2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
提供:株式会社リクルートライフスタイル
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原隆氏(以下、原):本日は「キャッシュレス化と店舗決済の未来」をテーマに、キャッシュレス化が今どうなっていて、もしも実現したらどのような世界になるのかなど、お話をうかがっていきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いします。
大宮英紀氏、塩原一慶氏(以下、大宮、塩原):よろしくお願いします。
原:さっそくですが、現在のキャッシュレス化のトレンドをどう見ていますか?
塩原:使う人・場所それぞれで、モバイルを活用したウォレットやアクセプタンスが1つの大きなトレンドになっていると思いますね。もともと、2000年頃からEMV(EuroPay、Mastercard International、Visa Internationalの間で統一規格されたクレジットカード仕様)のトレンドがあるなかで、IC化も一足飛びに実現できていて、非常にリーズナブルだなと感じています。
原:EMVは、2020年までに100%を目指すという方針が出てきますね。
塩原:はい。ICチップ対応の義務化は100パーセント、政府主導で動いているという認識ですね。
原:今おっしゃっていたウォレットといえば、PayPalなどが代表的ですね。でも、日本ってなかなかないですよね。そのあたり、根付くんでしょうか?
塩原:現時点では、Apple PayやSamsung Pay、Android Payしかり、グローバルリーダーたちがこぞってウォレットに参入してきて、我々も期待しています。ただ一方で、「じゃあ実際に使えるの?」というと、現場で使えない場面が多い。そこはまだ課題ですね。だから、使える場所を増やしながら、ユーザーへの理解……リテラシーを上げていく啓蒙活動をあわせてやっていく必要があると思っています。
原:私、仕事柄、タクシーで移動することがよくあります。日本交通の後部座席にはタブレットがあって、少し前から「JapanTaxi Wallet 近日開始」(対談当時)と書かれているのが気になっていたんです。あれはなんだろうと思って、日本交通に取材にいきました。そうしたら、これまではタクシーを呼ぶアプリだった「全国タクシー」を、ウォレットアプリに変えていきたいという考えをお話いただいたんですね。アプリを使ってQRコードを読み取れば、降車時じゃなくても移動中に決済できるようになったそうです。降りるときがスムーズになるわけですね。
サービスのなかに決済がどんどん溶け込んでいくような、そういったキャッシュレス化の流れが来ているように感じたんです。そのあたり、大宮さんいかがでしょうか。
大宮:まさに、キャッシュレスやフィンテックって、現在、業界において盛り上がっているワードです。そのおかげで、各種規制や様々なプレイヤーも含めて、この先より活性化していくのは確実だと思っています。しかし、本格的なキャッシュレス化の流れを起こすには、「本当に便利に使えるのかどうか」が最も大事なポイントです。シンプルに、使える場所が多くて、これまで現金を出していた支払いシーンがいかに簡単にスピーディーになるかということだけだと思うんです。
今お話にあった日本交通さんの動きは、タクシーを配車して降りるまでの1つの体験の中に支払い方法が溶け込んでいる。そういったものが増えていかないと、キャッシュレス化のムーブメントは広がらないだろうなと、正直思います。
原:様々な体験のなかでキャッシュレスを実現しようとすると、いちユーザーから見れば「サービスごとにいろんなアプリを入れて面倒」という印象を受けるかもしれません。それはそれで、不便なキャッシュレス化社会だと思うんです。
大宮:まさにそうですね。スマホの拡大と共に、LINEさんが登場し、コミュニケーションアプリとして急速に広がったのと同じように、フィンテックというか、キャッシュレスに関しては、タイミングを逃したくないという思いで各社がウォレットに対して虎視眈々と取り組んでいるところですよね。それでいうと、キャリアもそうですし金融機関やポイントプレイヤー、Appleさんや日本交通さんといったプレイヤーも含めて、乱立していく状態をどう考えるかですよね。
僕らが運営しているAirペイもそうですが、そういったサービスが乱立したとき、お店の方たちとしては「この支払いは受けられます」「この支払いは受けられません」をなくしたい。ユーザーがバラバラに持っているウォレットを、お店側では1つのサービスで吸収するという基本的な構図が、どこまでいくかですよね。
塩原:私も同じですね。この50年、クレジットがSWYP、IC、サインレス、PINレス……となってきました。それに対してQRが入ってきて、国内だとSuicaのような非接触サービスも入ってきました。
決済の手段そのものとしては、多様性があってしかるべきです。人によっては……私はSuicaみたいなUXが一番好きなんですけど。Amazon Goの取り組みのような、「なにもいらない世界の方がいい」というユーザーがいる一方で、「お金を払っている実感がほしい。クレカで支払って、サインを書きたい」というユーザーもいるかもしれない。いろいろあっていいと思うんです。
ただ、トレンドとしては、キャッシュレスやペイレス、ウォレットレスのような類で、それが30年後なのか50年後なのか100年後なのか時間軸は分かりませんが、決済はいずれなくなっていくトレンドだと思っていて、現時点においても決済そのものだけだと、付加価値として成り立ち辛くなっています。
その周辺領域、例えばウォレット1つとったとき、原資としてもともとプリペイドやクレジット、デビットといったバリエーションがあり、そのはけ口として、利率のつくサービスやポイントで還元するサービスなどがある。今で言う、LINE Payが2パーセント還元をやっていますよね。我々もリクルートカードでつけていますけど。
そういったかたちで、決済行為が原資になり、キャッシュが戻ってくるようなサービスだったり、CLOのようにクーポンに紐付けるなど、周辺領域でますますサービスの競争が激しくなっていく。益々ユーザーにとって、便利でお得、快適な環境が決済環境が整っていきます。
そういった意味で、キャッシュレス、ウォレットレスだけでは我々も勝てないと思っています。決済だけでなくレジやその周辺領域も合わせて考え、より快適な仕組みにしていかなければならない。でも、そこはもう世界中で、同時にイノベーションが起こっているところでもあり、非常にチャレンジングな仕事だと思っています。
原:今お話があったように、サインしたい人、現金でお金のありがたみを感じたい人、いろんな方がいるということでした。例えば、コンビニで並んでいて、前の人が少し時間をかけて一生懸命に現金を出していると、急いでいるときに少しイラッとしたりするじゃないですか(笑)。とはいえ、いろんな人に聞いてみても、「やっぱり現金で」という人が結構な数いるんですよ。
今、2020年までにキャッシュレス化社会を作ることを目指していたりします。これ、本当にすべてキャッシュレスになる世界がくるんでしょうか。それとも「やっぱり現金派」が一定数残り続けてしまうのでしょうか。そのあたりはどうですか?
塩原:個人的な意見としてお話すると、現時点は過渡期でしかないと思っています。時間軸で見ると、キャッシュレスな世界が5年後なのか10年後なのか、30年後なのかというのはあります。でも、いずれ100パーセント、キャッシュレスになると信じています。
原:大宮さんは、どうですか?
大宮:僕も同じですね。みんな紙幣や硬貨のほうが使い慣れていて、安心感があるんですよね。僕らは単に使い慣れたものに依存しているだけで、スマートフォンで支払うような体験が増えれば増えるほど、代替していくものに安心感が移り、意識も変わっていくと思います。
ただ、10年後はまだ、まだら模様に併存していると思うんです。だから、例えば1世代で変わるのか、デジタルネイティブな人たちにとってキャッシュレスが当たり前になってメジャー化していくのか。それは数十年スパンで変化していくんだろうなと感じています。
そのとき、先ほどお話した、お金を払った感覚や信用の度合いは、簡単な行為ではなく、なにかしらの形で残るだろうなと思っています。よくあるのは、人が来たら顔が出てきて「この人」という支払いが……。
原:顔パス決済みたいなものですね。
大宮:そうです。お金を払っていないけれど、顔で信用をやりとりする行為だったと思うんです。画像認識は精度も上がっているので、だんだんそっちで確認し合うように変わるかもしれない。
原:海外と比べたとき、日本のキャッシュレスにはどのような特徴があるんでしょうか?
私の知り合いで「モザンビークで銀行を作る」という合田真さんという方がいます。彼の話を聞いていると、モザンビークの人たちは現金を壺などに入れて保管していることが普通なのだそうです。そうすれば当然、盗難や紛失のリスクに常にさらされてしまう。かといって、近くに銀行があるわけでもないため、キャッシュレスに対するニーズが非常に高いといいます。
日本の場合だと「現金のほうがありがたみがあるよね」となり、海外の場合だと「現金だとそのものを消失してしまう危険性があるよね」となる。例えば、そもそもがクレジットカードが普及していない国の場合、レガシーのPOSシステムが入っていないことが多い。こうした国では、日本よりも早くスマートフォンやタブレットを使ったPOSが普及する可能性が高いわけです。
みんな銀行口座を持っていない世界のほうが、ウォレットサービスの普及が早くなる現象も起きうる。日本はレガシーを抱えている分、変化のスピードが遅くなってしまうのではないかとも考えられるのですが。
大宮:でも、正直そうだと思っている自分もいますね(笑)。
原:(笑)。
大宮:例えば発展途上の国では、そもそもクレジットカードのやりとりのような、誰かにお金を借りて信用度の枠内で決済できる仕組みができていないところが多い。クレジットカードって、要するに誰かがリスクを取ってやっているビジネスじゃないですか。
そういったネットワーク、仮に人がいたりすると、プリペイドのような「入れた分だけ携帯でお支払いできます」だと、カードがなくても、モバイルですべて支払い認証できる。結局、支払い認証のツールがスマートフォンであり、そこではカードを経ないで一足飛びにできている。ネットワーク自体も、そこをベースに作っちゃう。
日本ではある意味、旧態依然の体制として残ってしまうと、一足飛びにいかない可能性はすごくありますね。
原:クレジットカードを使いたくない場所、履歴を残したくない場所においては、現金は最も匿名性が高く、だからこそ脱税もある。そうすると、必然的に現金の匿名性を使うシーンなどで「いや、ここは履歴を残したくないから現金で」という手段として、現金は残るのかなと思ったりします。
塩原:そういう機能があればいいですよね。決済ルートで、なにかしらトレースを消すような。ピッとやると、自分の履歴を絶対に残さないもの。
原:決済のたび、オン・オフみたいな。
塩原:もしくは、デフォルトでオンにしておくとかですね。そういった機能があれば解決できると思います。
原:今後そういう機能も実装できるんでしょうか?
大宮:できると思います。今後はプライバシーがものすごく重要な要素になります。すべてが見られるし、トレースされるから。それを、いかに個人情報を見せないかは、同時に必要になってきています。お金に関しても、国からすると「追跡したい」みたいなものはありますよね。
原:絶対にありますよね。だから、キャッシュレス社会を作ろうという動きになっているんでしょうけれど。
原:それでも私にはよくわからないのですが、ドラマとかで出てくるお金持ちって、たいていの場合、金庫に金塊とか入れているじゃないですか。絶対にデータ化されないもので保管している。
だから、そういった意味でキャッシュレスは、ユーザーのプライバシーに対する意識と、国のそういうキャッシュレス化によるトレースをする世界のせめぎ合いの中で、今動いているのかなとも思うんですよね。
ユーザーが動くときは、著しく利便性を感じるとき、そしてプライバシーを提供してでも便利だと思えるときです。その利便性が今、どれだけ提供できているのか。ポイント還元やキャッシュバックなど、様々な方法があると思いますが、今後、どんなメリットが出てくると思いますか?
塩原:そうですね。クライアントサイドとカスタマーサイドで分けたとき、お話いただいた通り、クライアントサイドには脱税などは現金のほうがメリットが大きいとは思うんです。
一方で、お金がなくなることで、お金を見る機会がなくなる。触れる機会がなくなる。僕自身、昔コンビニでバイトしていたんですけど、集計作業して、なぜか数百円ずれたり、大きいときだと1,000円ずれるとかあったんですが……。
原:私も無印良品でバイトしていたときにありました。会計が合わないと、最後まで大変なんですよね。
塩原:そうなんです。そういうことがそもそもなくなりますよね。まぁ、脱税とか、世の中にあってはならないことに対してメリットがあるのはどうかな……というのもありますが(笑)。
原:確かに(笑)。
塩原:正しい方向に落ち着いてほしいというのは、クライアントサイドにはありますね。
カスタマーサイドはおっしゃるとおり、LINE Payさんが独特の戦術でウォレットを出したとき、はけ口としてJCBのプリペイドはある意味サプライズでした。あのとき、おもしろいと思ったのが「クレジットカードを選ぶ理由」に関するユーザーアンケートで、圧倒的1位だったのが「還元率が高いこと」だったんですって、だからLINE Payにしたんだ、と。
ほかを見てみても、Alipayも還元率が高いサービスです。ただ、彼らが我々より先にいっているなと感じるのは、芝麻やSesameのスコアですね。結局、あらゆるリアルも含めた行動をすべて与信情報として持って、それをもとにプライシングも需給のバランスをどんどん変えていこうとしている動きがあると思っています。
一方で、日本では与信情報を中央で管理する仕組みがありつつ、先ほどのお話にあったように、古いレガシーな仕組みゆえに、今のスマホのトレンドに追いついていない課題があります。
Alipayのようなかたちで一人ひとりの需要に応じていく。例えば、偶然入ったトイレで紙がなくて困っている人に対して、「今ならデリバリーで、1分以内で持っていきます!」みたいなもので、トイレットペーパーを1,000円で売るようなものがあったら、たぶん買う人いると思うんです。
原:今なら、みたいなね。
塩原:そうです。シチュエーションとその人のニーズで、需給のバランスは変わると思っています。決済の情報もあるので、ユーザーごとの実績パターンを分析できるでしょうし。そういった付加価値がでたとき、カスタマーサービスにつながると思っています。そのためのウォレットであり、クライアントの決済をしっかりカスタマ軸、クライアント軸それぞれでデジタル化してバリューチェーンで捉えていくのが、今後重要になってくる。これは、我々もすごく考えているところです。
株式会社リクルートライフスタイル
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