2024.10.10
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基調講演「『はたらく育児』3つの課題」(全1記事)
提供:株式会社リクルートホールディングス
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大久保幸夫氏:リクルートワークス研究所の大久保でございます。よろしくお願いいたします。今、3つの課題のお話がありましたが、これはずっと長く古くからあり、かつとても重い課題です。
でも、先ほどの藤澤秀昭さん(経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長)のお話にもありましたし、私も「ダイバーシティ経営企業100選」(平成27年より「新・ダイバーシティ経営企業100選」)の審査員を4年間務めているなかで感じているのですが、この4年の間で劇的に変わってきています。
長い間、私は雇用問題を担当していますが、女性活躍については昔から言われていたのにも関わらずほとんど変わってこなかったんです。ときどき景気がよくなると変わりそうな雰囲気が出てくる時もありますが、景気が悪くなった瞬間にくるっと元に戻ってしまうんです。そういうことを繰り返してきたので、長くこの問題に関わっている人は、3年ぐらい前までは「また同じでしょう。どうせまた一時的な話で、きっと景気が悪くなったら、元に戻るんだよね」とみんな言っていたんです。
ただ、今回は違うみたいです。もう明らかに、この4年間で変化が起こってきました。最初に変わってきたのが、東京にある大きい会社。ここがずいぶん変わりました。
逆に言うと、今は、東京と地方、あるいは大きい会社と小さい会社の差が広がってきた感じがあります。けれど、確実に変わってきている。もう一押し、そんなところまで来ているような気がしています。
ですので、このチャンスが到来している間に3つの課題を本格的にどうにかするために、課題を構造化、可視化することにチャレンジしてみました。これは午後のお話につながっていく内容になると思いますのでみなさんに共有したいと思います。
では、パワーポイントを見ていただきたいと思います。「『はたらく育児』3つの課題」ということでお話をしたいと思います。
まず、1つ目の課題です。妊娠・出産で仕事を続けられないという課題です。これは先ほど言われたとおり、妊娠をしたときに働いていて、出産してから1年経った段階で仕事をしていないという人が、出生動向基本調査によれば62パーセントになっている。
この数字はたびたび引用されていますが、実はこれは2010年のデータです。この次の結果はもう少しで出てくる予定ですが、少しよくなっていると思います。それでも、62パーセントは相当重い数字です。
さらに、先ほどの紹介にあったとおり、これはリクルートワークス研究所で実施した調査ですが、第一子を産んだあとに仕事を辞めてしまった女性の41パーセントが「辞めなければよかった」と後悔している。この構造をなんとかしたいというのが1つ目のテーマです。
では、「なぜ妊娠・出産のタイミングで辞めてしまうのか?」ということです。左側のほうにありますけれど、一番パーセンテージが大きいのは、「しばらくは育児に関わりたかった」という回答で43パーセント。そして、体調が不安定で、その後に育休があることはわかっていたけれど、その前で「もう無理だ」と思って辞めました、というのが21パーセント。
これは価値観の問題だったり、体調の問題だったりするので、こういう理由がすべてなのであれば、ある意味、致し方ないことだろうと思います。
でも、そうではない理由もけっこう多いです。この緑の枠で囲っているところを見ていただきたいのですが、「働ける環境ではない」というのが41パーセント。これは具体的には、労働時間が非常に長くて、さすがに育児しながら続けるのは無理だ、などということです。
あるいはもともと、どちらかというと、男性中心の職場で女性の働く環境があまり整っていないなかで、さらに子育てをしながらだとあまりにもハンディがあって、そこに付いていくのは難しいと感じる。そのようなことが理由になっているようです。
「働ける仕事ではない」というのは、たぶん「働ける環境ではない」ということと重なっているところもあると思うのですが、おそらく周りに出産後も仕事をしている人がいる職業分野ではないという意味合いが入っているのだと思います。これもけっこう多いですね。
もう1つ。けっこうショッキングなのは、「産休・育休取得条件を満たしていなかった」という人が34パーセントいることです。制度の面については、これほど整ってきたと言われているにも関わらず、34パーセントの人が「育休等の条件がその会社、働く場では整っていなかった」と言っています。
実はこれは雇用形態の問題と密接に結びついています。内閣府の別の調査である「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート」というものを見ると、妊娠していたときに正社員で働いていた人の52パーセントは出産後も仕事を続けていますが、妊娠していたときにパートタイマーで働いていた人では18パーセントしか仕事を継続していません。
62パーセントの仕事を辞めた人すべてが出産を理由に辞めているわけではないのです。これはデータでもわかるのですが、けっこうな数の人が「期間契約満了」で辞めています。その人自身は、子どもを産んだあとも働く気だったかもしれないけれど、会社側から「もうこれでおしまいです」と言われた。つまり契約更改してくれなかったということですね。
この雇用形態の問題も、実は密接にこの34パーセントというところが示しているのだろうと思います。
もう1つ、黄色く囲っているところがありますが、これはなかなか重いデータです。もともと妊娠した時には仕事をしていて、そのあとに仕事を辞め、辞めたあとにそのまま非就業のままか、もう一度仕事に就くか、それがこの就業者と非就業者の違いを示しています。
いったん辞めたあとも、育児をしながら働ける環境の会社を探して、就職をして、仕事をした人もいるわけです。
この違いは何によって一番説明できるかというと、家族が賛成しているかどうかです。就業した59パーセントの人は、配偶者が働くことに賛成していたんです。でも、そうではない人が40パーセントいます。
もっと大きいのは父母です。ここには義理の父母を含みます。就業している人では、42パーセントが賛成ですが、非就業者では22パーセントしか賛成がいない。この違い、これもやはり実際に仕事を続けられるかどうかということに、かなり大きく結びついているのだろうと思います。
長く言われてきたことですが、この父母のスコアが低いですよね。これを見るとやっぱりいまだに「3歳児神話」が生きていると感じます。
「3歳児神話」はご存知ですか? 3歳までは子どもにとって大切な時期なので、母親がそばにいたほうがいいというものです。本当は母親でなくてもよくて、誰かがきちんと面倒を見ればいいのですが、「母親がそばにいなければいけない」という考え方があります。1998年の厚生白書で、この「3歳児神話」には科学的根拠はまったくないということが発表されましたが、いまだに根強く信じられているんですね。
こういうことが重圧となっているので、仮に女性が働き続けたとしても、その父母が「いや、母親は子どものそばにいたほうが良い」と思っていたり、言っているかもしれません。
なにかちょっと子どもに問題があると「母親が働いているからだ」と、すぐ働いているせいににされてしまうので、意地でもそうしたくないとか、弱音を吐けないみたいなことになってしまい、最後は女性本人のストレスの問題に関わってしまう。そういうことにもつながっている感じがします。
ここまでが1つ目の問題。「どうしたらいいですか?」ということを午後のパートでみなさんに議論をお願いしたいと思います。
次は、先ほど言った、ストレスについてです。仕事と育児を両立している人の8割がストレスを感じているという話がありました。この実態を明らかにしようと、「働くマザーのストレス調査」を、2015年にリクルートワークス研究所で実施しました。
おもしろい発見がありました。比較対象のために、子どものいる男性、働くファーザーと比べてみたところ、働くファーザーはストレス項目のほとんどが仕事に関するものでした。
反対に、働くマザーのストレスについては、仕事とプライベート、いわゆる家庭と生活の問題がちょうど半々になっている。これは、その分だけストレスが大きくなっていると理解してもらって構わないと思います。
そのストレスはどんなストレスなのか? 考えられるストレス項目をぜんぶ並べて、「どのぐらいそのストレスが重いのか?」ということと、「あなたはそのストレスを感じていますか、経験していますか?」ということをセットで調査しました。
そうしたところ、日常においてストレスを感じることが因子として8項目。そして、時々起こる、我々がライフイベントと呼ぶものにおいてストレスを感じることが6項目。いっぱいありますよね。
まず、日常のストレスについてです。この結果を発表した時に、いろんなところから反響があって、すごく話題になりました。特に反響が大きかったのは、働くマザーの日々のストレスで一番ストレス値の高いものが「夫の態度ストレス」だったことです。
(会場笑)
代表的なものが「配偶者の性格や態度」に対してストレスを感じる人の結果で56パーセント。ストレスの重さが100点満点で59点。
これが「配偶者の家事への非協力」「配偶者の子育てへの非協力」に対するストレスを上回ったんです。つまり、実際に家事や育児をどれぐらいシェアしてくれるかということ以上に、態度がストレスになっている。「なにか手伝おうか?」「手伝うじゃないだろ、自分の子どもなんだから!」。もうそこから始まるわけです(笑)。
これはすごく共感するという人もいっぱいいましたが、「うち、ぜんぜんそんなことないよ」という人も実はけっこう多いんです。56パーセントの人はこう思っていて、逆に44パーセントの人はそう思っていない。大事ですね、結婚相手の選び方(笑)。
(会場笑)
あとは結婚して最初に夫婦でどういう約束をするかということはすごく重要です。現状はけっこう大きなストレス項目になっています。これはリクルートの『ゼクシィ』に解決してもらいたいなと思うんですけれど。
このほか日々のストレスいっぱいあります。けっこう「美容・健康ストレス」も多いです。忙しくて慢性的な睡眠不足である、肌が荒れる、加齢を実感する、そういうことがたくさんあるんです。
それから「生活の対人ストレス」。さっき菊池さんがおっしゃった、PTA活動はすごく大変だと感じるようです。母親が働いていることを前提としないイベントがいっぱいあるじゃないですか。ああいうものがいまだに変わらない。
それから「仕事の対人ストレス」「仕事の重圧ストレス」。仕事で正当に評価されないし、顧客からはクレームがあるみたいな。こういうものが多くの人にあるんです。
それから、「子どもの教育ストレス」「子どもの世話ストレス」「仕事の時間ストレス」とあります。特徴的なのは、子どもの世話をしていることのストレスは小さいということです。子どもはやっぱりかわいくて、子どもと向き合うこと自体は嫌ではないけれど、その周りに嫌なことが散らばっている。そういうことがこの日々のストレスから見えてきます。
次に、ライフイベントに関するストレスについてです。ライフイベントのなかで、ちょっとショックだったのが、「ハラスメントストレス」に関する結果です。そのなかでも、パワハラを経験している人が7パーセントいるんです。7パーセントって多いですよね。その7パーセントの人にとってのストレス値は100点満点中78点。パワハラに対してすごく強いストレスを感じていることがわかりました。
あとは、やっぱり「家計ストレス」。「将来の生活費・教育費の不安」は43パーセントが経験しており、ストレス値は100点満点で72点。全体のなかでお金に関する問題がすごく大きかったです。たぶん共働き家庭でも、お金の不安がなければけっこうクリアできる問題がいっぱいあるんだと思います。ここも、実は本質的な問題として取り組まなければならないテーマなのかなと思います。
ここに8項目、6項目並んでいますが、これが実際には複雑に絡まりあってくる1個、1個じゃなくて、複数をみんな経験しているのです。1つのストレスがほかのストレスに波及してくるんですよね。
例えば、「夫の態度ストレス」が、「夫婦不和ストレス」になり、それが「家計ストレス」につながる。あるいは「夫の態度ストレス」が、「子ども世話ストレス」につながり、「子ども教育ストレス」や「生活の対人ストレス」、「美容・健康ストレス」につながる、というように。ぜんぶが連鎖的につながっていって、こじれていくんです。
もともと、時間がギリギリで、仕事と育児と両方頑張っているときというのは、どんどんストレスがのしかかっていくじゃないですか。気が張っている間はなんとかなりますが、少し疲れたとき、ペットが亡くなってしまったときとか、気が弱くなるときがあるじゃないですか。ああいうときにガクッとそういうストレスに負けてしまう。そんなギリギリのところに多くの女性たちが立たされているのではないかなと思います。
なかには「もう無理」と思って仕事を辞めてしまうこともあると思います。とくに2人目出産するタイミングで「もうこれ以上は……」と思って辞める人たちがけっこういます。こういうストレスに関して「なんらかの軽減措置、うまい方法、サポートがないだろうか?」ということが2つ目のテーマです。
3つ目。「再就職したいのにできない」。こういう問題があります。総務省の「就業構造基本調査」によると、現在働いていないお母さん全体を100とした場合、なにか収入のある仕事をしたいと思っている人が60パーセントいます。
6割の人が働きたいと思っている。これはさっき言った家計ストレスと関わっていて、やはり収入が欲しいということです。それにも関わらず、実際に仕事を探したかどうか聞いてみると、探した人は15パーセント。働きたいと思っているにも関わらず、その四分の一の人しか実際には仕事を探す行動を行っていないんです。
ここになにか大きな壁がありますよね。なぜでしょうか? なぜ働きたいのに仕事を探さないんでしょうか?
理由は大きく2つです。1つは「子どもの保育の手立てがない」、これが30パーセント。保育園の問題。けっこう怒りが溜まってあちこちで爆発をして、最近、色々なニュースになっています。それが1つ。
もう1つは、家事とか育児が多忙で、仕事はしたいけれど、とてもじゃないけど「安定した時間を作れない」が23パーセント。
この2つがかなり大きな理由になっているようです。この2つの環境をどうやって整えていくのか、ということですね。
実はもう1つあります。じゃあ、仕事を探したら就職できるのかというと、すぐにはできないんです。仕事を探している人のなかで就職できる人は実はごく一部なんです。ここにも大きな壁があります。これにも理由が2つある。
1つは「企業側から断られた」で38パーセント。実際に育児なんかでブランクがあると仕事の能力ってやっぱり落ちるんですね。ブランクはダイレクトに影響を与えます。
例えば、もともと専門職で働いていたとすると、しばらくのブランクを経て、もう一回働き直そうとすると、実際にはもう1度トレーニングを受けるとか、職業訓練を受けるとかしないと、なかなかすぐに働けないです。昔とった杵柄のままだとなかなか難しいところがある。
それで、採用面接を受けて企業に断られると、「ダメだな」と思ってそのままくじけてしまう。
もう1つは「希望条件に合わない」ということです。何が希望条件かと言えば、職場が「徒歩・自転車圏内」にあること、が81パーセント。すごく近いですね。そんな近くに働ける場所はあるでしょうか。さらに、「勤務時間が3~5時間」という人が56パーセント。この条件を満たす求人は相当少ないと思います。
もちろん企業側も、これから大きな人手不足の時代を迎えますから、いろいろと業務を分けて、部分的に採用活動をしていくことも増えていくと思いますが、それだけでは解決できないのでもう少しいろんな方法を考えないといけません。例えば、働く側も「どうやったらもう少し安定的に働けるのか」と考えないとけっこう難しい。
「再就職したいのにできない問題」には、わりと難しい問題がいっぱい横たわっている感じがします。
ここまでにお話ししてきた3つの課題を解決したいと思います。けっこう大変だなという雰囲気がみなさん表情に出ているように感じますが、冒頭で申し上げたとおり、今ならなにかできそうな雰囲気があります。
国も、このテーマについては予算を大きくしていますし、大手企業を中心に会社側も今、ずいぶん変わり始めてきている。このチャンスを活かして、国と企業と男性と女性、みんながその気になればたぶん変わるんです。そこまでこの勢いで一気にいっちゃいましょう。
日本はなかなか変わらないですが、変わるときはパッと変わる。なので、そこまでたどり着けるかどうか。そんな問題なんじゃないかなと思います。
リクルートワークス研究所のメンバーはみんな、いきいきと働くことや学ぶことに貢献したいと思っています。そこでいつもみんなで使っている合言葉があって、それは「ドミノの1枚目を倒そう」ということです。
大きな問題を解決するときに1つを解決しただけでは全体の解決はできないけれど、なにか1つ、一番大事な1枚目のドミノを倒すと、あとは連鎖的にいいほうに動いていくことがありますよね。
その1枚目のドミノを、この「iction!」の活動を通じてみんなで倒してみたいと思っています。変わり始めると、変わります。一番難しいところをちょっとツンっと突いてみることで、本当に大きく変わっていくかもしれない。
今まで働くことと子どもを育てることというのは非常にコンクリフトを起こす大きなテーマとして何十年も横たわってきました。私と同じ世代の女性は、男女共同参画、男女雇用機会均等法第一世代と言われていました。
その頃は本当に、今と比べ物にならないぐらい厳しい状況でした。ずいぶん変わりましたが、でも、まだまだです。もう1歩なんとかすることが、我々の世代の責任でもあるし、これから続く若い人たちにとっての最高のプレゼントになるのではないかと思います。
今日、3つの課題を可視化して、「何が起こっているのか?」ということについて全体構造を整理して、問題を見えるようにさせていただきました。午後からは3つの課題について、それぞれ分科会、パネルディスカッションがあって、議論していただけることになっています。それからさらに、みなさん自身が「できることは何かな?」ということを見つけて帰っていただけたら、と思っております。
ということで、「『はたらく育児』3つの課題」ということでみなさんにいろいろなデータをご提供させていただきました。以上です。どうもありがとうございました。
株式会社リクルートホールディングス
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