2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
米国アップル社、マイクロソフト社、そして国連本部も認めた83歳のアプリ開発者 若宮正子氏登壇!「MY SMART WORK LIFE」セミナー②。世界を魅了する理由に迫る!!(全2記事)
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若宮正子氏:みなさん、こんばんは。若宮正子です。どうぞよろしくお願いいたします。だいたいの人はみんな「マーちゃん」って言っているみたいなんですけども、戸籍上の名前は若宮正子です。
今日お話しすることは、まず自己紹介。それから、今日のテーマであります「私は創造的でありたい」というお話。それから最後に、最近の活動から得られたものです。といいますのも、私は1年半ぐらい前に、急に「にわか有名人」になっちゃったんですね。前までは思ってもみなかったようなところに行けたりしたものですから、そのへんの経験談もお話ししたいと思います。
自己紹介なんですけども、どうして自己紹介をしたいかって言いますと、「なんで83歳のおばあさんがプログラミングやるの?」「考えられない!」って言われちゃいそうなので、ちょっと自分のことを話したいと思います。
生まれたのは1935年4月で、いま83歳です。物心ついてしばらくしたら戦争になってしまいましたから、もう少女時代もなにもなくて。とくに私は最後の学童疎開児童だったものですから、飢餓体験なんかもたっぷりして。一応戦争が終わるまで、なんとか持ちこたえました。
高校を卒業してからは銀行に勤めました。若い方からは「どうして若宮さんは大学に行かなかったんですか?」と時々聞かれるんですけども、当時は女の人が大学に行くっていうことは、あんまり一般的じゃなかったんですね。当時の企業は、女の人は高卒じゃないと採用してくれなかったのです。
どうして高卒じゃなきゃダメかって言うと、当時は結婚するのがだいたい20代の前半だったんです。22で大学を卒業したんじゃ、仕事を覚えないうちにすぐ辞められちゃうってことが1つ。それから、大学になんか行くと生意気になってかわいくないし扱いにくい。そういう意見もあったみたいです。
いずれにせよ、高校を卒業して銀行に勤務しました。当時銀行っていうのはまだ戦争直後ですから、機械はなくて、お札を数えるときはこうやって指で数えていて。それから、計算は全部そろばんでやっていました。そんな時代でしたね。私は不器用なので、あんまりそういうことには役に立たないで、どっちかっていうと月給泥棒に近いような存在でありました。
ところが、私が入社して10年目ぐらいのときに、アメリカから電気計算機、……電子計算機じゃないですよ、電気計算機というものが日本にやって来たんです。確かね、RemingtonとかUnderwoodとか、そういったメーカーだったと思うんですけど、6桁のわり算とかけ算ができたんですね。
それで、カタカタカタカタとやって。もちろんその程度だと日本のそろばん1級の人のほうがずっと早かったんですけども、ただ、そのそろばん1級のお兄ちゃんの顔色が変わったんですね。「こいつは俺の商売の邪魔をするんではないか?」って思ったらしいんですね。危機感を抱いたと。
いま現在も、「これからはAIと付き合わなければいけないから」といった話が出てきていて、あの顔色の変わったお兄さんと同じような気分の人が、すでに出てきていますよね。「私の勤め先は絶滅の危機に瀕している業種です」なんておっしゃっている方もいます。だけど、その頃からそういうのってあったんですね。
彼らの予言どおり、そのうちに機械や電子計算機が入ってきました。そしてコンピュータは総合オンラインになって、インターネットが入ってきて、もはや指でお札を数えたり、そろばんを片手に仕事することはなくなったんです。
ただ、当時は高度成長期でしたから、銀行は営業部門などに人員をシフトすることができて。営業と言っても、店頭セールスとか、あるいはお客さんのところにお邪魔する訪問セールスなどいろいろでしたね。
私は何になったかっていうと、私は不器用で、お札を勘定したりするのはあんまり上手くなかったんですけど、業務改善提案とかありますよね? ああいうのが好きでよく出していたんです。そうしたら転勤だって言うんで、「どこに転勤するんですか?」って言ったら、企画開発部みたいなところに転勤させられたんですね。
それは異例のことでして、高卒の女の子が行くようなポストではなかったんです。ただ上司には非常に恵まれていて、理解があったのと、仕事場とかなり相性が良かったということもあって、わりと銀行員としてやりがいのある仕事をやらせていただきました。だから、定年までいちゃったんですね。
定年になる少し前に、「定年になったら、きっと退職金というのをくれるだろう。そうしたら、なんか記念に1つ買おう」ということで、買ったのがパソコンだったんです。まだWindows 95が出る前でして、一般にそんなものを買う人はオタクだとか言われる時代ですけども、なんだか知らないけど買っちゃいました。
もちろん「買ってどうするの?」って言われました。いまでもそういうことはあまり変わりないと思うんですけども、それまでは勤め先に仲間がいっぱいいて、おしゃべりもできたし、ケンカもできたんです。だけど、定年になって自分の家に1日中いるようになったら、おしゃべりも、仲良くすることも、ケンカすることもできない。
でもパソコンがあれば、ネットというもので人とつながれて、そこで交流することができるってことを本で読んだもんですから、「それじゃあ、パソコンにしよう」と思って買っちゃったんですね。
パソコンを買ってもどうやるかなんて、予備知識もぜんぜんなかったんです。「買えばすぐにできるのかな」と思ったら、実はその頃のパソコンっていうのはそんな生易しいもんじゃなくて。まだインターネットが普及していないから、パソコン通信っていう、電話回線を使った「キーキーキー」「カーカーカー」とか変な音がする仕組みを使って接続しました。
ああでもない、こうでもないと試行錯誤して、モデムも外付けのものを買ってきたのです。そうしたら、今度はそれを動かすためのソフトが必要だということがわかって、それもまあなんとかかんとかして。当時はパソコン通信っていうのはプロバイダーが全部やっていたわけですけど、3ヶ月ぐらいかかって、なんとか「ようこそ、マーちゃん」っていうメッセージが来たときは「ああ、つながったー!」って声が出ましたね。
(会場笑)
顔が汗と涙でクチャクチャという、そんな体験もしました。そのうちに一緒に暮らしていた母がいわゆる要介護状態になったんですけども、そうすると、いくらおしゃべりでお出かけ好きな私も、どっかに出かけるわけにはいかない。どうしても家にいなきゃいけない。
そんなときにもパソコンがあったので、チャットもできたし、ケンカもできた。それにいろいろな情報がインターネットから入ってくる。だから、狭い部屋に押し込められていても、体は押し込められているけども、心は随分遠くまで広がっていった。そんな感じがしました。
いまインターネットでメロウ倶楽部っていうのをやっていますけども、その前はプロバイダーのやっていたFメロウというのに入っていました。インターネット上の老人会です。いまも続いていまして、もう二十数年間、延々と自主運営でやっています。
パソコンを買って、ネットにつながって、うれしかったマーちゃんですね。そんなことがあって、私はパソコンのおかげで翼をもらったんです。その翼は、家という狭い空間から自分を広い世界に連れていってくれました。私はすばらしい体験をしたんだなと思いました。
10年経って、母は100歳で亡くなりました。健やかに老いて、健やかに亡くなったっていうような、そんな亡くなり方でした。だいたい私は不良介護人ですから、おもしろいことがあるとパソコンの前に座っちゃって、おばあちゃんの面倒なんかぜんぜん見てない。
とっぷり日が暮れて、「あ、いけない! おばあちゃんにおやつをあげるのを忘れた。おばあちゃん、ごめんねー」とか言って、そういう不良介護人をやっていましたけども、「それでも100まで生きたんだから、まあ、いっか」みたいな感じでした。
(会場笑)
「楽しい」って言ったらおかしいけど、そんな楽しい介護ライフを送れたので、今度私は自分の同年代の人にパソコンを教えるっていうか、そんなことをやることにしました。と言っても、4人入ると後ろが通れなくなるような狭い部屋なんですけど、そこで一生懸命にやりました。
あとは、2014年にTEDxTokyoというのがありまして、それに出させていただきました。ご存知(のとおり)TEDっていうアメリカのトークショーの日本版ですね。そこでまたたくさんの方とお友達になっていただくことができて、本当に幸せでしたね。
それで、最近どういうことが起きたかと言うと、私が作ったたった1つの「hinadan」というiPhoneアプリのおかげで、にわか有名人になっちゃったわけです。例えるなら、老人会の野球大会でヨッタヨッタとバットを持ってバッターボックスに立った。打とうと思ったら、それより先に球がバットに当たったと。
(会場笑)
なんかフラフラフラとフライみたいなのが上がったら、強烈な追い風が吹いてきて。気が付いたらヒットになっていて、あれよあれよという間にホームランになっちゃって「えー!」って思ってたら場外ホームランになって、ついにはアメリカに飛んでいっちゃった。そんなことがありまして。
それで私はにわか有名人になってしまって、安倍首相の主催する「人生100年時代構想会議」の有識者議員なんていうものにも出していただいたんですね。そのメールを受け取ったときに、まず役所に行きました。だって、有識者ってとんでもないですよ! 「私なんか高卒だし、大学の名誉教授のような方が大勢いらっしゃるなかで場違いじゃないですか?」って言ったら「時代が変わると、有識者の定義も変わります」って返されまして。
(会場笑)
というわけで、なんか知らないうちに毎月首相官邸に行く身分になっちゃいました。
私は80歳を越してから、たまたまある程度長生きしたというか、そういう生を得たんだから、「エイティーズの冒険」と称して、なるだけいろんな体験を積極的にしようと。ただ、それを全部持ってお墓に入っちゃうのはもったいないから、自分の見たこと、聞いたこと、考えたことを、Facebookでもって毎日レポートしています。いまもそうなんですけど、1日も欠かさずレポートしているんです。
「エイティーズの冒険」といっても、別になんとか諸島の無人島に行ったりしなくても、首相官邸なんていうのも冒険に行く価値があるということです。でもね、私、あるときハッと思ったんです。「なんで私、こんなところにいる?」って。私の向かい側に麻生副首相がいて、隣に安倍さんがいて、その隣に官房長官がいて。そして、私の隣に経団連の会長がいる。
「なんで私がこんなところにいなきゃいけないのよ?」みたいな気がしたんです。それに我が家は伝統的に万年野党でして、いつも少数意見が好きな遺伝子を持っていましたから、こういうところに行くのは場違いなんじゃないかと思ったんです。
だけど考えてみたらね、茶の間でもっていくら喚いてみても、犬の遠吠えなんですよね。でも、ここに出てきて口に出せば、10のうち1つぐらいはなんか役に立つんじゃないかと思って。もう腹をくくって行って、言いたいことを言うことに決めました。
そういえば最初、私の肩書に「NPO法人なんたらかんたら協会理事」とか書いてあったので、「やめてください。私は組織を代表して来ているんじゃないから肩書なしでいいじゃないですか」とお話ししたのです。
おそらく役所ですから、肩書がブランクだと記入漏れになると思ったんでしょうね。何て書いてあるかと思ったら、「アプリ開発者」って書いてありました(笑)。
(会場笑)
でも、一生懸命にいろいろ自分の意見を話しまして、「利用されたんじゃないか」って意見もありますけど、少しは聞いていただくことができたんではないかと思っております。
それから本を2冊出しまして、そこそこに売れちゃって、「増刷する」とか言うことですが。これも「いいかなあ」みたいに思っております。
(会場笑)
それから去年の11月に、国連からメールが来たんですよ。国連の社会開発委員会で年次総会みたいなものがあるわけです。そのキーノートスピーチをやりなさいと言うんです。そして、スピーチのタイトルは「ITリテラシーがあるということは、高齢者にとっていかに大切なことかっていうことを、自分の経験も交えて述べよ」という内容のメールでした。
だけど考えてみたら、日本人の常識として、地球の反対側から人を呼ぶんですから、もうちょっと立派な文書が来るのかと思ったんですよね。日本だったら、真っ赤なハンコがベッタリと押してあるような、そういうのが来るのに、「Hi!」っていうような感じのメールが来たんですね。「これ、ガセメールかな?」と思って。
(会場笑)
月に1回、首相官邸に行かなきゃいけないんですけど、事前打ち合わせがあって行ったときに「こういう変なメールもらっちゃって、たぶんガセメールだと思うけど、もしかしてこれがマジメールだったら、私アメリカに行かなきゃいけないから、来月はお休みします」って言ったんですよ。
「ちょっとそれ見せてください」って言って私のコピーを持って、すぐに外務省にそれをFAXで送って、「こういう事実があるかどうか至急調べてほしい」と取り次いでくださって。なんか15分以内に返事が来て、「いや、これはマジな話である」と。
(会場笑)
「それは名誉なことだから行きなさい」と。それで、行くことになったんです。
これについてもいろいろおもしろい話はあるんですけども、とにかくそれで一応やってきたんです。それも「英語でやるんでしょうか?」みたいなメールを出すと、「当然です」っていうようなメールが来たんです。
(会場笑)
「英語、苦手なんだけどな」なんて思ったんですけど。向こうに行ったときに話して、相手の方は途上国の方だったんですけども、「日本人っていうのは、中学校の3年間で、みんな義務教育として英語をやるんでしょ?」って言うから、「やります」って。
「それでどうしてみんな英語ができないって言うんですか? 私たちの国なんかは学校に行っていない人もいるし、学校に行ったって、自分の国の言葉だってろくに習っていないんですよ。だけども、国連でもって世界中の人に情報発信するのに、発音が悪いだの、文法が間違っているだの、そんなこと言ってる場合ではないじゃないですか」って言われたんです。
私、自分がすごく恥ずかしいと思いました。発音が悪いから。文法を知らないから。そんなのどうだっていいんですよね。そのくせ日本語だったら間違っていてもそんなに気にしない方が多いです。「ご注文のお品、みなさんおそろいになりましたでしょうか?」(なんて言われますが)「お皿に聞いてくれ」って言いたいですよね。
(会場笑)
ああいう日本語は平気なんだけど、どうして英語で間違えると、鬼の首でも取ったようにあんなに喜ぶんだろうと思って不思議なんです。だけど、私はもう恥かいてどうって歳じゃないから、じゃあ、私が「まず隗より始めよ」っていうことで、下手な英語で堂々とやりました。
そしたら、なぜかもっと驚いたことに、NHKのアメリカ総局が取材に来たんです。マーちゃんが英語でスピーチするっていうことが、お昼のニュースのトップの話題になる。日本がそういう国だっていうことに本当にびっくりしました。ちょっと長かった自己紹介なんですけど……。
(会場笑)
本題は「私は創造的でありたい」ということなんですね。その1つの例としてお話ししたいのが、ExcelArtというものなんです。見本がありますから、みなさんに回してください。
(スライドを指して)こちらを見ていただければわかると思うんですが、いわゆるExcelのセルですね。マスには色を付けられるわけですけども、いろいろな工夫ができます。罫線という仕切り線みたいなものも、色付けなど、いろいろ加工ができるということに、ある時気が付いたんですね。なんでExcelArtなのかというと、塗りつぶし機能とか、罫線の色付け機能を使って、アート作品を作るからなんですね。
どうしてそんなことを始めたかというと、同年代の方にパソコンをお教えしていたのですが、だいたいみなさんWindowsのパソコンをお持ちなんですけど、「コンピュータっていうものは基本的にどういうものか?」というコンセプトをお教えするのに、一番良いのがExcelだと思ったんです。
Wordっていうのは、早く言えばワープロみたいなものですし、だけどもExcelっていうのは、やっぱり「コンピュータとは何か?」というのを理解するために、非常に重要なソフトであると。ところが、シニアはあれ嫌いなんです。なんでか「鬱陶しい」っておっしゃるんですね。
しかも、例えば市販されている入門書の例題なんかを見ると、「お小遣い帳を作りましょう」と。そんなのわざわざ作ってみなくたって、自分でお小遣いなんて暗算で計算できる。
(会場笑)
それでグラフなんていうところを見ると、折れ線グラフっていうところがあって、「血圧の推移をグラフにしてみましょう」と。
(会場笑)
楽しくないですよね。誰だってやる気にならなくなっちゃう。であれば、なにか楽しいものを作ろうということで、罫線とか塗りつぶしの機能を使って、いろんなものを作ってみたんです。
もう1つの目的は、日本には伝統的な文様っていうものがあるわけですね。三崩しだとか紗綾形、矢絣、重ね菱。いろいろな伝統的な文様があります。こういうすばらしい文様を、若い人たちにもぜひ知っていただきたい。だから、こういうExcelみたいなデジタルなものを通して、伝統的なものを次の世代に伝えていってはどうかということで、こういうデザインをモチーフにして作ってみたのです。
例えばグラデーションっていうのは非常に便利なもので、なんとなくふくらんでるような感じを出すこともできますし、穴ぼこが開いたようなものもできるんですね。(スライドを指して)真ん中みたいに、油絵みたいなイメージを作ることもできます。それから、お風呂の足ふきみたいなものを作ることができます。
(会場笑)
また、セルの塗りつぶし機能にはパターンというものもあって、縦縞とか、横縞とか、ドットとか、いろんなのがあります。これも上手く使っていくと、なかなかおもしろい図案ができるんですね。タータンチェックみたいなものもできます。
罫線も、ただ引いているだけじゃなくて、これがけっこうおもしろいものを作ってくれるんですね。ExcelArtをご覧になった方がよく言われるのは、「だけど、マーちゃん。年寄りっていうのはさ、目が悪いしさ、指が震えるからこんな細かなデザインのものは作れないわよ」といったこと。ところが、ご存知のようにコンピュータですから升目の大きさはいくらでも拡大できます。最初は大きな、キャラメルぐらいの大きさのマス目を作ればいいわけです。
そしたら手が震えていたって、どこか1ヶ所をクリックすればそのセルを選択できるわけですから。「そうやって作って圧縮すれば帆掛け船もできるのよ。だから、コンピュータなのよ」って言うと、「ふーん」って言って、みなさん感心してくださるんです。
そのうちにWindowsも10になって、Windowsアクセサリっていうおまけのなかに、3D Builderというソフトが追加されたのですね。それを使って立体化すると、これがまたけっこうおもしろいんですね。
(スライドを指して)左側が普通に作ったもので、右側が立体化したものなんですけども。例えば右下なんかだと、毛糸のマフラーみたいなイメージのものも作ることができます。その図案もいろんなグッズに使って、いま(会場で)回させていただいているような「バッグ」や「うちわ」のようなものも作れるのです。
それからもう1つ、話が前後するんですけど、私はApple社に行くことになったわけですけども、WWDCっていう大きな会議で私を紹介してくださったのですね。そういう場だから、やっぱりなんかペンダントぐらいぶら下げていかなきゃならない。
うちにも特売で買った900円のペンダントがあるんですけど、それじゃあ失礼だし、だからといって新しいものを買うのもねなんて思って。(胸元のペンダントを指して)これ、3Dプリンターで自分で作っちゃったんですね。
まあ、早く言えば設計図を作るわけですね。当時フリーのアプリを使って、私は船が好きなんで、舵に王冠をくっつけて作ったのがこれなんですけども。それを工房に持っていくといろんな3Dプリンターがありまして、出力していただきました。これをぶら下げてWWDCに堂々と登場しました。
それから、さっきの凡フライがホームランになった話のiPhoneアプリなんですけども、なんでそのアプリっていうのを作ったかという話をしますね。近頃は高齢者、いわゆるハイシニアでもね、スマホを使う人が多いんです。
本人が使いたいっていうこともあるんでしょうけども、よくガラケーを持ってお店に行くと「お客さん、これもう古いよ。いまはこのガラケーっていうのは生産してないから、この際スマホに変えなさい」なんて言われる。なんだか訳わかんないけど、スマホに変えられちゃったという話をよく聞きます。
だけども、年寄りにはね、いまのスマホって使いにくいんです。だいたいがすべすべしてて、年寄りは指が太いからすこし震えたりすると隣のボタンなんかに触っちゃったりして、非常にやりにくいんです。決定的に困るのは、スワイプとか、こう指でなぞるのあるでしょ。あれができないんです。それは好きとかそういう問題じゃなくて、とくに男性の場合は指が乾いちゃってるらしいんですね。
(会場笑)
真面目な話、それでできないんです。だからよく電話がかかってきて、じいちゃんが電話に出ないって大騒ぎして家に行ってみたら、そうじゃなくて、スワイプができないって、それだけなんです。ある意味で深刻な悩みだったりするわけです。
(会場笑)
もう1つは、シニアが楽しめるようなアプリがないということで。とくにゲームアプリなんて、「あんなもの1つもおもしろくない」とおっしゃっている。そのとおりだと思うんです。
それで、私は若い開発者の方に、「なんか年寄りがおもしろがれるようなもの作ってよ」ってお願いしたら、「僕たちは、年寄りが何がおもしろいかなんてことはわかりません。若宮さん、自分が作ればいいじゃないですか」って言うんです。私はなんでも自分で作っちゃう質(たち)だから、「そうね」なんてうっかり言っちゃったんですね。ところが、ペンダントを作るほど簡単じゃないっていうことは、やってみたらわかったんです。
(会場笑)
1冊3,000円もする本を4、5冊買いまして。うちの近くの藤沢のジュンク堂の窓ガラス1枚ぐらいは、私の売上でできているんじゃないかと思うんです。
(会場笑)
私の場合はiPhoneなんですけども、Xcodeという統合開発環境っていうのをまず理解しなきゃいけないのね。早く言えば台所ですよ、料理を作るための。その上にSwiftという開発言語が乗っかるわけです。
一生懸命に自分なりにはやったんですけど、1行ごとの意味は分かるんです。ところが、自分の持っているストーリーをプログラミングするっていうことは、なかなか素人にはできない。だけど、「自分でやられたらどうですか?」っておっしゃった方が、「わかんなかったら僕が教えますよ」って言ってくださって。
私の友達は、「でもその方は宮城県に住んでるんでしょ? お宅は神奈川県の藤沢市。通う気?」とかいうのですね。でも、いまはそんな時代じゃないんです。SkypeやMessengerを使って、遠隔授業が自由にできるし、むしろ遠隔授業のほうがお互いに時間を取らなくていいわけですよね。
ファイルを共有して、お互いにそれを見ながら、「またここが……。この前言ったでしょ。あれです!」「なるほど」とか言って、やりとりをすればいいわけですから。そんなこんなで、たまには(お目にかかりに)行ったりして、フェイス・トゥ・フェイスのお話もしました。
もう1つ、ゲームアプリっていうのはプログラムが書けるとかコーディングをするっていうことは一部であって、それがすべてじゃないんですね。というのも、「hinadan」ではおひなさまのアイコンをくり抜くための絵が必要でしょ。それからナレーションだとか、BGMだとか、いろいろなものがあってできるわけです。
誰もがレオナルド・ダ・ヴィンチじゃありませんから、絵も描ければ、音楽もできたり、なんでもできるっていう人はあんまりいなくて。だからいろいろ協力してくださる方がたくさんいてくださるっていうのが、そういうアプリを作るためには本当に大切なことだなと思ったんですけど。幸いにして私、とっても良いお友達に恵まれているんです。そういう方がいろいろ助けてくださって、できたということです。
ご存知のようにApple社では公開したいアプリについて審査があって、けっこう却下されたりなんかするんですけど、それが一応は承認されて公開したわけです。何がうれしかったかっていうと、リリースするとお客さまからのコメントが付きますよね。お客さまっていっても、タダでダウンロードしていただいていますけど。
すると、「スマホを触ったことのない私の84歳の母が、私のiPhoneをひったくって、『hinadan』アプリをやってキャーキャーおもしろがっています」とか「母と私と子供と3代で楽しめるアプリがあるなんて、うれしかったです」なんて書いてくださる方とかがおられて。
また、日本でも特別支援学校っていう、体が不自由な方の行ってらっしゃる学校の先生からもお話があって。「時計仕掛けでカチカチカチカチなんてやると、生徒はとてもついていけないけど、こういうのは非常に良い」と。同じようなことが、アメリカのそういうところの先生からもお話があって。私1人じゃできないけど、そういうのがあったら良いなと思いました。
それで思いもよらないダウンロード数なんですけど、いまね、だいたいもう9万件、10万件近くダウンロードしてくださったという。素人が作ったものにしては破格だということなんですね。もっとすごいのは、ダウンロードはしなかったけど、App Storeに行ってこれをご覧になった方が170万人近くいるんですね。
なぜこういう方がおられるのかというとですね、私がこういうものを作ったっていうのを、CNNが配信してくださったわけです。しかも、当時はeighty one years oldだと思うんですけどね、Japanese womanがそういうのを作っちゃったっていうことを、かなり良い記事として配信してくださったんです。そうしたら、世界中の通信社がそれを拡散してくださったのですね。
(スライドを指して)これはクロアチア語、向こう側は台湾でしょ。それから、これはヒンズー語だからインドですか。それから、こっちはアラビア語なんですね。私、知らなかった。アラビア語って右から左に向けて書くのね。だから、行頭が右側に行っちゃうという、不可思議な言葉でした。私は実際に見てないんですけど、「マーちゃんの動画がアルジャジーラに載っとるよ」っていう話も(笑)。
(会場笑)
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