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Day2 基調講演 -共に生きる-(全5記事)

2017.01.19

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「男も女も、仕事も家庭も」男女平等社会が課す、無言の重圧につぶされないために必要なこと

提供:サイボウズ株式会社

サイボウズが「共に生きる」をテーマに開催した「Cybozu Days 2016」。二日目の基調講演では、4人のゲスト登壇者をサイボウズ青野代表が迎え、「情報システム部門と現場部門」「経済格差」「男女」3つのテーマで語り合いました。1947年に憲法によって保障された男女平等。しかし、さまざまな局面において、性差による不平等な問題が残っています。本パートのゲストは男性学を研究する田中俊之氏。男性が男性だからこそ抱える問題とは? 真の男女平等な社会を叶えるためには、どのような意識改革が必要なのでしょうか。

男女平等を憲法で決めてから実行まで70年

青野慶久氏(以下、青野):今、経済格差の問題から男女の格差の問題が見えてきました。次はこの男女というものをテーマに話を進めてみたいと思います。またいくつかデータをご紹介して、ゲストの方をお招きしたいと思います。

まず最初はこちらです。法律。1947年に新しい憲法ができました。憲法の中では男女平等を保障しています。1947年のことです。

しかしながら、そこから40年経ちまして、男女雇用機会均等法というものができました。職場において男女差別をしてはいけないということなんですね。「そんなことは憲法に書いてあるやんけ」という話なんですけれど、ここまで来るのに40年かかりました。

そこからさらに30年経った今、女性活躍推進法というものができました。これは女性活躍をちゃんと計画を立てて実施しなさいというものです。これを大企業に義務化しました。

ここまで70年です。憲法で決めてから行動に移すまで70年。ちょっと遅すぎるよねというのが実感するところです。

それから次のデータです。これは、そんなことをしてる間に、どんどん環境が変わっていますよってデータです。

私が子供の頃、昭和時代は、この青いほうのグラフ、共働きというものはどちらかというと珍しかったです。そして、赤いほう、いわゆる専業主婦が多かった。ちなみに我が家も専業主婦でした。その専業主婦の率がどんどん下がっていって、平成に入って逆転して、共働きのほうが増えています。

なので、いわゆる専業主婦家庭というものは、この現代においてはもうどちらかというと数の少ないほうになっている。こんな実態の変化があります。

日本の男性はまるで家事をしていない

続きまして、これはまた切り口が違うんですが、共働きが増えるんだったら女性も経済的に自立して、「私が稼いであげるわよ」という人が増えてきてもよさそうなんですけど、実態はそうでもありません。

これは結婚相手に何を求めるかというデータなんですけれど、女性は男性に対して「経済力」も「職業」も「学歴」も「家事の能力」も「仕事への理解」も「容姿」も「人柄」も「共通の趣味」もほしがります。男はあまり女性に「経済力」を求めません。そんなデータです。

これ、男にとってはなかなかつらいですよね。「こんなにいっぱい求められても」みたいなデータです。

それはこの既婚率のデータにも表れています。これは男性で年収に応じて既婚率がどう変化するのかというデータです。300万円未満の年収の方は20代、30代において既婚率はなんと1割を切るという。年収300万円ないと結婚できないみたいな、そんな実態がここで見えてきます。

そうすると、共働きをしているわけですから、男性ももっと家事育児を頑張ってもよさそうなんですけど、これが家事育児に費やす1日の平均時間。

女性が大体1日4時間弱ぐらい家事育児をしているのに対して、日本の男性がやっている家事育児は21分。みなさんちょっと苦笑いしましたね。21分です。「なんだ、この男女格差は?」と思うわけです。

男女平等ランキング、日本は過去最低の111位

では、グローバルで見てどうなのか。これは国別の無報酬労働、つまり家事育児の割合の男女差を表したものです。この率が低いほど男女差が小さいということになります。

男女差が小さい国は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク。なにかさっき聞いたような国が出てきますね。北欧の国が挙がってきます。アメリカ、意外とアメリカの男性は家事育児をしますね。

カナダ、フランス、スペイン、ベルギー、ドイツ、オーストリア、中国、オーストラリア、韓国などありまして、日本。日本より悪いのは、やはりトルコという不思議なデータになってます。

次のデータです。日本は結婚したときにどちらかが名字を変えなければいけません。夫婦同姓にしないといけないという法律が残っている数少ない国になってしまったわけですけれど、どちらが名字を変えるのか。結婚した夫婦の96パーセントは夫の姓になっています。つまり女性が名前を変えている。こういったデータがあります。

どうでしょう。格差を感じますね。そして、これは2週間前に発表されました男女平等ランキングです。

日本は144ヶ国中、111位。どんどん順位を下げております。ほかの国々が男女平等に向かっているのに日本はなかなか進まない。70年かけてあの程度ですから、なかなか進みません。

特に悪いのが所得格差。政治への参加。経済活動の参加。つまり政治、経済活動において男女の格差が激しい、そんなデータが上がっております。

「男性学」の第一人者・田中俊之氏をゲストに

それではゲストをお招きしたいと思います。2人目のゲストは田中俊之さんです。

田中さんと私は4年前にあるイベントでご一緒させていただいたのが出会いのきっかけです。田中先生は武蔵大学で男性学という学問を研究されていて、一緒に登壇させていただいたときの田中さんの話がもうめちゃくちゃおもしろくて。

「この人、絶対ブレイクするな」と思ってサイボウズのメディアにも出ていただいたんですけど、そのあとどんどん有名になりまして、今やテレビ、ラジオ、雑誌で引っ張りだこ。 『男が働かない、いいじゃないか!』とか『<40男>はなぜ嫌われるか』とか、「私、痛い!」みたいな、こういう本もどんどん出されています。

それでは田中さん、お招きしたいと思います。大きな拍手でお迎えください。ありがとうございます。

ついにここに田中先生に登壇してもらうことができまして大変うれしいです。

田中俊之氏(以下、田中):はい。ありがとうございます、こちらこそ。

青野:まず男性学という学問を多分あまりみなさんご存じないと思うので、ご紹介いただけますでしょうか?

田中:ええ。ぜひ知っていただきたいと思うんですけれど、男性学では「男性が男性だからこそ抱える問題」を研究しているんですね。実は男性だからこそ抱える悩みがいろいろあると思うんですけれど。

例えば、1990年代の後半から2010年代の前半にかけて日本で3万人自殺者が出ていたんですね。その内訳がどうなっているかというと、女性が1万人にのった年って1回もないんです。男性が2万何千人か亡くなっているわけです。自殺者が2倍以上男性のほうが多い。

青野:男性のほうが悩みが深い。

田中:そうですね。これをもうちょっと不思議がるべきで、同じ日本という社会を生きていて、性別によって2倍以上開きがあるってことは、これはもうあきらかに男性という性別が自殺という行為に影響を与えているだろうってことです。

調査すると、自殺は中高年の男性ほど多いんですけれど、「人に悩みを相談するのがはばかられる」って割合が中高年の男性は高いんです。だから、それは男らしさの問題ですよね。

青野:「女々しく相談するな」みたいなそんなイメージですかね。

田中:そうですね。女々しく相談するなということもありますし、僕、最近インタビューをしていて気づいたんですけど、中高年の男性は友達がいないので、そもそも弱音を吐こうと思っても吐く相手がいないという問題もあるのかなって気もしてきたんですけどね。

青野:うわあ。なるほど。友達を作るのが苦手なところがありそうですね。

田中:さっきからしている長時間労働の話なんかと関連してると思うんですけど、遊ぶ暇がないので。

青野:会社の付き合いがすべての付き合いみたいな。

田中:接点がなくなっちゃうという問題もあるかなと思います。

平日昼間に大人の男が「なにやってるんだ」問題

青野:なるほど。今日いらっしゃっている方も見る限り7、8割は男性かなと思うんですけど、男性はどうしていけばいいんでしょう?

田中:男性はどうしていけばいいかってことなんですけど、やはりさっきから昭和的って話が出てきますよね。「男は仕事、女は家庭」みたいなことが昭和的だと。これが実はけっこう今の社会でも残ってるってことを、しっかり認識しないと変革も難しいかなと思います。

例えば、男性学で「平日昼間問題」というものがあるんですよね。これがなにかというと、平日の昼間に大学卒業以降、定年退職前までの男性が街をうろうろしてるとそれだけで怪しいと思われちゃう。

どういうことかと考えると、例えば、僕と青野さんは40歳過ぎですけど、40歳過ぎの女性が3歳ぐらいのワンワン泣いてる子供の手を街で引っ張って「早くこっち来なさい」って言っていたら、「子育て大変なんだな」で済みますよね。

青野:そうですね。自然な風景ですよね。

田中:そうですよね。でも、40過ぎのおじさんがワンワン泣いていている3歳ぐらいの子供に対して、「早くこっちに来なさい」って言っていたら、下手したら通報されますよ。

青野:(笑)。平日の昼間になにやってるんだろ、みたいな。

田中:そうそう(笑)。そうなんですよ。なんでそういうことが起きちゃうかというと、平日の昼間はまともな男は働いてるはずだと思われているわけです。

青野:そういう偏見を持っちゃってる。

田中:そうです。だから平日の昼間にこんなところにいるってことは、怪しいんじゃないかってことですよね。

青野:そうですよね。私も子育てをしててすごい感じるんですよね。「イクメン社長」とか言われて、いい気になって子供を連れて平日の昼間に区役所の「ぴよぴよひろば」とかってところに。

田中:文京区のですね。

青野:はい、文京区の(笑)。行ってみるんですけど女性が多くてなかなか輪に入れないんですよね。だからまた、それが自分から育児を遠ざけるみたいな。

田中:そうなんですよ。僕も今9ヶ月の子供がいるので、地域の児童館とかに行くんですけど、土日はいいんですよ。お父さんもいらっしゃるから。でも平日の昼間に行くと僕は大学の教員なのでそういう時間がありますけど、やっぱりお父さんって誰もいないからすごく居心地が悪いんですよね。

青野:居心地悪いですよね。

田中:男の人って結局この問題も本当にしっかり考えなきゃいけないと思うんですけれど、さっきも言ったように僕と青野さん40代ですよね。僕たちぐらいの歳になった男の人がどういう状態だと一番心配されるかってことなんですよね。職業に関して。

これは当然、無職なんです。「えっ!? 40歳過ぎて無職なの?」ってみんな心配するわけです。非正規(雇用社員)であったとしても、「え、40歳でまだ非正規なの?」ってことになりますよね。

青野:はい。

「忙しい」と安心する大人の男たち

田中:実は、次に心配されるのは、おそらく、定時で帰って育休も取るような人なんです。 「えっ、定時で帰って育休も取って大丈夫なの?」って周りもなっちゃうし、本人も不安で。

じゃあ、みんなが安心で自分も安心なのが、どういう状態かというと、忙しい状態。「仕事がいっぱいあって忙しいんだよ」と、なんだかんだ、そういう人の顔って笑ってません?

青野:そうそう。「忙しいんだよ。家庭になんか戻る暇がないんだよ」みたいな。

田中:それで、なにか喜ばしいように言っているじゃないですか。だから、男の人が長時間労働していると本人も周りも安心しているって状況を変えていかなかったら、もうなにもできないんですよね。

青野:ある意味、安定状態に入っちゃってるわけですね。

田中:そうなんです。例えば、青野さんの場合、育休を取られたわけですけど、それこそ無職になる人がいたっていいわけじゃないですか。男の人で妻の出産をきっかけに育児に専念するって人がいてもいいわけですけど、そういう人はいないわけですよね。

青野:はい。あまり聞いたことがないですね。

田中:いたとしても、後ろ指さされちゃうわけですよ。

青野:そうですね。

田中:女性がそれをする分には、そのことにはあまり後ろ指さされない。

だから、「男は仕事、女は家庭」というのが昭和的と言うのは簡単だし。例えば、電通の鬼十則みたいなものを昭和的だって笑うのは簡単なんですけれど、この手の問題を考える上では、本音と建前の区別が僕はけっこう大事かなと思っています。

みんな建前では、働き方改革とかって言いますけど、先日もある企業の組合で講演して、「みなさんの企業で長時間労働ありますか。改められないのはなぜですか?」ってアンケートを取ったら、「長時間労働を問題だと思っている雰囲気がない」というのがやっぱり一番だったんですよね。

青野:なるほど。

田中:だからやっぱりこれを本当に問題だと。

青野:本当に心の底から、表向きじゃなくて。

田中:そうです。だから男の人でも、中年で無職の人がいてもびっくりしない。なにか事情があって本人がそうされてるわけですからってことが大事かなと思います。

4人に1人の男性が結婚しない時代に

青野:なるほど。でも、これだけ働き方改革が叫ばれるなか、本音では違うことを思っていて、それを変えていくのは摩擦も起きそうですね。

田中:そうですね。だからどういう方向にしてくかって話もやっぱり大事だと思うんですけど、男は仕事、女は家庭を変えてくときに、今度は「男も女も、仕事も家庭も」みたいな話が当然出てくるわけなんですよね。

そうすると、先ほど年収が低い人は男性だと結婚している率が低いって話がありましたけど、そもそも2015年のデータだと生涯未婚率が男性23パーセントぐらいなんですよ。

青野:上がってるんですね。

田中:生涯未婚率って50歳の時点で1回も結婚していない人の割合ですよね。それをもって「生涯未婚」って厚生労働省が言うのはひどいなと。53歳で恋愛して結婚するかもしれないわけですから、ひどいなとは思いますけども。でも、もう4人に1人が結婚していない社会です。

青野:すごい率ですね。 

田中:つまり「共働きしないと食べていけませんよ。だから女性も働きましょう」って言いますけど、さっきのシングルマザーの問題もそうなんですけど、シングルの人がどうやって生きていくのかって問題が、「男も女も、仕事も家庭も」という論点からは抜け落ちちゃっているんですよね。

2015年の50歳が23パーセントってことは、その人たちは80年代に20歳だったわけですよ。

青野:はい。

田中:よく結婚しないことを経済と結びつけて論じますけれど、80年代ってこれからバブルになっていくときの若者が、現に結婚しないで今おじさんになっているわけですから。

青野:ずいぶん前からある問題ということですね。

田中:そうなんですよ。今、若者が結婚とか恋愛しないことに対して、わりとすぐ貧困と結びつけますけれど、僕はそれは一面的な解釈で、本当にもうトレンドとして結婚しないこと。特に結婚しない男性が増えてるってことは起きているわけなので、ちょっと見誤っちゃいけないかなという気はしますよね。

青野:なるほど。逆に、今日は女性の方も2割ぐらいいらっしゃいますけれど、女性の方にも変わってもらわないと男性が変わりにくい面というものもあるんですか?

田中:そうですね。やはり先ほど青野さんが説明されていたデータで、経済力を男性にどうしても期待してしまうと。ただし、それは白河さんのプレゼンでありましたように女性の労働環境が悪いわけですよね。

青野:はい、悪いですね。

田中:なので、男女の雇用の場における扱いを対等にしてもらって、その上で女性の方にはあまり男性に経済力を期待することをやめてもらうと。

青野:求め過ぎないでほしい、という。

田中:そんな順番かなというふうには思うんですよね。

「専業主婦ですみません」の社会にするな

青野:そうするとまずやはり、男女の経済格差のインフラとなる部分をしっかり固めた上で、私たちも価値観を変化させて新しい時代に対応していくと。

田中:はい、そうですね。やっぱりなんと言うんでしょう。対等だけど、いざというときは頼りにならなきゃ嫌だというのは、そういうわけにはいかないじゃないですか。

先日、フランス人の女性の方と話したときに、「レディーファーストは当たり前だけど平等だ」って話をされていて。それ、ちょっとよくわかんない。アンフェアじゃないですか。対等である以上は、その部分もフェアにしていただければいいかなと思うんですよね。

女性が今後どうしてくかというときに、今、女性の活躍という話がされているから女性もフルタイムで働きましょうって流れがある気がするんですけれど、それだけが正解となっちゃうと、僕、けっこう息苦しいんじゃないかなと思っていまして。

僕たちが子供のときって「鍵っ子」って言葉があったじゃないですか。

青野:はい、ありましたね。

田中:ありましたよね。鍵っ子ってどういう言葉かというと、働いてるお母さんを批判する言葉だったと思うんですよね。

青野:ああ。「子供を鍵っ子にさせちゃってかわいそう」みたいな。

田中:そうです。「子供が小さいうちはそんなに無理して働かないで、おうちにいればいいのに」ってことですよね。

だから、僕たちが子供の頃は、働くお母さんが後ろ指さされていたわけですよ。では、今度みんな働きましょうって社会になったときに、「専業主婦ですみません」みたいなことになっちゃう。

青野:価値観が逆ブレして、「専業主婦が悪だ」みたいな。

田中:そうですよね。そうするとなにがまずいかというと、これからどういう社会を創るのか、共に生きる社会を創るというときに、やはり多様性を認めていくことが大事なわけじゃないですか。

その正解が1個しかないまま新しい正解ができただけだと生きずらい人が変わるだけで、ルールが特に進歩しているようには思えないんですよね。だから、主婦もいていいけど、フルタイムで働く人もいてもいいよねに進歩していかないと、結局誰かが後ろ指さされちゃう。

青野:なるほど。女性活躍社会だから「女性は仕事に出て働きなさい。男性はちゃんと家事育児をしなさい」みたいな新しいルールが今度はできて。

田中:そうなんですよ。

青野:合わない人は、やっぱり息苦しいみたいな。

田中:そうですよね。

青野:これは、つらいですね。

すべて自分たちで負担する必要はない

田中:しかも、家事育児やりなさいって言ったときに、なにか全部自分の家庭でやることが想定されているような気がして。

青野:確かに。どっちかがやらないといけないって思っちゃいます。

田中:実際大変じゃないですか。先ほどから議論があるように、働きながら子育てして家事をするって本当は無理なわけです。

青野:難しいです。

田中:ですよね。つまり父親になったり、母親になったりすることと、個人の能力が上がることはぜんぜん関係ないわけです。当然、家事育児に労力を割くなら、「その分、仕事はできません」ってなるはずなんですけど、「仕事はそのままです、家事育児もやってください」ってことになっちゃうと、あきらかに負担がちょっと過剰かなって。

青野:なるほど。そのあたりはやはり家族ごとに、いいバランスでやるのがよくて、答えは1個じゃないと。

田中:答えはぜんぜん1個じゃないと思いますよね。もう思いきって、いろんなものを外部に頼んじゃう家庭だって出てくると思うんですよね。お掃除とか。

青野:そうですね。家事サービスもありますからね。ベビーシッターもありますし。

田中:家事サービスを一昨日、うちも呼んだんですけど、クーラーの掃除とかをお願いするとやはり本当に根本的にきれいになるんですよ。あんなことは自分ではできないわけだから、頼んじゃったほうが早いなって気がするんですよね。

青野:そんなスキル身に付けてもあまり役に立ちませんしね。

田中:はい。スキルを身に付けるのに時間がかかるだけじゃなく、けっこうそのきれいさの基準が夫婦で違うじゃないですか。僕は、このぐらいだったらまだエアコンかけられると思ったんですよ。でも妻は、もうこんなカビでかけられないって言って。それで、キーってなっている時間があるなら、電話して業者に「お金払うのできれいにしてください」って言ったほうが平和ですよね。

青野:確かに平和ですね。どっちがやるとか、争わなくて済みますね。

田中:そうなんです。自前でやらなきゃいけないって信仰があるのがけっこう厳しいところかなと思うんですね。

青野:その辺りは、家事育児も女がやらないといけないから、今度は男もやりなさいだけではなくて、部分的にはアウトソースをどんどんしたらと。こういうところまで含めて多様な家庭像を作っていく、そんな感じなんですかね。

田中:もちろん全部自前でやりたいって方は、やられればよろしいと思うんですよね。でも、「なんで自分でやらないの?」って後ろ指さしたり、逆に「なんで今時、自分でやってるの?」って、マウントの取り合いみたいになっちゃうと馬鹿らしいので、やっぱり多様性を認めることがキーワードとしてすごく重要なんじゃないのかなと思うわけです。

違いを認めフォローし合う社会へ

青野:なるほど。おもしろいです。もうずっと聞いていたいんですけれど、時間になってきましたので、もしよろしければ最後に田中先生から見て共に生きるメッセージ、なにかヒントを頂ければと思うんですけれど。

田中:そうですね。共に生きるというときには、だから違いを認めなきゃいけないわけですよね。

多様性というのは簡単なんですけれど、意外と難しくて、つまりさっきの例で言えば、家事を自分で全部やりたい人とアウトソーシングしてもいいんじゃないかって人って価値観は合ってないわけですよ。だから、僕は、実はわかり合うことは難しいと思うんですよね。

そのときになにができるかと言ったら、やはり敬意を払うことだと思うんです。つまり、自分のやり方とは違うけれど、そういうやり方もあって、あなたはそういうふうにしたんですね、と、きちんと敬意を払うってことですね。

あとはもう一個、さっき自己責任論というのが出てきたんですけれど、例えば、全部自分でやると決めていっぱいいっぱいになってるお父さんお母さんがいたとして、「だってそれはあなたが自分で決めたんだから、いっぱいいっぱいになってるのは、あなたのせいでしょ」って言うのをやめたほうがいいんじゃないのかなと思って。

なにが言いたかというと、選択することと、それはあなたの責任ですよねってことは僕、分けてもいいと思うんですよね。

青野:なるほど。おもしろい。

田中:そういう選択をして失敗しちゃったんだったら、「ああ、じゃあフォローしてあげますよ」でいいじゃないですか。

そこで、「だって、あなたが好きで自分でやって、だからそんな目に遭うんだよ」とか。例えば、家事を外部化したときに、それで逆にエアコンが壊れたとして、「だから、外部に任せてるからだ」ってことじゃないんじゃないかなという気がして。

自分と異なる価値観の人が失敗するとうれしがりがちじゃないですか。

青野:自分の価値観が認められた気がして、「やっぱりな」みたいな。

田中:「ほら、見たことか」みたいになりがちじゃないですか。だからそういうことがなくなっていけばいいかなって思うんですよね。

青野:なるほど。まさに価値観の違う人と付き合うヒントですね。敬意を払いながら、かつ責任をそんなに求めても生産性は高くないよと、あまり出てくるものないよと。それよりはまず、お互いに助け合う前提のもとに違いを認め合うと。

田中:そうです。だって助け合っちゃったほうが、例えば会社だったら結局うまく運営がいくわけですよ。

青野:そうですね。

田中:足の引っ張り合いをしててもしょうがないわけで。小さい自尊心を満たすことよりも、会社だったら会社という全体、もう今はもっと大きな話をしているわけで、社会という全体を多様性を認めて円滑に進めていくためにはどうすればいいか、このことをぜひ考えてもらえればいいかなと思いますね。

青野:ありがとうございます。大変示唆に富むお話をありがとうございました。

それでは田中先生を大きな拍手でお送りしたいと思います。田中先生、今日はどうもありがとうございました。

田中:どうもありがとうございました。

青野:相変わらずおもしろいですね。ずっと聞いてたいですね。最近本当にテレビでもよくお見かけするようになって、今日お話を聞けた人はラッキーだったんじゃないかなと思います。

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