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多様性社会をささえる都市開発(全2記事)

2018.01.18

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「ビットバレーだった渋谷」がほとんどない 急速に進む再開発で都市が抱えるジレンマ

提供:DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA実行委員会

新しい社会のスタンダードと向き合う都市型サミット「DDSS(DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA) 2017」の中で、セッション「多様性社会をささえる都市開発」が行われました。登壇したのはクライン・ダイサム・アーキテクツ代表Astrid Klein氏とLIFULL島原万丈氏、そして内閣府地方創生推進事務局の村上敬亮氏。そしてモデレーターはA.T. カーニー 梅澤高明氏。都市開発や街づくりの現場を見続けてきたキーマンらは、渋谷で進められている再開発をどう見ているのか? 多様性などをキーワードに、これからの都市開発について語り合いました。

さまざまな人たちを呼ぶために、さまざまな住宅を用意する

梅澤高明氏(以下、梅澤):もう1つの本題にいきましょう。「街の多様性を高めるために街づくりってなにをすべきなの?」という問いです。

いろんな街づくり協議会に引っ張りだこの島原さん。どうですか?

島原万丈氏(以下、島原):そうですね。多様性を高めるために街づくりはなにをしていくべきかでいうとですね。もちろんいろいろなことがあると思うんですけども、1つはやはり多様性を高める。そうすると、つまりその街にいろいろな人がいるということですよね。

いろんな人というのは男女だけじゃなくて、お金持ちも貧乏な方も、若い人もお年寄りも子どもも……というかたちですね。あるいはLGBTもそうでない人も、外国人も日本人も。いろいろな人が包摂をされる社会の状況が、まず多様性だと思うんですけれども。

単純にいろいろな人が雑多にいるというだけではなくて、それがどこかで薄っすらと交流するきっかけがあるかどうか。これはカフェだったり居酒屋だったりがわりと日本では接点になっています。しかし、なにかしら接触をする機会があるかどうかというのが、おそらく1つ大事なところで。それ以前にいろいろな人が住める場所をつくるには、建物が必要です。

それは持ち家の一戸建てしかないような街には、それを買える人しか住めないわけです。しかし、賃貸のマンションもあるアパートもある。古いマンションがあって、それを安く買ってリノベーションする若い人たちがいる。そのように安くいろいろな住宅を手に入れることができる手立てが用意されている。これが大事なんじゃないかなと思います。

梅澤:ということで、真打ちが登場しました。村上です。

村上敬亮氏(以下、村上):申しわけございません。

梅澤:お疲れさまです。

(会場拍手)

村上:つい先ほどまで、国会で炎上しておりまして(笑)。

梅澤:やはりそうですか。すみません。いろいろとお疲れさまです。

街づくりのポイントは民間出身の軍師

梅澤:さっそく村上さんにもキャッチアップしていただくということで。村上さん、街づくりや都市開発というテーマで、どういった仕事をされているか。とくに今なにが気になっているか。このあたりをお願いします。

村上:なるほど。地方創生を3年前に石破(茂)大臣が就任されて以来やっておりますので、たくさん活きのいい街づくりの事例を見てまいりました。

ポイントは軍師です。本当は補助金を使わないで済めば使わないに越したことはないわけでありますが、いずれにせよお金をとる際には「○○の街づくりだ!」と言ってみんな予算をとってくるんです。しかし、いったん予算をとってくると、今度は商店街振興組合さんが持っていったり、こっちの地元の盟主が持っていったり、観光組合が持っていったり。みんな「それは俺のお金だ」ということでバラバラなプレーを始めるんですね。

上手くいっているところは、民間出身の軍師が全体を上手に束ねて、しかもこれは地域の合意力との表裏でもあるんですけど「ちゃんとお前の戦略に任せよう」と。関ヶ原もやはり「真田幸村が本多正信にいったん任せるぞ」というゲームでないと、どんな優秀な武将を何人連れてきても勝てないわけであります。そこの軍師に委任する。そこに民間のプロがいる。

このかたちに持ち込めたところはだいたい成功しているというのが、この3年間見てわかったところですね。

梅澤:例えば?

村上:よく私が取り上げるのは、ちょっと有名になり過ぎましたが、宮崎県日南市の油津商店街です。

これはもう4年間で新規出店を20店以上出しました。この木藤(亮太)くんというのが、役所の人間なんだか民間の人間なんだかわからないようなポジションを上手につくりあげて、間を走り抜けながら、自分のポリシーを曲げずに積み上げていきました。その結果、オフィス大賞は出るわ、人は集まるわ、カープは優勝するわという、大変にめでたい事例になっていると思います。

梅澤:都市という感じではないですけど、広島県尾道市も最近いろいろやり始めたみたいですね。

村上:個人的には私、海賊の末裔なもんですから。しまなみ海道にはコミットしています。そのため、ずいぶんと尾道にも出入りさせていただているんです。しかし、単純な「古民家バンザイ」は、僕はあまり賛成しないのですが。

ただ尾道には古民家が多くて家賃が安い。1万円ぐらいで住める場所が確保できてしまうものですから、10万円あると普通に生活できちゃう。フリーターでも立派に一人前のフリをしている。

そこに加えて文化的におもしろい連中が集まっていくという大林監督の伝統があるとこうなるものですから、ドロップアウトしたおもしろい人がたくさん集まってきまして、夜飲みにいくと大変なことになっています。ちょっとそれが表に出てオーガナイズされるところまではいってないかなという印象もある。

一方で、なにかスポット的にすごくおもしろい人が集まっている。運河の向かい側の向島にあります尾道の、そのまた逆サイドにおもしろい連中が集まり始めたなどですね。そういったようなことが起きております。

来ればわかる、食えばわかる、使えばわかる

梅澤:なるほど。島原さんがセンシュアス・シティを2年前に提示をされました。高いビルをバンバン建てて、同質的な人や企業しか集まらないような極めて機能的なんが無機質な街ではいかんよね、と。都市に官能が必要だと日本中で叫びまわって啓蒙活動をされている人ですが、どう思いますか?

村上:官能ですね。「結局、共感を呼べないと血縁も人縁もない、なにかを語る歴史もない」「その中でどうしてそいつのことを信じるの?」というすごい消去法でいっても、おそらく人の感動がないと、人の絆はつくれない。官能することで繋がっていくしかない。そういうところにデザイン的要素も理屈抜きに入ってくるんじゃないかと思います。

たしかにおっしゃるとおり、うまくいっているところは軍師を立てているだけじゃなくて、官能の連鎖の輪が上手く広がる。できれば域内と域外で半々くらいで官能の輪が広がっているところは、結果だけ見るとやはりうまくいっている感じがしますね。

梅澤:よそ者も入って、うまく外とも繋がっている感じですかね。

村上:結局、地方創生をやってみて思ったんですけども、地域経済はほとんどが「来ればわかる病」「食えばわかる病」「使えばわかる病」と言っています。

梅澤:ちょっと説明してください(笑)。

村上:はい。おいしい食べ物はたくさんあるんですけど、どこがどうおいしいのが、いくらあるのか。これはほぼ例外なく「食えばわかる」と言われます。

梅澤:ああ、なるほど。

村上:この地域の魅力は? 「来ればわかる」と言われます。「ちょっと待て」と。来たことない人、食べたことない人に、どうやってその魅力を伝えるのか。平たく言うと、伝える気がないんですよ。

製造元としていい人がたくさんいても、自分で販路開拓して、自分で販売元になるというプラクティスを持っている方がほとんどいらっしゃらない。だから、自分の持っている可能性が言語化できないという特徴を持っていらっしゃいます。

そこのところを上手に突いていくためには、やはり地域の外側の言語空間を持っている人から見て「あなたのインナーの言語空間はこう見えるんですよ」と、どう見えるのかを言葉にして伝えてあげないといけない。いちいち内輪だけで話をさせていると「そうだよね、食べればわかるよね。来ればわかるよね。うんうん」で終わっちゃうんですよ。

それがまた1人のトップマネージャだけで繋がっているところは辛い構図です。外を向いても内を向いてもこの人は孤立する。そこを上手くリーダーをやっている人、ミドルマネージをやっている人、現場で走り回っている人、それぞれが域内にも域外にも官能のネットワークを持っている状態がつくる。

そして、あとはマネージする人のリーダーシップが上手いとけっこう上手くいく。そこがやはり上だけ繋いでお終いになっちゃっているケースが多いんですね。だから広がるといいなと考えていますね。

事務所ビル1階ロビーに秘められた可能性

梅澤:ありがとうございます。ちょっと本題に戻りましょう。多様性を促進する街づくりの役割。どうですか? クラインさん。

Astrid Klein氏(以下、クライン):そうですね。なにかバーティカルの街やマンション、事務所ビルだと、みんな毎日のように入れないんですよね。1階が必ずパブリックスペースになっていたら……と思うんです。そして事務所の人たちやビルの人たちのところへ地元の人たちが混じってくると、もっとおもしろくなるんですよね。

もう毎回いろいろなビルにミーティングへ行くのですが、そのたびに「大きなロビーは空っぽで冷たい」という感じがあるんです。こんなにスペースがあるのにもったいないと思うんです。「こういうものができる」「ああいうものもあったらいいな」「フードコートをロビーに入れてハッピーアワーをやろう」といろいろ考えられる。

ファッションショーをそこでやろうとか、トークをそこでやろうとか。そういったスペースでもっとおもしろく使えたらいいなと。小池(百合子)都知事も言っていましたが、美術館は5時や6時に閉館します。でもすごくすてきなスペースではあるので、それを夜でも使えたらどうなるのか。おもしろくなるんですね。

梅澤:今のクラインさんのお話は、そのまま村上さんの宿題になるんじゃないかと思うんですけど。

都市開発で容積率緩和は常套手段じゃないですか。今、東京全体で起こっていることは「イノベーションラボを入れたら容積率を緩和をするよ」と言って、そこら中の再開発はみんなイノベーションラボが入りました。

それから渋谷区がやろうとしているのは、「小さな劇場みたいなものをつくったら容積率緩和するよ」と、渋谷区に建つ大きなビルにみんな劇場が入ってきます。今の1階の使い方を容積率緩和の対象にしたら、だいぶ街の光景が変わりませんか?

村上:おそらくそのとおりなんですけども、2つコンディションがありまして、1つはやっぱりやることが先なんですよ。

要するに「How to do?」「What to do?」のソフトウェアのところを先に走らせないと、「ハードウェアで区画整理をしてここにあの機能を埋める」「ここにこの機能を埋める」と入ると、間違いなく失敗する。だから、「What to do?」がついていて素敵なパブリックスペースであれば、僕はすごくパーフェクトだと思いますね。

梅澤:先に実績を見せろということですね。

村上:そうですね。

クライン:せんだいメディアテークの1階がパブリックスペースなんですよね。それをすごく上手に使われているので、クリエイティブな活動など、けっこういっぱい人がくるんですね。

また、伊東豊雄建築設計事務所の伊東豊雄さんがすごく上手なので、岐阜にあるぎふメディアコスモスという図書館も、地元の人たちがそこでお弁当を持ってランチを食べたり、一緒に話したり、子どもたちと宿題したり、誰でも行ける場所という感じになっている。もっとそういうものがあったらいいなと思うんですね。

スペースがあるだけではなにも起こらない

島原:先ほどクラインさんがおっしゃった「1階を楽しくしたほうがいい」というのはまさにその通りで、容積率緩和の話をするといろんな方法があるんですけども。一番メジャーなのはテクニカルな話です。総合設計制度という制度がありまして、「1階に公開空地、つまり街に開かれた空地を提供すると、容積率や高さ規制を緩和してあげますよ」というルールに則ってやっているケースがほとんどなんですね。

だから、みなさんも超高層ビルの足元を少し注意深く見てもらうと、「この空地は公開空地です」と書いたプレートがあったりします。これは「使わない街に開いた空地をつくるから高さを使ってもいいよ」という話なんですが、現実的には公開空地と名付けられていても、ほとんどは実質的には巧妙に閉鎖をされているというか、デザインで入ってきにくいようにしている。

あるいは、広い面積が残らないように植栽を植えて、そこになんのイベントもお店もできないようにつくって、単なる豪華なエントランスにしてしまっているケースが非常に多く見受けられて。

梅澤:でも、容積率緩和を受けている?

村上:緩和は受けている。勘違いしているところは立入禁止というチェーンまで張っていて。

梅澤:うわあ、ひどい。

島原:その後ろに公開空室が入ってたりして、なにか笑えない冗談みたいなのが起こってたりするんですね。そういう公開空地つくり方。もう少し空地だけつくればいいということだと、いろんな抜け道が出てくるので、コンテンツがちゃんと入ることが大事です。

お店が入ることがベストですけども、常設のお店が入られるんだったらキッチンカーが入るスペースだったり、テーブルが置いてあったり、それぐらいでもいいと思うんですけどね。それが街のあちこちにあったら、再開発であっても街のストリートはおもしろくなるんじゃないかなと思いますけどね。

クライン:だからコンテンツなんですよね。スペースがあっても、そこでなにかを起こすためにはキューレーションすることがどんどん大事になるじゃないですか。よく美術館にキュレーターがいるんですけども、街ではどういうイベントで、どう盛り上がるかというキューレーションチームがいたらいいですよね。少しずつ現れてくると思うんですよね。

梅澤:このイベントもある種、渋谷のキュレーションチームがやっているイベントですからね。そういうものが大事だということですね。

ダイバーシティだった渋谷がマニュアル化されていく

梅澤:村上さん、実は渋谷生まれ渋谷育ち。

村上:はい。

梅澤:思うことがいろいろあるんじゃないですか?

村上:基本的には、道玄坂生まれで道玄坂育ちなので、言いたいことはたくさんあるんですが。

梅澤:ぜひ言ってください。

村上:JRの関係者がいたら怒られちゃうかもしれないですけど、渋谷駅がどんどん真っ直ぐ上に伸びていってしまい、周りに回遊しなくなっている。そもそも渋谷が立派になり始めているのは、ある種のパブリックスペース。ちょっと違うかもしれないですけど、やはりパルコだったんだと思うんですね。

パルコ劇場があり、そこにカルチャーがあり、それに対抗して東急本店がある。闇市だった跡に109ができ、そこで両脇から人の流れが出てきたら、本当はこういう人たちの街だったセンター街が新大久保に飛んでいきました。

そして徐々に、そのかわりに入った人が上品かどうかはよくわかりませんけども、普通の方々が行き交う面での街がダイナミックに広がったというのが70年代、80年代の渋谷の非常におもしろかったところでした。ちょっといかがわしい歴史のある花街も含めて、いろんなものが歩いて10分以内のところに表情を変えて存在しているのが、カルチャーの拠点としての渋谷の魅力だったんだと思うんですね。

その中におっしゃられたような、いろんなコミュニティにとってのある種のパブリックスペースみたいなものが、ある人にとっては百軒店(ひゃっけんだな)に集まるのがパブリックスペースかもしれないですし。

やはりパルコ周りの小さな映画館で映画を見るのが楽しいという人たちもいたでしょうし、ある種、同時にここに集まっていたから、みんなここにやってきた。たまたまそれが目立ったのが竹の子族ですとか……少し古すぎますけどね。そういうことなんじゃないかと思うんです。

これを機能的に縦に伸ばしたビルの中で、「あとはエレベーターに乗ってください」「いやぁエレベーターなかなかこないな」とか言いながら「はい、こっちはホール、こっちはなにか」。あまり機能接近主義的にやっちゃうと、まさにある意味ダイバーシティのるつぼだった渋谷の文化が、どんどんシンプリファイされて、マニュアルどおりになっていてつまらなくなるんじゃないかと大変憂慮しています。

こういうイベントで誰かがどこかで、わけわからないことをおっ始めてくれるのも大歓迎というか、渋谷人の1人としての自分の感想でございます。

「ビットバレー」と呼ばれた渋谷が失いつつあるベンチャー

島原:やはり昔の渋谷では、小さなお店がわりと情報発信力を持っていたケースがあると思うんですよね。大きなビルにしてしまうとなにが問題かというと、家賃が跳ね上がってしまう。そうすると、なにかおもしろいTシャツに絵を描いただけで売っているような連中なんか、とても入れないわけですよね。そうすると、チェーン店しか入れなくなる。

村上:まさにコンテンツビジネスですね。不動産会社の論理に枠をはめられちゃうと、つまらないことをやるやつしかいられなくなっちゃうんですよね。

例えば、ご存知ないかもしれませんが、東急ハンズの向かい側に「壁の穴」というスパゲッティ屋があるんです。和風たらこスパゲッティ発祥の店の1つと言われているわけなんですけど。

さらにその奥に、ちょっと名前はアレなんですけど、小さい洋盤のレコード屋さんがあります。音楽通は必ず買いに行っていたお店なんですね。そういうものがポロポロある。

このノリで言うと、わざわざ歩いて遠くまで行くと言えば、だいたいドン・キホーテなんですよ。ドンキか100円ショップへ行くためにセンター街を歩いている外国人は多い。これは、渋谷人としては情けない。そういったものを復活させたい。

梅澤:90年代の渋谷発で音楽のムーブメントができたときというのは、「本当に趣味でやっています」「この1店だけです」みたいなレコードショップの親父がすごく大事な役割を果たしてましたよね。

だから新しいカルチャーをつくろうと思うと、そういうものはとても大事だし、実はカルチャーだけじゃなくて、新しいスタートアップをつくろうというのも一緒ですよね。

島原:そうですよね。一時期は渋谷が「ビットバレー」と言われていて、ITベンチャーが集積していた。それはなぜなら、やはり渋谷に小さい古ビルがいっぱいあったからなんですよね。

そして、比較的空きがあった。だから、そこに家賃が安いので入ってくる。その会社が育ってくると、スペースが足りなくなるわけです。「もう1フロア、もっと広い敷地のオフィスが必要だ」となると渋谷を出ていってしまう。渋谷を出ていってしまって、六本木に行ったり、大手町のほうに行ったりすることになる。

これは渋谷の危機だということで、今、大きな建て替えがバンバン進んでいるわけですが、そうすると途端にジレンマに陥る。大きな会社は残ってくれるかもしれないけど、今までビットバレーと言われたようなスタートアップの集積のようなものが今、渋谷にはほとんどなくなっていて、五反田のほうに移ってますよね。

五反田は古ビルがいっぱいあって小さいビルがあるから家賃も安い。そこにおもしろいスナックがあり、IT企業の女の子が日替わりでママをやっていたりする。こういった動きがすべて、本来は渋谷であった。でも今、目黒を飛び越えて五反田まできているのが現実ですよね。

梅澤:「東京のセンシュアスを全部持っているぞ」という感じですね。

島原:五反田、おもしろいですよ(笑)。

梅澤:おもしろい?(笑)。

「アイデアの着想はもっとくだらなくていい」

梅澤:もうそろそろ時間も押してきたので、渋谷への提言ということにフォーカスして、「これだけは言わないと今日は帰れないぞ」というのがみなさんあると思います。

では、村上さんからいいですか? 1つでも3つでもいいです。

村上:渋谷の街を「こうマッシュアップしたらおもしろい」というインターフェイスをデザインしてほしいんですね。なにを言い出すかというと、私は10数年前、渋谷でAR、VRの立ち上げの実験をやりまして、当時、出たてのiPhoneにソフトを入れて「109を抜けると、いろいろ安いよ」「これをやっている」など見えるとかですね。

お許しをいただければ、合意をいただいた方にはハチ公前広場で待っている女性たちが、匿名ですけど、なにを呟いているのかが全部見えるとか、そういうことをやろうとしていたんです。結局、ハンズのプロモーションで終わっちゃったんですけど。

その時に本当におもしろいアイデアが1つありました。渋谷を歩いている人の心拍数を1つの画面でマップの上に落としたらおもしろいね、と。そうすると「ここ、異様に心拍数が盛り上がっているぜ」「なにが起きているんだ、ここ」「ここは普通だね」「ここはいつも沈んでいるね、これなに?」みたいなところですね。

だから、アイデアの着想はもっとくだらなくていい。私はもともと出身母体が経済産業省という役所になりますが、大臣が変わると引継資料という分厚いファイルを持っていって「なにはなにしてございました」とやるわけです。そんなもの読むわけないんですよ。

それくらいだったら大臣室にカメラを1つつけて、それぞれ縦軸に担当課の名前を書いて、横軸には課長の心拍数が出るようにしてはどうか。そうすると、「なぜここの課長さんはいつもこうなっているのか」「ここは異様に盛り上がっている」「朝になると盛り上がるのか」「夜になると盛り上がるか」と、いろいろ出てくるわけですよね。

こういうことをすると圧倒的に引き込まれるじゃないですか。ITのネットの世界でのマッシュアップはある種のデザインワールドで基本中の基本だと思いますけど、リアルの街の表情をなにかマッシュアップすると、心拍数でもいいですし、なにか地図のイベントの落とし方でもいいですし。

梅澤:あるいは、喋っている言葉でもいい。

村上:はい。なにかそういったリアルの街のマッシュアップのデザインインターフェイスみたいなものが上手にできて、それを渋谷から発信する。そうするとみんなそこにハマってみたくて来る、そこに載せてみたくてお店を開くなど。そういったことをやってみるとおもしろいんじゃないかと。……少し喋りすぎたのでこれくらいにしておきます。

「渋谷にしかないもの」を渋谷につくる

梅澤:それに近いことを、この前のセッションに出てくれてたライゾマティクスの齋藤さんが1回トライをしていました。それに「スポンサーをやるぜ」という企業が渋谷から出てくるといいですね。

村上:関係者がいらっしゃったらアレですけど、そういうものこそ東急さんとか西武さんがやってくれると、街の歴史にはぴったりくるわけなんですけども。

梅澤:確かに。いろんな人がいて、いろんなことが起こっている街だからこそおもしろいというやつですね。

村上:やっぱり面で広がってナンボだと思うんですよね。縦に伸ばして、駅に近いほうが不動産価格が上がるという不動産の論理はよくわかるんですけど、それではもうぜんぜんおもしろい街がつくれない。少し遠い安い土地のところに、みんなが目指すような、折り返し地点になるような。

これは街づくりと言いますか、実は某デベロッパーの方に聞いたんですけど……少し眉唾ですが、まあいいかな。六本木のウォークが失敗だったというわけですよ。街というものは抱え込んだらアカンと。抱え込んで入口と出口だけをつくったら、みんな麻布十番に抜けてしまった。

やはりマルシェの基本は、海綿の綿のように右の路地、左の路地、あちらに抜け出たりこちらに抜け出たり。これをできるのが街づくりの基本で、かつどこかにターミナルがなければいけない。

ここは折り返しポイントだというアイコンがないと、人の密度が発散されてしまう。まさに端っこは地価が安い。安い劇場があったり、安いけど小さくていいレコード屋があるなど、そうなると渋谷が面で広がるようになっていいなと思っています。

梅澤:それはその通りですね。クラインさんどうですか?

クライン:そうですね。アイコニックのデザインミュージアムや、ファッションミュージアムがあったらなと思います。

梅澤:とにかくつくらせろという感じですね(笑)。

クライン:具体的にわかりやすいでしょう(笑)。それと大きなストリート・アートですね。みんながニューヨークに言って「LOVE」の彫刻のほうで写真を撮るでしょ? そういった渋谷にしかないやつがいいなと思います。

3つ目は、ぜひ渋谷側がもっとプロムナードになったり、京都の鴨川のようななにかカフェがあったり、そこでデートできたり、チュウもできるかな。少子化対策に繋がっていけばいいなと思います。

梅澤:確かに。ありがとうございます。島原さんお願いします。

再開発をされていない、古い街並みを更新していく

島原:私の年齢だと、80年代半ばぐらいに地方から東京に出てきた者にとっては、やはり当時の若者にとっても、なにはなくても渋谷だったわけですね。とりあえず渋谷に行かないことには話が始まらないみたいな。それぐらいの街だったので、ぜひとも復活……落ちているわけではないかもしれないですけどね。そうなってほしいと思います。

常になにかおもしろいことが起こるような街であってほしいと思っているんですけれど、これは言ってもはじまりませんが、あれだけの再開発を街の真ん中でバンバンやってしまうと、それはそれで楽しくつくってほしい。

別に大手町と同じものをつくる必要はないし、六本木と同じものをつくる必要はない。渋谷ならではのコンテンツを、とにかく1回、2回とストーリーに組み込んでほしいというのはそういうことです。

ビルがあれだけバンバン建つとはいえ、渋谷区を埋めつくせるわけではない。その裏に広がる再開発をされていない、古い街並みを更新している。ここを1つずつ安全性を高めていきながら、古い建物が新しい挑戦者やアイデアを持った人たちが入ってくるような場所としてどんどんリノベーションされて増えてくるという。

どちらかというと、海外都市の事例を見ていると、小さなイノベーションが先に起こって、そこにおもしろい人が集まるようになってから地域の活躍があります。ジェントリフィケーションが起きるというようなものです。必ずしもジェントリフィケーションがいいとは思いませんが、日本は最初にでかいビルを建ててしまい、もうペンペン草も生えないことがすごく多い。

まだまだビルが建つまでは少し時間があります。東急電鉄さんが非常に気を遣ってやっているところではありますが、後輩にあたる小さなビルの中のコンテンツをおもしろくしていく。それによって、村上さんがお話ししていたように、今、渋谷も奥渋のほうにおもしろい店が広がっている。青山方面渋谷2丁目には店が増えてきたりしている。

周辺部にいい店が増えてきたり、いい場所が出てきていたりします。そこと中心部をいかにシームレスにつなげるかというと、大きなビルのペデストリアンデッキではなく、路地なんですよね。路地は大事なので、そこを渋谷のほうでなにか盛り上げてもらえればいいかなと思います。

梅澤:ありがとうございます。面で広がる街、官能都市、再開発の裏側、あるいは緑。このあたりがこれからの渋谷の街づくりで一番大事なポイントであるところをいろいろみなさんに共有できたように思います。

それでは国会対応を押しのけて駆けつけていただいた村上さん、それから島原さんとクラインさんに大きな拍手をお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)

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