2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
PwC×freeeインタビュー(全1記事)
提供:一般社団法人シェアリングエコノミー協会
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――PwCはアメリカでシェアリングエコノミーに関するレポートを出されていますが、まずは野口さん、データから見えてくるシェアリングエコノミーの現状について教えてください。
野口功一氏(以下、野口):アメリカでは、「シェアリングエコノミー」という言葉自体が、すでにかなり身近なものになっています。PwCのアメリカ法人が2年ほど前に行ったリサーチでは、1,000サンプルぐらい取っているのですが、4割以上が「シェアリングエコノミー」という言葉に慣れ親しんでいて、およそ2割が実際に使ったことがあるという結果が出ています。
ですので、間違いなく日本よりは、シェアリングエコノミーというものを身近に感じているし、実際に使ったことがある人も多いです。ただ、日本でも、エンターテインメント系のストリーミングサービスやライドシェアなどがだんだんポピュラーになりつつあります。
使っている層は、やはりネット世代の人たちが多い。アメリカの場合は、10代後半から20代前半ぐらいの利用者が多いようですね。若い人が多いのは「テクノロジーを使いこなせるから」という意味でわかりやすいのですが、一方で、おもしろいことに18歳未満の子供がいる家族の使用頻度も高いんです。
なぜかというと、赤ん坊から18歳ぐらいまでは、ライフスタイルが定期的に変わるわけです。赤ちゃんの時は赤ちゃんのライフスタイル。幼稚園に入るとまたライフスタイルが変わり、小学校に入り、高校に入り……というふうにライフスタイルが移り変わるんですよね。
そうすると、物を所有するよりも、いつでも必要な物が借りられて、それをまた手放せるというほうが便利になってくる。ライフスタイルに変化があるために、シェアリングエコノミーのニーズが非常に高くなっていますね。
また、シェアリングエコノミーのメリットとして、経済的な余裕ができることを挙げる利用者も多いですね。アメリカでのリサーチでは、「生活により経済的な余裕が出る」と8割の方が回答しています。
しかし一方で、いくつかの懸念点も挙げられています。シェアリングエコノミーで経済的にはすごく助かっているものの、それこそ「得られる体験に一貫性がないのが嫌だ」という話もやはりありますし、あとは信頼関係についての懸念も利用者から挙げられています。ポピュラーにはなりつつあるんですけど、まだいろいろと懸念点もあるという感じですね。
――ありがとうございます。日本でもシェアリングエコノミーの認知が広がっていくなかで、freeeはシェアリングエコノミー協会と提携されたということですね。freeeは直接的にはシェアリングサービスではないように思いますが、クラウド会計とシェアリングエコノミーにはどのような接点があるのでしょうか。
川西康之氏(以下、川西):まず、弊社の事業の1つとして、個人事業主さまの確定申告を簡単にクラウド完結で行うことができる、ということがございます。とくに、スマートフォンで確定申告を完結させられるということが弊社の特徴で、現状、個人事業主さまに広く受け入れていただいております。
シェアリングエコノミーで、自分の物や時間、お部屋、車といったものを貸す側になると、利用料というかたちで所得を得ますよね。その所得が一定金額を超えると、ちゃんと申告をしなければなりません。
そうなると、主たる所得は勤めている会社からもらっているけれども、シェアリングエコノミーを活用して得た所得もしっかり申告しないといけなくなるという人が、これからどんどん増えていく。
そのシェアリングエコノミーを支える1つのインフラ的なものとして、確定申告を誰でも簡単にできて、クリーンで、多くの人にとって使いやすい、信頼できるサービスとして、税の部分をサポートさせていただくというのが、今回の提携の背景にあるものです。
――なるほど。ライフスタイルだけではなくて、働き方もシェアリングエコノミーによって変わってくる。そうした働き方のインフラを目指されているということですね。
川西:はい。
――そういった働き方の変化に応じた動きは、アメリカなどではすでに起こっているんですか?
野口:アメリカもそうですし、もう日本でも起こっていますね。よく働き方や正規・非正規の議論があるじゃないですか。我々より上の世代は、ずっと終身雇用制でやってきたわけですから、個人事業主として、勤務先以外から収入を得ることを前提にしたようなプロダクトは今まで必要なかったわけですよね。だけれども、日本でも働き方は変わってきている。
シェアリングエコノミーというのも1つの背景にあるんですけれども、働き方を支えるインフラと、規制の話ですよね。土台の部分がシェアリングエコノミーでは非常に重要になってきています。
規制の話として、ライドシェアや民泊の話がよく出てきます。やはりシェアリングエコノミーで新しいビジネスが起きた時に、そのビジネスを支える会計や、もしかしたら総務・人事系かもしれないですけど、そういうインフラ系のビジネスはこれからどんどん発達してくると思いますね。
――具体的にはどういう動きがありますか?
PwCは、コンサルティング会社と会計監査法人と税理士法人が世界中にあります。そのなかで、例えばPwCのオーストラリアの税理士法人は、大企業向けのビジネスを中心にやっていました。しかし、個人事業主さん向けにはリソースの問題などで、これまでやっていなかったんです。
ところが、そのオーストラリアの税理士法人で、今言われたような、スマホで個人事業主が申告するシステムを開発したんです。大手の監査法人、税理士法人、コンサルティング会社も、今までサポートしきれなかった個人事業主さんに、最新のテクノロジー活用することでサービスを提供していこうという動きになってきているんですよね。
やはり今までのオールドエコノミー的なものがだんだん崩れてきていて、シェアリングエコノミーのような新しいものが出てくることで、より個人に細分化されたかたちで、誰もが事業主になる。
昔はネットビジネスで、「誰もがビジネスを始められますよ」というのがあったじゃないですか。それが今はテクノロジーがより進化しているので、仕入れなどがなくても自分の持っている財産のなかでビジネスができるという時代になっているんです。もっとハードルが低くなっているんですよね。
そういう個人のビジネスが表側に出てくれば出てくるほど、それを支えるビジネスが、どんどん必要になってくるんですよね。
――なるほど。freeeから見て、個人事業主や市場規模はどのくらい増えると見込んでいるんですか?
川西:今、直接的に市場規模を推測するというのは難しいと思っているんですけれども、現状ではおよそ80万人の方が、雑所得での確定申告を行っているんです。
雑所得というのは、例えばFXとかで儲けたお金を申告していたりする人が多いと言われていますが、シェアリングエコノミーで得た所得の区分が必ずしも雑所得になるわけではないのですが、1つの指標として、この数字の10倍以上はいらっしゃるのではないでしょうか。
各シェアリングエコノミー事業者のユーザーさんの人数を足した数は延べ人数なので、ユニークユーザーではないと思うんですけど、そのぐらいの規模のユーザーさんがいらっしゃるということは、例えば将来的に半分の人が申告が必要な所得を年間で得ると考えると、その分だけ増えますよね。ですので、数百万人レベルで確定申告が必要になるのかなとは思っております。
――freeeさんが参入してインフラが整うことで、さらにシェアリングエコノミーが活性化されるという面もありますよね。
花井一寛氏(以下、花井):そうですね。政府や自治体が「シェアリングシティ」ということでシェアリングサービスと提携しています。今後、シェアサービスが地域の公的サービスを一部代替するかたちになっていくのかなと思います。
これは「公助」から「共助」へとの流れと共に新たな雇用や産業を作るという意味でやっているのですが、新たに生まれたサービス収入について適切に税務申告されなければ税収が減る一方なんです。自治体としてはある意味裏口があるような事業を勧めるということはできませんから、シェアリングエコノミー普及のためにも、ちゃんとシェアリングサービス側もユーザーの税務申告を徹底させていくべきというのが、シェアリングエコノミー協会さんの方針でもあります。
もちろん我々も、クラウド会計サービスとして適切な会計・税申告を勧めることは社会的責任ですので、シェアリングエコノミー協会さんと同じ思いでやっています。サービス提供者の活動を支えるインフラがあればこそ、シェアリングサービスが一層世の中の理解を得られて広がっていくと考えています。
――一方で、なにげなくシェアリング系のサービスを使っていて収入を得た時に、「確定申告しないといけない」と気づく人は少ないんじゃないかという気がするんですけど。
川西:はい、そうですね。おっしゃる通りです。
――そういうところに対する働きかけをされたりもするんですか?
花井:例えば、セミナーやシェアリングサービス提供会社からのご案内などをすると共に、freeeの優遇価格での提供や相談窓口の設置等は、これから一緒に行っていきたいと思っています。啓蒙活動は、まさにこれからやっていくところですね。
――シェアリングエコノミーが発展すればするほど、納税意識みたいなものが求められてくるのかもしれませんね。
花井:ただ、利用者が必ずしも税金を払う一方ではないと思います。サービス内容によっては、源泉徴収されて入金されるケースもあるんです。源泉徴収額はマイナンバーと紐付けて事業者が申告しています。また、サービス提供に必要な支出は多々あると思いますので経費として申告することで節税につながるケースもあります。さらには、銀行からお金借りるにも申告書は必要です。
一方的にお金が取られると考えるのでなく、開業届を出して、適切に青色申告をすることで節税に繋がったり、税務申告自体が可能性を広げるパスポート的な役割も担うことに目を向けてほしいと思っております。
――今後、シェアリングエコノミーを日本で広めていくなかでは、どんな課題がありますか?
野口:広めていくうえでの課題は、例えば民泊が話題になりましたけど、やはり規制の話になりますよね。それに関しては、やはりある程度緩和をしてもらうしかないという声は多いですが、「規制のせいでシェアリングエコノミーができない」ということもないんです。
例えばカーシェアの場合、日本だとタクシーの話があって、なかなかできないじゃないですか。だけど、例えば地方において、おじいちゃんおばあちゃんが買い物をする時に、昔は車を運転していたんだけど、歳をとって運転できなくなった。スーパーはすごく遠くて歩いていけないと。
そういう場合に、地域の人たちが、まさにカーシェアをして、その地域のなかでおじいちゃんおばあちゃんを乗せてあげるという疑似タクシーみたいなサービスを、自治体などで実験的にやっているわけですよね。そういう仕組みを使えば、高齢者の人たちにもすぐ車が呼べるんです。
なおかつ、空き状況がしっかり管理されているのであれば、そういう社会課題を解決できるわけですよね。今の規制のなかでも、社会課題の糸口さえ見つければ、日本でもできることがたくさんあるわけですよ。
シェアリングエコノミーの話をすると、必ずみんな規制を理由にするんですけど、ブレイクすることはいくらでもできる。
もう1つは、必ず貸し借りの信用の話が出るじゃないですか。先ほど申し上げたように、アメリカのPwCが行った調査でも、必ず「信用が懸念です」という結果が出てくるんです。
そもそも我々より上の世代の人間は、「物を所有することがいいことだ」という考え方ですから、やはり物の貸し借りには抵抗があるし、「借りた物が返ってくるのか」「人の物を借りていいのか」という、そもそもの価値観があるので、そこで抵抗感があるわけですよね。
だけど、もっと若い世代で、生まれた時からシェアリングエコノミーがあったとしたら、信頼というのは当たり前のものになります。我々には、物の所有やお金の貸し借りを、自分自身がものすごく厳密にやらなきゃいけないという考え方が根底にありますけれど、生まれた時からシェアリングエコノミーを経験している人は、そのプラットフォームがある中での所有や貸し借りなので、そうとは限らない。世代が変わっていくほど、そういった信頼の意識はどんどん変わってくると思いますね。
――なるほど。こういった課題に対して、freeeとしてはなにかお考えがあるのですか?
川西:双方の信頼というところで言うと、現状の双方の利用者のレビューによって、サービスの提供者や利用者の信頼を、定量化して見える化するという方法があると思います。
我々が「できるんじゃないかな」と考えているのは、先ほど花井が申した通り、弊社のサービスは申告まで完結できるので、納税しているかどうかをサービス側に示すことができるんです。つまり、各サービスと弊社が連携すれば、例えば「このシェアリングサービスに登録しているAさんは、ちゃんと納税をしている」ということを、きちんとしたエビデンスをもって返すことができます。
例えば、このシェアリングサービスのユーザー表示画面みたいなところに、ほかと区別するために納税済みマークみたいなものを載せられる。それはシェアリングサービス全体で共通のマークになっていて、「この人はちゃんと税金も納めてるし、ちゃんとしている人なんだな」という双方の信頼を担保できる。
また、最近ではfreeeの会計データを元に融資を受けられるサービスもジャパンネット銀行様等と連携して行っており、シェアリングサービスの提供者が金融サービスを受けるため環境整備にも取り組んでおります。シェアリングサービス内での信頼性だけでなく、社会からの信頼性向上も目指したいですね。
国や自治体の公的なものによる、ある種の認定のようなかたちで信頼を担保するということもできるのではないかと思っていますね。
――野口さんの目から見て、シェアリングエコノミーをさらに発展させていくためには?
野口:「シェアリングエコノミーの先進国」という言い方がありますけど、そもそもシェアリングエコノミーで先進とか後進と言うこと自体がナンセンスだと思います。そういうことを一切考えないでシェアリングしようというのがシェアリングエコノミーですから。
例えば、洋服を作っているメーカーは、自分でデザイナーや工場を持たないで、むしろ顧客の多様化に応じて、世界中のデザイナー集団や工場をそれこそシェアリングして、販売網もインターネットで世界中に売る、という世界になるかもしれないじゃないですか。それがシェアリングエコノミーですよね。そこには、アメリカがいいとか、日本が遅れているとか、そういう議論はまったくないわけですよ。
細かい課題はたくさんありますが、それはどんなビジネスでもあるし、過渡期ではむしろ当たり前のことなので。
ですので、先進や後進といったことを気にせずに広い視野で考えていくことが必要なのではないかと思います。
一般社団法人シェアリングエコノミー協会
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