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2015年12月2日 普天間移設の代執行訴訟(全3記事)

政府の新基地建設強要は適法か? 沖縄県側が提出した準備書面(要旨)

2015年12月2日、沖縄県の辺野古新基地建設問題に関して、国土交通省が沖縄県知事・翁長雄志氏の「辺野古埋め立て承認取り消し」の執行停止を求める「代執行訴訟」の第1回口頭弁論が開かれました。翁長氏は、政府の代執行への反対を表明する意見陳述を行いました。本パートでは、口頭弁論にあたって翁長氏ら沖縄県側が提出した準備書面の内容をお伝えします。※このログは(沖縄タイムスの記事)を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

はじめに

国土交通大臣は、沖縄県知事が平成27年10月13日にした普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認の取り消し(以下「本件埋立承認取消」という)について

(1)法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定に違反し、

(2)地方自治法(以下「地自法」という)第245条の8第1項から第8項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難であり、

(3)本件埋立承認取り消しを放置することにより著しく公益を害することは明らかであると主張する。

しかし、第1章において述べるとおり、本件埋立承認取り消しは適法であり、法令違反は存しない。

また、第2章において述べるとおり、原告が地自法第245条の8が定める代執行の要件は認められないものである。

さらに、第3章において述べるとおり、沖縄県の民意に反して辺野古新基地建設を強行するために公有水面埋立法を適用して公有水面埋め立てを行うことは沖縄県の自治権を侵害し憲法第92条に違背するものであるから、代執行の根拠となる法令上の根拠を欠くことになり、法令上の根拠を欠いた事項を行うべきことを命じることはできない。

第1章 本件埋め立て承認取り消しが適法であること

第1 概要

国(沖縄防衛局)は、平成25年3月22日、沖縄県に対し、沖縄県名護市辺野古の辺野古崎地区及びこれに隣接する水域等を埋立対象地(以下「本件埋立対象地」という)とする普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認出願(以下「本件埋立承認出願」という)を行ったところ、仲井眞弘多沖縄県知事(以下「前沖縄県知事」ということがある)は、平成25年12月27日、同申請を承認した(以下「本件埋立承認」という)。

翁長雄志沖縄県知事(以下「現沖縄県知事」ということがある)は、本件埋め立て承認の法的瑕疵(かし)の有無を検討するため、平成27年1月26日付で、有識者からなる「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立手続に関する第三者委員会」(以下「第三者委員会」)を設置した。そして、平成27年7月16日付けで、第三者委員会から「検証結果報告書」(以下、「検証結果報告書」とはこれを示す)が現沖縄県知事に提出されたが、その結論は、本件承認出願については公有水面埋立法の要件を充たしておらず、これを承認したことには法律的瑕疵があるというものであった。

検証結果報告書を踏まえ、現沖縄県知事は、本件埋立承認出願は、公有水面埋立法第4条第1項第1号の要件(以下「1号要件」という)及び同項第2号の要件(以下「2号要件」という)を充足しないにもかかわらず承認されたものであり、その判断に係る考慮要素の選択や判断の過程は合理性を欠いていたものであり、本件埋め立て承認には瑕疵があるものと判断した。

現沖縄県知事は、本件埋め立て承認について、公有水面埋立法の要件適合性をみずから判断できるものであるが、その要件適合性の判断は合理的になされたものであり、現沖縄県知事の裁量の逸脱ないし濫用は存しないものである。なお、職権取り消しは不当の瑕疵であっても取り消すことができるものであり、現知事が埋め立て承認の要件を充足していないと判断した場合には、前知事の裁量の逸脱ないし濫用が認められない場合でも、職権取り消しは認められるものであるから、いずれにせよ、審理の対象は、本件埋立承認取消処分について現沖縄県知事の判断に裁量の濫用ないし逸脱があったか否かである。

第2 公有水面埋立法第4条の仕組み

2 1号要件の意義

(1) 公有水面埋立法は、当該地方公共団体の公益を適切に保護するため、都道府県知事に、第4条第1項第1号『国土利用上適正且合理的ナルコト』の判断権限を与えている。

都道府県知事に承認権限を与えているのは、公有水面埋め立ては、当該地域に重大なインパクト、深刻な不利益を与える可能性があることから、公有水面埋立法第4条第1項第1号は、不適正・不合理な公有水面埋め立てによって、当該地方公共団体の利益が侵害される場合には都道府県知事が公有水面埋め立てを承認しないという権限を付与することで、不適正・不合理な公有水面埋立によって当該地方公共団体の利益が侵害されないという利益を保護しているものである。

(2) 公有水面埋立法は、国が事業主体となる承認の出願についても、都道府県知事を承認権者としている。

承認については、国が事業主体となるものであるから、埋め立ての目的は公益にある。承認の出願についても、都道府県知事に承認権限を与えているのは、事業者である国の実現しようとする公益と、これに対立する諸利益の比較衡量・総合判断の権限を都道府県知事に与えたものであり、国が当該事業によって実現しようとする公益の内容・程度について都道府県知事が判断することにしているものである。

そして、国防について、日本国憲法下において特権的な立場が認められているものではないから、国防に関わるというだけで、これによって損なわれる他の利益との関係において、自動的に高度の公共性、必要性を認めることはできない。米軍飛行場の公共性が問題とされた訴訟においても、昭和62年7月15日東京高等裁判所判決(第一次・第二次横田基地訴訟)は「行政は、多くの部門に分かれているが、各部門の公共性の程度は、原則として、等しいものというべきである。

国防は行政の一部門であるから、国防のみが他の諸部門よりも優越的な公共性を有し、重視されるべきものと解することは憲法全体の精神に照らし許されない」ところである。平成7年12月26日東京高等裁判所判決(第一次厚木基地騒音訴訟差戻し後控訴審)は「他の行政諸部門の役割も社会にとって極めて重要であるほか、民間空港等の高速交通機関・施設等も国民生活に大きな貢献をしており、高度の公共性を有するものというべきであるから、国防の持つ重要性についてだけ特別高度の公共性を認めることは相当ではない」としている。日本国憲法下で、国防に関するというだけで特別な扱いをすることは許されず、実質的に判断されなければならないものである。

第3 本件埋め立て承認取り消しの適法性に関する審理の対象

1 総論

公有水面埋立法は、承認等の権限を都道府県知事に付与しているものであり、現沖縄県知事は、承認等の権限を有する行政庁として本件埋立承認の要件適合性等の判断を行い、本件埋立承認取消をしたものであるから、この現沖縄県知事の判断に裁量の濫用ないし逸脱が認められるのかについて、実質的な審理がなされなければならない。

2 代理署名訴訟と本訴訟の相違点と本訴訟における審理の対象

(2)本訴訟は代理署名訴訟とは相違すること

本件は、公有水面埋立法に基づく埋立承認処分について、同一行政庁が自らの判断の誤りを認めて職権で取り消したものである。

(3)そして、代執行の対象となる違法は、重大であり、かつ明白である場合に限られるものというべきである。

行政行為に何らかの瑕疵があったとしても、一般的に、その瑕疵が、埋め立て承認取り消しを当然に無効とするものでない限り、他の行政主体は、取り消し権限のある者によって取り消されるまでは、その効果は否定されないものとして扱わなければならないと解されている。

代執行は、地自法第245条の8第1項の勧告、同条第2項の指示を経て、同条第3項の訴訟提起をすることができるものである。

法定受託事務は、言うまでもなく、国の事務ではなく、地方公共団体の事務である。すなわち、「自治事務も法定受託事務も等しく地方公共団体の事務である。さらに法定受託事務は、法律の定めによって、国の事務が地方公共団体の事務とされた、あるいは、地方公共団体が国の事務を受託することを法律上義務付けられたというものではない」。現行の地方自治法は一般的・包括的な国家の優越性を前提とした機関委任事務を廃し、国家と地方が対等な関係であることを前提に、地方公共団体の事務として法定受託事務を定めているものである。

国と地方公共団体の関係は、上命下服関係ではなく、対等・独立の関係である。地自法第245の3第1項は、国の関与について、最小限度の原則を定め、地方公共団体の自主性と自律性に配慮しなければならないと定めている。それにもかかわらず、国が、取り消し訴訟の対象となる地方公共団体の行政行為について、取り消しうべき瑕疵があるにとどまり、権限のある者によって取り消されていないにもかかわらず、違法であるとして代執行ができるのであれば、対等な関係とは到底言い得ないこととなる。

(4)したがって、本訴訟における審理の対象は、本件埋立承認取消について、現沖縄県知事の判断に、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法があり、しかもその違法が重大であり、そのことが明白であると認められるか否かである。

第5 本件埋立承認の瑕疵(2号要件不適合)

1 「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」の意義

公有水面埋立法の第4条1項第2号は「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」と定めている。

高度経済成長期を経て、深刻な公害問題を経験したこの数十年の間に、上記環境法制の発展からもわかる通り、社会の環境に対する意識や環境保全に求める水準は相当に高くなってきている。

現代において、法における「十分配慮」との要件を充足するか否かは、上記に挙げた環境法制の発展等に鑑み、環境保全についての現代社会における要請に応えるよう慎重な判断がなされなければならない。

2 本件埋立承認は知事意見に基づいて審査されるべきものであること

環境影響評価法第33条第3項(同条第4項が準用)は、「対象事業に係る免許等であって対象事業の実施において環境の保全についての適正な配慮がなされるものでなければ当該免許等を行わないものとする旨の法律の規定があるものを行う者は、評価書の記載事項及び第二十四条の書面に基づいて、当該法律の規定による環境の保全に関する審査を行うものとする」としている。

本件について言えば、沖縄県知事は、平成24年12月18日付沖縄防衛局が提出した補正評価書及び平成24年3月27日、沖縄県知事が沖縄防衛局に対し提出した知事意見に基づいて、本件埋立事業実施の可否を含めて、環境アセスメントの審査結果が公水法の要件に反映されるように審査することが、法律上(環境影響評価法第33条3項)要請されているといえる。

この点、知事意見の内容からすれば、当該知事意見が発出された時点において、申立人が評価書において示す環境保全措置等では、公水法第4条第1項各号の実体要件を充足していなかったといえるのであるから、補正評価書あるいは承認段階において、知事意見が呈する疑問点・問題点が解消されていない限り、前沖縄県知事は、本件埋立承認申請が2号要件に適合するとの判断はなしえなかったはずである。

12 2号要件についての結論

2号要件にいう「十分配慮」についての判断は、審査に用いられたハンドブックによれば(1)「問題の現況及び影響を的確に把握」したか、(2)「これに対する措置が適正に講じられている」か、(3)その程度が「十分と認められる」かどうかによるものとされている。

国(沖縄防衛局)による申請内容は、知事意見、環境生活部長意見で示された問題点に対応できておらず、ハンドブックの2号要件の記載に照らして、「問題の現況及び影響を的確に把握」したとは言い難く、「これに対する措置が適正に講じられている」とも、ましてやその程度が「十分」ともいえない。

第6 本件埋立承認の瑕疵(1号要件不適合)

1 概要

現沖縄県知事は、以下のとおり、本件埋立承認出願は1号要件を充たしていないものと判断したものであり、その判断に裁量の逸脱ないし濫用はない。

(1)「国土利用上適正且合理的ナルコト」とは、埋立てにより生ずる利益と埋立てにより失われる利益(生ずる不利益)とを比較衡量し、前者が後者を優越することを意味するものであり、これは総合的判断として行われなければならないことを意味するものと解される。

(2)埋立てにより生ずる利益とは、埋立必要理由書記載の埋立必要理由にほかならないものと解される。すなわち、「埋立ての必要性」という審査事項は、「規範的(不確定)要件の判断をより透明化するため、この1号要件の法定外判断要素として『埋立ての必要性』(『埋立必要理由書』)が実務上」設定されているものと解される(阿波連正一「公有水面埋立法と土地所有権-都道府県知事の埋立て承認の法的性質論-」289頁)。本件埋立承認出願は、海兵隊航空基地の建設を目的とするものであり、海兵隊航空基地新設の動機は普天間飛行場の返還にあるとされる。

普天間飛行場が返還されるべきことは当然であるが、普天間飛行場を返還する必要があるということと、本件埋立対象地に海兵隊航空基地を新設することとは、次元の異なる問題であり、普天間飛行場の返還の必要性からただちに本件埋立対象地への海兵隊航空基地新設の必要性が導かれるものではない。

普天間飛行場代替施設を県内に移設しなければならないとする理由、すなわち、抑止力・軍事的プレゼンスが許容できない程度に低下すること、地理的に優位であることや一体的運用の必要性などについて、なんら具体的・実証的説明はなく、埋立必要理由書の記載をもって埋立必要理由を認めることはできないものである。

(3)他方、本件埋立対象地は、自然環境的観点から極めて貴重な価値を有する地域であって、いったん埋立てが実施されると現況の自然への回復がほぼ不可能である。また、今後本件埋立対象地に普天間飛行場代替施設が建設された場合、騒音被害の増大は住民の生活や健康に大きな被害を与えるものである。

(4)以上を総合的に衡量すれば、「国土利用上適正且合理的ナルコト」という公有水面埋立法第4条第1項第1号の要件を満たしていないものである。

4 1号要件の充足ついての結論

本件埋立により生ずる悪影響が深刻であるのに対して、埋立必要理由書の記載は抽象的なもので他の公益と比較して特別に高度な公益性が認められるものではなく、現沖縄県知事の判断について、裁量の逸脱ないし濫用は認められない。

5 「本件埋立承認の判断過程が合理性を欠いていた」とする現沖縄県知事の判断に裁量の逸脱ないし濫用の存しないこと

(3)沖縄県における過重な基地負担や基地負担についての格差の固定化

沖縄県における過重な基地負担や基地負担の格差、すなわち、戦後70年余にわたって沖縄県に広大な米軍基地が維持された結果、全国の在日米軍専用施設の73・8%が沖縄県に集中して他の地域との著しい基地負担の格差が生じていること、米軍基地には排他的管理権等のため自治権が及ばないことにより広大な米軍基地の存在が沖縄県の地域振興の著しい阻害要因となっていること、米軍基地に起因する様々な負担・被害が生じていること、沖縄県民が過重な基地負担・格差の是正を求めていること等は、何人もが知っている公知の事実である。

第7 職権取消しの制限にかかる被告の主張

1 最高裁昭和43年判決及び東京高等裁判所平成16年9月7日判決における判断枠組みは代執行訴訟においては妥当しないこと

原告は、「行政処分の安定性・信頼性確保の要請は、行政処分の特質に鑑み、我が国の行政事件訴訟法がそれを指導理念として制度を構築しているものであり」としたうえで、昭和43年判決の判断枠組みを引用する。

また、東京高等裁判所平成16年9月7日判決は、「行政行為の相手方等の信頼保護の必要性と瑕疵ある行政行為を放置することによる行政上の不利益(瑕疵の重大性)とを比較考量し、前者が勝る場合には取消権の行使が制限される」とする。

ここで、上記二つの判決に共通するのは、行政処分の相手方の「信頼」確保あるいは保護の必要性を前提としているところである。

この点、行政処分の相手方の「信頼」を保護するということは、処分の相手方における主観的利益の保護ということと同義である。そうであれば「信頼保護」の必要性を前提とした枠組みに基づく判断を求めるのであれば、それは取消訴訟等の主観訴訟において争われるべきものであり、機関訴訟といわれる代執行訴訟である本件手続きにおいて争われるべきものではない。

2 取消権を制限する法理の違反は「法令違反」ではないこと

「都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定に違反すること」は、代執行訴訟の要件の一つである(地方自治法245条の8第1項)。

一方、原告が主張する職権取消しの制限は判例上認められている法理である。以上から、職権取消しの制限法理に反するという場合、判例法理違反ではあっても、地方自治法245条の8第1項における「法令違反」には当たらない。

したがって、原告における「本件取消処分は、取消権を行使できる場合には当たらないこと」との主張は、地方自治法245条の8第1項における「法令違反」との要件を充足しない。

3 職権取消しの制限にかかる判例法理は本件には妥当しえないこと

仮に判例法理違反が、地方自治法245条の8第1項における「法令違反」に該当するとしても、職権取消しの制限にかかる判例法理は本件には妥当しない。

原告が引用する最高裁昭和43年判決は、処分の相手方が一般国民たる個人の事例であり本件にその射程は及ばない。本件のように、処分の相手方が国の機関、とくに「固有の資格」たる国の機関である場合は、処分の相手方が一般国民たる個人である場合とは関係性が異なる。最高裁昭和43年判決の前提として、原告は、「行政処分の安定性・信頼性確保」をいうが、このような安定や信頼は、行政が公益目的のために法治主義に基づき適法な行為をなすであろうという期待に基づくものであろう。

(3)職権取消しの判例法理に照らしても、本件埋立承認取消しは適法であること

仮に、本件について、最高裁昭和43年判決の適用があるとしても、以下のとおり、本件承認処分の取消しによって生ずる不利益は小さく、他方、取消しをしないことによって本件承認処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持する不利益は甚大である。

第8 本件埋立承認取消の適法性のまとめ

以上述べたとおり、沖縄県知事が本件埋立承認に瑕疵があると判断した過程に不合理は認められず、また、瑕疵ある本件埋立承認を是正すべき強い公益上の要請があると判断した過程にも不合理は認められない。

第2章 地方自治法第245条の8第1項の要件を欠くこと

第1 地方自治法第245条の8第1項の定める要件

地自法245条の8第1項は、(1)その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合(又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合)であって、(2)同条所定の措置以外の方法によって、その是正を図ることが困難であること、(3)それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであることを、代執行を認めるための要件としている。

第2 自治法第245条の8第1項から第8項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難であるとは言えないこと

5 現実に審査請求等及び原告による執行停止決定がなされていること

(1)違法な執行停止決定の先行

原告は、本訴訟に先立ち、その機関である事業者の沖縄防衛局をして国土交通大臣に対し、本件承認取消処分について、地方自治法第255条の2に基づく審査請求及び行政不服審査法34条3項及び4項に基づく執行停止申立なる手続(以下合わせて「本件審査請求等」という)をなし、国土交通大臣は、平成27年10月27日、当該申立を適法とし、本件承認取消処分の執行停止決定(以下「本件執行停止決定」という)をなした。

しかし、現実にかかる本件審査請求等及び本件執行停止決定がなされたという事実そのものは、本件の代執行手続の要件充足性について重大な影響を及ぼすものである。以下、そのことを明らかにする。

(2)「本項から8項以外までに規定する措置以外の方法」には、地方自治法以外のあらゆる方法が含まれること

(3)事実状態として承認取消処分の撤回と同一の効果を得ていること

前述のとおり、本件審査請求等及び本件執行停止はそもそも不適法なものであり、国土交通大臣は直ちに棄却の裁決をなすべきである。しかし、これらが不適法なものであるということと、事実状態として執行停止決定がなされ、本件代執行手続で原告が求めている結論と同様の効果を生ぜしめ、本件工事が現在も進行している事実があることは区別して検討されなければならない。

(4)原告の主張立証責任

そもそも原告には、本訴においては地自法第245条の8第1項に定める全ての要件を主張立証する責任があり、その中には当然代執行以外の方法による是正が困難であることも含まれる。

なお、原告は、現時点では執行停止決定のみしかなされてなく裁決はなされていないのだから、いまだ原告による処分撤回の必要性は失われないというかもしれない。しかし、審査請求を所管している国土交通大臣自ら本件承認取消処分に瑕疵があるから違法だと主張して本訴を提起しておきながら、「以外の方法」は「困難」として上記裁決を行わないのは矛盾といわねばならない。

(5)裁判所が審査請求は不適法と判断した場合

被告は、本件審査請求等及び本件執行停止決定は不適法なものであり、仮に本件承認取消処分が違法なもので是正を図らなければならないとすれば、それは「国の関与」手続、そして究極的には代執行手続のみによらねばならないと考えるものである。

しかし、国が代執行の手続のみを利用して本訴を提起したのならともかく、事実として不適法とはいえ本件執行停止決定をなした上で提起したのである。この経過に基づけば、困難要件は事実上も含む「以外の方法」が含まれるのであり、現実にその方法が取られている以上、その適法違法を問わず、困難要件を充足していないというほかない。

6 他の是正措置の不存在の主張が許容されないこと

原告は訴状において、本件承認処分が授益的処分であり、その取消が制限されると縷々述べている。そこでのキーワードは、「行政処分の安定性・信頼性の確保という基本理念」である。

行政処分の安定性・信頼性の確保は、まず当該行政庁が法治主義に基づく適法な行政の執行を一般になしていること、その廉潔性が前提となるものである。本件のように本来不適法な手続を濫用して自らの政治目的の実現をめざす手続を容認するとなれば、行政に対する国民の信頼は地に墜ちると言わねばならない。そして、違法な本件執行停止決定を容認したまま裁判所が代執行を命ずる判決をなした場合、沖縄防衛局には裁決を求める必要は失われ、当然これを取り下げることになるであろう。そうなったときには、国が行った違法な本件執行停止決定による本件工事の強行という違法状態は何ら法的に是正される機会を失うどころか、司法に対する国民の信頼も損なわれる。

第3 埋立承認取消は公益に適うこと

5 本件埋立承認取消は今後生じうる膨大な経費の支出を抑制するものであること

そもそも、工事関係者という限定された範囲の関係者の利益であれば、各事業者においてその主観的利益侵害を根拠として取消訴訟を提起すべきであり、代執行訴訟において検討すべき対象ではない。

本件承認取消処分は今後発生するであろう多額の公費の支出を抑制させるべきものであり、その意味でも本件承認取消処分が公益に適うことは明らかである。

6 辺野古新基地建設が出来なくとも何ら国際社会の信頼を失わないこと

原告によれば、辺野古新基地の移設計画のとん挫は、「我が国と米国との間の、外交上、防衛上、政治上、経済上等のおよそ計測不能の不利益が我が国にもたらされ、米国と我が国との間の信頼関係が崩壊しかねない」などという。

また、原告によれば「信頼関係が崩壊しかねない」という重要なパートナーである米国はと言えば、つい先日の平成27年11月13日に、駐沖縄米総領事ジョエル・エレンライク氏が、共同通信社のインタビューに対し、普天間飛行場の辺野古移設問題について、「非常に重要で深刻な問題だが、基地負担を軽減し、日米同盟を強化する在日米軍再編計画の中では小さな問題(one small part)にすぎない」との見解を示し、さらに、同氏は、移設計画が滞った場合でも、「(日米関係に)悪影響は全くない。日米同盟は、かつてないほど強固で揺るぎないものだ」と強調しているのである。

この様な発言をとってみても以下に原告の主張する米国との信頼関係、国際社会における信用失墜などという主張が如何に内容を持たないものであるかは明白である。

第4 辺野古新基地建設は、根拠となる法律がなく、憲法第92条及び第41条に違反すること

2 法律の根拠なくして新基地を建設することは、憲法第41条が国会を「唯一の立法機関」としている点及び憲法第92条、地方公共団体の組織及び運営に関する事項を法律事項としている点に反すること

(2)米軍新基地建設は、憲法第41条により根拠となる法律が必要であること

日本国憲法は、前文に「権力は国民の代表者がこれを行使し」と謳っており、代表民主制を基本としている。代表民主制のもと、主権者である国民の意思は、国会が直接選任されることにより反映され、国会が公開の討論を通じて国政の基本方針を決定することとなる。この意味で、国会は憲法上も政治の実際においても極めて重要な地位を占めている。

米軍基地の立地の決定は実質的意味の立法であるから、本来、国会の立法が必要であり、法律なくして、行政機関たる内閣や首相が決定をする権限はない。

(2)米軍新基地建設は、憲法92条により根拠となる法律が必要であること

さらに、憲法92条は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」は「法律」で定めなければならないとしており、明文で、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」を法律事項に留保している。

日米地位協定に基づく規制は、米軍基地の設置された場所について、立地自治体の自治権を大幅に制限するものであり、その内容は、同条に言う「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」に該当する。

他方、日米地位協定は、条約であり、法律とは異なる法形式である(日米地位協定などの条約や、個別の基地を設置するための日米合意が、憲法92条に言う「法律」に含まれると解釈すると、白紙委任の禁止原則が及んだり、地方特別法相当の内容について憲法95条による住民投票が必要ということになろう。個別の基地設置に関する日米合意について住民投票などは行われていない。したがって、憲法95条に言う「法律」に、日米地位協定のような条約が含まれると解釈することは不当である)。

(3)結論

以上から、憲法第92条及び第41条より、米軍新基地建設には、根拠となる法律が必要である。

3 辺野古新基地建設は、根拠となる法律がなく、憲法92条及び41条に違反するため、日米地位協定の運用を前提とする米軍基地の機能を果たせず、結果として、莫大な損失をもたらすだけで、何らの公益ももたらさないこと

(1)しかるに、辺野古新基地建設は、それを定めた具体的な根拠法が存在しない。憲法第92条の「法律」には、日米安全保障条約、日米地位協定等の条約は含まれないから、これらを根拠とすることはできない。仮に、日米安全保障条約を根拠と見たとしても、条約には自動執行力がない以上は、これを執行するための国内法がいずれにせよ必要となる。

(2)そして、憲法92条及び41条からは、法律なくして、地方公共団体の自治権を侵害することができない以上、辺野古の新基地は、仮に建設したとしても、既に見たような大幅な自治権の制約を伴う日米地位協定による運用を行うことができない。

4 結論

(1)違法要件を充たさないこと

以上のとおり、本件承認処分は公共の福祉を著しく害するものであり、その取消しは、仮に、原告の主張する最高裁昭和43年判決の枠組みに従ったとしても、「公共の福祉の要請に照らし著しく不当」な結果を防ぐためにやむを得ないものである。

(2)公益要件を充たさないこと

また、仮に、本件取消処分の理由付記などに不備があったとしても、本件承認処分の効果を認めれば、法的に利用不能な埋立地が造成されてしまう。そうすると、本件取消処分の適法性に疑義があるとしても、本件承認処分の効果を可及的速やかに取り除かない限り、莫大な国家予算を浪費し、米軍基地として使い物にならないコンクリートの塊で辺野古の美しい海を埋め立てて自然を破壊し尽くし、著しく公益を害する事態が生じる。本件承認処分の放置こそ、著しい公益侵害を生じさせるものである。

第3章 沖縄県内への新基地建設強行は憲法違反であること

第1 はじめに

以下に述べるとおり、公有水面埋立法を適用して、沖縄県の民意に反して、名護市辺野古沖の海兵隊基地建設を強行し、沖縄県の自治権を侵害することは、憲法92条に違反するものであるから、地自法第245条の8第2項の指示は、法令上の根拠を欠くこととなる。

第2 憲法92条に違反すること

2 新基地建設は地方自治の本旨を侵害するものであること

(3)また、辺野古新基地を、沖縄県や名護市の住民意思に関わりなく建設することは、地方自治の本旨である住民自治にも反する。

(4)以上のとおり、中身のない抽象的な国益のみを理由として、沖縄県民の世論に反して、公有水面埋立法を沖縄県内における米軍新基地建設に適用して、新基地建設強行をして、沖縄県の自治権を侵害することは、憲法92条が規定する地方自治の本旨を侵害するものであり、違憲である。

結語

以上述べたとおり、国(原告)の請求には理由がなく、請求は棄却されるべきである。

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