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ヤフー株式会社 海の課題解決に関する新メディア発表会(全2記事)

2018.10.09

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日本の漁業生産量は1位から8位に転落 オイシックス高橋大就氏らが語る「海の危機」

提供:ヤフー株式会社

2018年10月3日、ヤフー株式会社が海の課題解決に貢献する新メディア「Gyoppy!」の公開を発表しました。コンテンツを読んだ直後に、課題解決に向けた支援に参加できるのがGyoppy!の特徴です。新メディア発表会には、ヤフー株式会社を中心として、Gyoppy!の運営・プロデュースに携わるメンバーが集結。発表会後に行われたパネルディスカッションで、日本の漁業や水産業にまつわる課題やGyoppy!の今後についてディスカッションを交わしました。本パートでは、支援に関わるオイシックス・ラ・大地の高橋大就氏、フィッシャーマン・ジャパン阿部勝太氏、ポケットマルシェ高橋博之氏が登壇。Gyoppy!のプロデューサーである長谷川琢也氏をモデレーターに「東北から考える海の課題」というテーマで語ります。

東北から考える海の課題

長谷川琢也氏(以下、長谷川):よろしくお願いします。

(会場拍手)

このメンバーで会うこともなかなかないんですが……。みなさん、それこそ2011年ぐらいからずっと東北でなんやかんややっていますもんね。

高橋大就氏(以下、高橋大):そうですね。

長谷川:今日は、さきほど日経の方たちからもご質問があったように、事業とどうつなげるかというお話もありました。実は私が初めて漁業に関わるようになったきっかけは、ここにいるオイシックスと「東の食の会」の高橋大就さんと一緒に、東北のものを発信してちゃんとそれをお金に変えなきゃいけないということで。

どういう発信・どういうテーマがいいんだろうかというときに、第1弾としてやったのが「デカプリホ」という、デカくてプリプリしたホタテというので。もうオイシックスは名前をつけるのが好きで、なんだっけ? 「かぼっコリー」でしたっけ?

高橋大:かぼっコリー。ありがとうございます。

長谷川:(かぼっコリー)とか、デカプリホというので売るんだ、と言って、阿部勝太のホタテにブランド化して。あれが第1弾ですよ。本当に漁業(の分野へ)我々がガッツリといくようになったのは。

高橋大:そうですね。

長谷川:なので、我々は一応経済とビジネスの両軸で考えていて。それで生まれたのが、最初のデカプリホだったり、そこからの流れで「そもそもホタテを作るやつが減っているから、なんとかしなきゃ」と言って、フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げたり。それをどう伝えるかというメディアで『食べる通信』や「ポケットマルシェ」をやったり。

全部あの頃の、あの動きからつながっているなと思うと、我々は一応当然ビジネスを頭に置きながらやってきていますもんね。

高橋大:はい。

新しい水産業を東北で進める理由

長谷川:そんな高橋さんが、例えばさきほどのサバ缶のように、そういうことをプロデュースをしてきたなかで、そのへんのお話と、次のテーマというか、今どんなことをやっているのかを聞きたいなと思っていました。最近はどうなんですか?

高橋大:やはり「Gyoppy!」で世界が変わるんじゃないですかね。

長谷川:世界が変わる(笑)。

高橋大:本当に。それまでは農業が主だったんですが、震災後に水産業に初めて事実上関わることになって知ったのは、あらゆる意味で感覚的には2周半ぐらい農業から遅れているなという。

農業にも、基本的には共通の課題として、そもそもの生産量も落ちるし、「稼げない。担い手がいない」という話があって。農業だとだいぶ規制緩和が進み、新しい農業の担い手が出てきて、というかたちだったのに比べて、水産業はさらにマクロ的に見ると、もっと深刻な状況になっているというのを初めて知り。

だからこそ、東北から新しい水産業を一緒にやってきて、これによって東北に関わっていない人も含めてさらに変わるんじゃないかな、というのを今日ひしひしと感じましたね。

長谷川:ありがとうございます。ここ3人が近すぎてあれなんですが、思い起こせばデカプリホから始まり。この3人は役割というか、得意分野みたいなものがけっこうかぶっていなくて。なので、マーケティングとプロモーション、販売の高橋(大就)さんと、本人というか当事者の阿部勝太さんと。「伝える」「消費者を巻き込む」という活動をいち早くやったのが(高橋)博之さんだったので。

震災前に漁師となった阿部勝太氏

長谷川:阿部勝太さん、そのド真ん中の漁師という目線で、どうですか。これまでのいろいろな人の活動と、これからのこういうことを伝えていこうとか、もっと巻き込もう、という流れは?

阿部勝太氏(以下、阿部):自分自身も漁師歴はものすごく長いわけではなくて、震災の2年前に漁業を継いで。2年経ったら震災が来てという感じだったので。実際、震災の前にそれほど現場に危機意識を持っていたかなとか、そんなに大変な状況だったかなと思うと、実際はあんまりそういった記憶はなくて。

ただ、やはり3.11があって、僕は漁師になってそんなに時間が経っていなかったので、隠れていたんでしょうけれども、表面にまだ見えなかったいろいろなものが、だんだん見えてきたのかなと思っていて。

問題がすごく大きいんですよね。震災後、自分ですごくいろいろもがきながらなんとかがんばろうと思って、もちろん今もやっているんですが、ただ、根本として、そういう次元じゃないなという。もちろん、自分でがんばって解決できるところは今でも解決しているつもりではいるんですが。

そういったなかで、(3.11自体は)いいことではなかったんですが、3.11以降は、お二人と出会ったことや、長谷川さんと出会ったことも含めて、漁業となにかがつながるというのはこんなに可能性があるものなんだな、おもしろいものだなというのは、8年間ずっと自分自身が感じてきて体験してきたことです。

それが、この「Gyoppy!」を通じて、さきほど関心(が)高い人・そうじゃない人という話がありましたが、もっともっといろいろな人を巻き込みながらやれることの幅が増えていったら、本当におもしろい業界になるんじゃないかなとすごく期待をしています。

長谷川:なるほど。ありがとうございます(笑)。すごくよくしゃべれるけれど、本当に漁師なんですよ。初めて会ったとき、26歳とかで、キラキラした若い漁師さんだなと思ったけれど。

もともと実は阿部勝太君と自分をつないでくれたのが、今日も来ていますが、本間(勇輝)さんという、博之さんと一緒にやっている人で、「やべぇ漁師がいる」という。共通言語が「やべぇ」という言葉なので。「やべぇのがいるから会ったほうがいい」と言われて、会いに行って出会っていて。

だから、博之さんのところもあの頃、一緒に勝太とか……

高橋博之氏(以下、高橋博):長谷川さんが(阿部勝太氏を)紹介してくれたの。

高橋大:(自分が阿部勝太さんを)本間さんに紹介して……。

長谷川:なるほど(笑)。そういうつながりがある感じです。

元地方議員を経て、ポケットマルシェ創業

長谷川:(高橋博之氏に向かって)実は震災の前の年まででしたっけ? 地方議員のお仕事をやられて、あの頃、急に生産者側にいったじゃないですか。その流れからこの7〜8年やって、どうですか?

高橋博:当時から付き合いのある新聞記者さんに言わせると、「言っていることはなにも変わっていない」と言われるんですが(笑)。

長谷川:その頃と?

高橋博:そうです。手段が政治から事業に変わっただけで。岩手県は基幹産業がやはり農漁業なので、「それでは飯が食えない」と言って、若いやつがいなくなるから、なんとかしようというのは。当時は地方議員という手段でやっていましたが、今は事業ということで同じことをやっていると。

長谷川:当時、東北で阿部勝太に出会ったときや、その周りに大就さんみたいな人がいるということがわかって、震災前と後でどういう可能性を感じました?

高橋博:だって7年前に震災がなかったら、本当に会っていないし、この場もないし。僕はやはり震災前は岩手県にあるリソースだけで問題解決しようとずっと思っていたんですよね。だって、それしかわからないから。

だけど、そこで開いて、大就さんをはじめ、食の分野などの、いろいろな分野のビジネスサイドの人だとか、あとはこういうやる気のある尖っている漁師さんやいろいろな人と出会うことで自分の視野を広げたし。リソースも「こういうふうに解決すればいいんだ」というのは、岩手だけだったら絶対に見つからなかったですね。だから、すごく大きい出来事でした。

長谷川:実際、メディアとして『食べる通信』をやって、いろいろバーッと大きくなるタイミングがあったり、難しいタイミングがあったりして。今「ポケットマルシェ」をやられていて、メディアで東北や生産者を伝えていく、食を伝えて生産者と消費差話をつなげていくという手応えとか、いい点と難しい点はどうですか?

だって、もともとメディアなんて当然やったことはなかった人でしょう。それが編集長をやって、いろいろな仲間が増えて。

高橋博:難しいです。待てない消費者が増えているので、スマホも0.何秒しか見ないと言うし。やはり今の消費社会に対して関わりのない世界の課題を伝えるというのは、ものすごく難しさを感じています。

ただ、日本は途上国ではなく成熟社会なので。まだまだ全体から見たら少ないかもしれないですが、どうせ金を使うんだったら、いい世界を作ろうとしている人間のプロダクトだとか、そういうものにお金を使うことで参加しようという人は(少ない)。これは途上国ではこういうお金の使い方ができないですが、先進国なので出てきているし、そういう人がやはり震災復興に関わっているし。

海で「マーケティング4.0」は実践できるか

高橋博:だから、全体から見れば少数だけれども、これは増えることがあっても減ることはないと僕は思っているので、最近マーケティングの大家(たいか)のフィリップ・コトラーが提唱する「マーケティング4.0」を聞いて、 哲学マーケティングだと思って。そうすると「持続可能な漁業をやろう」と言っている漁師はいますから、そういう人の世界観を買うということで参加する人は少ないけれど、やはりいる。

長谷川:いる? 増えていきそう? 増えていかなそう?

高橋博:増えるスピードが問題ですね。減ることはないと思います。増える一方ですが、増えるスピードがあまりにも遅すぎることから、もう課題に追いついていないので、このままだとやはり水産の現場も相当厳しいことになると。環境の問題もそうですが。

長谷川:そうですよね。なるほど。

大就さん、事前によく「これから持続可能なことをやっていこう」という話で一緒に盛り上がったりしましたが、今のを聞いてどうですか? 持続可能なことをオイシックス・ラ・大地としてどういうふうにやっていくかとか、もうラ・大地としてはけっこうやられているじゃないですか。

最近合流というのはあるかもしれないですが、今の博之さんが言ったいろいろな流れに対して、オイシックス目線で言うとどんな感じで、どうしていきたいというところはあります?

高橋大:博之さんが今言った「広げるスピード」ということで言うと、さきほどのメディアで言うと柿次郎さんみたいなところもそうですし、我々売る側で言うと、マーケティングのビジネススキルというのが求められているなと。

長谷川:生産者側に? それとも売る側?

高橋大:売る側ですね。

長谷川:オイシックス・ラ・大地側にね。

高橋大:いくらマーケティング4.0だと言っても、それを単純に伝えれば売れるというほど簡単なものではなくて、そこにしっかりマーケティングというのを考え、お客さん側の視点も入れてどう伝えていくのかというのは、非常にスキルがいるなとは思いますね。

明らかに潮流があるのは間違いないけれど、だから楽にできるということはまったく思ってなくて。より精進しなきゃというか、伝え方も磨かないと、と思いますね。

長谷川:らでぃっしゅぼーやさんと大地を守る会ね、本当にもう先駆けの。

高橋大:そうですね。

長谷川:やはりそのノウハウはこれからのその流れにすごく活かしていきたいという感じはあるんですか?

高橋大:そうですね。ちょうど3ブランドを統合して、そうやって歴史的にずっとサステナビリティというものを掲げてやってきたブランドと、オイシックスが培ってきたECを中心にするマーケティングのスキルというのを融合させることで、よりインパクトを大きくできるんじゃないかな、とすごく感じていますね。

長谷川:なるほど、さすが。マーケティングの軸で語るのがお得意なオイシックスさんですから。

漁師の勘がだんだん通用しなくなってきた

長谷川:生産者で、今日は、水産庁の人や海洋大の勝川(俊雄)先生など、いろいろな方がいらっしゃっていますが、持続可能な問題はたまに「それって俺らに獲るなっていうことか!」というな感じでめちゃくちゃキレてくる漁師さんとかもいたり、逆もいたりするけれど、普通に漁師として見て、この持続可能な漁業というテーマはどうなですか?

阿部:正直な話を言うと、それこそ震災前はそれほどというか、極端な話、意識したことはなくて。とくに自分の場合、主にやっているのがワカメ・昆布の養殖業なので、言ってみれば、漁船漁業に比べれば、天然資源でもないし、枯渇ということがピンと来なかったのかもしれないんですけれども。

自分はまだ漁師歴が短いのでそれほど語れるわけではないんですが、本当にここ数年、自分の親父も含め、ベテラン勢でもわからなくなっているという状態がけっこうあった。

長谷川:海のことが、だよね?

阿部:そうですね。震災前までそれで全部ある程度合っていたものが、結果的に蓋を開けてみたらズレていたり。本当にここ3年ぐらいはかなり自分自身の中でも海の状態とか(わからなくて)。それに結局、その海の状態をどう変えていったら正解なのかも、正直言うと、知識がなさすぎてわからないですし。

ただ、現状ではなにをやっているかと言うと、今の傾向を見ながら海の状況に合わせた養殖方法に少しずつ変化させなきゃいけないんだろうなと思って。今ワカメで言うとオフシーズンなんですが、こんなに考えているオフシーズンは実はなかったりする。だから、そういう意味ではもう身近になってるというか、すでになっていたというか。

長谷川:漁師の勘みたいなものが、正直、だんだん通用しなくなってきたこともあるかもしれないよね。海と森の関係とかも含めて、水がどうなっているとかも、これだけ文明が発達しているなら、そろそろもっと大学とかいろいろな科学的なこととかマーケティング的なことをきちんと漁師が学んだりしていかないと、というお話をしていたんだよね。

阿部:そうですね。僕らのほうもわかっているつもりになっている部分がすごくあると思っていて。なので、本当にプラスに働くのであれば、もちろん培ってきた経験も大事ですけれども、新たな情報をいただいて、それをどうやっていい方向に持っていくかというのもこれからは絶対に必要なんだろうなと思っていて。

だから、例えばすでにデータがあるのであれば、なにが変わってきているんだというのを漁師も知るべきだし、それが直接的な原因かどうかはさらに突き詰めていかないとわからないでしょうけれども、そういうフェーズに入ってきているんじゃないかなというのは本当に感じますね。

現代の「工業的食事」の問題点

長谷川:一般の方には知られていないので、自分は知らなかったんですが、ワカメの葉をどうやって厚くするか、その年によっては穴がやたら空いてしまうときがあったり、あるエリアのワカメはぜんぜん獲れなかったり。東京で食べるとワカメなんて普通に生えてくるんだろうとか思うけれど、ぜんぜんそうはいかないよね。毎年、量も価格もめちゃくちゃ不安定だったり。

あと、ホタテ。下手すると本当にホタテはそろそろ危険ですよね。日本人が食べられなくなるかもしれないということなども、もっと伝えたいなと思って。自分は日々見たり聞いたりしているからあれですが、そんなことを、きっといろいろな人を巻き込んでさらに漁業の現場に落としていかなきゃいけないのかなと思っています。ねえ、博之さん?

高橋博:(笑)。

長谷川:博之さんがすごいのは、お話も上手だし、引き込む力もあるんだけれど、本当に生産者と消費者をつなげるというところにめちゃくちゃこだわってずっと動いてきているから。もちろん売るのが強い仲間もいたり、デザインが得意な仲間もいたりするけれど、博之さんはブレずにずっとそこじゃないですか。

高橋博:それしかできない(笑)。

(一同笑)

さきほどマーケティングの話をしたとき、「しまった……」って思って。(高橋大就氏を向いて)マーケティングはこの人。

長谷川:そうですよね。

高橋博:僕は、多方面から解決に取り組まなきゃいけないと思うんですが、生産と消費の分断はすごく大きな問題だと思っていて。

小学校の理科の実験で解剖。僕の時代はカエルでやっていましたが、今はなにでやっているか知っています? これは学校の先生から聞いてびっくりしたんですが、煮干しでやっているんですよ。

長谷川:えっ、煮干し?

高橋博:もう死んでいるし、乾いてるじゃんという(笑)。

長谷川:煮干しで解剖をやっているんですか?

高橋博:生き物でやるのは、「そんなことを子どもにさせるなんて」という親からの意見があって。去年ぐらいに、水産高校の生徒が釣りをして釣ったイカを活け締めして動画でアップしたら、すごく叩かれて。「動物虐待だ」「イカの気持ちになって考えろよ」とか。

(会場笑)

もうこういう世界になっているんですよね。そうなったときに、結局、僕は「工業的食事」と言っているんですが、食物が流動化し、食べることが工業化し、人間がロボット化していると。

海の「カナリア」の声がかき消されている

高橋博:だから、直販をやっているとお客さんに、「本当に人間が作っていたんですね」と言われるんですよ。それぐらい、ここはましだけれど、普通にこの消費社会で生まれ育ったら、この世界なんかもうまったく見えないので。

なので、僕はやはりこの人たちを「カナリヤ」だと言っていて。本当は、海を回ると、今は海の異変とか環境の異変を言わない漁師がいないじゃないですか。みんな「おかしい、おかしい」と言いますよね。

だから、カナリヤは危機を察知して教えてくれる人なんだけれど、これまでの流通だけだと、この人たちの声がかき消されてしまって、なかなか届かないから、直接つながったり。いろいろな方法はあるかもしれないけれど、メディアは拡声器だし、あと直販というのは直接この人たちの声を聞くことだから。

そうやって、漁師から直接買うなり漁師と交流する機会を増やし、僕らが食べているのは生き物だし、その生き物を育んでいる海が今こういう悲鳴をあげているということを。

機会がないから、だから僕らだって、寒ければ暖房を入れるんだし、暑ければクーラーを入れるので、風の通らない箱の中にずっといると、温暖化だって言われてもわからないですよ。だって、環境は自然と接して。

長谷川:そうなんですよね。

高橋博:食い物は本来自然が生み出したものなので、唯一接している。ところが工業化してしまっているから、ガソリン給油みたいになっているので。

長谷川:いつでも食えますもんね。なんでもかんでも。

高橋博:そう。そこが、生産と消費をつなげるというものすごく時間がかかる気の遠い話だけれども、僕が言い始めた話じゃなくて、それこそ大地を守る会さんだって、昔から先人たちが言ってきたことをまだまだやはりやらなきゃいけないから、引き続きやるという。

長谷川:ただ、それだけだと。

高橋博:そうです。

食物の価値が著しく下がってしまった

長谷川:サンマの値段が10円上がると「80円が100円になった」とか言って大騒ぎするじゃないですか。だけど、柿次郎さんと僕がGyoppy!の第1弾の記事で言ったように、ファミコン的なものが発売日に買えない状況になって、発売日の1週間後ぐらいで普通に定価の5,000円、1万円高くして売っていても買うじゃないですか。あれ、なんなんですかね。

高橋博:人間は価値を感じるものにお金を払うからね。

長谷川:サンマに価値を感じていないという?

高橋博:そうです。ひと言で言うと、日本社会において食物の価値が著しく下がったということで。

長谷川:なるほど。

高橋博:僕は、それはプロセスが見えなくなったからで、その最終ゴールのプロダクトも大事だけれど、1次産業の魅力と難しさはもう圧倒的にプロセスにあると。そこが国民、消費者の目からは見えなくなった以上、価値が下がるのは当たり前だし。

これだけ一見吐いて捨てるほど食い物があって、アイスをペロッと舐めてインスタで撮って、ゴミに捨てるというように、一見飽食なんですよ。だから、東京で「1次産業、生産地どこ」と言っても刺さらないんですよね。みんな、わからないですよ。「ぜんぜんビクともしてないじゃん」というような。

長谷川:なるほど。

高橋博:だからメディア。

長谷川:だからメディアなんだ。さきほど、「見えないものを見せるのがメディア」だって、すごくいいことをおっしゃってました。博之さんの言葉ですか?

高橋博:いや、ちょっとまた……。

長谷川:パクってますよね(笑)。

(一同笑)

ちょいちょいたまに、パクってますよね。そうなんですよね。よかった、聞いておいて(笑)。

高橋博:(笑)。

長谷川:でも、本当にそうなの。上手にいいこと言うなと思うんですが、なにかで博之さんより昔に言っている人を見つけちゃったりすると、「ああ、あれもか……」と思ってしまう。

高橋博:そうそう。

高橋大:博之さんディスりが激しいのでちょっと。

長谷川:ごめんなさい。

高橋大:「カナリアだ」という話がありましたが、もう1個いい表現だなと思ったものがあって。

長谷川:大就さんの言葉ですよね。

高橋大:いや、聞いた話。

長谷川:聞いた話。はい(笑)。

海洋資源豊富な日本列島の課題

高橋大:日本は資源が少ないと言われるけれど、実は、領海と排他的経済水域(EEZ)を足した面積は日本が何位か知っています?

長谷川:EEZでは面積が6位で、体積が4位。

高橋大:そう。すばらしい! 世界で6位なんですよね。だから、ものすごい資源。この水産資源こそが日本の本当に貴重な資源で、日本全体の資源を取るのを付託されているのが漁師だという話を聞いて、本当にすばらしい職業だなと思ったので、それを共有してみる。

(一同笑)

長谷川:そうなんですよ、日本人、国土で言うと三十何位なんですよね。

高橋大:もっと下。

長谷川:もっと下かな? だけど、海の面積6位、体積4位というのはすごくて。だって福島の海なんて今すごいですよ。かなり活きのいい魚がビシビシ泳いで増えたりして。

高橋大:そうなんですよ。量だけじゃなくて質も黒潮はすばらしい。NHKの番組を見ました? すごいですよ。(最初は)すごく痩せた潮流なんですよね。それが沖縄から東に行った途端に、プランクトンが渦巻いてすごく豊富になって急激に増えるんですよ。だから質もいいし。量的にも質的にもすごく貴重な海にあって。でも、今は漁業生産量が8位になってしまっているんですよね。

長谷川:そうですね。最新はそう。

高橋大:昔は圧倒的に1位だったんですよ。1987年まで1位だったのが、今はもう8位ですよ。3分1まで落ちている。だから、これが日本にとっては貴重な資源だということと、なのにそこまで落ちているということを、みんなが知ることがまず重要だなとは思います。

長谷川:そうですよね。しかも今、世界だと去年、養殖がついに天然資源の生産量を超えて。だから、これからは間違いなく養殖が重要になってきたりする。

だけど、持続可能な漁業はなんだろうというので、養殖においては責任のある養殖をやりましょうと。だから、毒を撒いたりしてはいけないし、児童労働させてはいけないし、ちゃんと持続可能な養殖業をやって、人間のタンパク質を漁業者としてちゃんと担保していきましょうというテーマがあると思います。

養殖モノの地位向上を図る

長谷川:まだ日本では少し「養殖……?」というところがあったりするから、そういう意識を変えていきたいなと思っていて。天然絶対説みたいなことが謳われがちだったりするし。

でも、勝ちゃん(阿部氏)は基本的に養殖だけれども、ワカメがそもそも養殖か天然かはたぶん一般消費者の人はあんまり知らないけれど、ホタテや二枚貝、サケなどは、養殖と天然のバランスや、養殖業をやっている漁師としての誇りみたいなものを伝えていきたいと思いません?

阿部:そうですね。たぶん本当に養殖かどうかはわかっていないんじゃないかなという。

長谷川:食べる人は、だよね?

阿部:そうなんです。だから、なんとなくイメージで「養殖より天然のほうが」というのはあるのかもしれないですけれど、基本、意外と養殖もたくさんあるんだよ、という。海藻は、とくにそうだし。

ただし、天然ワカメもあるので、海溝などがあれば獲ったりするんですが、天然には天然のよさがありつつも、養殖もけっこう自分の考え次第でいろいろな表現ができるのがすごくおもしろくて。

長谷川:そうだよね。まさにさきほどの博之さんが行ったプロセスを、けっこうコントロールできるもんね。

阿部:そうなんですよね。

マーケットのニーズを調理法で紹介する

阿部:だから、こういう料理でワカメを食わせたい、というか、「食べて欲しいから、こんな作り方をしましょう」「葉肉はこのぐらいで収穫しましょう」と紹介する。わざと緩くも作れるし、わざと固くも作れるし。

天然物と言うと、それはコントロールできるものじゃないから、天然には天然のよさがあるけれども、養殖のおもしろさはそういうところなのかなって。養殖だからこそ引き出せるおいしさとかが絶対あるはずだなとは日々すごく思っていて。

現に震災後、自分の中では養殖方法をガラッと変えたつもりで。どう変えたか言うと、食べるシーンに合わせながらものを獲るようにしたんですよね。だから、「天然が」「養殖が」ということは、とくにないのかなとは思います。

長谷川:すごいですよ。彼がやっているのは、まさにマーケットのニーズを「どういう食べ方で」「どれぐらいの大きさで」「どれぐらいの厚さで」「色はこのぐらいがいいのか」というのを全部聞いて、それで作り分けるんですよ。

海の浅いところと深いところでプランクトンの量がぜんぜん違ったり、北上川から流れてくる真水の混ざり具合が違うので、養殖の深さを変えるんですよ。重りを変えたりして、ワカメを変えるんですよ。雨がたくさん降ったときは少し沈めたほういい、そうじゃないときは動かしたほうがいいとか。

そういうことが震災後も、これからも必要です。どんどん伝えて、研究をどんどん重ねて進化していきたいというところはあるんでしょう。

阿部:そうですね。もちろん漁業の問題は漁業者だけでは解決できないし、食物の問題も環境問題もそうです。ただ、だからと言って頼り切るつもりもなくて、現場サイドでできることはストイックにやっていきたいなと思うので。

魚食は肉に超されたのであれば、もう1回どうやったらたくさん食べてもらえるだろうというのはこっちサイドでも考えていきたいからこそ、シーンに合わせた生産方法を毎年考えたり。なかなか自然環境が毎年100パーセント同じじゃないので、どれだけ対策を練って考えていっても、思い通りにならない部分はあるんですが、それでも突き詰めてやっていきたいなとは思いますね。

長谷川:そうだよね。そんな勝太の好きな食べ物はハンバーグです。

(一同笑)

海には文化資源と産業資源の両面がある

長谷川:最後に、今までいろいろそれぞれやってきたし、一緒にもやってきたけれど、このGyoppy!という括りの中で、これからどういうことを一緒にやっていきたいかを、それぞれお三方から言っていただけたらうれしいなと思います。締めの言葉として1人ずつ。じゃあ大就さんから。

高橋大:私が思っているのは、海と水産資源は、文化資源と産業資源の両面があると思うんですよ。

やはり日本食文化は、寿司に代表されるように、米と魚じゃないですか。本当に日本の食文化の根源だと思っているので、その文化資源としての海、水産ということと。

あとは、産業資源。さきほども言っていたように、30年前には世界1位だったわけで、これだけ良質で広い面積はないから、本当にそれを活かせばものすごい産業になるはず。そこを、評論家じゃなくて、文化を守るということと、産業を作っていくということを、オイシックス・ラ・大地でも「東の食の会」でもそれぞれやっていきたいと思います。それをGyoppy!でもやりたいと思います。

長谷川:ありがとうございました。

(会場拍手)

阿部:俺はあんまり難しい考えじゃなくて、震災後もそうなんですが、我々の場合は、海が生きる術だし、生まれたときから生活そのものに海があったので、それが当たり前だと思っていたことが震災でそうじゃなくなった。

なおかつ、震災は関係なくても、その当たり前が少しずつ当たり前じゃなくなっているというのが目の前で起こっていくと、寂しいですし、自分の代ですべてが終わるわけではないので、これからの地元の子どもたちもいますし。そう考えると、やはりなんとかしたいという思いは勝手に湧いてくるんですよね。

自分もあんまりまじめに働いてきたほうではないですが、それでもこの7年ぐらいは、もう自分としては誇れるぐらい動いてきたつもりなんですね。それでもやはり難しさがたくさんあって。だからこそ、それを解決するのは現場だけでは限界があるなってずっと思ってきたし。

だから、伝えて巻き込んで、たくさんの人に少しでも当事者になってもらって、みんなで変えていくと。そうしないと、海の問題だったり環境問題だったりに関しては、もうどうにもならないんじゃないかなって思っています。なので、それを伝える場ができたし、それをみんなで伝えられるというのはワクワクしますね。

長谷川:ありがとうございます。

(会場拍手)

海の情報をシャワーのように消費社会に浴びせる

高橋博:DASH村は長年続いてきて視聴率もいいですし、あれで新宿の屋上で生態系作ったり、漁村でいろいろやったり。あれをみんなが見ろと言うから見たら、子どものときにやった理科の実験の大人版。「へえー!」ということが多くて、おもしろいから続いているわけですよね。

だから、彼らが世界を可視化するのは、言葉が適切かどうかわからないですけれど、1次産業のエンタメ化。もうすばらしいエンターテイメントだと思うんですよ。なので、そこの魅力をちゃんとメディアが伝えていくということと。

あと課題は、ルールを知らないだけだという話がありましたけれど、サンマが10円、20円上がったと言って、居酒屋で「高っけえな」とか言っているのを聞いていると、本当に腹が立ってくるんですよね。

だけど、わからないだけだから。なので、僕はGyoppy!をはじめ、いろいろな消費地に足りない1次生産地の情報を、NewsPicksなどが今あるから、スマホで見られるようなオンラインメディアに差し込んで、まずシャワーのように消費社会に浴びせていけば、「ああ、そうなんだ」となると思っていて。わからないことが罪だから。

なので、最後の締めは本当にカナリア。日本海の秋田で、ずっとここ数年、海水温の話をしていたんですよね。「おかしい、人間にとっての1℃は、魚にとって何℃だ?」という話です。

そうしたら、Yahoo!ニュースに出ていましたけれど、国立環境研究所さんが、極東ロシアからの季節風が温暖化されていて、日本海の海水温が表面が下がらずに、酸素がやはり下に落ちてこないと。やはり海水温が上がっていくだけじゃなくて、海水中の酸素濃度低くなっているというのを科学的に明らかにしていた。

最初に言っていたのは漁師なんですよ。それを見ると、僕らの日頃の都会での消費活動や生活が、巡り巡ってそういう自分たちが食べ続けるために必要な海の環境にまで関わっている。ふだん接続されていないから、接続するためにも、やはりメディアが果たす役割は非常に大きいなと思って、Gyoppy!が世界を変えるんじゃないかと。

(一同笑)

長谷川:ありがとうございました。どうなるかと思いましたが、4人の話が無事終わりました。ということで、第2部のパネルディスカッションは、以上にしたいと思います。どうもみなさんありがとうございました。

(会場拍手)

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