2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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金亨哲氏(以下、金):それではトークセッションを始めさせていただきます。先にお二人のストーリーをおうかがいした際から、なんとなく「このテーマでお話ししていただくといいのかな?」ということについて整理したので投げかけさせていただきます。
まずは僕が聞いてみたいことからなんですけども、雅子さんと島津さん、お互いのご印象について教えていただけすか?
島津清彦氏(以下、島津):初対面の印象ですが、一言で言うと、初めて会った気がしないというか。すごく似ている気がするんですね。言葉ではうまく表現できないですけど、なんというか、本当に素というか。
武田雅子氏(以下、武田):不思議ワールドの話になってしまうかもしれないですけど、前世でも会っているみたいですよね。前から知っている家族とか、親戚のおにいさんみたいな。
金:そっちのワールド入ってしまって大丈夫ですかね(笑)。
武田:そんな印象ですよね。
島津:そうですね。
武田:島津さんがあまりにも気さく過ぎて。今日も会場にいらしていますが、紹介していただいた紀伊さんからは「スターツピタットハウスの社長さんですよ」って言われていて、実際に名刺交換もしているんですよ。でも、目の前に本人がいるなかで、名刺ってジロジロ見られないじゃないですか。その日は楽しく飲んで、帰りの電車の中で、もう1回名刺入れをそーっと出して、「本当に社長さんだよね」と確認したのを今でも覚えているぐらいで。でも、すごくオープンで、最初に飲んだお店も有楽町のガード下のお店だったし。半分外みたいなところでしたね。
島津:ビールケースに座って初めて名刺交換してという感じでしたからね(笑)
武田:まさか大企業の社長がああいうところで飲んでいるとは、私も思わなかったので。本当に帰りにそーっと名刺を出して、不思議な人だったなと思いながら、帰ったんですね。
島津:はい(笑)。ピタットハウスって、女性が6割とか7割程度とすごく多いんです。女性のリーダーのロールモデルが当時はまだまだ少なかったので、確か初めて会った時に社内での講演会の講師としてオファーしたというね(笑)。
武田:で、受けちゃったという(笑)。
島津:「今度ぜひお願いします」みたいな。そんなことがありましたね。
金:ありがとうございます。次のスライドをお願いしていいですかね。お二人とも20代、30代の時のうちから、年上の部下がいらっしゃるような環境にいらっしゃいましたよね。そんな年上の部下がいるなかでのチームづくりというテーマで、お二人にお話をうかがいたいなと思っております。
武田:最初は本当にわからなくて、私は本当に子どもだったので。どうしていいかわからず、毎日家に帰って泣いていたんですよ。もう本当に「今日辞める!」って、毎日思っていたので、当時付き合っていた彼氏が「もうそんなに嫌だったら辞めれば?」って言うぐらい毎日落ち込んでました。
ただ、どうにかしなくちゃいけないと。人とどう向き合うかというよりも、自分がどういうセゾンカウンターを作っていきたいかを考えるようにしました。当時は吉祥寺のパルコのセゾンカウンターにいたのですが、ファッションビルの中で、どういう存在のセゾンカウンターになっていたいのか、テナントさんのお役にどうすれば立てるのか。そういう話をメンバーにし始めたんです。
実際にパルコさんから期待されている業務だったり、数字だったりといろいろなことがありますから、そういうことをメンバーに伝え始めたんですね。そうすると、年上の方々は当然ご経験があるしキャリアもおありですから、逆に知恵を出してくれたりしましたね。途中からはもう上下とか考えてもないですし、お互いに持っている情報、持っている知恵、キャリアを共有するようになりましたね。
ゴールに近づくための本当に仲間として考えていたので、いろんな年齢の方のいらっしゃるチームでしたけど、あまり気にしたことはないですね。ただ、向かい合う時のリスペクト感が大事というか、この人はどんなことが得意な方なんだろうといったことは、いつも意識して向かい合ってます。
島津:僕が勤めていたスターツは、けっこう新卒中心の会社なんですね。そうするときれいなピラミッドというか、年齢的にも比較的指示というか統制が効きやすいんです。41〜42歳の時にビル会社の社長となった時は逆で、自分より年上の社員の方が多かったかもしれません。
役員でいうと、私が1番年下か、下から2番目ぐらい。言葉は悪いですけど、なかなか言ってもいうことを聞いてくれないというか、変な話、ミーティングに行くので明日の何時と言っておいたのに平気ですっぽかされるとか。若かったので舐められてたのかわかりませんけども「うーん、困った」と思った時に、僕の中では、その後いろいろ苦労した中で、やり方、スタイルを決めました。
とにかく絶対に敬語を使うということです。敬意を持ったうえで、強い言い方をしなければならないときも必ず敬語で言います。「これやっていただかないと困りますよ(語気強め)」と。こっちも絶対逃げないということですね。あと、本当にルール守らなかったり言うことを聞いてくれなかったりしたときも、「本当にこれやっていただかないと困ります(怒)」みたいな感じで言葉は丁寧だけども語気は強める、みたいな。こちらも覚悟の上で向き合っていました。
それと私も今は53歳なんですけど、このくらいの年齢になると、自分のやってきたことを若い人に伝えていきたい、遺していきたいという本能がありますよね、人間って本能をちゃんと捉えて、部下とか後世の育成にあなたの持っている専門性を伝えていってくださいってお願いすると、シニア層ってみんなやる気スイッチが入るんですね。「後輩の育成をお願いします」と言われることでだんだんやる気が出てくると。バーッっと変わっていく瞬間がすごく印象的ですね。
金:ありがとうございます。では次のスライドに行ってみましょうか。さきほど雅子さんの話でも、最初は泣いてばかりだったという話がありました。その中でどうやって自分と向き合っていたのかという話にも繋がるかもしれないですけど、禅やマインドフルネスとの出会いについておうかがいしてみてもいいでしょうか。
島津:先ほどもお話させていただいたとおり、6年前に青森の寺で得度をさせていただきまして。禅の清彦で「禅清」という僧名を授かっています。6年前にピタットハウスの社長を「エイ!」って辞めたんですが、そのきっかけは、自宅が新浦安にいるときに東日本大震災で被災したことです。1ヶ月半ぐらい上下水道がまったくだめで、仕事が終わったら家族で鍋窯もって、洗濯物持ってシャワーと洗い物とうのを、1ヶ月半ぐらい続けたんですね。
でも、会社に行くと都心部の復旧は早いわけです。どんどん指示を出して、会社のオペレーションをしていかないといけない中で、家の復旧はぜんぜん進まない。会社では社長として陣頭指揮をとっているという中で、どんどんギャップを感じていきました。人としてこれでいいのかなということに耐えられなくなってきたんですね。それは父親として、家族として、地域の1人として。
それで働き方や生き方を変えたくて思いきって会社を辞めて独立したんです。経営も最後は「人」に尽きると思っていたので、人材育成とか組織開発についてのコンサルで独立をして、その時に自分のマネジメントスタイルを棚卸ししたさっきご紹介した8ステップを作りました。いろいろ会社を回っていた時に、「これってすごく禅的だね」とか、「あなたの考え方って禅的だね」ということを言われて。ある時に青森の住職をご紹介していただいて、それこそピタットハウスの社長を辞めてまだ2ヶ月ぐらいだったんですね。
住職とはカフェでお会いしたのですが、今でも忘れませんね。会った瞬間に出家というか、得度の弟子入りを「お願いします!」みたいなことをしたわけです。当然住職(師匠)はびっくりしますよね。「なんだ君は?」みたいな感じで。でも、さすがに目を見てふっと思ったんでしょうね。「こいつは本気だ」と。そこから座禅に行くようになり、禅の本を読むようになりました。スティーブ・ジョブズとか稲盛和夫さんとか、いろんな方が禅に深く傾倒されていますよね。そこから本当に毎日毎日座禅をしていて、毎日毎日禅の本を読んで。ですから、なんとなく運命的な出会いみたいな感じでしたね。
武田:私は島津さんみたいにドラマチックではなくて。なんとなく、うっすら世の中で「瞑想っていいよ」「仕事に効くよ」「ストレス軽減の効果があるらしいよ」みたいなところから入りました。やっぱり人生ってストレスフルじゃないですか。実際に自分でも座り始めて、それから毎朝座るようになった時に面白かったのが、・・・メンバーがやたら私に優しいんですよ。なんでかわからなかったんですが。
一方で、これはクレディセゾンの時なのですが、当時のメンバーが「武田さん、最近やたらみんなにありがとうって言いますよね?」って言ってきたんですね。ぜんぜん意識してないんですけど、自分の中で感度かなにかに変化があって、いろんなことに「ありがとう」ってどうやら前よりも言ってたらしいです。「ありがとう」って言ってくるから、そのお返しとしてか、なんとなくみんなが私に優しくなってたんですね。
こうした良い循環が生まれたり、寝付きがすごくよくなったりと、自分でも体感できる良いことがいっぱいあったんです。もともと私はすごい短気で、小さい時はキレキャラに近いような少女だったんですね。でもマインドフルネスを知って座る習慣を持つようになってから、自分で気づけるようになったんですよ。「ああ、今沸点上ってきているな。まずいな」って。自分をちょっと客観視できるようになって。そうすると、当然沸点にいく前に自分でもコントロールができるようになりましたし、さっき人の鎧が気になり始めたって言いましたけど、周りの方たちの今沸点がここまで来ているな、みたいなことに気づけるようになるんです。
そういう周りの人たちの気持ちの変化みたいなものに自分で気が付くんですよ。「今こういう状態なのね、xxさんは」というように。これって自分にとってすごくメリットになりますよね。本当に仕事に効くことが多かったんです。これは自分だけじゃもったいなというので、会社でやってみようと。
金:どういったかたちで座禅を導入されていくんでしょうか?
武田:最初の座禅会は島津さんにやってもらったんですよね。
島津:そうですね。目白庭園でしたっけ?
武田:そう。あれもやっぱり5年ぐらい前で。ワーキングマザーのお母さんたちって忙しくて大変で、少しでも休ませてあげたいんですけどどうしたらいいかなと考えた時に、午前半休を彼女たちに取らせたんです。朝、さも会社に行くかのように子どもを預けて「行ってきまーす」って言ってもらって。
前は池袋にオフィスがあったんですが、目白に良さげできれいな日本庭園と和室がある施設があって、そこの和室を借りて、午前中にマインドフルネスをやってもらったんですよ。島津さんに来ていただいて、禅語のお話とかもしてもらって。それでちょっとすっきりして、午後から会社に行くなんていうのをやっていました。これを午後にやると、みんな帰っちゃうんですよね(笑)。
(会場笑)
武田:なので午前中にやってというのを、いろいろ何回かやってもらって、MiLi(マインドフルリーダーシップインスティテュート)の荻野さんとかにも来ていただいて。
島津:そうですね。本当は僕が講師なので指導している立場なのに、僕自身がすごい深い瞑想状態に入っちゃったということがあって(笑)。
武田:ありましたありました!。「葉っぱが話してる」みたいな。(笑)
島津:すみませんでした(笑)。
金:さきほどの島津さんのプレゼンテーションの中で、リーダー自体が自分の心理的に安全であるために、禅ってすごく役立つよねというお話があったかと思うのですけども。今日こちらのお越しの方々って、すぐに座禅ができるのはどこなんだろうと気になっているんじゃないか思っていて。島津さんだったら、どういう導入をされるかなというのがちょっと気になりました。
島津:それは職場でということですか?
金:職場でも個人としてでもいいですね。
島津:禅って、実を言うと座ってなくてもできるんですね。立ったままとか歩きながらでもできます。そういう教えがあって、最初は1分でもいいですし、椅子に座っていてもできるんです。僕が座っているここでもできるんですね。座禅というと畳で足を組まないとできないとかって考えがちなんですよね。
今みなさんは椅子に座ってますけど、そこで姿勢をピンと伸ばして、軽く目を閉じて、軽く呼吸に意識を向ければ、それが椅子座禅になるわけです。例えば私は、立ったまま満員電車でやっているんですよ。電車の中ってストレスフルじゃないですか。みんなスマートフォンを持って、自分のエリアを守ろうと思っている。ちょっとでもぶつかると肘鉄食らう感じで。20代の僕はけっこうやんちゃだったので、肘鉄されると「バーン!」って返してたんですけど。今は立ったまま満員電車で瞑想してますから、「ガーン!」ってぶつかっても「クルン!」と身体を翻す感じで「ニコッ」て笑って返せるぐらいですね。
ですから、歩いてでも、電車の中でも、椅子でも、どこでもできる。とにかく1分から始めていただくのが1番いいんじゃないかと思いますね。あと、すごくおすすめなのが、今うちの会社でもやっているんですけど、会議前に5分椅子座禅をやるんです。なぜかというと、会議に参加する時って、みんな「この会議ではこういうふうにしてやろう」とか会議前のタスクを背負ったまま会議に集中できなかったり、いろんな思いを持ち込んじゃうじゃないですか。そこで、5分だけ全員で「チーン!」ってやるだけで、本当にリセットされていきなり本題に入れるんですね。スーッって感じで。武道の前の黙想みたいな。だから毎回やってますね。
金:先ほど禅語という言葉が出たのですけど、そのお話に入りたいなと思っていて。武田雅子さんの座右の銘でもある「全機現(ぜんきげん)」について、たぶんご自身の「全機現」とチームの「全機現」とは違うと思うんですけど、その視点からお話をうかがえたらなと思っています。先に「全機現」の意味について、ぜひ島津さんからお願いします。
島津:じゃあ僕は意味だけご説明します。この言葉をぱっと見た時に、みなさんどんなイメージを持ちますか? それこそなんのイメージも湧かないかもしれませんが。「機」というのは機能の「機」なんですね。能力の機能。すべての機能を現すというのは、禅の言葉で最終的なゴールと僕は思っていて。なんのために座禅したり瞑想したりするかというと、自分が持っている強み、長所、らしさを完全に発揮した状態になるためです。
それは一人ひとりでもそうだし、チームでもそう。これを発揮した状態が実は座禅のゴールです。それが「全機現」という言葉になります。
金:ありがとうございます。雅子さんのエピソードはなにかありますか?
武田:私は前職の時も、カルビーに来てからも、常に言っているのは「全員活躍」なんですね。がむしゃらに働くというよりは、本当に文字のごとく、全員がそれぞれの持ち味とか強みを活かして、きちんと組織の中でワークするということ。言い換えれば、全員が本当に才能を解き放つ、そんなイメージです。カルビーはメーカーなので、工場の稼働率はどうなのみたいな話はするんですけど、メンバーの稼働率ってあまり言わなくて。
みんなが自分の力を、安心して思い切って全部炸裂させているかというと、まだまだ不完全燃焼だったりとか、まだちょっと余裕があるなとかありますよね。もう少しやってみたかったなとか、絶対そういうところってあるなと思っていて。メンバーに対してはそういう意味で、自分の中では「全機現」という思いで、全員活躍の話をしています。
自分自身の話で言うと、それこそがんになった時とか治療の副作用で鬱々しちゃった時の経験なんですけど、いろんな心理の本とかを読んで、ゲシュタルトセラピーというのに出会うんです。感情と理論的に考える思考と身体などれぞれをバランスよく使っていくことを習うのですが、まさに全機現なんです。きちんとバランスよく全部がワークしていると、生き物として、人間としてすごくバランスが良いんです。
でも、たぶん1番多いのは思考ばかりが走っていて、カラダの感覚とか感情のことを押し殺している状態です。気持ちが本当はあるのに、それにギュッと蓋をして、どこかに仕舞い込んで、体に鞭打って次のところにいくみたいなことが多いと思うんですね。でも、きちんと自分の感じている感覚とか、見えているものとかの第五感、第六感をも研ぎ澄ましてこそ思考も動いて、かつ自分の体もワークするんです。
それが自分自身の「全機現」ですし、普段からもそうなれたらいいなと思います。あと私、直近では転職だけじゃなくて、引っ越しもしたんですよ。引っ越しのときって、いっぱい捨てるじゃないですか。その時に、やっぱりいらないものって処分しますよね。
すごく感覚的な話なのですが、自分の「気」が行き届いているもので家の中が満ち溢れている状態が望ましいんです。ワークしてないものがない、無駄なものがないという状態だと、自分も家の中も気持ちが良いというか、本当に「全機現」なので。断捨離って「全機現」に行く途中の手前にあるもので、だからみんなすっきり、きっと目指しているところは同じなんじゃないかな、なんてちょっと考えたりしてました。
島津:それにはステップとかプロセスというのがあって、僕の中では例えば、まず座禅して、いろいろ執着を捨てて……という流れがあります。これは禅の教えには書いてあるんですけど、科学的にどうなのというと、まだそんなにはっきりしていないわけです。だからそれをロジックとか科学で、ちゃんと明確にしていきたいというのも実はあるんですけど。言葉の力という意味では、「全機現」はすごくパワーをもらえる言葉だと思ってますね。
武田:いろんなチームの中で働いてきて思うのは、全員が本当にきちんとワークすると、人数分以上の、それどころか10倍ぐらいの力が出る時ってないですか? もうびっくりするぐらいの。私はあれがすごい大好物で。もうあれの麻薬中毒患者なんじゃないかと思うぐらい大好きで、やっぱりいつもその状態を目指したいんですよ。
なのでワークしてない人、例えば会議に参加しないとか、ちょっと輪の外にいるような人は、やっぱり気になってしまうし、どうやったら輪の中に入ってくれるんだろうということをいつも考えて向かい合ってます。
金:では次のスライドをお願いします。会場のみなさんには事前にQ&Aをさせていただいたかと思うのですけど、今日はこの人数なので、最後の最後にQ&Aの時間少し持ってくるつもりですが、ただ、全部は受けきれないということで、事前にいただいたものからまとめさせていただいております。こちらについて、ちょっとお話をうかがっていけたらなと思います。
じゃあ、1問目お願いしていいですかね? お人柄が知りたいということで、なぜこの年齢で初めての転職をされたのか。あるいは、今までされなかったのかというお話をお願いします。
武田:なんでっていうと、ちょうど50歳だったんです、私。人生100年時代って言われるようになって、たまたま懇意にさせていただいていたカルビーの人事の方から「来ない?」みたいな話をいただいたのはがきっかけですね。最初は他人事で、なんとはなしに聞いていたんですけど、もし60歳になったら今よりもっと転職に躊躇するだろうし、もしかしたら55歳でも躊躇してしまうかもしれないと思った時に「よし行ってみるか!」と。
クレディセゾンでの最後の2年間、実は営業のトップをやってたんですよ、私。
1,800人のメンバーが私の下にいたんですけど、でもそれまで私は係長までしかやったことがないんですよ。なのに突然の役員です。法人営業なんて良くわからないのに、いきなり1,800人のリーダーになっちゃったんです(笑)。恐ろしい予算を持たされてどうしようと思ったのですが、その時に私が取っていたのは、最初に安全な場宣言をして会議を始めるという、すごく人事的な組織開発のアプローチだったんですね。
1on1は相手が嫌になっちゃうぐらいがっつりやってましたけど、先頭で旗を振って「さあ、次いくぞ!」というリーダーではなくて、みんながどうやったらワークしてくれるか、みんながワクワクするようなビジョンとか役割ってなんだろうとか、そのことばかりを考えて仕事をしていたら、びっくりするぐらい営業の現場が変わってくれたんですよ。
しまいには、「営業の現場みたいに会社を変えていこう!」みたいな、スローガンが全社で掲げられるようになりました。さっき「全機現」の話をしましたけど、私の期待以上にみんながよくがんばってくれて、あんな出来事がまた違うところ、ぜんぜん違う業種でもできたらうれしいなと思ったのと同時に、クレディセゾンでの仕事に一区切り着いた気がしました。
そんな思いがあってですね「えいやぁ!」という思いで転職をしました。この歳まで転職をしなかったのは、クレディセゾンでの仕事が楽しかったんですよ、やっぱり。なんだかんだで現場も営業も人事の仕事も全部楽しかったので。それで転職しませんでした。そもそも転職することはあまり考えなかったですね。
金:次の質問に行かせてください。心理的安全性ということで、どういった行動があれば心理的安全だと判断できるか、というご質問があったのですけども。この点について、なにか知見をいただければと思います。
武田:みんながリラックスして鎧を着てなくて、わからないことがあっても質問が自由にできることですかね。これには1つエピソードがあって、これも前職の時なんですけど。とあるメンバーに「叩きでいいから資料を作ってくれる? それをちょっと元にしてブレストしようよ」というお願いをしました。そうしたらその彼が「えー、僕叩かれちゃうんですか?」って言ったんですよ(笑)。
若手のメンバーだったんですけど、たぶん彼は自分が作ったものは完璧なものを出したいし、そこでまさかいじくられて、だめ出しをされたりするのは彼のプライドが許さなかった。またはそういうことをずっと求められて、人事に来たんだと思うんです。ただ、あるべきは、自分自身の足りない部分とか、不得意な部分があったとしても、それをきちんと認めること。きちんとワークする自分の得意な部分はアピールができて、そのありのままの状態でみんながいられるかどうか。そういうことなんじゃないかなと思います。
金:ありがとうございます。ちなみに、「叩かれちゃうんですか?」って言った彼にどういったアクションをされたのでしょうか?
武田:「私が期待しているのは、材料が完璧なお鍋を持ってくるのではないんだよ」という言い方をその時にはしました。「鍋の出汁と一部具材ぐらいは持ってきてと。そうしたら、みんながいろんな材料とかを持ってきて、ごった煮のような鍋ができるから」と。「たぶん出汁ぐらいまでは上手に取れるよね」ということですね。
結果的にすごくいいミーティングになったんです。だから、この経験は絶対に覚えておいてねと。パーフェクトで臨まなくても、みんないることで結果良くなる。それでみんなは彼に感謝するわけですよ。「よし、良くやった!」と。そうやって1個ずつ積み重ねていきました。
島津:本当に自分がすごいだめだめだったり、弱かったり、調子が悪い時に、それをそのまま言えるということ。やっぱりそこに尽きるのかなって思います。例えばミーティングで「ああ、寝坊しました。遅れます」みたいな感じとかが普通に言えること。「なんて嘘をつこうかな」じゃなくて、ですね。だって、遅れちゃったものはしょうがないじゃないですか。
自分にも必ずそういう時ってくるわけですよね。調子が悪い時って、必ずお互い様でやってくるので。だから、本当に調子悪いという時に、それをそのままスっと言えるような状態というか。
武田:あと「ごめん間違えたわ」と言えること。
島津:そうですね。「ごめんなさい」ってとにかく謝れるというのは、すごくシンプルですけど大事ですね。
武田:逆にびっくりしたのは、前職で人事から久々に営業になった時ですね。わからないこともたくさんあるので、やり方はみんなのほうが良く知っていますよね。なので、後から自分の言ったことをちょっと変えたりするじゃないですか。前のリーダーは、たぶんそういったことをしない人だったんですよ。
「やり方を変えるんですか?」ってすごい顔でびっくりされて「いや、だってこっちのほうがいいじゃん」「より良いやり方をやったほうがみんなも楽だし、たぶんゴールにも近いよ」って。「そういうことってリーダーはしていいんですか?」って言ってくるんですよ。「言っている意味がわからないから教えて」って、そういう会話をしたことがあります。
前のやり方と違っても、やっぱりちょっとでも良いことがあるならそっちに変えていこうと思うんです。私は、ストレングスファインダーで「最上思考」が1番強いので、ちょっとでも良いことがあれば、そっちにいきたいって思うんです。そこで方針を変えるのはぜんぜん怖くはないので。きちんとみんなに理由を話すようにしています。
カルビーのやり方って、本当に社内の用語1つとってもぜんぜんわからないことだらけですし、そこは一旦担当として方向を示さなければいけないんですけど。「ごめんごめん」って、彼らに教えてもらいながら仕事をやってます。
島津:そこを被せちゃう感じで申し訳ないですが、やっぱりわからないとか知らないといことを、けっこう言えるのが大事ですよね。会議でわかったふりをして「うんうん」とかやるんじゃなくて、わからなかったら「わかりません」「知りません」「教えてください」とスッと聞けるような状態が、心理的安全性のある状態ですね。
金:会社の改善点について、思ったことを伝えやすくする仕組みはありますかという質問がきています。経営陣と現場の心理的安全性は、どうやったら作れるのかということですね。こんなことをやってみたよといった事例があればお聞きしたいです。ちなみにカルビーには安全宣言というのがあるんですよね。
武田:はい、クレディセゾンでもやっていたんですけどね。カルビーではミーティングの始まるときに「安全な場宣言」をするんです。批判評論ではなく、ちゃんと聞きましょうという思いも込めて。
うれしいことに、次のミーティングから今の人事部長が言葉をちゃんと拾ってくれて、「今日も安全な場でやりましょう」って毎回言ってくれるんですよ。そうすると、みんなも安心して発言してくれます。
これは前職の時もそうで、私が参加していない会議でも「安全な場」という言葉が使われてたんです。途中から会議に入ったことがあるんですけど、その時に中堅社員が、若手のメンバーに「おい、ここは安全な場だろ」とゆるく叱ってたり。「安全な場をつくる」という言葉がちゃんと独り歩きしだして、みんなが使うようになってくると、もうしめたものです。
島津:「最初に宣言する」というのは素晴らしいですね。
金:なるほど、例えば今までのやり方とまったく違うことを言ってくる人に「安全だよ」と言われたところで、どこまで信じてもらえるのか疑問じゃないですか。どうやって信じさせたのか、そのステップを少しうかがえるとうれしいのですが。
武田:私は島津さんと同じで、一切数字については詰めなかったんです。私も現場にいたからわかるんですけど、数字を達成できていないのって本人が1番悔しいじゃないですか。それで悔しくない人だったらそもそも任命してはいけないわけですし、任命責任は私にあるんですから。それに、数字が多いか少ないかって小学生でもわかるんですよ。
1番悔しいのって、実は現場なんです。それを私が上から乗っかかって「なんで達成してないんだ!」なんて言っても意味ないじゃないですか。なので、私は一切数字のことは言いませんでした。やり方はその人に任せるのが私のスタンスなので、安全じゃない場に追い込むなんて一切しないし、できないんです。
それに自分で決めたやり方って、すごくコミットできません? 最初に仕事をしてたセゾンカウンターで、2年目で店長になったときって、好き勝手できたんですよ。それで育ってきたので、いかに手取り足取り(教えること)に意味がないか、よくわかっていましたね。
金:共通していることだと思うんですけど、心理的安全性を保つのって、結果を出すためにされているというような認識で大丈夫ですか?
島津:そうですね、最終的には結果を出すことで。結果を出してもらうのに営業会議では結果を詰めないというのは、本当に禅問答のようですが(笑)。数字が少ないか多いかって誰でもわかるわけじゃないですか。資料見れば。「君の部署はなんで何パーセント達成してないんだ?」って誰でもわかることで、そんなことに時間を費やすのはもったいなくて。
僕はその時にどうしたかというと、数字が悪い時に聞くのは「今どんな手を打ってますか? 次の1手は?」です。これだけなんですよね。なにもしてないのはダメですけど、必ずなにか考えているはずだから。次の手を1つ、2つ、3つって聞いていくと、それで数字が上がるかはわかってきますので。
金:心理的安全性につながると思うんですけど、自分にとって都合の悪い話や、相反する意見に対して聞く耳を持たない人にはどう接するべきかという質問が来ています。甘えやサボリみたいなものに対するお考えを教えてください。
武田:安定と安全は違うと、きっちりわけています。安全はチャレンジのためにやるんです。変化することにより、スパークするようなぶつかり合いがあってこそシナジーが生まれ、それにともなって結果が出てくるので。でも、安全性の話をしていると、「安全だからこれでいいんじゃない?」とぬるま湯に浸かっている状態の人が出てくるんですよね。それではダメなんです。
結果を出すために変化を起こしていく。そのための心理的安全性なので。リーダーはその状態を目指さなくちゃいけない。
金:ありがとうございます。では最後の質問になります。自分の意見を強引に主張して、周りの意見を全否定してしまったり、あるいは自分を正義と思っているおじさんの対処方を教えてほしい、とのことです。
(会場笑)
武田:なるほど。私がどうしたかというと、自分に与えられている範囲の中でスモールサクセスできるステップを作って、「この方法は間違っていないんだ」だと数字で成果を見せたり、みんなの変化ぶりを見せたりして、きちんとファクトを用意して話すようにしていました。そういったことがいくつか積み重なってくると、「どうも俺のやり方とまったく違うんだけども、武田のやり方もなんか悪くなさそうだぞ」と思ってもらえるんですよ。
おじさんたちもやっぱり結果がほしいですから、その成果を一緒に握ってあげるということですね。同じ山を登るんだけど、私は違う道を行く。だけど必ず頂上で会いますから。それは認めざるを得ないんですよね。そうしていくと、だんだん「もう勝手にやれ」ってなっていきました。
金:Howは違っても、最終的に頂上まで登れるならそれでいいよねという、そういった思いが根底にあるからというところですね。
武田:そうですね、実績はちゃんとお届けにあがるということです。
金:島津さん、いかがでしょうか?
島津:僕は本当に、そういう社内の根回しが下手……というのか苦手で。そういうおじさんたちって、大勢の部下の前では大きなことを言うんですけど、1対1で話す場合ってけっこう鎧を脱いでくれるんですよ。例え小さな約束でも、「自分はこうしたいので、こちらはお願いできますか」としっかり交わして、もし約束を破ったら「なんで約束を破ったんですか?」と問いただします。こうやって小さく互いの約束を積み重ねていくことで信頼関係を作っていきました。それでもダメな人には例え相手が先輩であっても「喝!」じゃないですけど、けっこうガツンと言ってしまうことはありましたね。
金:ありがとうございます。お時間になりましたので、ここらでちょっと休憩に入りたいと思うのですけども。島津さんからおすすめのワークを休憩中にやってほしいなということなので、ご紹介よろしくお願いします。
島津:禅の言葉なのですが「一期一会」っていう言葉時自体はみんな知ってますよね。 じゃあ「一期」ってどういう意味かご存知ですかね。「一期」の「期」は一生ということですよね。一生に一度の出会いが「一期一会」なんですね。この言葉は、外に出ると刀で斬られるかもしれないという乱世の時代に生まれた、茶道の精神、客人をもてなす精神を表しているんですね。
せっかくですから、お隣の方とかと休憩中に少しでもご縁を持っていただきたく、「一期一会」名刺交換会じゃないですけど、ぜひやっていただければうれしいです。
金:ありがとうございます。こちらで第1部は終了となります。お二人には第2部でもご登壇いただきますが、みなさま今一度、島津さんと雅子さんに大きな拍手をお願いいたします。
(会場拍手)
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