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産業用ドローン時代の幕開(全3記事)

2016.08.03

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「ドローン宅配」戦略特区の実験データで実現への道を 千葉・熊谷市長の攻めの意思

提供:新経済連盟

ドローンのビジネス活用で未来はどう変わっていくのか? 4月7日、8日にかけて開催された「新経済サミット2016」にて、行われたセッション「産業用ドローン時代の幕開け ドローンが開拓する新たなB2B市場」。元『WIRED』の編集長で3D Robotics社のCEOを務めるクリス・アンダーソン氏、千葉市長の熊谷俊人氏、自律制御システム研究所の野波健蔵氏が登壇。BtoB領域におけるドローン活用の可能性と解決すべき課題などについて、国内外の事例を挙げながら話しました。

すべてがオープンになるわけではない

野波健蔵氏(以下、野波):今、「Dronecode」の話もありましたが、やはりまったくそのとおりでして。いわゆるROS。Robotic Operating Systemの略をROSと言います。それからLinux。これもオープンソースですね。ある程度こういうかたちでこれから進んでいくことは間違いないです。

ただ、実はすべてがオープンではないんです。勘違いされるといけないんですけど、すべてオープンかというとけっしてそうではなくて。重要な、先ほどのIMUのアルゴリズムとか、こういうのはクローズなんですね。

程近智氏(以下、程):IMUというのは自律制御のところですか?

野波:Inertial Measurement Unit (IMU)のことです。3軸加速度、3軸ジャイロ、3軸方位。これでいわゆる姿勢制御をするんですけれども。こういうところはかなりクローズになっていて。一方で、フライトコントローラーは逆にオープンという。

例えば、これが進んでいくと、自分で飛行中に自分の自己診断をしながら、異常がないかどうかを常にチェックをしながら飛んで行くくことができる。

とにかく無人機が、有人機と本質的に違うことは、飛行機というものは、もう雲の上に行ってしまえば、常に天候は晴れ、快晴でなにもない、偏西風だけが吹いているという、安定した空間を飛んでるので、あれは飛んで当たり前なんです。

逆にドローンというのはものすごく過酷な環境で。障害物は多いわ、風は吹いてくるわ、場合によっては雷が来るとか、あるいは静電気が発生するとか。さまざまな悪環境の下で飛ばなきゃいけない。ですから、そういうところで、異常がないかどうかを常にチェックする。

そういうところは逆にオープンになっていくでしょうね。ですから、オープンの部分とクローズの部分があるということ。

もう1点は、先ほど標準化というお話ありました。これも実はアメリカでNASAとVerizonという携帯電話の大手の会社さんが連携して、UTM、「UAV Traffic Management」の略なんですけれども、これに非常に力を入れてやっております。

先ほどクリスに聞いたら、2つ方法があって、「ロングレンジとショートレンジのプロジェクトが走ってるよ」と言われたんですが。

日本も世界標準を作っていく立場に

日本も、今の熊谷市長のお話のような、幕張新都心でドローンがボンボン飛び……。おそらく1機、2機飛んだところで意味ないんですよね。これがビジネスになるためには、数珠つなぎでどんどんフォーメーションをしながら飛んでいく。そういう状況を作りださなかったら、これはビジネスにならないです。

したがって、それにはAir Traffic Controlがどうしても必要で。運行管理システムといいましょうか、そういうものが必要です。

アメリカはアメリカでやっているんですけれども、アメリカは今はそういう意味で非常に厳しくて、FAは飛行許可を出していないんです。たぶん、無人機と有人機を一元管理するようなシステムができると、一気にアメリカは「もうドローン飛んでいいよ」ということで全面開放になるんです。それについては、あとでちょっとクリスに聞いてください。

日本はどうかというと、やっぱり将来ドローン同士が通信しながら飛ぶ、インターネットにつなげて飛ぶというような時代も必ず来ます。

そういうところで、やはり日本独自のそういうAir Traffic Controlを作りながら、ある段階で世界標準にしていったらいいと思うんですね。アメリカとかヨーロッパ、EUなどのみなさんと相談しながらやってく。

今までの技術は、ほとんどアメリカから入ってきてますけれど。そうではなくて、日本でしっかり作って、UTMの本質はなんなのかを見ながら、あるレベルでテーブルで一緒に会って、「こっちがいい、あっちがいい」というかたちで世界標準を作っていく。

だから、もう基本的に日本も全部やっていかないとダメなんですね。「ここはもうやらない」ではなくて。今までいっぱいそういう失敗がありますね。

技術で勝って、ビジネスで負けている。これをなんとかこのドローンに関しては、技術でも勝ち、ビジネスでも勝つという、そういうビジョンを描く必要があるのかなと思います。

:なるほど。Air Traffic Controlというものを、非常に重要な社会インフラとして、日本はまだ作るチャンスがある。

国をまたがなくても、まず国単位で作っていかないといけない。そして世界のガラパゴスにならないように、世界でもちゃんと使えるようなインフラを作っていくということが非常に重要だということですね。

データでドローンは安全だと実証できる

クリスさん、いかがでしょうか? 今の発言を受けて、Traffic ControlあるいはAir Controlに関して、なにかご意見ありますか? 「オーストラリアのほうが、アメリカと比べて、前衛的である。アメリカは保守的だ」といった見方もあるようですが。 

クリス・アンダーソン氏(以下、アンダーソン):正直申し上げると、現状はかなり混乱しています。

ただ、市長がお話になった実証実験ということにはたいへん勇気づけられております。UTMを、例えば海洋の上である程度制限的に使うというのはとても賢いやり方だと思います。

これについては、委員会とか、あるいは法規制当局が決めることではなく、現実世界での実証実験こそがすべてだと思います。 実際のデータを使って、うまくいくのだということを証明する。

それがまさに必要なことなのです。日本、アメリカでそれぞれ委員会があり、私はアメリカ側、野波先生は日本の委員会に関わっていますけれども、実は、規制当局もまったく何をしていいかわからない状態です。

これまでの過去100年間、規制当局は、数社しかない航空会社や、数限りある組合と対応するのみでよかった。物事は比較的単純だったのです。しかし突然、何百万個の小さな物体が空を飛んでいる時代になってしまった。

「エアバス製なのか」「ボーイング製なのか」「どこが作ったのか」そういう問題ではないんですよね。3年前には存在しなかったような会社が作っているドローンなんです。

そこで、どう対処するかということを考え始める。「排除する」というにはもう時期が遅すぎるということで、我々に対して門戸が開かれ、協議に参加するようになるのです。

「安全に飛行させるるにはどうすればいいのか」という問いに対しては、「技術があります」と我々は答える。「インターネットにつながっています。飛行場の近くや、人の近くの上空を飛ぶのを阻止することもできます。スマートなデバイスです」と説得します。

すると、こんな問いかけが来ます。「安全である保証はあるのか? 裏付けとなるデータはあるのか?」「ありますよ。もう何百万というドローンがインターネットとつながっています。データはもちろんあります」。

「それは航空宇宙グレードのデータなのか?」「我々は航空会社ではないので、それに匹敵するようなデータではないけれども、データとしては十分有効なものです」。このようにして、彼ら側も新しいことに対して大分オープンになってきてくれています。

ですから、実証実験できちんとデータを得るという千葉市の試みは、とてもポジティブなことだと思っています。印象論だけでドローンは危ないと思っている人も多いですが、ちゃんとデータで安全だと証明できれば、いろいろなことが非常にやりやすくなると思います。

保守的にならざるをえない自治体の実験場所として

:熊谷さんに一言お願いしたいと思います。これから新しい社会インフラが必要だと。先ほど先生の話にあったように、ドローンが数珠つなぎで飛んでるトラフィックレーンみたいのがあったりとか。アフリカでは、今、ドローンエアポートを作ろうじゃないか、空港が必要だというような話があるんですけれども。

その辺り、千葉市はこれから最先端を行かれるんですかね。どんなことを考えられてますか?

熊谷俊人氏(以下、熊谷):当然、実証実験をやっていくなかで、例えば飛行場だとか練習場だとか、いろんな議論は出てくると思います。私たちはできる限り、行政として一番それに対して積極的にお応えをしていきたい、そう思っております。

私も民間から行政に来て、本当に感じるのは、やっぱりどうしても行政体というのは、リスクに対してかなり臆病に、とくに時代が進めば進むほどなってます。

そのなかで、やはり全国的に同じように適用していくというのはなかなか難しいと思っていますので、特定地域からだけでも、まずはデータを積み重ねていかないと。全体の議論ができずに、やる前からNoとYesの人で議論をしても、延々にこれは水掛け論になってしまいます。

これに限らず、マイナンバーであったり、IoTであったり、さまざまなことについて、千葉市、もしくは千葉市の特定区域からとにかく実証実験なりで、実際にやってみて、その上で、そのデータのなかで現実的な議論をしていけばいいし。それによって私たち千葉市としての、街の利益も享受したいと思っています。

ドローンに関して、相当いろんなものが出てくるのは、我々も十分理解してます。どちらかというと、行政的にはディフェンシブになる分野が多いと思ってます。だからこそ、我々という、千葉市という行政体が、それに対して穴を開けて、データを積み重ねていく、そのお手伝いをしたいなと思っています。

:ありがとうございます。非常に力強い意思を感じます。データを見て、ちゃんとみんなで正しい判断をしていくということが大事だと思います。

どうしてドローンを使ったデータ収集に関心を持っているのか?

それでは少し限られた時間ですけれども、フロアからの質問を受けたいと思います。挙手をお願いいたします。時間の関係上、お二人続けてまず質問だけ聞きたいと思います。お願いします。

質問者1:クリスさんに質問があります。ビジョンを聞いて、たいへんインスピレーションを感じました。アンダーソンさんのビジョンは、ドローンを活用することによるデータ収集ということであるわけですけれども。

私が質問したいのは、なぜデータ収集に感心を持っているんでしょうか? そしてなぜドローンによってデータ収集をするのか。ドローンでデータ収集することが、ほかの方法よりも役立つことはあるのでしょうか? 農業とか建設とか、あるいは保険業界の話があったわけですけれど。

質問者2:非常に参考になるセッションをありがとうございます。セッション前は、我々がこういったことに参入するのには時間がかかると思っていたんですけれども。

DJIはAccel Partnersから出資を受けていて、InteはYuneec社に投資しているわけです。Yuneecはヨーロッパで、DJIはアメリカでそれぞれ強い。そしてかなりのシェアを獲得しております。今、聞いた戦略というのはデータ収集が重要だということですけれども、これは生活全般にインパクトを及ぼすんでしょうか?

また、ジオフェンスというもので我々の周囲に囲いをつくるというのは可能なのでしょうか?

:そうすると、クリスさんに対する質問ですね。

質問者2:そうですね。

世界を理解するためには測るしかない

アンダーソン:2つともたいへんいい質問だったと思います。まず、最初は、なぜデータ収集をするのかということですが。少し私自身の話をさせてください。

私はもともと計算物理学の勉強をしていました。物理学者というのは、計測することで世界を理解します。私自身、物理学者としては優秀じゃなかったので、ほかのことをやり始めたのですけれども。

ただ、この「世界を理解するための最良の方法は、世界を計測することだ」という考え方は、私の中で深く根付いているんです。

物理学の1990年代始めにおける功績、それはインターネットを作ったことです。インターネットはもともと物理学の研究所同士をつなげるためにつくられ、WWWもCERN(欧州原子核研究機構)でできました。最初のビッグデータは、膨大な物理学のデータだったわけです。

しかし、実験を行うのにあまりにも高額なお金がかかるようになり、物理学の世界は機能しなくなってしまいました。でも、物理学のスキルを応用してインターネットが誕生し、ビッグデータが誕生し、Webが誕生したわけです。

そして今、ドローンの世界が私の実験室だと言えます。原子核の実験に用いられる加速器がデータを集めるのと同じように、ドローンというのはデータを収集することができます。ただ、それは抽象的な事象ではなく、リアルな世界についてのデータです。私は物理学者であり、世界を理解するためには測るのが一番だと思っています。これが、私がデータに関心を持っている理由です。

それから2つ目の質問。誰が勝利を収めるかということですが、今、おっしゃっていたDJIあるいはYuneec社の状況、これはまだ始まったばかりです。

今のドローンの状況をパソコン発展の経緯に例えると、1984年くらい、業界として本当に始まったばかりの段階です。

2つ目のポイントとしては、まだ個人消費者向けであるということです。先ほどの話で出た2つの中国企業は、個人向け製品の値下げ競争をしています。そのなかで、勝ち残れるのはやはり中国企業だと思われるかもしれません。ところで、Yuneec社は我々とパートナーシップを結んでおります。ご存知ない人も多いかもしれませんが、今後いろいろニュースが出ると思います。

しかし、話はそこで終わりではありません。携帯と同じです。iPhoneが登場し、最初はただの通話用として、ほかの電話会社との競争がありました。次にAppStoreが登場しました。そうなると、スマホというのはもはや電話ではなく、プラットフォームになったわけです。

そして、またそういったような消費者向けの携帯はビジネス用途としても使われるようになりました。

今のデバイスからわかるのは、ほんのわずかな未来

これと同じことが今、ドローンに起こっているのです。個人消費者向けではなく、産業用途としてどんな可能性があるか。ドローンそのもの、あるいはデータそのものの話ではなく、それをどうやって使うか、ということです。

今あるドローンというのは、今後どのように発展していくか、将来の可能性のほんのわずかな部分を垣間見せてくれるだけです。 これから、ドローンはもっとたくさん、大群で飛ぶようになります。また、完全に自律型のもので、GPSだけではなく、野波先生が開発しているSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)を搭載したものが出てきます。

まだ本当に初期の段階ですから、中国がすべてを勝ち取ってしまうかもと心配するには、あまりにも時期尚早です。あと数年もすれば、プラットフォームプレイヤーがドローン市場でも勝利を収めはじめると思います。

それからジオフェンスについての質問は、ちょっとよく理解できたかどうかわからないんですが。

質問者2:DJIについて読んでいたなかに、ジオフェンスのことが書かれていたんです。軍事基地とか、あるいは空港の近くにドローンが飛んでいる場合には、そのドローンの制御が必要ですから、なにかジオフェンスのようなものが設けられるということですが、ドローンでデータ収集を行うにあたって、まったく人のいないところでやるんでしょうか?

アンダーソン:手短に答えます。これは規制に関係する話ですね。ドローンは安全であることが非常に重要です。しかし、何をもって安全とするか、というのはとても複雑な問題です。空港とかプライバシーの問題だけではありません。あるいは、さまざまなレベルの規制や、ほかにも空を飛んでいる飛行機などのことだけを考えていればよいわけではありません。

「安全」が意味するところについて考える際、こうしたさまざまなレイヤーの情報が必要になるのです。ドローンはインターネットに接続されているので、完全なデータポイントを送信し、インターネット経由でジオフェンスを生成できます。

このように、操縦者が単独で知り得るよりもっと多くの情報を把握し、使うことで、ドローンの飛行をより安全にすることができるのです。これはポジティブな展開で、重要なことです。まさにインターネットに接続されたデバイスの強みで、つながっていない単体のデバイスだけではカバーできないことです。こうした機能は、今後は必須になってくると思います。

空中で作業ができるようになる未来

:熊谷さんと教授、最後になにか一言、10秒とか20秒とかしかないんですが、なにか決意表明でもけっこうですけれど。

熊谷:では、私のほうから。ドローンに関して我々は今、宅配の話が具体化してますが、それ以外にもさまざまな分野があると思っています。

そのなかには、規制や実際にやるのはなかなか難しい分野もあると思いますが、ぜひなにかドローン関係で実証したいものがあれば、まずは我々千葉市にご相談をしていただければ、私たちと国でそれを実現する方向のなかで、なにが課題かという議論をお互いにしていきたいと思ってます。そういう存在として千葉市をご活用いただきたいなと、そう思っています。

:ありがとうございます。野波先生。

野波:ドローンには3つのミッションがあるんですね。

1つは情報を取る。今、クリスが言ってました。赤外線とかいろんな機器を搭載して、空から情報を収集する。これがまず1つです。だいたいもうこれはほとんど普及し始めて、ビジネスに移ろうとしてます。

2つ目のミッションは物を運ぶことなんですね。これは今、千葉市と一緒に世界に先駆けてやりたいと思っていることです。

その先になにがあるのか、実は私どもも今やってるんですが、マニピュレーター、ハンドを持って飛ぶ。つまり作業をするんですね。空中で作業をするロボット、飛行ロボットが実現される。おそらくあと10年先になりますけれども。

そうすると、例えばいろんなことができます。送電線の点検から、そのメンテナンスから、高層ビルのいろんな建築なんかも一部できるようになっていくと思うんですね。

そういう大きな夢がある。ぜひこれから大きな未来が待っていることで、よろしくお願いします。

:ありがとうございます。本当に、これから、まだ始まったばかりだというのがキーメッセージだと思います。みなさん本当にありがとうございました。

(会場拍手)

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