2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA実行委員会
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レイ・イナモト氏(以下、イナモト):ここからがアイデアの育て方と言いますか、物事を考えていくとき、物事をデザインしていくとき、物事を作っていくときに僕がお手本にしている順番や手法なんですけども。別にすごくテクニカルなことというよりは、非常に基本的なステップを繰り返していくことが大事なのではないかなと思っています。
まず、アイデアの育て方の順番の1つが、「目的はなにか」「なぜやるのか」ということを明確にする必要がある。そして、「対象は誰か」「誰のためにそのことを作るのか」「誰のためにそれを提供するのか」「なにをするのか」。最後に「どうやるのか」という順番です。
英語で言うと、Why、Who、What、Howなんですけれども「目的はなにか」「対象は誰か」「なにをするのか」「どうやるのか」の順番で毎回考えていくことが大事なのではないかなと思っています。
ここで1つ、最近僕らがお手伝いさせていただいているクライアントの事例を1つ紹介させてください。
ここ1年半〜2年近く、ユニクロさんとすごく近くお仕事をさせていただいているんですけれども、1つ大きな課題として「DIGITAL TRANSFORMATION」という言葉があります。
ユニクロさんのような企業、そしてとくに10年、20年、30年、40年あるメーカーだったりブランドだったりするのですが、今までのビジネスのやり方がどんどん崩れてしまっている。20世紀から21世紀にシフトしていくときに、どういう考え方に基づいてシフトする必要があるのかを今、柳井(正)社長と一緒に考えさせていただいています。
これは柳井社長がおっしゃった言葉ですが「ユニクロ情報製造小売業」というものがあるんですけれども。英語で言うとDIGITAL CONSUMER RETAILです。
大きく言うと、今まで「モノを作ってモノに落とす」ということをやられてきたんですけれども、これからは「情報を収集して、情報をもとにモノに落としていく」。モノを人々が使って、それがまた情報になり、そのサイクルを作っていく。少し抽象的なお話なんですけれども、そういうことをしています。
具体的に申し上げますと、今みなさんのお手もとにあるようなモバイルデバイスは、今世の中に36億台あると言われています。人口が70億人いる中なので、約50パーセントの人がなんらかのかたちでモバイルというデバイスで、インターネットに常につながっている状況ができています。
(スライドを指して)これはもう数年前の数字なのでもう古いものですが、2020年ぐらいで人口50パーセントになったら、たぶん75パーセント、80パーセントに達するのではないかと言われています。
こういうものがある一方、ユニクロさんは今までこのMADE FOR ALLを、「すべての人のために服を提供する」「すべての人のためにより良い商品を提供する」ということを商売にされていらっしゃったんです。
それだけではなくて、今後大事なのは一人ひとりに適切に、完璧に合ったものを……マスで作られたものではなくて、個人に作られたものをどう提供するか、どう実現できるかを今考えているところです。
この「目的はなにか」と考える。「Made for All」という言葉があったんですけれども、「Made for All」から「Made for You」。一人ひとりにどうサービスを提供していったらいいのか、それをどう実現していったらいいのかが課題になります。これが目的です。
そして2つ目に、ユニクロさんのような小売業やリテールの業界だったら共通して言えることなんですけれども、お客様との接点がどんどん増えています。
昔はお店だけでした。そして10〜15年前は、コマースではPCだけでした。それが今はアプリになっていたり、LINEになっていたり、いろいろなかたちでどんどん接点が増えている。
どこからどうサービスを提供したらいいか、少しわかりづらくなっているんです。「ならば、いろんなチャンネルがある中で、共通してサービスを作れないか」ということで、今考えているものがあります。
先ほど申し上げました「対象は誰か」ということなんですけれども。今までのスタンスとしては、「誰にでも提供できるもの」を考えなければいけなかったんです。今これから考えるには「1人だけでもいいからためになるもの」をまずしっかり作れば、そこから始めてどんどん広げていきましょうということをやっています。
なので、この「目的はなにか」「対象は誰か」「なにをするのか」「どうやるのか」という、Why、Who、What、Howなんです。これは常に変えずに、まずここ(目的はなにか)から始めます。
そして、データなどをもとに、このソリューションを作る時に、誰がまず対象なのかということをできるだけ絞ってやっていくのが大事なんじゃないかなと考えています。
「なにをするのか」「どうやるのか」。これを今までの方法でやっていると結局は同じものしかできません。できるだけこの「なにをするのか」「どうやるのか」を、新しい方法で行う。しかし、あまりにも新しい方法でやりすぎても、人々がついていけないことになってしまったりするので、そのバランスの取り方が非常に大切になります。
今ユニクロさんとやらせていただいているもので、これは先月ぐらいにできたもので、まだβバージョンで、世の中には全部出されていないものなんですけれども。ある一定ユーザーを対象に今テストをしているものです。
これは「UNIQLO IQ」という、AIを使ったお買い物のパーソナルコンシェルジュですね。
この目的は、先ほどのお話にもありましたが、お客様の視点から言うと「ユニクロとお客様の距離をどれだけ近づけるか」を、このIQという……。チャンネルにはこだわらずに、LINEだったり、アプリだったり、お店だったり、サイトだったり。ゆくゆくはカスタマーサービスセンターでもこのIQを使って、お客様とユニクロの距離をどんどん近づけていこうということをやっております。
これはまだβ版なので、一部の会員様にしか提供はできていないんですけれども、来年の春から世の中に出す予定なので、もしユニクロのアプリを使っている方がいらっしゃいましたら試してみてください。
先ほどのお話に戻しますけれども、「なにをするのか」は非常にシンプルで、今お見せしたものでは、UNIQLO IQという人工知能を使って新しいかたちで、お客様とただの取引をするのではなくて、会話ベースにサービスを構築していくことを今やっています。
この中で言うと、今UNIQLO IQはまだ第1ステップのオートメーション、自動化、人々の答えをできるだけ敏速に、できるだけ便利に答えることができるという、まだまだ第1ステップにしか達していません。
そこから徐々にお客様のパターンを見ながら予測できるように、そして最終的には感情にも訴えることをできないかと考えています。
なぜ感情が大事なのか。実は、僕がこだわっている理由の1つなんですが、感情には、実は科学的な証明があるんですね。
1つは、文化の中からくる感情。もう1つは、科学の中からくる感情です。
文化の方向から見ると、これはアメリカの1960年代ぐらいの詩人の方、マヤ・アンジェロウという方がおっしゃった言葉で「人々はあなたがしたこと、言ったことは忘れてしまう。だけど、あなたがどういう感情を与えたかは、人はずっと覚えている」があります。
うれしくしてくれたり、ハッピーにしてくれたり、悲しくしてしまったりというのは、実際にそれがなんだったかは忘れてしまっても、そういう感情はすごく人の記憶には残るとおっしゃった方がいます。これは、文化的な視点から感情を見たときの言い回しです。
もう1つは、科学的な視点から見たことなんですけども。僕は脳科学の専門家ではなくて、完全には理解してないかもしれないんですが、何年か前にあった調査なんですね。人間の脳の中には、扁桃体という部分があります。これ、すごく小さい部分なんですけどれも、これはなにかというと、人間の感情をコントロールする脳の機能なんですね。
これはある大学の教授の方がやられた実験です。すごく学習ができる人たちを集めて調査したんです。その対象になった人たちの1つ共通点が、この脳の扁桃体が、ある障害でなかなかうまく機能していなかった人たちを集めて実験したんですね。
それでなにがわかったかというと、扁桃体、つまり感情をコントロールする部分がうまく機能しないと、人間というのはものごとを決めることができない。
非常にシンプルなことでもそうなります。例えば「今日、朝なにを着ようか」「今朝、朝食はなににしようか」「今日のお昼はなにを食べたいか」「どういう服を着ようか」という非常にシンプルなことでも、この扁桃体という感情をコントロールする機能がしっかりしていないと、人間はものごとを決めることができない。
つまり、逆の言い方をすれば、人間はものごとを決める時は感情的に決めているわけです。もちろん理論があったり、「これは便利だ」「これが使いやすい」「これがなにかにいい」という判断もしたりするんですけれども、それ以上に、人間は感情をもとにものごとを決めている事実があります。
先ほど申し上げました、Automation、Prediction、Emotion……自動化、予測、そして感情というところに、人工知能が後々辿り着かなきゃいけないのはそこになるんじゃないかなと思っています。そのため、Informationよりも大切なのは、Emotionなんじゃないかなというところです。
最後になります。これでまた最初の話に戻すんですが、(スライドを指して)これが、僕が2歳ぐらいの頃なので、もう30年、40年近い前の写真なんですけれども。たぶん、この青い服を着ているのが僕だそうです。これが30〜40年経つと、こういうふうになりました。これ、どっちがどっちかわかりますか?
先ほどの父親の話なんですが、これが最後のお話で、ここでおしまいにさせていただくんですが。これは僕が中学生の頃に父親から聞いた話で、未だに教訓として自分の頭の中に残っていることがあります。
父親が18歳の頃、高校から大学に進学する時に受験をしたんですけれども。最初の受験の時に、彼は落ちてしまったんですね。その受験を落ちてしまって、1年のブランクがあります。その1年を使って、「人生、これからなにをどうしたいかな」と考えた時に、彼が思ったのは、「作家になりたい」でした。「文章を書いて、作家として今後は生活をしていきたい」と。
たまたまその当時、うちの父親の叔父さんがそれなりに成功されている作家の方だったらしいんです。もうこれは50年ぐらい前の話なんですけれども。うちの父親がその叔父さんのところに話をしに行き、「自分が作家になるにはどうしたらいいんですか?」と問いかけたそうです。
その時に叔父さんが言ったのは、「物書きになるためには、常に文章をいつでも書ける訓練をしなければいけない。それは別に才能ではなくて、ものを書くということは鍛えればちゃんと身につくことなんだから、これから1年間、ずっと訓練しなさい」。
「訓練の仕方は、毎日作文を原稿用紙5枚。最低5枚、毎日書きなさい。それを1年間365日間続けて、それができたら1年後に私のところに戻ってきなさい。そうしたら、君が作家になるべきか、ならないべきか、ちゃんと教えてあげるから」と父親に伝えたそうです。
すごいなと思ったのは、それから父親は1年間毎日、原稿用紙5枚、ずーっと書き続けたわけですね。1年間5枚書くと、ほぼ2,000枚ぐらいですね。1,800から2,000枚ぐらいのものになるんですけれども、1年間書き続けて、さらに2,000枚ぐらい書いたものを叔父さんのところに持っていったそうです。
そして叔父さんがその作文の山を積んで、最初の数ページをペラペラっと見る。そして中を全部スキップして、一番最後の数ページをまたペラペラっと見て、「うーん、イナモトくん、これ、ちゃんと1年間書き続けたのは偉いね。でも、最初の日と一番最後の日の上達があまりないから、作家になるのは辞めたほうがいいよ」と言ったそうです。
(会場笑)
なにが言いたかったかというと、実はうちの父親が18〜19歳の頃、そういう訓練をしました。そのあと、彼は作家になる道を諦めて、物理の道に行ったんですけれども、さらに10年後に、どうしても物書きをしたいということで、半分趣味で物を書き始めました。
もう70歳以上のおじいさんで、少しですが本の出版などもしているような人間です。ずーっと、18〜19歳の時に訓練したことが身について、何十年後に役に立ったっていうことなんですね。
もし、とくに学生の方がここにいらっしゃったら、その方たちへのメッセージなんですけれども。これは僕が言った言葉ではありませんが、すごく勇気づけられた言葉の1つに「It’s not how good you are. It’s how good you want to be.」「問題は君が『どれだけすごい』かではなく、『どれだけすごくなりたいか』だ」。
ということなので、もし本当にやりたいことがあったり、成し遂げたいことがあったりしたら、あなたがどれだけ才能があるかが大事なのではなく、ずっとやり続けて、どこまで行けるかを追求するのが大事なのではないか。
そこが人間と人工知能、人間と機械の違いです。いろいろな職種が機械に奪われるなど言われていますが、人間が「どれだけすごくなりたいか」という気持ちさえ持っていれば、僕は大丈夫なんじゃないかなと思います。
これを最後に、スピーチを終わらせていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA実行委員会
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