2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
提供:DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA実行委員会
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笹川順平氏(以下、笹川):みなさん、こんにちは。ファシリテーターを務めさせていただきます、日本財団の常務理事の笹川と申します。どうぞよろしくお願いします。
(会場拍手)
笹川:ありがとうございます。今日は、日本財団理事長の尾形さん、クリエイティブディレクターで日本財団のアドバイザーも務めていただいている佐藤可士和さん、この両名に「未来を作るソーシャルイノベーション」という題でお話をうかがおうと思っております。
まず「未来」というところなんですが「未来をつくるのは誰だ」「子どもであろう」というかたちで焦点を定めたいと思っております。
日本財団として「4つの柱」を掲げて活動させていただいております。災害対応、高齢者、障がい者、子どもですが、最も重要なミッションとして、やはり「日本の子どもたちをもっと元気に健やかに育んでいこう」「そういう環境を作りましょう」と取り組んでおります。その点も後ほど尾形さんからお話をうかがいたいと思います。
未来を作るソーシャルイノベーションということですが、言葉では非常にわかりにくく感じるかもしれません。日本語で言えば「社会変革」です。つまり「今までになかったことを作り出すこと」だと思います。
イノベーションというのは、ある課題に対して打ち手を出して、新しい試みを通して解決していく、このプロセスのことです。同時に、今まであった課題に対して、誰もやってこなかった、ないがしろにしていたことをしっかりと施していくこと。これも1つのイノベーションだろうと思います。
今日は佐藤可士和さんからは、クリエイティブの力で子どもの環境をどう変えてこられてきたのか。また、日本財団の尾形さんからは、今、社会で置き去りにされた問題をどのようにして解決を図ろうとしているのか。この2つの視点からお話をうかがいたいと思います。
まず、佐藤可士和さんから具体例を通してみなさまにシェアをいただきたいです。子どもを取り巻く環境、幼稚園で大きな成功をされたとうかがっております。この点についてお話をいただきたいと思います。
佐藤可士和さん、どうぞよろしくお願いします。
佐藤可士和氏(以下、佐藤):よろしくお願いします。どうも。佐藤可士和です。
今、笹川さんからご紹介あったように、僕は日本財団のいろいろなブランディングのお手伝いをさせていただいていまして、今日、尾形理事長とソーシャルイノベーションについてディスカッションできればと思ってやってまいりました。
未来と子どもということで、1つ具体的な例として「ふじようちえん」という幼稚園のブランド戦略、建て替えのプロジェクトについて少しお話しできればと思います。
そもそもなぜ幼稚園なのかということですが、もともと僕は2000年に独立して、ユニクロや楽天、ホンダ、キリンのような企業のブランド戦略をお手伝いしていました。そこで「クリエイティブの力はうまく使えれば非常にパワフルだからもっとお役に立てる領域が広げられたらいいな」と思っていたんですね。
そしてNHKの番組に出たとき、教育や医療という分野にもクリエイティブの力を使えたらいいなという話をしたら、幼稚園のプロデュース会社の方から電話をいただきました。「昨日、幼稚園を作りたいって言ってましたね」というところから話が始まったのです。
すぐに始まったわけではありませんが、「どういうことをやりたいんですか?」と聞かれて、「普通の幼稚園を作ってもおもしろくないので、なにか新しい教育の可能性を一緒にトライできるような園長先生がいらっしゃればぜひお手伝いしたい」という話をしたんですね。
そして約1年後に「立川に『ふじようちえん』という園がありまして、そこの園長先生が建て替えのことで困っているから、ぜひ相談に乗ってほしい」とのことでした。
ここに「老朽化と少子化」と書いてありますが、いまのが10年前の話です。今も続いていると考えると、当時の「ふじようちえん」は立川の中でも大きい幼稚園で、園児が500人とか600人もいるような、日本でも5本の指に入る大きな幼稚園なのですね。
35年が経った園舎では、雨漏りや地震が起きてしまうかもしれない。間に合ってよかったのですが、そういう物理的な理由と少子化です。
最近では「待機児童問題」と言われてますが、やっぱり保育園が足りていないんですね。ですが、当時の立川エリアでは、周辺に10個以上の幼稚園が乱立していました。「普通に計算しても10年後には半分ぐらい潰れちゃうんじゃないか」と、その園長先生が仰っていました。なのでバランスが崩れているんですね。
つまり激戦区です。逆に幼稚園からは激戦区になってしまって、あるところでは足りないみたいな、そういうことがありました。
物理的に建て直したいのと、私立の幼稚園ですから「潰れたら困るし、なにかもっといいことを提供したいので困ってる」と。
佐藤:園長先生は僕に頼む前に、地元の業者に建て替えの相談をしていたんですが、すごいおもしろい先生なので、例えば「可士和さんね、幼稚園でおじいちゃんとおばあちゃんが送りに来るじゃないですか。一緒に預かってもいいと思うんですよね」とかね。あと「馬を飼いたい」とか「温泉作りたい」とか。
実際にやったことは、農家が隣にあるので大根や野菜を子どもたちに採ってもらい、その野菜でレストランをやりました。それが非常においしかったので「一般にも公開したい」とおっしゃっていましたし、「幼稚園で卒園生の結婚式をできるようにしたい」ということもありました。加藤園長はアイデアがたくさんあるおもしろい人です。
このようなことを建設業者に言ったときは、「じゃあ馬小屋の隣が温泉でいいですか?」となって、「いや、そうは言ったんだけど、そうじゃないんだよなぁ」とまとまらなかったようです。
コンサルティングに頼んだときは、「ビルを建てて1階に商業施設を入れたら儲かります」という提案をされてしまい、「誰に頼んでもうまくいかないな」と感じ、プレゼン代だけ払ってお引き取り願うことを何回もやっていたそうです。
困り果てた後、僕に出会って、僕は最初に会いに行った時に先生の夢をお話しいただきました。ちょっと話し出したら7時間ぶっ続けでしゃべられて、もうぶわーっていっぱい夢を言われて。
「わかりました。僕にできるのは、まずは先生の頭の中をデザインしましょう」ということで整理することから始めました。
僕も当時はまだ子どももいなかったので、幼稚園をデザインするのも初めてで不安でしたが、まず「ふじようちえん」に何度も通いました。朝から晩まで子どもたちの活動を見ていたんですね。
ざっくり言えば、そこは幼稚園生なので、みんな遊ぶことからすべてを学んでいるんですね。「遊び」を通して学べる教育が「ふじようちえん」の教育ですが、学びと遊びは、この年ぐらいの園児にとってとても大事なことなんだと感じました。
「遊びとはなにか」がコンセプトのコアにあってもいいと思ったんです。
佐藤:もう1つ、不安だったので先生に頼んで日本中の幼稚園を見に行きました。新築できれいな設計の幼稚園はあるんですよね。10校ぐらい見たのですが、遊具を取ってしまったら中学校や高校のような、なんなのかわからない空間ばかりでした。
僕は「これ、遊具がないと幼稚園じゃないのかな」と思って、すこし違う気がしたんですね。それに、遊具は丈夫に作ってあるため非常に高価で、1個1,000万円ほどです。たとえばすべり台は500万円ぐらいで、ほかにも遊具を10個ほど買ったら1億円。予算がなくなってしまうと思いました。
遊具にそれだけかけるのはちがうと感じ、もっと「ザ・幼稚園」といえる環境を提供できないかと考えたコンセプトが、遊具を買うことではなく、せっかく建築を建てるからには「その園舎自体が巨大な遊具になっている」というアイデアを考えました。
そこはなにから思いついたかというと、ふじようちえんにすごい立派な木がたくさんあって、ゲゲゲの鬼太郎の親父が住んでるみたいなツリーハウスがあったんですよ。ポコンと木の上についてる。
それに僕も登ったんですけど、登ったら、それはただ家があるだけなんですけど、木が真ん中に通って、そこにいるだけで楽しいんです。とくになにも置いていない。切り株の椅子とテーブルが置いてあるみたいな。でも、下に友達が見えて、泥団子のご飯をそこで食べたりとか。なんかもうそこにいるだけで楽しいんですよね。
「ああ、これって遊具じゃないのに、ある環境なのに遊具になってるな」と。「これがそのままでかくなればいいんじゃないか」と思ったんです。だから、巨大なツリーハウス、もしくは巨大なフィールドアスレチック、木を登っていったりしてそこに行く、みたいなことをやればいいなと思って、このコンセプトを思いついて。
表現するのに、僕とゼネコンでやるという手段もあったんですが、これは建築家を入れたほうがいいなと思って手塚貴晴さんと由比さんご夫婦の、僕と同い年の建築家をプロデュースして園長先生に紹介しました。
笹川:可士和さん、園児や全国の幼稚園が抱える問題点に着目されたというお話ですけど、クライアントである園長先生のリクエストには応えているんですか?
佐藤:そうですね。実際作ったものがこれです。いろいろやりたいことの施設を作るよりも、そういった場所が欲しいのだと思ったんです。「その場所を作りましょう」「ドーンとなんでもできるような場を作ったらいいんじゃないですか?」と提案して、非常にフレキシブルな空間ができあがりました。
コミュニケーションインパクトも狙って、ボーンと「ドーナツ型の園舎」をデザインして、アイコニックな建物を建てて、「ふじようちえんと言えばこのかたち」と覚えてもらう。
屋根の上が「第2の園庭」のようになっていて、角度が2度ぐらいついてるんです。それがバンクになって子どもたちが走る走る。走りやすいんですね。この屋根の上というか、このデッキが、教室にも運動場にもなり、いろいろな使い方ができます。
上のほうにすべり台もあって、実際に屋根からシューッと降りるとか、いたるところから出たり入ったりできるようになっています。
尾形武寿氏(以下、尾形):屋根が傾斜しているんですか?
佐藤:屋根がほんの少し傾斜しているんです。2度だけ内側に傾いていて、そうすると走りたくなるんですよ。魚みたいに(笑)。
笹川:魚みたいに。
佐藤:はい。真ん中は芝生の園庭になっていて、ここで馬を飼っています。ポニーの放し飼いですね。
低い軒があって、内側と外側の窓が引き戸になっていて、開けようと思えば全開になります。おもしろい空間になっていて、本当にみんな走り回っていますね。写真を撮ってもブレるぐらいです。
木の下に教室があって、シンプルなドーナツの屋根がポンとあるようなアイコニックな建築を建てると、使い方としては非常におもしろい。
木が実際に教室の中を抜けていて、雨が入ってこないようにドアもついています。ツリーハウスみたいなものですよね。木が抜けているところはフィールドアスレチックのネットのようなものがあります。
笹川:登れるんですか?
佐藤:登れます。網は、漁業の網を作っているところに頼んだので非常に丈夫なんです。20トンぐらいは平気です。
佐藤:もともとは大きなケヤキの木があって、先生たちがぽそっと「まぁ木と土しかないんですけどね」と言ったんですよ。僕は「それで十分じゃないですか」と返事しました。
すごくいい気が流れていたから、それは壊さないでやろうと思ったんです。だから、ほとんど「ふじようちえん」の一番いい雰囲気を残したまま建物だけを新しくしようと思いました。
「木を切らなきゃだめですかね?」となっていたので、「じゃあ基本的には木は1本も切らずにやりましょう」となり、木を優先して建物を建てていきました。
それと、天窓があってはしごで登れます。開くと本当に外と内の空間の境界がなくなるようにしました。教室も、全部ベニヤ板のようなものを家具で挟んであって、フレキシブルに動かせるようになっています。
なぜフレキシブルにしておくかと言うと、これがホールになるんです。あまり使わないけれど、ホールは必要なんです。入園式、卒園式、お遊戯会などですね。ホールは場所を取るからもったいなと思って、「急にイベントやらないですよね」「だから1日前から先生が用意すればいいんじゃないですか」と提案して、本当にフレキシブルな空間にして、今もそれを使っています。
これは雨樋です。建築家の手塚さんと僕で作りました。雨樋はデザイン的につまらないし、せっかくの雰囲気を壊しかねないということで雨も遊び道具にできないかと考えました。
ドーナツ型の園舎の4ヶ所にこのようなアクリルの板があると、そこに雨水が集まって大量に流れます。雨の日になるとここからドワーと滝みたいに流れて、遊び道具になります。
手を洗う場所も、下からにょきにょきと生えているデザインにして、いろいろな工夫を考えて、1つずつ丁寧にやりました。
それと、子どもって屋根の上から足をぶらーんってやりたいじゃないですか。そういうものも積極的に取り入れようと思い、柵は1センチ刻みぐらい、足は入るけど頭は出ないから屋根からぶらーんと足をやっていますね。
朝礼でもやっていて、園長先生が真ん中にきて「はい、みなさんおはようございます」となります。園長先生が「雨の日どうしましょう?」と気にされていたので、「じゃあ雨の日は子どもたちは下に行きましょう。園長先生は傘をさしてください」と提案しました(笑)。「まぁ、そうですよね」ということで、それはそれでいいかなと思います。
園服のデザインも頼まれたのですが、「園服もいいんですけど、みんなドロドロになっちゃうでしょ。Tシャツでいいんじゃないですか」と提案して、Tシャツを作りました。
色は10色ぐらいあって、親御さん用も作ったら非常に売れました。先生もビジネスになったと喜んでいます。
看板も、立派な幼稚園ほど金属のプレートに「ふじようちえん」みたいに筆で書いてあるのが多いので、違うものをやりたいなって思いました。
クリスマスの飾りつけをするようにして、もちろんこれが正式な看板なんですけど、それをFRPで作って遊ぼうというコンセプトにしてデザインしました。
佐藤:また「ふじようちえん」のオリジナルフォントを用意して、先生たちにプリントを作ってもらいました。
できあがった時に読売新聞の一面に載りましたが、その効果で500人規模の大きな「ふじようちえん」が半年かけて行っていた園児の募集が、なんと2日で埋まってしまったんです。
ユニクロやセブンイレブンのようなマスの企業の仕事ではないので、広告にはならないだろうと思っておりましたが、非常にインパクトのあるコンテンツを作ることで注目されるとわかりました。
教員の確保が重要な問題でしたが、現在は世界中から「働きたい」と言ってもらえています。
既成概念にとらわれずにアイデアを出して、子どもたちにとっていい幼稚園を目指していくと、インパクトのあるものができて、さまざまな課題も解決して、経営も改善されました。
OECDという組織が「世界で優れた教育施設」を選んでおり、そのグランプリをもらいました。世界中の幼稚園から大学まであわせた中で最も優れていると認めてもらえたんですね。
やりようというのはいろいろあるということで、子どもに対するデザインの事例としてお話しさせていただきました。
笹川:可士和さん、ありがとうございます。非常識なことをやるというのもイノベーションだと世の中では言われますが、大人が施設に入ると混乱するものですが、子どもたちはすぐ馴染んだんでしょうか?
佐藤:一瞬で馴染むんです。写真ではなかなか伝わりにくいですが、天井の高さやプロポーションを計算してあるんです。天井はすこし低いんですよね。立っていても、屋根にいても、あんまり怖くないんです。
子どもにとって大きすぎないように作ってあります。中に入ると電気をつけるカチャカチャするものがついていて、いたるところに馴染めるものを作りました。
また「壁がないとうるさいんじゃないか?」と言われたのですが、園長先生が「社会に出たら周りはみんなうるさいんだから、その中で集中するということを選ぶと考えればいい」と割り切っていました。
これで10年ぐらいやっていますが、とくになんの問題もなく、けっこう平気なようです。
笹川:そうすると、やはりイノベーションを起こすことを考えたときに、かなり計算された非常識を作り出すことが1つポイントなるんじゃないかと。
佐藤:そうですね。そこはすごく検証していますし、もちろん危険なことがあってはいけないので、すごく丁寧に作ります。
これを作るのに3年ぐらいかかっていて、工期を遅らせていただいたりもしました。「もうちょっとちゃんと検証されたほうがいいんじゃないですか」ということでやらせていただくこともありました。
笹川:たいへん貴重なお話ありがとうございます。
佐藤:はい。ありがとうございます。
DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA実行委員会
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