を笑顔にすることの両輪はどうやったらうまく回るようにできるんだろうという。お2人はそこに対して、なにかお考えやご意見、もしくは「最近こういうことを思った」ということがあれば、最後に教えていただければと思います。
川村:僕ね、現場をちゃんと持つことだと思っています。マーケティングは、絶対ミクロの現場でやるほうがよくて。やっぱりビッグデータが強いというのもあると思うんですけれど。
僕のいる教育業界で言うと、現場で「生徒が今日こんなことを言っていた」「こんな様子だった」「こういうことを話したらめちゃくちゃ反応があった」「こういうことをやっていた」ということから、手触りのあるマーケット感覚を養うことが重要。
うちの前のちっちゃい教室で言うと、20人しか生徒を取らないというルールでやっていたんですよ。20人しか取れません。でも、20人がバラバラのことをやっていても大丈夫です、それぞれのプロジェクトをやります、ということをやっていたんです。
そうすると、常に20人分のテストマーケが走るわけですよ。だから、20人の生のデータから、これは世の中に大多数いるんじゃないかという方向に(向かったり)、「この課題って、実はみんな持ってるよね」というところで展開していくと。そういうことができれば、僕は大きな意味で社会課題を解決しつつ、目の前の人にお金を払ってもいいと思ってもらえるサービスを提供できると思っています。
誤解のないように言いたいんですけど、僕は社会課題が最も大事だと思っています。そのうえで、最初の一歩目として、その社会課題の中に属する一番目の前の人に何ができるかというのはめっちゃ重要。
ここがブレるとよくない。今はいろいろなところに(サービスを)届けやすい。それこそアプリを作ったり、届けやすいからこそ、忘れがちですけれど。マジで自分のお母さんを喜ばせるくらいのことから始めたほうがいい気がする。
桂:このコメントを見ていて、いつの間にかそういうことになっているんだなと思ったのは、「商取引をする」「ビジネスが成長する」「なにかサービスを提供してお金をもらう」ということが、イコール、なにか課題を解決したり社会を良くしているとは限らないことを、まず大前提として持ってほしいと思います。
これ、誰が言い出したんだろうな。なんだか、いつの間にかそういう空気がありますよね。「儲けることは誰かの問題を解決しているんだ」という感じなんだけれども。冷静に考えて、じゃあヒットマンを雇ってお金を払いました。商取引が成立しました。世の中は良くなっていますか? なっていない。覚せい剤を売っても良くなっていないし。高利貸しもなっていないし。
だから、歴史的に政府がいろんな法律や仕組みで禁止してきた歴史もあるわけですよね。もちろん、法律が全部正しいとは思っていないですけれども。相対主義の極地みたいに、そういうものを全部ないがしろにして、お互いの合意があればそこで幸せになるというのは、やっぱりちょっといきすぎだなと思います。
これはけっこう難しいです。一方で、「じゃあ幸せってこれだよね」と押し付けるのもまたパターナリズムだし。もうそういうことができる時代でもないのでね。それぞれに幸せがあることも重々わかっているし。
一方で、それが相対主義に転落してもいけなくて。自分の幸せというよりも、僕は公共的なものや社会的なものの……道徳という言葉はちょっと古臭いけれども、倫理や公共の幸福のようなことを考えてやっていってほしいなと思っています。
中村:みなさん、すばらしいご意見をありがとうございました!
(会場拍手)
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